【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
カタカタとパソコンにコードを打ち付ける音が響く中で。
このエリアに侵入しようとする警備兵の声が聞こえて来た。
特殊なガラスのお陰で、彼らの弾丸が私たちを貫く事は無い。
バリケードも機能しているようで、カーラとライアンの雄叫びが聞こえて来る。
「主任! まだですか!?」
「もうちょっとよ。頑張って」
「主任もですよォ!!」
ドンドンという音が連続して響く。
恐らくは、扉を破壊して侵入する事は既に諦めているでしょう。
そうなれば、扉にアクセスして強制的に開かせる以外に道はない。
彼女が上手く、彼らの邪魔をしてくれているのなら……まだ少しだけ時間はある。
カタカタとコードを打ち込みながら。
何重にも展開されたウォールを突破していく。
そうして、ようやく最後のウォールが突破できた。
時間はギリギリであり、私はエンターを強く弾いた。
すると、ロックが解除された音が響く。
重厚な扉は自動で動き始めて。
無数の歯車が連動するような音を響かせながら、ゆっくりと開いていった。
「開いたわ! 皆、中へ!」
「は、はい! 行くよライアン!」
「お、おう!」
バリケードを抑えていた彼らは手を離す。
リュックをカーラが手に取りながら駆けてきた。
そうして、ゆっくりと開いていく扉の中に体を滑り込ませた。
私も中へと入り、急いで中に設置された装置をチェックした。
非常用のライトが点灯し。
中は少しだけ明るさを保っていて。
そんな中で、無数に設置された巨大なボックス状の装置を見つめた。
「……どれなの……時間がっ!」
私は二人に指示を出して、装置を調べてもらった。
私たちが使いたいものは、 統合通信管理機器の中で。
国内のあらゆる電波を送受信しているものだけだ。
複数のボックス型の装置には幾つかの役割が分担されている。
メンテナンスツールやバックアップツールは必要ない。
監視ツールも私たちの計画には不要で、送受信を任されているボックスを見つける必要がある。
私はボタンを押して、ボックスから回路版を取り出す。
パッと見では分からなくても、よく回路版を見れば推測は出来る。
ライアンやカーラもそれを知っていて、皆で急いでチェックをしていった。
《敵が扉のアクセス権を取り戻すまで、凡そ五分です》
「ご、五分!? 無理無理。無理だろ!?」
「うっさい! 黙って手を動かせ!」
焦っても仕方がない。
見落としがあれば、それだけで時間のロスになる。
でも焦りを覚えざるを得ない状況で。
私は必死になってボックスの回路版を取り出しながら。
一つ一つを素早くチェックしていった。
見る――違う。
見る――これも違う。
見て――全く違う。
「――あった!」
「え!?」
私は叫ぶように報告してきたライアンに顔を向ける。
そうして、カーラと共に彼を押しのけてチェックをする。
すると、確かに送受信用の回路版に見えた……賭けるしかない。
私はボックスのプラグを露出させる。
そうして、私はカーラが持っているリュックを受け取った。
中から取り出したのは、レンズが取り付けられた一眼レフのような形状をした機械で。
それの底を外してから、持ってきたコードを差し込んでボックスに接続した。
「こ、これって。マサムネが未来から持ち帰って来た――記憶を消す装置じゃ?」
「……そうよ。今からこれを使って――この国全員の記憶から、”あの子たち”に関する記憶を消去します」
「……やっぱりですか……でも、私たちは!」
「分かっています。だからこそ、これを被っているのよ」
「これが? 一体どういう」
「説明している暇は無いわ。今から消去する記憶に関するコードを打ち込みます。二人はこのパソコンとそれを使って私の指示通りに操作して」
彼らからの質問を聞くことなく。
私は手に持っていた端末を取り出して。
カメラと無線接続し、細かいコードを設定し始めた。
あまり多くの情報を入力すれば、記憶処理の効果が薄れてしまう。
先ず第一条件として必要なのは、マサムネに関する記憶の削除。
そして、その次にアルタイルに関する記憶も削除する。
その次は、此処へと侵入した私たちの一連の行動に関する記憶を消す。
マサムネとアルタイルの記憶は完全に消せるでしょう。
でも、私たちは既に此処へと侵入してしまっている。
記憶を消せたとしても、侵入した痕跡を今から完全に消す事は不可能だ。
「……でも、貴方なら……頼らせてもらうわ」
《……》
返事の無い彼女に笑みを向ける。
そうして、私はコードを打ち込み。
二人に指示を出して、電波の出力を調整してもらった。
あまり強すぎれば脳への負荷が高くなり。
場合によっては身体面で後遺症が発生する恐れもある。
しかし、弱く設定すれば記憶処理が甘くなる可能性があった。
この技術は遥か未来で生まれたものだ。
何せ、未来では確立された技術であっても。
私たちにとっては未知の技術で……一か八か、賭けるしかないわ。
カーラはカタカタとパソコンを操作して出力を調整する。
ライアンもカーラの声を聞きながら、ボックスに取り付けられたつまみを回して微調整をする。
規定値限界まで出力を高めれば、後はこれをインプットするだけで――破裂音が聞こえた。
見れば、扉が開けられている。
そうして、突入してきた彼らはソファーを破壊していた。
スローモーションに感じる世界で。
私は二人を見ながら、指を動かして――ボタンを押した。
たった一つの操作。
小さく弱い動きだけで、世界は変わってしまう。
私が自分の手で変えてしまった。
大切で愛しい息子の存在を。
優しくて純粋な娘の生きた軌跡を。
私がこの手で――世界から消した。
突入してきた彼らは、瞬く間に私たちを拘束する。
ライアンやカーラは体を床に押さえつけられて。
私は無数の銃口を向けられながら、静かに手を挙げていた。
これで終わり。これでやる事は果たした――さぁ、どうだ。
「容疑者を確保。すぐにデータバンクから、照合、を――――…………」
警備兵の隊長と思わしき堀の深い顔をした男。
彼は無線で連絡をしていたが。
段々と声を小さくしていき、やがて魂の抜けたような顔で立ち尽くしていた。
周りの警備兵もそうで。
カーラやライアンを抑えていた人間も固まっている。
二人は何が起きているのかと彼らを見ながらも。
体を藻掻かせて拘束から抜け出した。
成功した。成功してしまった……もう、取り返しはつかない。
私は銅像のように固まる彼らを悲しみに満ちた目で見つめる。
そんな私の様子を気にする事無く。
ライアンはパソコンや装置を回収してすぐに逃げようという。
「……そうね。もう、私たちに出来る事は無い……行きましょう」
「……修二の奴。無事でいろよ」
ライアンの手を握って立ち上がる。
そうして、三人で足早に駆けていく。
未だに照明の類は復旧していない。
恐らくは、監視カメラの類も起動していないでしょう。
彼女のお陰であり、私に彼女を責める権利はない。
私はただただあの子に感謝をしながら。
二十八階で待っていたエレベーターに乗り込んで下へと降りて行った。
一階へと降りれば、全てが静止していた。
ロボットも瞳から光を消して脱力している。
フロントから出れば、無数の強化外装の残骸が散らばっていた。
黒焦げになったもの、足が折れ曲がっているもの。
積み重なる様に倒れているもの――そして、向かい合う二機。
その中心には、片腕が半ばから捥がれて。
地面に仰向けになって倒れている無人機が存在する。
目の前には、無傷の状態で大きなブレードを持つ軍用モデルらしき外装が立っている。
ブレードを振り上げていて、とどめを刺すところだったのだろう。
私がそう気づくよりも早く。
ライアンは勢いよく駆けだしていた。
脇目もふらずに、倒れている強化外装へと走って行った彼。
カーラがライアンの名を呼びながら追いかけて行って。
私も二人を追いかけて走って行った。
強化外装の装甲を登っていくライアン。
落ちそうになりながらも必死になって昇って。
彼はコックピッドがある位置に立ったかと思えば。
ハッチを強制的に取り外す為のレバーを見つけて引いていた。
ガシュリと派手な音を立てて、ハッチが吹き飛ぶ。
そうして、彼は驚くような顔をしながらも。
中にいた”彼”を抱きしめながら、ゆっくりと地面に降りて来た。
カーラは口を両手で覆い隠しながら驚いていた。
ライアンは必死になって気絶している彼の頬を叩く。
ヘルメットは被っていた。
しかし、頭を強く打ち付けたのか額から出血していた。
私はハンカチを取り出して、これで傷口を抑えるようにライアンに言う。
すると、彼は震えながらも言われた通りに傷口を抑えた。
「大丈夫。頭からの出血は派手だけど。致命傷じゃないわ」
「……はい。分かってます……馬鹿野郎が」
ライアンは吐き出すように後悔を口にする。
そんな彼の肩を優しく叩きながら。
すぐに此処から離れる事を伝える。
「急ぎましょう。記憶消去のプロセスが終了するまでは彼らは此方を認識できません……時間は十分ほどです」
「……これで本当に終わりなんですか。私たちは?」
「……えぇ、後はあの子を信じるしかない……絶対に迎えに行きましょう。全員で」
「……はい。修二も一緒に」
ライアンはリュックからテープを取り出してハンカチをそれで抑えさせる。
そうして、彼を横抱きにしながら全員で車へと戻って行った。
私の愛車は来た時のままで……修二君なりに、気を遣ってくれたんだろうね。
彼の配慮に救われた。
眠っている彼に心の中で感謝しながら。
私たちは車に乗り込んで、そのまま移動を開始した。
アクセルを踏みながら、全てが止まった世界を駆け抜けていく。
避難をしていただろう人々は、路上で止まっていて。
動物ですら吠える事も逃げる事もせずに止まっていた。
今、この国にいる全ての人が止まっている。
彼らの中から、私たちの愛する家族の記憶が消えていって。
もう二度と思い出すことも無い。
とても悲しいし、とても辛かった……でも、私たちは違う。
砕け散ったフロントガラスの先を見つめる。
そうして、強くハンドルを握りながら――私は決意を口にした。
「私たちだけは貴方たちを決して忘れない――絶対に迎えに行くからね」
全てが終わるその時まで待っていて欲しい。
例え何十年も掛ろうとも、私たちは必ず迎えに行く。
車に乗った全員が決意を込めて、遠く離れた息子を想う。
夜空で輝く満天の星の下。
日本という小さな島国で栄えた大都市の中を疾走しながら――私はたらりと瞳から雫を零した。