【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
車を走らせながら、私たちは目的の場所へ急ぐ。
あまり時間は残されていないからこそ急いでいるのだ。
もしも、マサムネやマザーの計画通りに事が進まなければ取り返しがつかない。
あの子は既にアイツの手の中で……本当に上手くいくのか。
不安で不安で堪らない。
もしも、もう一度あの子に会えるのなら……いや、違う。
「会えたらじゃない。会うのよ」
「……主任」
助手席に乗ったカーラが私を心配した目で見て来る。
アルタイルの事はジミーに任せた。
万が一の事があれば、すぐに私に連絡する様にも言ってある。
マサムネがいなくなってしまった今、アルタイルを守れるのは私たちだけだ。
沢渡長官を頼れたら良かったけど、あの子はそれよりもこの作戦に掛けている。
あの人に全幅の信頼を置くよりも、これを実行した方が確実だと……本当に、あの子は……。
ハンドルを強く握りながら。
私は制限速度ギリギリで道路を走行していった。
安全運転なんて考えていない。
それよりも、一刻も早くあの場所に行かなければいけない。
車内はガタガタと激しく揺れる。
その度に、後部座席から男性陣の悲鳴が聞こえて来た。
必要な物だけ持ってくればいいのに。
ライアンも修二君も、余計な物をぎちぎちに詰め込んでいた。
その為、後部座席は揺れる度に派手な音を立てていて。
私は舌を鳴らしながら、後ろの騒がしい音をシャットダウンした。
時刻は既に夜の九時で。
煌びやかな光を放つ街の中を駆け抜ければ――見えて来る。
開かれた街の中心部に聳え立つ摩天楼のような建物。
六角形の漆黒のビルには窓一つ存在しないように見える。
でも、そうじゃない。
窓が無いのではなく、窓を意図的に見えないように隠しているのだ。
何処の部屋に誰がいて、どんなものが置かれているのか。
遠く離れた場所からでも探知できないように、ビルの表面には薄いホロが張られている。
内部に侵入したとしても、何処に目当てのものがあるかは分からない。
世界中で暴れまわったテロリストたちから国家を守る為。
民間企業に任せていたそれを、国が管理にするようになった時代から存在するブラックボックス。
一般人が知る事は愚か。検索する事すら許されない重要施設。
あれが、この国の国家通信監理センターで。
多くの人間の侵入を阻む為の最先端セキュリティが詰め込まれた場所だ。
既に目視で確認できるほどに近づいている。
あのビルの中に、私たちの目的である統合通信管理機器がある筈だった。
「ど、どうするんですか? 何か、立ってますよ!?」
「えぇ、立っているよ。何せ、私たちは――侵入者になるんだからね!」
「ひぃ!」
ゲートは封鎖されている。
その前には銃で武装した警備兵が立っていた。
私はアクセルを緩める事無く、端末に表示されたボタンを押した。
すると、その瞬間に監理センターの照明全てが消える。
開けた場所に建てられた大きな施設だ。
アレが発するライトが消えてしまえば何も見えない。
私は頭に付けていた暗視ゴーグルを装着する。
その瞬間に、暗闇の中で慌てふためく警備兵がハッキリと視認出来た。
ハッキングなんて十代の頃以来で……ゾクゾクする!
照明が全て消えた事によって、警備兵が慌てているのが分かった。
私は車のヘッドライトを完全に消して、暗闇に紛れて車を運転する。
皆に小さな明かりであろうともつけないように指示した。
そうして、前に立っている男たちがゲートから離れたのを確認して。
私は強くアクセルペダルを踏んで、勢いのままに――ゲートを破壊した。
バラバラと音が鳴って、ゲートを粉砕する。
大事な愛車は大きく凹んで傷物になってしまった。
悲しいし辛いけど……気にしてられない!
すると、遅れて立て直した警備兵が此方に発砲してきた。
後方から火薬の爆ぜる音が聞こえてきて。
ちゅんちゅんと放たれた弾丸の数発が車の装甲を撫でていった。
後ろのガラスが破られて、金属の何かに弾が弾かれた音が聞こえた。
ライアンと修二君は頭を抑えながらぶるぶると震えて情けない悲鳴を出していた。
カーラはしっかりと自分の体を支えながら「喚くな!」と叫んでいた。
幸運な事に、照明のハッキングは何とか成功した。
そして、照明を落とした事によって彼らは私たちを視認できていない。
無線を食い止める事が出来なくても、見えない中で動くことは出来ない筈だ。
そのまま車を動かして、私は激しくハンドルを切って回転させる。
ドリフトのように曲がりながら、中心部に設置された噴水を避けて。
芝生を派手に荒らしながら、勢いのままに駆け抜けていく。
そうして、そのままビルの前へと車を横付けして、車を停止させた。
シートベルトをしていなかった後ろの二人は、カエルが潰れたような声を発して。
私とカーラのシートに顔を押し付けながら、ぴくぴくと手を痙攣させていた。
「さ、降りて! くれぐれも、あのヘルメットは外さないように」
「な、何があってもですか?」
「何があってもよ!」
説明している時間は無い。
私はヘルメットと必要な物が入ったカバンをライアンから受け取る。
暗視ゴーグルを皆も装着して起動させているのを確認して、私は聳え立つビルを見つめる。
扉はまだ封鎖されていない。例えロックが掛けられていても、解除するだけなら出来る筈だ。
リュックを背負いながら、皆と共にビルへと入ろうとした。
すると、修二君は待ったを掛けた。
カーラがどうしたのかと尋ねれば、彼は人差し指で倉庫がある方を指さしていた。
あの方向には、目的のものは存在しない。
精々が、此処の警備兵が使う武装類だけで……。
「陽動が必要になる筈だ。あたかも重要施設を攻撃しに来たテロリストみたいな奴が……皆は先に行ってくれ」
「修二! アンタ何言って。そうしたら、アンタは」
「いいから! 任せてくれ。頼む」
修二君は頭を下げる。
彼は何も自己犠牲にかられて言った訳じゃない。
何か考えがあって……私は静かに頷く。
「……くれぐれも無理はしないで。全員で帰るのよ」
「はい! 絶対に帰りましょう!」
彼は慣れた手つきで敬礼をする。
あの時の不格好な敬礼ではない。
綺麗な敬礼であり、彼の自信を表しているようだった。
彼はそのまま、倉庫の方へと走って行ってしまった。
残されたカーラとライアンは互いに顔を見合わせる。
そうして、私は二人に声を掛けて扉へと近づいていった。
扉に接近すれば、ロックが掛けられていなかったのか横にスライドした。
不審に思いつつも、私たちは内部へと侵入する。
受付嬢はおらず。その役割を担ったロボットが立っていた。
それは私たちに近づいてきて、要件を聞いてきた。
私やカーラは無視をして、ライアンは「一花咲かせに来たんだよ!」と言う。
《良く聞き取れませんでした。申し訳ありませんが、もう一度お願いします》
「分かれよォ!!」
ライアンはロボットに苛立ちを露わにしていた。
そんな彼を気にせずに、私は端末のコードを伸ばして。
カーラがこじ開けてくれたエレベーターの回路版から。
非常用のコネクターを探し当てて接続する。
すると、すぐにハッキングが開始されて――よし。
エレベーターの権限を掌握した。
これで上まで行ける筈だ。
ライアンに集まる様に指示すれば、彼はロボットの肩を叩いて何かを言っていた。
それを見ていれば、背後でチンと音が鳴る。
開かれた扉の先には誰もおらず。
私は皆と共に急いで中へと入っていった。
カーラは閉じるボタンを連打して。
ライアンはガチガチと歯を鳴らしながら震えていた。
扉はゆっくりと閉じられて、やがて完全に閉じられた。
二人はホッと胸を撫でおろす。
私はまだ安心できない事を伝えながら、天井を見つめた。
そこには監視カメラが設置されていて。
私たちがエレベーターに乗り込んだ事もバッチリ見られていると認識した。
一応は、エレベーターの権限委譲と共にカメラの記録も停止させた。
しかし、エレベーターが動いている事は完全にバレている。
最上階に行ければ良かったけど、このまま行けば確実に拘束されてしまう。
私は端末を見ながら、マザーに声を掛けた。
「マザー聞こえている? 内部に侵入したわ。統合通信管理装置は何処?」
《――二十八階から降りて、四番目の扉の先。そのフロアを突破すれば、辿り着けます》
「……突破すれば、ね……荒っぽい事になりそうよ。ライアン」
「え、俺!? いや、俺は虫も殺せないんですよ!? どうしろって!?」
「うるさいわね! 男なら、任せろくらい言いなさいよ! 本当に玉ついてるの!?」
「……カーラ。今の発言は女としてちょっと」
「殺すわよ?」
怖がっているように見えて、話すだけの余力はある。
今はそれで十分であり、私は端末を操作しながらある仕掛けを準備した。
「皆、天井から上に上がって」
「え、何で」
「いいから、早く!」
「わ、分かりましたよ!」
尻込みするライアンを急かす。
ライアンはカーラを肩車して上の天井に手が付けるようにした。
そうして、彼女は天上の扉をスライドさせて上に昇る。
ライアンは「レディファースト」と言って私を先に行かせる。
私はカーラに腕を引っ張って貰って上に上がった。
ライアンは私とカーラの二人掛で引き上げてあげた。
上に上がったライアン。
呼吸を少し乱しながら、彼は不気味な音を奏でるそれに恐怖していた
「ひぃ! こ、こえぇ!」
動いているエレベーターの上に上がったのは、皆初めてでしょう。
私もそうであり、映画で見る以上に迫力はあった。
ライアンを宥めてから、私は手早く説明をする。
「目的の場所は二十八階。でも、そこにあがるのは彼らも想定していると思うわ。何せ、重要なものが置かれているから」
「てことは、途中で?」
「えぇ、エレベーターは動かし続けます。でも約十五秒の間だけ停止させます。あたかも、不具合によって停止した様に」
停止させる階層は二十一階に設定した。
そこには何も無く。恐らくは警備兵も在中していないと思われる。
そこから降りて、後は自力で上を目指していく。
此方は武器になるようなものは持っていない。
なるべく敵に出会うことなく、目的の場所に行きたいところだった。
「きょ、強制的に止める!? て、てことは扉を強引に開けて滑り込めと!?」
「そうよ」
「む、無理ですよ! せめて、三十秒くらいにしましょう!」
「ダメ。そうしたら怪しまれるわ。これでもギリギリなの」
「そ、そんなぁ」
「腹を括りなさい。修二がしたようにね」
カーラはライアンの脇を小突く。
すると、ライアンは脇を撫でていた。
何かを思い出しているような顔で――彼は静かに頷く。
「……分かった。やるしかねぇんだ。やってやるよ」
「そうよ。その意気よライアン」
「……修二にだけは負けたくねぇからな!」
「……そんな事だろうと思ったわよ」
やる気を漲らせるライアン。
カーラはため息を零すが嬉しそうで。
私は頷きながら、もうそろそろ目的の階層に到達する事を伝えた。
「秒読みを始めます。ゼロになれば停止。ライアンは扉をこじ開けて」
「分かりました!」
「…………5、4、3、2、1――今!」
時間きっかりにエレベーターが停止する。
そうして、ライアンは体を揺らしながらも立ち上がって。
少しだけ高い位置にある扉を両手で勢いよくこじ開けた。
「カーラ!」
「えぇ!」
カーラがそのまま扉の先へと行く。
私も遅れて入り、後はライアンだけだった。
ライアンの手を掴んで、私とカーラは強く引っ張る。
ライアンは額からだらだらと汗を流しながら強く叫んでいた。
「うおぉぉぉぉぉ!!」
ライアンの叫び声を聞きながら。
私は限界まで力を込めて大男を引っ張った。
そうして、何とか彼をこちら側へと引き込んで――瞬間、エレベーターが動き出した。
ライアンは上へと行ったそれを見つめていた。
呼吸を大きく乱しながら、彼はゆっくりと私たちに視線を向ける。
「こ、怖かったぁ」
「は、はは……ごめん。私も」
二人は汗にまみれていた。
私は端末を見てから、目的の場所へのルートをマザーに割り出させた。
最短距離は難しい。が、どうにかすれば……よし。
「行きましょう。もうすぐ、電力が復旧する筈よ」
限界に近い二人を鼓舞する。
そうして、私たちはマザーのルート通りに進んでいった。
あの子が頑張っているの。
だったら、私たちも最後まで――頑張らなきゃいけないのよ。