【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
博物館から急いで戻って来て。
私は自室にある情報電子変換装置を起動した。
途中で父さんと母さんに会ったが、今は談笑している時間は無い。
何か言いたそうな父だったが、母さんは何かを察して父を連れて行った……ありがとう、母さん。
仮想現実世界に行くのは久しぶりであり、少しは緊張していた。
最期にログインしたのは一月前で――よし!
「……待ってろよ」
ゆっくりと手をそれに置く。
すると、機械の駆動音が響いて私の体は吸い込まれていく。
体が溶けていくような感覚を感じながら。
私はゆっくりと目を閉じた――――…………
体の転送が終わった。
システムによる通知を受けて。
私はゆっくりと目を開いた。
そこは私が仮想現実世界において使っている家の寝室で。
最低限の家具が置かれただけの殺風景な部屋だった。
ベッドから起き上がりながら自分の体をチェックする。
「……痛みとか違和感はないな……いや、いつ見ても凄い技術だな、これ」
聞いた話によれば、機械たちとの戦争が起きる前には。
この世界を構築できるシステムは組み上がっていたらしい。
長い時間を掛けながら、世界中の人間が協議し合って。
中には独占しよとしていた悪い奴もいた様だが。
これを開発した私の御先祖様とその仲間たちが。
多くの人間たちの夢と希望を叶える為に――この世界を全ての人間に共有した。
この世界では、全ての人間の夢が叶う。
病気で苦しむ人間も、この世界では健康で。
手足を失った人間も、此処では自由に大地を駆ける事が出来る。
失った夢。諦めざるを得なかった願い……此処は、それらを実現できる。
優しい世界であり、温かな世界だ。
私はそんな世界を作って、何の見返りも求める事無く全ての人間に与えてくれたご先祖様たちを――心から尊敬している。
私も何時か。
そんな立派な人間になりたい。
今すぐには無理でも、何時かきっと……何だ?
下の階から物音が聞こえる。
ガタガタと何かを漁っている音で……泥棒か?
私はゆっくりと、近くに置いてあったスパナを握る。
そうして、物音を建てないようにベッドから降りて。
裸足でひたひたと移動しながら、ガチャリと扉を開けた。
そうして、静かに移動しながら階段を下りて行く。
一段ずつ、ゆっくりゆっくりと……何かいる!
リビングに置いてある箪笥を漁る人間。
後ろ姿しか分からないが、若い女の様で。
桃色の頭髪はサイドで結んでいて、時折発する声からして若そうだった。
何か見た事がある気もするけど……人の私物を漁る奴なんて知らん。
ガチャガチャと物を漁りながら、目当てのものじゃなければそこらへんに放っていた。
あの箪笥の中には、現金も入っている。
やっぱり、金目当てのクズの犯行で……私はそいつの後ろに回る。
奴は間抜けな事に背後に忍び寄った私に気づいていない。
私は内なる殺意を高めながら、ゆっくりとスパナを振り上げて――
「もーリッキー何処に私のカメラ置いたのー!」
「……何だよ。ショーコか」
「ん? あぁ! リッキーだー! 久しぶり……何でスパナ?」
「……お前が紛らわしいからだよ。たく」
私は緊張の糸を解きながら。
何で私の家に無断で侵入しているのかと聞く。
遂、二,三か月前まではこいつが家を買うまでは住まわせていた。
小学校からの腐れ縁であり、こいつは何かと私に絡んできた珍しい奴で……まぁ悪い奴じゃないけどな。
今は確か、双子の姉の家で厄介になっていると聞いていた。
こいつの姉はそこそこの有名人で。
今この世界で大流行中の”ワールド・メック・オーズ”のランカーだった気がする。
ゴツイタンクに乗るのが好きで、ファンの中には態々あの凶悪な主砲に撃ち抜かれたいと公言する変態もいた。
そして、こいつも賞金目当てでプレイヤーになった人間の一人で。
浪費癖のある自分の為に、賞金でたんまりと稼いで好きなものを買いまくるんだぁって……はぁ。
思い出しただけでため息が出た。
昔から能天気で、その日暮らしの奴だとは思っていたけど。
動画配信とか芸能人になるのかと思えば、あろうことかプレイヤーなのかよ。
「……まぁ、才能ありまくりで。姉に並ぶほどの腕前だから、何も言えねぇけど」
「んー? 何々? 何の事ー?」
首を傾げながら聞いてくるショーコ。
私はそんな奴を冷めた目で見ながら、さっさと質問に答えろという。
すると、ショーコはぽんと手を叩いてからカメラは何処なのかと聞いて来た……カメラだぁ?
何の事か分からない私はもっと詳しく説明するように要求した。
するとショーコは、自分が住んでいた時にカメラを此処に忘れてたことを思い出したと言って。
私への連絡もせずに、合鍵で家に入って勝手に漁っていたらしい。
何というか猪突猛進であり……ま、嫌いじゃないけどな。
私は昔の記憶を思い返していく。
そうして、そう言えばと思ってスクリーンの方に近づいていった。
壁に掛けられた大きなスクリーンの下には金庫が置いてある。
これ見よがしに置かれた金庫であり、これは泥棒用の罠だ。
中には金目になりそうな私にとっては”必要の無い”ものが入れられている。
泥棒が中を開けてそれらを持ち帰れば、自動で警察に連絡が行く手筈になっていた。
そして、入れている物一つ一つには私お手製の発信機が付けられている……早く誰か来ねぇかなとは思っていたけどさ。
私は中々にやばい罠を仕掛けた自分の姿を思い出して。
渇いた笑みを浮かべる事しか出来なかった。
そうして、慣れた手つきでトラップを解除してから金庫を開ける。
すると、金庫の一番上には色々なデコレーションが施された一眼レフが置いてあった。
「……ほら、これだろ」
「……リッキー……私、今凄く感動しているよ!」
「は?」
また意味不明な事を言いだしたな。
私は何を言うのかと興味が湧いた。
すると、奴は一眼レフを大事そうに取ってからそのデカい脂肪に押し当てる……ムカつく。
「私が置いてあったカメラを態々金庫に入れて保管してくれたんだよね。泥棒に盗まれないように、安全な場所で」
「…………いや…………あぁ…………うん、それでいいや」
「リッキー!」
「むがぁ!?」
感極まって抱き着いて来たショーコ。
そのデカい乳が私の顔を圧迫してくる。
私は全身の力を込めて奴を引き剥がした。
奴は女らしい悲鳴を上げて床に倒れた。
「はぁ、はぁ、はぁ……その抱き着く癖、なおせ……死人が出るぞ」
「もぉリッキーったらぁ。大げさだよぉ」
「いや、マジで。本気で……用が済んだなら帰れ。私も行く所があるから」
「……ん? 何処に行くの?」
「……説明しにくいけど……まぁ、私を待っている人に会いに――うぉ!?」
私が口ごもりながら説明すれば、ショーコはがばりと起き上がる。
そうして、興奮したように鼻息を荒くしながらニコニコと笑っていた。
「リッキーを待っている人!? それってそれって――キャー!」
「お、おい! ちが!? 勘違いするな!?」
「もう、いいからいいから! じゃ、私は行くね! 結婚式には絶対呼んでよ!! スピーチ考えておくから! 絶対だよ!」
「あ、おい……行っちまった」
ショーコは勘違いしながら去っていく。
嵐のような奴であり、残されたのは荒らされた部屋だけで……はぁ。
片づけは後で良い。
今は、早くその待っている奴に会いにいかなければ。
アイツの想像する人では無いけど……嫌な気がまるでしない。
不思議な事であり、自分は人間よりも機械の方が好きなのか。
人並みに色恋には興味はあった気がするが……いや、止めとこう。
この事を今考えたところで、幸せになる人間はいない。
私はゆっくりと玄関へと歩いて行った――
「はい、出来たぜ! 熱々だから気を付けな!」
「どうも……はい、お金」
「おう、丁度だな……なぁ嬢ちゃん。俺には弟がいるんだがよ。童顔の少年に興味は」
「――兄さん」
「ひぃ! じょじょじょ冗談だよ! だからマルサス。その包丁は降ろせ!!」
キッチンカーの中で喧嘩をする兄弟。
浅黒い肌の髭の男に、甘い顔をした童顔の少年……似てねぇな。
ガタガタと狭い空間で乱闘している愉快な奴らから視線を逸らす。
そうして、受け取った熱々のホットサンドを一口頬張る……うめぇな。
ジューシーで分厚い肉はこんがりと焼けていて。
シャキシャキのレタスは瑞々しくて口当たりが爽やかだ。
パンも店主は手作りと言っていてもちもちして美味かった。
そして、何よりもこの特製ソースが最高であり、この料理を見事に完成させていた。
私はスタスタと道を歩きながら、美味いサンドを食べていく。
多くの人で賑わう大通りを抜けて。
紙に書かれた住所を目指して、狭い路地へと入っていった。
住宅が密集していて、二人くらいしか通れないほどの狭さだ。
ゴミなどは落ちていないものの、陽があまり当たらず少しじめっとしている。
コツコツと靴の音を響かせながら、私は路地の奥へと進んでいった。
狭いそれを歩いて行って――此処か?
少しだけ開けた場所に着いた。
そこにはあの狭い路地とは違って陽の光が差していて。
宙を舞う埃がキラキラと輝いて、少しだけ幻想的に見えた。
古めかしくてもう使われていないであろう小さな噴水が中心にあって。
その近くには、看板らしき小さな板を立てかけてある店がある。
元は綺麗な赤だっだであろう外壁の塗装は所々剥がれていて。
窓ガラスを見れば少しだけ埃が被っていて……ひび割れてるな。
私は目を細めながら、荒れ果てたその店を見つめる。
「……此処だよな……いねぇんじゃねぇのか……いや、でも看板はあるし……」
少しだけ不安に思いながらも、良く分からない店に近づく。
扉は開け放たれていて、中へと入れば床板が軋んだ。
今にも抜け落ちそうなそれに怯えながらも、私は誰かいないかと声を掛けた。
しかし、返事は返って来ない……やっぱり、いねぇのか?
不安が増していきながら。
私は中へと入って行って、周りを見た。
中には様々な本が所せましに置かれていた。
棚に入れられなかったものは、床に積み重なっている。
「……古本屋か。今どき、珍しいな……どれどれ」
私は誰かが帰って来るまで時間を潰す事にした。
本棚にあった本を見ながら、丁度良さそうなものを探す。
なるべく厚くなくて、小難しくないものがいいな。
飾られている本は、どれも難しそうな上に分厚かった。
今の私はそれを読むことで知識や教養を得ようとは思わない。
もっとこう絵が書かれているバトル系の漫画があれば最高だけど……お、これにするか?
本棚から目を逸らす。
奥の方へと進みながら、ある一点で視線が止まった。
奥にあったボロボロのカウンターの上に一冊の本が置いてある。
分厚くなくて、絵が書かれた本で……児童用の絵本か。
ちょっと子供っぽいかと思ったが。
贅沢を言えるような立場でない事を思い出す。
私は本当に誰もいないかを確認して。
本を手に取ってから、近くに置いてあった丸椅子に座った。
「どれどれ……機械の子と人間の姫ねぇ……」
私は表紙のタイトルを見てからゆっくりとページを開いた。
そうして、内容を時間を掛けて読んでいく。
§§§
「…………」
絵本を読んだ。
内容はありふれたもので。
機械として生まれた主人公が、人間の姫と旅をするというものだ。
色々な困難を一緒に乗り越えていって。
二人は成長していき、機械の子共は人間に近づいていった。
姫もそんな主人公に想いを寄せていって――姫は殺された。
旅をする中で、姫を狙う悪党に襲われて。
何とか彼女を守って敵を倒したが、姫は敵の毒矢を受けてしまった。
何とか解毒をしようとする主人公だったが。
立ち寄る村の人間たちは、人の言葉を話す機械を不気味に思って何もしなかった。
姫を抱えながら、山の上にあるという万病に効く薬草を採りに向かう主人公。
しかし、山の頂上には薬草は無かった。
ただの噂話であったことに落胆して。
姫の最期を看取りながら、主人公は――続きは無い。
絵本に描かれているのは、主人公が姫の最期を看取るシーンまでで。
それ以降に、主人公が何を想って何をするのかは書かれていない。
中途半端な終わり方であり、普通であれば胃がムカムカするところだ。
でも、これを見終わった私は――強い既視感を覚えた。
私はこれを知っている。
この話に似た記憶があり、この話の続きも私は知っている。
機械の子は、私の夢に出て来るあの人で。
この人間の姫は、恐らく――
「楽しめましたか」
「うぁ!!?」
またしても、急に声を掛けられた。
椅子から転がり落ちながら、私は打ち付けた腰を摩る。
そうして、誰が今度は私を驚かせたのかと視線を向ける。
すると、そこには変わった狐の面を被る男が立っていた。
年季の入った少し色落ちした黒いスーツを着ていて。
くすくすと笑うその男は、私に手を差し出してきた。
私は少しだけムスッとしながらも、男の手を取った立ち上がった。
「……貴方は?」
「あぁ、すみません。自己紹介がまだでしたね……この店の主人のカルドと申します。貴方が”ゴウリキマル”さんですね?」
「……あの、何で私の名前を?」
警戒心が強くなっていく。
私のこの世界での名前を知っていて、ぬるりと現れた男。
こんな怪しい人間なんて私は知らない……こいつが、私を待っている奴なのか?
私が訝しむような視線を向ければ。
男は静かに左右に首を振った。
「残念ながら、貴方を待っている人は私ではありません……私は貴方に”答え”への道を示す存在です」
「……その答えって……いや、教えられないんですよね。分かっています……また、何処かに行かないといけないんですか?」
私は肩を竦めながら、無理やりに納得して。
次は何処に行くのかと問いかけた。
すると、彼はゆっくりと身を屈めてから落ちていた絵本を手に取る。
そうして、埃を軽く払いながらそれを私に渡してきた。
「もう、知っている筈ですよ。この中に、貴方の望む答えへの道を記しましたから」
「……それは一体、どういう……いや、待って……山……彼女の……私の……っ!」
頭がずきりと痛みを発した。
絵本に描かれていた二人が最期に言葉を交わした場所。
絵本では薬草があると言われた山の頂上を――私は、知っている。
何故なのかは分からない。
不気味にすら思える現象だ。
それでも、私の心はその記憶を否定しない。
心が全力で叫んでいる。
その場所へ行けと――”彼”の元へ行けと。
「行かなきゃ……彼が……アイツが、私を待っている」
「……貴方に会えて良かった……”貴方たち”の結末が良きものであるように」
彼はそう言って深々と頭を下げる。
そうして、ゆっくりとその場から退いて。
私の為に道を開けてくれた。
私はカルドさんにお礼を言って走り出した。
止まらない。止めれない。
もう待たせたりしない。これ以上アイツを――独りにはさせない。
まだ、誰なのかも完璧に理解できていない。
顔どころか名前だって朧気だ。
でも、それでも、私がアイツに対して抱いているこの気持ちは――間違いなんかじゃない。
店を飛び出して私は全力で走り出した。
走って、走って、走り続ける。
そうして、路地を抜けていって大通りへと出る。
人々の波を掻き分けながら、私は走って行く。
見えている。あそこがそうだ。
私たちの――”最期の場所”だ。
街から離れた場所にそれはある。
建物の影に隠れて見えないが、それはこの先に存在する。
遥か先に聳え立っている山がある方角を見つめながら。
私は全力で駆けて行った。