【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
敵の大規模な製造ラインを潰すことに成功した。
これで暫くは、無人機の製造も停止せざるを得ないだろう。
最も、既に作られたメリウスは帝国に出荷されているようだが。
数日の内に前線に導入されて、これまでの戦局が大きく変わる。
我々のパトロンとなっているオーレリア公国は焦っている。
アレが本格的に稼働を始めて、自国の領土が蛮族どもに侵略されることを。
女子供は傭兵たちに蹂躙されて、長い年月をかけて作られた美しい街並みも跡形もなく消えるだろう。
無人機の思考プログラムには、残念ながら文明の保存というものは存在しない。
敵か味方だけかを判別し、立ち塞がる者も逃げ惑う者も平等に殺しつくすだろう。
手に入れたコアの解析をすれば、アレがどれほど恐ろしい代物かは知っていた。
ゴウリキマルと名乗ったあの女。
マサムネのバディーとなったあの女は、ハッキリ言って天才だろう。
まだ何も知らない子供の脳を使って機械化したコアを製造する方法を考案して。
ゴースト・ラインはそこから技術を発展させて、データ化した脳を複製する方法を見つけている。
マサムネが戦っていたのは戦闘技術を刷り込まれた”子供”たちだが……アイツは理解しているだろう。
マサムネという男と接して、その人となりは理解した。
最低限の道徳は持ち合わせている。
しかし、戦闘になるとそれすらも捨てて任務を熟そうとする。
障害全てを排除して、一切の迷いなく敵を殺していく。
傭兵としてこれ以上ないほどの逸材であり、遠くない未来で奴は更に名を上げるだろう。
仲間としては心強い一方で、俺はあの男を信用していいかを迷っている。
強大な力を持つ男。
バネッサ女史から聞いたイレギュラーなる者に覚醒した男は――何れ我々の敵になるのではないか。
確証はない。しかし、絶対に無いとは断言できない。
今まで俺が傭兵として戦ってきて、裏切った仲間は大勢見ている。
金のため名誉のため、人権のため子供のため――裏切る理由なんて幾らでもある。
「……彼が心配かい。ヴォルフ君」
「……ワーグナー社長……私の後ろには立たないことをお勧めします」
彼が部屋に入って来た事は知っていた。
何かしてくるつもりなら、腕に仕込んだ銃で反撃している。
しかし、敵意が無く。靴の音からして社長だと判断して放置していた。
社長はコツコツと靴の音を立てて近づいてくる。
そうして、私が今まで見ていた敵についての報告書に目を通した。
「……なるほど。あのオッコ君に分析を依頼したのは君か。それで、何か進展はあったかな」
「……今までのコアとは違うようです。波形パターンが異なっていて、恐らく”成人男性”を被検体にして作ったコアだと」
「……子供でなければコアには出来ないのではなかったんじゃ」
「そうです……しかし、オッコはそう判断していました。恐らく、間違いではないかと」
工場から持ち帰ったコア。
オッコのチームは爆弾の設置の他に施設から重要物を持ち帰る任務を与えていて。
我々の諜報部隊から得た情報で、隠された部屋が幾つかあることは分かっていた。
内部に行ってみなければ分からず罠の可能性も高かった。
だからこそ、状況の変化に柔軟に対応できるオッコを指名して。
奴が持ち帰ってきたコアを調べてみれば、そのコアは他とは違うものだと言う事が判明した。
今はまだ波形パターンから成人男性であることしか分からない。
情報が不足しており、オッコはデータベースへのアクセスの許可を俺に言ってきた。
恐らく、データベースに記録された人間たちのデータを照合するつもりなのだろう。
専用のソフトも作ったようであり、掛かる時間は凡そ三日ほどだと言う。
オッコには引き続き分析を任せて、他の傭兵たちには次の任務を指示する。
「ゴースト・ラインの本拠地は未だ不明。それさえ分かれば、奴らを叩きに行けるけど……うーん時間が足りないな」
「公国にも卓越したメリウスの操作技術を持つ人間はいます。無人機が投入されてもすぐに状況が変わる事は無いかと」
「それはそうだろうね……ただ、その特異なコアが気がかりだ」
「……確かに……オッコに指示をして分析を急がせますか?」
「いや、それはいいよ。急がば回れだろ? 焦らせたら、何も得られないさ……それよりも、内通者の件だが」
「……いくつかの候補は上がっています。しかし、証拠はありません」
内通者を焙り出すために今回の作戦では態と情報に規制を掛けた。
口の堅い人間ばかりだと信用していたが、情報が漏れていた可能性もある。
漏れていたとしても、候補者が増えるだけで問題ではないが……。
リストに上がった人間には監視を付けている。
職員が交代で見張っており、怪しい挙動を見せれば俺に報告が上がるようになっている。
ゴースト・ラインと通じて我々の情報を提供している内通者。
何の目的があるのかは定かではないが、化けの皮を剥いでやる。
オッコへの分析依頼、内通者の炙り出し。
そして、マサムネのイレギュラーとしての力。
俺が抱えているモノは多く、社長以外には共有できないだろう。
俺は無言でパソコンのボタンを押して画面を切り替えた。
そこには”新型の”メリウスの図面が載っていて。
社長も目を輝かせながらそれを見つめている。
「……第七世代型メリウス……これが実戦に投入される……社長、私はまだ納得がいっていません」
「――関係ないよ。君が何と言おうとも、私はこれを彼に提供する。彼女もそれを望んでいる」
もしもこれをアイツが手に入れた時、何が起きるのか。
過ぎたる力は身を滅ぼす……しかし、それは俺たちにも影響するのではないか。
新たな力を手に入れ、何を考えるのかは分からない。
所詮傭兵は、自由を盾に理不尽に生きる生き物だ。
考えを変えて、昨日まで仲間だった人間に銃口を向けない保証はない。
私はそれで全てが潰されるのを恐れている。
たった一人の行いが、全てをドミノのように倒していくのではないかと。
ゴースト・ラインと戦う上で傭兵たちに協力は必要不可欠だ。
最も自由で何者にも縛られず、情に流されない人間は役に立つ。
しかし、それは裏切られる可能性も考慮した上でだ。
そう、ただ一人を除いて――お前だ。
お前だけが全てを変えれる力を隠し持っている。
俺はそう確証している。だからこそ、最後まで信用しきれない。
ビジネスパートナーには成り得るが、人としては信じられない。
お前の行動を俺は何時も見ている。
不審な動きをすれば、俺は何時でもお前を切り捨てる。
この力を手にするに値しない人間であれば――俺がお前を殺す。
パソコンを閉じて、俺は静かに息を吐く。
そうして、社長に煙草を吸いに行くことを伝えた。
社長は狐のように笑いながら手をひらひらとさせていて。
俺は無言で自室を後にして歩いて行った。
裏切りは何時だって存在する。
俺にもお前にもある――道を踏み外すなよ。