【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
人が多く密集する空間で、それぞれの想いを胸に準備を進める。
仲間たちの吐息が嫌に鮮明に聞こえてきた。
チラリと顔色を伺えば、それぞれが違った表情を見せてくれる。
焦り、恐怖、怒り――そして、殺意。
神に祈りを捧げている奴もいれば。
小さな手帳に何かを書き殴っている奴もいる。
俺はそんな仲間たちに視線を送りながら、不敵に笑う隊長を見ていた。
これから始まるのだ。
全てを奪われたあの日から、人類は準備を進めて来た。
故郷を、祖国を――奪還するのだ。
俺は静かに心臓の鼓動を早めながら。
自らの戦意を上げていく。
故郷を奪われたあの日――俺は誓った。
大切なものを全て奪った機械共を、この手で一体残らず破壊すると。
学生の身でありながら、軍への入隊を志願して。
戦う為に必要な術を一から叩き込まれた。
泥にまみれながら走り続けて。
慣れない機械の操作を教え込まれて。
何度も何度も教官に殴られて、罵声を浴びせ続けられた。
苦しく、辛い訓練の毎日だった。
地獄のような日々であり、自分が体験する事は無いと思っていた。
戻りたいとは思わない。俺は今から、奴らと戦うのだから。
約半年に及ぶ訓練が実を結ぶ日がようやく来た。
輸送船に新兵として乗り込み。
隊長からの説明を聞きながら、俺はスーツを装着する。
前面に固定され展開されたスーツに足を嵌め込み装甲を纏わせて。
横に開いた腕をセンサーが認識して、それにも装甲が嵌められていく。
ガシガシと音を響かせながら、国連が開発したパワードスーツ――”
対機械兵戦を想定して、世界各国の技術者たちが共同で開発したこれ。
強化外装をベースに、軽量小型化に成功化したそれは人の手で操作する。
システムによる補助は受けるが、奴らのハッキングによる影響は一切受けない。
最初はバラバラであった各国の人間たちも、今は共通の敵を前にして足並みを揃えている。
これはそんな人類の進歩を表現するに相応しい兵器であり、人類の怒りが込められていた。
奴らが使う強力無比な特殊弾をも弾くことが出来る装甲。
そして、頑丈な機械の体を貫くために用意された特殊徹甲弾を標準装備した機関砲を両腕に備えている。
全身を金属で覆い隠すような見た目のこれは、正にゴーレムの名に相応しい。
「……よし」
システムを起動しながら、スーツの状態をチェックする。
手を開け閉めしながら、感度を確かめて。
簡易スキャンにより、不具合は何一つとして発生していない事が分かった。
網膜に投影されるそれを処理しながら、俺は視線を再び隊長に戻した。
俺が志願した時には、既にこれはテスト段階に入っていた。
機械からの侵攻を受けて、各国が共同で開発を進めた結果。
僅か二月ほどで実践投入できるレベルには仕上がっていたという。
実戦に投入される事を前提にして、俺たちは新設される予定の”陸軍機動歩兵大隊”に配属される事を前提とした訓練を受けていた。
軍の輸送船の中で、俺は自分のスーツを装着して。
センサーを起動して隊長を見つめた。
顔には深い傷があり、それは過去の人間同士の戦いで負ったものだと記憶している。
人間同士の戦争は既に過去の記憶で。
彼や他の兵士も、既に他国とは何のしがらみも持っていない。
人間とは共通の敵を前にすれば、過去に争った事がある者とでも手を組む事が出来る。
周りの仲間をチラリと見る。
フェイス装甲を展開している仲間がチラホラといて。
そいつらの顔を見れば、多種多様な人間がいると認識できた。
国籍も人種も、既に意味を成していない。
そんなものに拘る人間は、既にこの世界には存在しなかった。
皆が皆、奴らを倒す事だけを考えて集まったのだ。
あの機械共以外であるのなら、俺は誰であろうとも仲良くする自信がある。
隊長や仲間たちも俺と同じ怒りを抱えている。
故郷を奪われただけじゃない。
隊長は、目の前で大事な娘と妻を攫われて。
彼は機械たちに復讐する事だけをずっと考えていると言っていた。
引退直前であった彼は、それを止めて俺たちの育成に時間を割いてくれた。
自らは戦えないが、彼の気持ちは痛いほど分かる。
戦う事が出来ない彼の意思を俺たちは受け継いで、彼の分も俺たちが戦う。
奴らへの気持ちは今も変わっていないだろう。
その目を見れば誰であれ分かる。
理性の中で激しい怒りが燃え上がっている。
刃物のように鋭いその目を見て震える奴もいた。
俺は真剣に彼の話を聞きながら、ギュッと拳を握った。
ガタガタと輸送船が激しく揺れている。
今向かっているのは、アラルカの最前線で。
奪われた領土を奪還する為に、俺たちは増援部隊として派遣された。
最前線からの要請を受けて、俺たちも最前線での戦いに参加する。
隊長は俺たちに檄を飛ばしながら、一体でも多くの機械兵を殺すように言う。
容赦をするな。遠慮はいらない。
目の前に立ち塞がる奴らを破壊しつくせ。
命乞いをしようとも、必ず殺せと――当然だ。
「……間もなく! 本機は地獄の真上を通過する。お前たちはハッチが開いた瞬間に訓練通り地上へと降下しろ。一度地獄へ降り立てば、誰もお前たちなど気に掛けてはくれない。自分の命は自分で守れ! そして、あの鉄くず共をスクラップにしろ! 分かったか!!」
「サーイエッサー!」
隊長へと敬礼をする。
すると、輸送船内に警報が鳴り響く。
そうして、輸送船の装甲に何かが当たる音が連続して響いた。
敵からの攻撃を受けている。既に奴らの射程圏内に入ったという事だ。
俺たちはゆっくりと後ろに振り返る。
ハッチがゆっくりと展開されて行って。
隊長が降下準備をするように言う。
ロープのチェックをし、両サイドの仲間を確認。
足元の固定具を外して、ゆっくりと振り返った。
確認を終えてから、後ろを見ればハッチが徐々に開いていく。
開かれたハッチの先から無数の音が聞こえる。
綺麗な青空は黒煙により汚れ切っていて。
花火よりも悍ましい光を発しながら、空中で弾が爆ぜていた。
俺はごくりと喉を鳴らしながらそれをジッと見つめる。
「降下開始ッ!!」
隊長の号令を受けて、次々と仲間たちが動き出す。
スーツの駆動音を聞きながら。
前にいた仲間たちも開かれたハッチから降下していって。
俺たちも全力で走り――飛び降りた。
「――ぅ!!」
体全体に強い風を感じる。
轟轟と耳元で鳴り響いていて。
俺はセンサーの感度を安定させながら。
眼下に広がる地獄に、息を飲んでいた。
豆粒ほどの兵士たちが戦っている。
ライフルから銃弾を放ちながら。
襲い来る敵へと攻撃を仕掛けていた。
彼らの前からはバトロイドがゆっくりと前進していて。
中には強化外装に搭乗している奴や。
拘束した兵士たちを輸送する為の特殊車両を駆る奴もいた。
前線の兵士は、遠くから見ても分かるほどに疲弊していた。
徐々に前線から後退していって、今にも拠点が放棄されそうで――でも、そうはさせない。
俺たちが来た。
機動歩兵部隊の初の実戦であり。
これが人類の反撃の大きな狼煙になる。
俺は耳元で響く爆発音を聞きながら、奴らへの殺意を高めていった。
ハッチから飛び降りれば、無数の音が強くなる。
火薬が勢いよく爆ぜて、空気をびりびりと振動させている。
すぐ近くで爆発が起きてそちらを見れば、仲間の一人に弾が命中していた。
しかし、対空砲の一発程度ではゴーレムは破壊できない。
煙から飛び出した戦友は、機体を黒く汚しながらも生きていた。
念の為に仲間に通信を繋いで安否を確認すれば、奴は問題ないという。
俺はそれにホッとしながら、システムを起動して着陸装置を起動させた。
ぐんぐんと迫って来る地上。
それを見つめながら、俺はゆっくりと体勢を整える。
体に取り付けられた噴射口から空気が勢いよく噴射されて。
俺は空中で姿勢を整えて、迫って来た地上に向けて残りの空気を噴きつけた。
そうして、速度を一気に緩める事によって勢いを殺す。
ずんと音を立てて地上に足をつける。
そうして、武装のセーフティを解除して。
俺は仲間と共に走り出した。
周りを見れば、他の仲間たちは既に戦っていて。
前方から突撃してくるバトロイドたちに向けて発砲していた。
「くたばれッ!!!」
叫び声を上げながら、両腕の機関砲を遠慮なしに放つ。
ガラガラと音が鳴り響いて、空薬莢が地面に散らばった。
迫って来る悪魔どもを狙い撃ち、確実に仕留めていく。
奴らは俺たちの弾を受けて、機体に無数の風穴を開けながらバラバラに砕け散った。
バトロイドたちは両腕にライフルを携行していた。
奴らも馬鹿ではなく、精確に此方を狙って射撃をしてきた。
放たれた弾丸がスーツの表面に当たり、ガスガスと音を立てながら体が揺れた。
「くぅ!!」
くぐもった声を上げながらも、衝撃に耐える。
そうして、足を前へと動かしながら奴らを攻撃し続けた。
「うぁ!!」
声が聞こえた。
無数の音が響く中で。
人間の声が響いてそちらを見る。
すると、生身の兵士が敵と交戦していた。
敵から放たれた弾丸が、仲間たちのライフルを弾き飛ばして。
生身の兵士たちは怯えながらも、スコップなどで殴りかかっていた。
ダメだ、そんなものは意味が無い。
恐慌状態に陥っている。アイツ等も必死だ。
スコップは弾き飛ばされて、倒れた兵士にバトロイドが銃口を向ける。
俺は友軍の兵士の前に立つバトロイドに照準を合わせた。
「くたばれッ!!」
トリガーを押して、機関砲を放つ。
ガラガラと音を立てて、赤熱する弾丸が機械兵に殺到した。
そうして、全身をバラバラに砕け散らせながら。
バトロイドは上半身を消し飛ばされて、そのまま沈黙した。
俺は兵士に駆け寄る。
ずんずんと音を立てながら走って行って。
まだ息がありそうなガラクタをタックルによって蹴散らした。
残骸がバラバラと飛び散って、奴らの汚いオイルが兵士の顔を汚す。
小太りの兵士は、目を瞬かせながら俺を見ていた。
俺は残弾をチェックしながら、倒れている男に声を掛ける。
「立てるか?」
「あ、あぁ……ありがとう。助かった」
奴は俺にお礼を言いながらライフルを回収して敵へと向かって行った。
生身でありながら戦っている兵士たち。
俺たちが投入されるまでは、彼らはあぁいう風に戦っていた。
強化外装があれば戦いにはなるが、生身で奴らと戦うのは自殺行為に等しい。
俺は駆けて行った兵士に続くように走り出す。
両腕を動かしてガラガラと弾を放ちながら。
接近してきた敵の顔面を拳で撃ち抜いて破壊する。
俺たちの投入によって流れが変わったように感じる。
疲れ果てていた兵士たちの顔には生気が戻って来て。
彼らは目の光を強めながら、雄叫びを上げて向かって行く。
荒れ果てた戦場。
元は緑美しい原っぱだっただろうそこは。
草一つ生えていない荒れ地になっていて。
機械共の残骸や、破壊された車両などが転がっている。
倒れている人間はいない。死体も何もかも存在せず……奴らが持ち帰ったのだ。
俺はそんな最悪の景色を見つめて。
奥歯を噛みしめながら、襲い来る機械兵へと銃弾を放った。
まだだ。まだ、こんなもんじゃない。
全てを奪われた俺たちの怒りは、こんなものでは収まらない。
「あああああぁぁぁぁあ!!!!」
心からの叫び。
強い怒りの籠った声を上げながら。
俺は足を動かして突撃する。
仲間たちに活路を開く為に。
俺たちの背中を追いかけてくるであろう未来の兵士の為に。
此処で、一体でも多く敵を殺す。
その為に、俺たちは――此処にいるんだ。
人類の反撃の狼煙は上がった。
もう機械たちの好きにはさせない。
お前たちが奪ったもの全てを――お前たちから取り戻す。