【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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287:鋼の巨人(side:修二)

 敵が果敢に攻撃を仕掛けて来る。

 巧みな操作によって連続しての攻撃を繰り出してきて。

 俺は避ける事も出来ずに、それらを盾で受け止めていた。

 

 ガンガンと勢いのままに殴られて。

 盾の表面が凸凹になっているのを感じながら。

 俺は冷静に敵の動きを観察して――ペダルとレバーを瞬時に動かす。

 

 その瞬間に、敵の横薙ぎの攻撃をギリギリで避けた。

 頭部が少しだけ揺れて、小さな衝撃を感じた。

 センサーからの映像が少しだけ乱れながらも。

 敵の攻撃を回避したことによって、大きな隙が生まれる。

 俺はそれを見つめながら、ニヤリと笑って思わず声を出した。

 

「これでッ!!」

 

 アイアンロッドを勢いに乗せて振るう。

 敵の視覚外へと機体を動かして。

 意識の外からの攻撃を仕掛けた。

 敵は此方にセンサーを向けようとしてくるがもう遅い。

 

 俺はそのままアイアンロッドを振るって、敵の装甲を大きく歪ませた。

 甲高い金属音が響いて線香花火のように火花が散る。

 敵の脇腹は大きく凹んでいて、露出した配線が剥き出しになりスパークしていた。

 そうして、漏れ出した潤滑油にスパークしたそれが引火して。

 敵の強化外装の表面は激しく燃えあがった。

 

 火だるまになりそうになっている敵。

 慣れていないであろうそいつは慌てふためいているのが手に取るように分かる。

 姿勢制御も忘れて、手をバタバタと動かすそいつは盛大に倒れてしまう。

 埃がパラパラと舞って、虫のようにもがくそいつ。

 強化外装は単純な熱によって死ぬ事は無い。

 コックピッドは安全であり、空気が遮断されても内部で空気を自動で生成する。

 俺たちの乗っていた外装ならまだあり得るが、この機体のスペックなら耐熱性にも問題はない。

 

 学校で習った筈だろうに……こんなので国を守れるのか?

 

 手足をばたつかせるそいつを見ながら、脚部にロッドを振り下ろす。

 がすりと音が響いて、奴の脚部は骨折でもしたかのように歪む。

 慣れていない奴らなら、これだけで再起は不可能になる。

 

 俺は思った。

 前線で喚いていたアイツ等は……強ち嘘は言ってなかったのだと。

 

 前線で戦う俺たちの考えなんて当たっている訳ない。

 そう思っていた俺が馬鹿らしくなる。

 アイツ等の言うとおりであり、本当に碌な操縦者がいない様だ。

 

 これなら、何とか耐えられそうだ――そう思ってしまった。

 

 瞬間、俺は途轍もない悪寒に襲われた。

 身震いする様な寒気であり、俺は咄嗟にシールドを横に構えた。

 すると、一瞬遅れて盾に凄まじい衝撃を感じた。

 

 機体全体が震えるほどの衝撃で。

 ディスプレイには視界を覆いつくすほどの煙が広がっている。

 これは間違いなく――爆弾の類だ。

 

「街の中心部だぞ。本気かッ!?」

 

 タカを括っていた。

 開けているとはいえ街の中心部。

 だからこそ、強力な銃火器の類は使わないと。

 しかし、今しがた盾に撃ち込まれたのは”対外装榴弾”だろう。

 

 この頑丈な盾が無ければ死んでいた。

 いや、今の一発だけでも大きな亀裂が生まれている。

 恐らくは二度目は無い。間違いなくそう認識できた。

 俺は先ほどから感じる悪寒の発信源を探ろうとした。

 

 煙から出る為に、横へと移動を開始する。

 ガシガシガシと音を立てながら。

 鈍重な機体が出せるだけの速度を出し尽くす。

 そうして、勢いよく煙から出れば、俺の真横を榴弾が通過していった――予測されたッ!?

 

 此方の移動を予測しての射撃。

 救われたのは、射手が未熟だったからだろう。

 誤差が無ければ即死であり、俺は肝を冷やした。

 こんな芸当が出来る人間はそうはいない。

 センサーを動かして、ゲートの前で待機している奴らを見る。

 ズームしながら見れば、国防軍の軍服を着た軍人たちが集まっていた。

 

 来るとは思っていた。

 しかし、思いの外、お早い登場で……厄介だな。

 

 最新のモデルを使っているとはいえ。

 相手は百戦錬磨の兵士たちだ。

 この国に待機している奴らとはいえ、少なくとも俺と同じような訓練を受けていた筈だ。

 未熟とはいえ、視界不良の中で現れた俺のすぐ横にまで狙いを絞れたのだ。

 並の相手では決してない……てことは、”アレ”も来るな。

 

 相手がテロリストで、国の重要施設に侵入した。

 強化外装を奪取して、警備兵たちを無力化しているのだ。

 だったら、相手も本腰を入れて強化外装の”プロ”を招集する筈だ。

 警備兵や対外兵装ならまだ対処の仕様はある。

 しかし、奴らが前線で戦っていたアイツ等が此処へと呼べば……多分、俺は死ぬな。

 

 可能性は大いにある。

 前線での支援任務はひと段落している筈で。

 生き残った奴らの多くは、新兵の訓練や国の研究に参加している筈だ。

 腕は鈍っちゃいない。奴らは本物で、敵を殺す事に関しては他に引けを取らない。

 

 思考をしながらも、機体を動かして旋回する。

 強化外装は走り出してから急激に方向を変えれば、一時的に隙が生まれる。

 キャタピラ式ならまだやりようはあるが、二脚は重い機体を動かす為の出力が足りていない。

 その為、方向転換時に急激な負荷が脚部に掛れば面倒なロック機能が作動して、一時的に停止する必要がある。

 新兵は教科書通りに、ロック解除から再始動までの手順を踏もうとする。

 大抵の死因はそれであり、真面目な奴ほど死んでいくのが俺たちの中での常識だった。

 

 一番良いのは、ロックを掛ける事無く動く事。

 常に足を止める事無く動き回り。

 敵の弾道を予測して回避する技術が求められる。

 なまじ機動力だけは一流であったからこそ。

 化け物じみた反射神経があれば、敵のミサイルが発射されてから避ける事も出来た。

 

 昔を懐かしく重いながら。

 俺はギャリギャリと地面を滑っていく。

 綺麗だった芝生はめくれ上がって。

 土埃が宙を舞い、軽減できなかった揺れがコックピッド内に伝わる。

 そうして、敵の榴弾の弾道を予測し、発射までの時間を計算して――今だ。

 

 固定された脚部は放置。

 上半身を少しだけ横へ逸らして屈む。

 そうして、そのまま背部の噴出口からありったけの燃料を燃やして強い噴流を発生させる。

 すると、重い図体であろうとも、背中で特大級の爆弾が爆発したかのような衝撃が加わり強制的に前へと機体は飛ぶ。

 ぐんと強いGが体全体に加わって、俺は歯を食いしばりながらシートに体を押し付ける。

 ブルブルと震えるレバーをしっかりと握りながら、眼前に迫る榴弾を――紙一重で回避した。

 

 恐らくは、確実に仕留める為にコックピッドを狙うだろうと考えた。

 だからこそ、一瞬で姿勢を動かして前方へと飛んだ時に発生する風で。

 機体の位置を無理やりにずらして、頭部スレスレで弾丸を避けた。

 

「ちょっと掠ったな」

 

 センサーの映像が少し乱れていた。

 そうして、遅れて背後で爆発音が聞こえた。

 ビルに着弾したかもしれないが、アレだけで崩壊するとは考えにくい。

 恐らくは、敵に指示を出している人間も。

 多少の建物への被弾は覚悟の上で兵士を作戦に当たらせているだろう。

 

 奴らの中での優先度は、俺という脅威の排除。

 そして二番目が、あのビルを守る事だ。

 

 敵に好き勝手にされれば、世界中の笑い物だ。

 だからこそ、俺を仕留める事を優先させている。

 投降する意思が無い限り、奴らは俺を確実に殺し来る。

 ゾクゾクするような殺気を常に感じながら、俺はたらりと汗を流して――着地した。

 

 足に強烈な負荷が掛かる。

 しかし、既に脚部はロックされている。

 だからこそ、ロックの解除を”二度”する必要は無い。

 俺は片手間で速やかにロックを解除してから。

 姿勢が崩れそうになった機体を立て直して、勢いに乗って駆けて行った。

 

 敵が次弾を装填するまでにはラグがある。

 装填が完全自動化されて敵との距離や風速を瞬時に測定する事が出来るようになった今でも。

 最低でも次弾の装填に五秒は掛る。

 おまけに細かな誤差を修正するのは人の目と勘であり、約六秒ほどのラグが生まれる。

 

 ブーストによって距離は詰めたが、まだ約百メートルほどは離れていた。

 ゲート前にはたった一つの榴弾砲が設置されているのが目視で確認できる。

 近づけば近づくほどに、被弾するリスクは高まっていく。

 しかし、接近してあの榴弾砲を排除しなければ厄介だ。

 遅かれ早かれ、奴らは此処に現れる。

 その時に、他の兵装に意識を削がれてしまえば確実に俺は殺されるだろう。

 

 強く歯を食いしばりながら、ヘルメットの隙間から垂れる汗を拭う。

 笑みを深めながら、俺は機体の出力を限界まで上げて突進する。

 やるしかない。やってやるさ――俺なら出来る。

 

「来いよ。来いよ来いよ来いよ――殺せるのならなッ!」

 

 ドシドシと音を響かせて走って行く。

 地面が大きく揺れていて、榴弾砲の射手は俺に狙いを合わせていた。

 冷静そうな顔で俺を見つめているが――恐怖が、バレバレだ。

 

 俺はセンサーの光の強さを変える。

 一気に強さを上げた事によって、敵は眩しいほどの光を浴びた。

 目が潰れる程ではない。目くらましにもならないだろう。

 しかし、自分よりも遥かに大きな鉄の巨人が勢いよく走って来るのだ。

 そいつの目が危険な光を発していれば、誰であれ恐怖を刺激される。

 

 車種は表情を強張らせて。

 必死になって目の前のディスプレイを叩いていた。

 どんなに願おうとも、どんなに懇願しようとも――時間は平等だ。

 

 俺はすぐそこに迫っている。

 奴の焦りと恐怖が、判断を鈍らせていた。

 そうして、アイアンロッドをこれ見よがしに振りかぶれば。

 敵は恐怖に染まった顔で持ち場を離れて逃走する。

 人がいなくなった榴弾砲に接近し、そのまま地面を抉る様に振るったロッドで――それを破壊する。

 

 甲高い音が響いて、鉄の塊がバラバラになる。

 空中で粉砕されたそれの残骸が宙を舞って。

 遠くへと飛ばされたそれが敵が乗って来た軽装甲車に当たる。

 それごと巻き込んだ事によって、車はゴロゴロと転がって大破した。

 煙を吹いているそれを一瞥して、俺はライフルで攻撃してくる敵に視線を向けた。

 

 そうして、手に持ったロッドを地面に打ち付ける。

 埃が勢いよく舞う。そうして、何名かは腰が抜けたのかその場にへたり込んでいた。

 まだ戦意のありそうな奴らも、そんな仲間を抱えて離脱していく。

 

「……此処が都市の中枢で、後ろに重要施設があるから……もしも、何も無い所だったら……」

 

 盾として機能するものが無ければ。

 奴らも全力で戦いを挑んできた筈だ。

 アレがあるからこそ、対外兵装を一つしか投入しなかった。

 まぁ、大抵の相手であればアレさえあれば片付くだろうからな。

 

 並の人間なら、こんな硬いだけで重い奴を操る事は出来ない。

 何十年もの間、外敵の侵入は無く。

 俺の記憶の限りでは、強化外装を使ったテロも起こっていない。

 

「平和過ぎたんだよ。場数を踏んでいないから、いざって時に戦えない……笑えねぇよな」

 

 敵は一時的に撤退していった。

 恐らくは、数分もすれば本格的な装備でやって来る。

 そうなれば、俺も勝ち目は薄い気が……いや、勝てる訳ないよな。

 

 相手は腐っても国家で。

 たった一人で無双できるような世界じゃない。

 盾も酷使し過ぎてボロボロで、ロッドも罅が入っている。

 俺は武装をパージして、すぐに移動をして倒れている奴らから装備を回収しに行った。

 

 センサー動かしながら確認すれば。

 既に乗っていたパイロットたちはこの場から離れている。

 火だるまになっていた奴も、誰かが消火剤を散布したようで。

 開け放たれたハッチから出て逃げていったようだ。

 

「まだ誰も死んでいない……でも、これ……絶対に死刑じゃないか?」

 

 人は殺していなくても、国家転覆罪にはなるかもしれない。

 絞首台に連れていかれる自分を想像して身震いした。

 

 ま、まぁ。ツバキ主任も、大丈夫だって言ってたし……だよな?

 

 何故か、自分の記憶を疑いそうになってくる。

 本当に言っていたか自信が持てなくなりそうになりながら。

 

 俺は比較的、まだ長持ちしそうな盾を二つ装備した。

 此処からは完全な防衛戦で、アイツ等相手に武器を持って挑んでも死ぬだけだ。

 だったら、ロッドよりも盾を二つ装備して守りを固めた方が良い。

 出来る限り時間を稼いで、敵の目を此処に集中させる。

 

「……早くしてくださいよ。主任……割とマジで」

 

 俺は少しだけ情けない呟きを零しながら。

 遠くの方から何かが来ている様な気配を感じた。

 

 赤くアンチコリジョンライトが点滅していて。

 軍用の輸送ヘリとしては最新のモデルだろうと分かった。

 センサーのサーチ性能の優秀さのお陰で、距離があっても識別できる。

 複数のヘリが夜間に飛行していて、その下には特殊なケーブルで繋がれた――”軍用強化外装”があった。

 

「……来ちゃったな……はぁ、死んだかも」

 

 乾いた笑みを零しながら、俺は汗ばんだ手でレバーを握る。

 言われた通りにヘルメットは付けている。

 でも、死んだとした意味は無い。

 

 なるべく長生きできるように立ち回るつもりだ。

 死んだら悪いけど……いや、ダメだな。

 

 弱気になれば死に繋がる。

 俺は気持ちを引き締めながら、盾を前方に構える。

 敵の武装は近接戦闘用の物理兵装だろう。

 対外兵装を一つは投入したが、これ以上のビルへの被害は容認できない筈だ。

 だからこそ、プロを投入する事によって今回の事件を速やかに収束させるつもりだ。

 

 誰が考えても分かる作戦。

 しかし、分かっていてもそれに抗う事は不可能だ。

 生きても死んでも、俺が奴らに勝つ方法は無い。

 出来る事は、ただただ時間を稼ぐ事で。

 俺は強い恐怖に襲われながら、それを必死に隠して――地上に降り立つ”死神たち”を静かに見つめていた。

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