【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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2:星の導き(side:???)

 静かな時間がゆっくりと流れていく。

 広々とした館内には、二人の声しか聞こえた。

 兄とジョルジュで、それを聞きながら私は展示物を一つ一つ見ていった。

 

 機械博物館の中は……それなりに綺麗だった。

 

 外観は古めかしくて、きっととんでもない物ばかり置いているんだろうと勝手に思っていたが。

 実際には、ちゃんとしたものを展示していた。

 主に、バトロイドなどのレプリカを展示していて。

 もう見る事も無くなったタイプなども見る事が出来た。

 

 軍用や医療現場用。

 建築現場用や他にも様々だ。

 展示物の近くには、丁寧に描かれた解説もある。

 書物などに書かれた歴史書も展示されていて。

 これらの物を調べて纏め上げた人間は凄いとすら思う。

 

 人類はバトロイドたちと五年もの間戦っていた。

 中には未だに、彼らの事を憎んでいる奴らもいる。

 此処に来るまでに見たやばけな集団が正にそれで。

 奴らにとってはバトロイドも機械たちも、すぐに廃棄しろというのが願いらしい。

 

「そんな事、無理に決まってるのにな……」

 

 人類が開発したロボット。

 世界中ではロボット産業が今も盛んで。

 あらゆる場所でロボットが活躍している。

 昔から人間とロボットは切っても切れない関係で。

 彼らが戦争を起こしたとしても、それら全てを処分する事は人間には出来ない。

 

 彼らがいなければ、誰が彼らがやって来た仕事をしてくれるのか。

 複雑で精密な作業を要求される仕事も。

 誰もが行くことが出来ない危険地帯での作業など。

 好き好んでやりたいという人間は誰一人としていないし。

 彼らのようにミスなく出来るような奴だで存在しないのだ。

 

 ロボットが人間よりも優れているとは思わない。

 人間にしか出来ない仕事だって沢山あるからな。

 でも、逆にロボットにしか出来ない仕事だってあるのだ。

 外で騒いでいる声のデカい連中は、そんな事でさえ理解していない。

 呆れる程の夢想家であり、馬鹿につける薬は無い。

 

「にしても、凄いな……どうやって作ったんだ。こんなの」

 

 展示されているものは、正直、見ていて全く飽きない。

 バトロイドの外にも、大型の展示物として強化外装なども飾ってある。

 流石にそれらもレプリカだろうとは思うけど、本当に精巧に作られていた。

 私はそれらをマジマジと見つめながら、参考にさりそうな部分を……て、違う違う。

 

 ――私は何の為に此処に来た?

 

 新しいアンドロイドを作る為の構想を練る為だろう。

 何でバトロイドや強化外装がアンドロイドの参考になるんだ。

 自分で自分の馬鹿さ加減に呆れながら。

 私はゆっくりと近くにあったベンチに座る。

 

 広々としていて清潔感のある館内には、私と兄さんしかいない。

 そして、兄さんは案内人であるジョルジュと熱心に話し込んでいた。

 今は、軍用モデルのバトロイドを見ながら、詳しいスペックを聞き出そうとしていて……はぁ。

 

「何で、男ってあぁ何だろうな。馬鹿ばっかりで、”アイツ”と……あぁ? アイツって、誰だよ」

 

 私は自然とアイツなんて言葉を言った。

 しかし、アイツなんて呼ぶような男の知り合いはいない。

 商売仲間はいるが、それならそれでもっと別の言い方をする。

 私が言ったアイツという言葉は、何かこう、信頼が……あぁ、何だよもう。

 

 最近の私は何か変だ。

 眠っている時は、何時も変わった夢を見る。

 夢の中の私は、何時も誰かと話していて。

 顔も姿も見えない男に対して、私はとても深い愛情を向けていた。

 信頼していて、愛していて――止めよう。

 

 大きく咳ばらいをしながら頭を左右に振る。

 頬が少しだけ熱く、今しがたの妄想を忘れようとした。

 

 何が愛情だ。恥ずかしいったらありゃしねぇ。

 恋に恋する乙女でもないんだ。

 今は仕事をする為に此処に来てるんだからな。

 そんなへんてこな夢なんて忘れて、しっかりと参考になるものを探さねぇと。

 

「……よし!」

「――何がよしなの?」

「うあぁ!!」

 

 私が意気込みを新たにすると。

 何故か、隣から女性の声が聞こえて来た。

 

 私は思わず驚いて変な声を出してしまった。

 心臓をバクバクとさせながら隣を見れば。

 そこには長い黒髪を腰まで伸ばした若い女性が座っていた。

 身長は私よりも高く。同性の私でさえ美しいと思えるほどに整った容姿をしていた。

 綺麗な金色の瞳であり、私は女でありながら少しだけ見惚れてしまう。

 

「……ねぇ、何がよしなの?」

「え、あ、あぁ……いや、仕事頑張ろうって……それよりも、貴方は誰ですか!?」

「……騒がしいわね……別に誰だっていいじゃない。勝手に想像して」

「か、勝手にって……何だよこいつ」

 

 面倒くさそうに返事をする女。

 彼女はゆっくりと立ち上がってから私を見て来た。

 

「貴方がアイツのひ孫ね……あんまり似てないわね」

「あぁ? 誰のひ孫って……え、もしかして……いやいや、違うよな……いや、でも」

 

 曽祖父さんの事を言ったんだろう。

 アイツって呼ぶくらいだから、相当に深い関係で。

 曽祖父さんは此処で兄妹が働いていると言っていた。

 そして、今のところそれらしき人間は見ていない。

 

 案内人のジョルジュと、数体の掃除ロボットだけで。

 ぽんと現れたこの女だけが曽祖父さんの事を知っていた……つまり、だよ……うん。

 

 私はゆっくりと震える指をこの女に向ける。

 そうして、ダラダラと汗を流しながら。

 震える声で言葉を発した。

 

「も、もしかして……アンタが曽祖父さんの……妹?」

「姉よ。勘違いしないで……何よ、その目は」

「……あの、歳は?」

「……覚えてない……おい、数えるな。殺すわよ」

 

 私が計算しようとすれば、目の前の女は殺気を放ってくる。

 どう見ても、若くて十代後半で。

 どう多く見積もっても二十代前半にしか見えない。

 肌は赤子のようにつるつるすべすべで、髪も手入れが行き届いていた。

 何なら、私よりも女性らしい美しさを持っていて……何だか負けた気がするな。

 

 私が少しだけ恨みがましい目を向ければ。

 目の前の女は嫌らしい笑みを浮かべて笑っていた。

 ムカつく表情であり、私が何を考えているのかと聞けば「別に」と言う……こいつ腹立つな。

 

 ムカムカしながらも、私は仕事の事を思い出す。

 そうして、こんな女に構っている暇は無いと動き出した。

 私が別の場所へ行こうとすれば、女は私の首根っこを掴んで止めて来た。

 私はカエルが潰れたような音を口から出しながら、何をするのかと奴を怒る。

 

「ついてきなさい。見せたい物があるの」

「あぁ? 何を見せたいって――て、おい!」

 

 名も名乗らない不思議な女。

 奴は私の首根っこを離してから。

 理由も明かすことなくスタスタと歩いて行った。

 

 兄さんの方を見れば、まだジョルジュと話し込んでいて。

 熱心に話している二人の邪魔をするのはやめておこう。

 私はどうしたものかと奴の背中を見つめる。

 すると、奴は足を止めてから振り返って来た。

 

「……来なさい。後悔したくないのならね」

「……あぁ、もう! 分かったよ。行けばいいんだろ……たく、変なもん見せたら許さねぇからな」

「……それは貴方次第よ……絶対に、兄様を……」

 

 前を歩く女は何かを呟いた。

 よく聞こえなかったから深くは追及しなかったが。

 この女は一体、何を考えているのか?

 

 私は訳の分からない女の背中を見つめながら。

 女に導かれるままに、建物の奥へと入っていった。

 

 

 

「此処よ。入りなさい」

「……うす」

 

 女が私を連れて来たのは小さな部屋だった。

 何の変哲も無い木の扉で、電子ロックも錠前も無い。

 よほどの物を見せる感じだったので、かなり歴史的に価値のあるものだと思ったが……違うのか?

 

 少しだけ拍子抜けしながらも、私は女に促されるままに部屋の中へと入っていく。

 ゆっくりと中へと入って――それが私の目に飛び込んできた。

 

 

「アレ、は……?」

「……兄様、連れて来たよ」

 

 

 部屋の中心にいるそれ。

 確かな存在感を放つそれは――ロボットだった。

 

 子供くらいの大きさのそれは、見たことも無い機体で。

 ずんぐりとした体に短い手足だった。

 目と思わしきレンズには光が無く、機能を停止しているようだった。

 椅子に深々と腰かけながら、傍には綺麗な花が飾られている。

 

 展示物ではない。もっと違う感じだ。

 体を見れば錆一つ無くピカピカで、ジョルジュよりも古そうな見た目なのに。

 全くと言っていいほど古さを感じなかった。

 これを此処に置いた奴は、恐らくはこの女で。

 深い愛情をそれを見ていればひしひしと感じた。

 大事に大事に、管理されてきたのだろう。

 

 レプリカなのか……いや、違うな。本物だ。

 

 何となく、偽物ではないと感じた。

 ただ何となくで。チラリと女を見る。

 すると、女は見たことも無いような優しい笑みを浮かべながらそいつを見ていた。

 でも、その瞳はひどく悲し気だ。

 

 聞き間違えじゃなければ、先ほどこいつは、アレを兄だと言った。

 やっぱり、この女は人間ではなくアンドロイドのようで。

 ここまで精巧で、人間と同じように流暢に話す奴は見たことが無い。

 どんなに上手く作ろうとも、咄嗟に言われた言葉を処理するのにアンドロイドは時間が掛かる。

 ほんの二,三秒だがそれでも人間にとっては大きな違和感だ。

 しかし、この女は私との会話でもラグは無かった。

 それはつまり、私の発する言葉を完璧に理解していて。

 どんな言葉も自分で理解し、受けて発しているという事だ……とんでもねぇな。

 

 私は女から視線を逸らす。

 そうして、目の前のロボットに近づいて見た。

 

 

 何故だろうか。

 このロボットを見ると――胸がとても苦しくなる。

 

 

 知らない筈だ。こんなの見たことも無い。

 でも、初めて会ったような気がしない。

 もっと昔。ずっとずっと前から知っていたような感覚で。

 私が一歩進む事に、私の心は強く切なさを訴えて来た。

 

 ゆっくりとロボットの前で足を止める。

 そうして、光の無いそいつの瞳を見る。

 ぐったりとしながら、何処も見ていないそれ。

 

 本当はダメな筈なのに。

 私は自然と手を伸ばしていて。

 そいつの頬に手を触れてしまった。

 

 女は怒る事も私の行動を咎める事もしない。

 ゆっくりと表面を指で撫でれば、それはひんやりと冷たくて。

 触れただけでも、私の心臓からずきりと鈍い痛みが発せられる……これは、一体……。

 

 私はそっと手を離してから、ぼそりと呟いた。

 

「……眠っているのか」

「……えぇ、ずっと眠っているわ……兄様は、それだけ頑張ったから」

「……教えてくれ。こいつは……”この人”は、何者なんだ?」

 

 私は質問した。

 仕事とかは抜きにして。

 私は個人的に興味が湧いた。

 それも今までにないほどの強い興味で――私はこの人の事を知りたくなった。

 

 私の問いかけに、女はくすりと笑う。

 

「……私の口から教える事は簡単……でも、それじゃ意味が無い……私の役目は此処までだから」

「はぁ? 何言ってんだよ。此処までって」

 

 女は意味不明な事を言う。

 しかし、女は私の戸惑いを無視して近づいて来た。

 コツコツと足音を響かせながら迫って来て。

 ポケットから何かを出して、私の手に握らせてきた。

 私は戸惑いながらもゆっくりと手を開いてそれを見て――紙?

 

「……仮想現実世界に行きなさい。その紙に書かれた場所に。貴方の求める答えのヒントを教えてくれる人がいるわ」

「ちょ、ちょっと待てよ! 答えのヒントって何だ! 私はただ、この人を――ッ!」

 

 女はスッと私の唇に人差し指をつける。

 綺麗な女にこんな真似をされて、顔が一気に熱くなる。

 そんな私を妖艶な眼差しで見つめる女は、ゆっくりと言葉を発した。

 

「知りたいっていう気持ちを忘れないで。兄様は、貴方を待っている……さぁ、行って」

「…………分かった」

 

 最初から最後まで、この女の行動は理解できない。

 でも、言葉を交わしたからこそ分かる。

 この女はふざけていない。

 最初から最後まで、ずっと真剣だった。

 本気で私に何かを伝えようとしていた。

 

 恐らく、この女は私にきっかけを与えようとしたんだ。

 初めて会った気がしないあの人への興味を。

 私があの人を知ろうと思えるようなきっかけを……ゆっくりと扉の前で振り返る。

 

 私は最後に、教えて欲しい事があると言った。

 彼女は「何かしら」と少しだけ面倒そうな顔をする。

 

 

「名前、教えてくれよ」

 

 

 私がそう質問すれば、女はキョトンとした顔をする。

 たぶん、私がしつこくあの人の質問をすると思ったのだろう。

 暫く間、彼女は固まっていて……くすりと笑う。

 

 

 

「――アルタイル。貴方たちを導く星の名よ」

「……覚えたよ。アルタイルさん……またな」

 

 

 

 彼女の名を聞いて満足した。

 アルタイルさんは笑みを浮かべながら手を振っていた。

 だけど、その瞳に宿る悲しみは消えていなかった。

 

 ゆっくりと扉を閉める。

 そうして、私は扉を背にしながら考えた。

 

 あの人の事を知りたい。

 そして、知る為には行かなければならない――仮想現実世界に。

 

「……行かなきゃな……よし!」

 

 私は歩き出した。

 迷いは無く、しっかりとした足取りで進む。

 あの世界で私を待っている存在に――会いに行こう。

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