【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
船へと帰還して暫く時間が流れた。
ショーコさんは船の皆と仲良くなり、俺も考えを変えようと努力した。
本を沢山読んで、映画を見て、色々な人間と会話をする。
あの少年のように本物の人間になれる努力を少しづつ積んでいった。
俺は戦闘をするだけの人間じゃない。
かつてトロイが言っていたように傭兵以外の道を見つけよう。
世界が平和になり、この世から戦争が無くなれば、自然と俺も道を決めなければならない。
終わるかは分からないが、人間になる為には自分で探さなければならなかった。
ショーコさんはそんな俺を応援してくれていて。
今はまだ合流できていないが、ゴウリキマルさんも俺に会うのを楽しみにしていたと教えてくれた。
偽りの記憶だけが全てじゃない。
これから皆と思い出を作っていけばいい。
過去を思い出せなかったとしても、これから作る記憶は消えやしないのだ。
俺は笑みを浮かべながら筆を動かして絵を描いていく。
色々な事に挑戦していくんだ。これもその内の一つである。
「……よし」
完成した絵を見れば、お世辞にも上手いとは言えない。
微かに記憶の中で存在するあの白髪の少女を描いてみた。
顔は完璧には思い出せていないが、少女が笑っている顔を描いてみた。
俺が描いた少女の顔は、どこかぎこちない。
自然な笑みではなく作られた人形のような笑みで。
まだまだ修行が足りないと思いながら、ドカッと椅子に座りこんだ。
暇な時間があれば、色々な事に挑戦する。
その結果、任務と趣味を両立させる生活を送っていて。
今のところは、戦いよりも興味のある事は見つけられていない。
「……まぁ、あの子供との約束もあるから。傭兵は続けるけど」
かつて帝国で出会った少年兵のザックス君。
彼と最後に会ったのはあのハイドと名乗るゴースト・ラインの男と初めて相対した時で。
俺が逃げれないように油断させる為に用意したのだろうけど……彼は無事だろうか。
恐らくは、殺されていないと思う。
俺自身も余裕が無く、帝国に行けなかったので安否確認はしていない。
しかし、殺す必要性が無いからこそ、命を奪われている可能性は限りなく低い気がした。
生かしてまた利用することはあるだろうけど――駄目だ。
また、人を利用するなんて考えが思い浮かんだ。
理不尽で自由な傭兵としては正解だろう。
しかし、本物の人間になる為にはそれは不正解だ。
ザックス君との約束は守る。
だけど、俺が真に目指すべきは本物の人間だ。
二つを実現させるのは難しいだろう。
でも、約束をしたのなら果たすのが男だ。
いつの日か彼は俺の前に現れて、俺を殺しに来るかもしれない。
その時は、彼の為にも真剣な勝負をしたい。
傭兵として一人の男として。そして、本物の人間として彼と向き合う。
手加減するつもりは毛頭ない。戦いにおいて手心を加えるのは相手への侮辱に他ならない。
いつの日か俺が言っていた通り、女でも子供であろうとも関係ない。
勝負になるのなら全力を出すまでだ。
「……だから。元気でいてくれよ」
天井を見ながら、俺はぼそりと呟いた。
傭兵仲間に借りたかつての名曲を聴きながら、俺はゆっくりと瞼を閉じる。
耳心地の良いピアノの音色を聞きながら、俺はそのまま眠りにつこうかと思った。
ゆったりとした時間が流れる。まるで、戦争なんて起こっていないような静かな時間だ。
かつては退屈なように感じた時間も、今は好きになれそうで。
少しづつ自分の考えが変わっているような気がして俺は笑う。
穏やかで柔らかで温かく――扉がノックされた。
誰かが訪ねてきたようで、俺はリモコンを手に取って曲を停止させた。
そうして、大きくを伸びをしてから立ち上がって。
ゆっくりと扉に近づいてから、扉のロックを解除した。
横に自動で扉がスライドして誰が来たのかと見れば、船のスタッフさんであった。
「マサムネさん。至急、通信室にお越しください。お客人から連絡が来ています」
「……客? 誰ですか」
「声を聞けば分かります。今は何も言わず急いで向かってください」
伝えることを伝えて、スタッフさんはお辞儀をして去っていく。
俺はポリポリと頬を掻いてから、足早に通信室へと走っていった。
通信室に付けば誰も入っていないようで。
入室してから扉にロックを掛けて、俺は通信装置に近づいた。
またしても置手紙があって、掛かれた内容は此処に掛けろという簡潔なものだった。
名前くらい書いてくれと思いつつ、俺は急いで通信を繋ぐ。
すると、暫くノイズが走って――相手と繋がった。
《私はオーレリア公国空軍第08大隊長アリア・マクラ-ゲン中佐です。マサムネさんですか?》
「……マクラ-ゲンさん? 何故、俺に」
繋がった相手はかつてセントラルパークで出会ったマクラ-ゲンさんで。
俺はまた彼女と話せたことを嬉しく思いながら、どういった要件かと尋ねた。
《……マサムネさんは知っていると思います。今、公国は死地に立たされています。それは帝国がゴースト・ラインから提供された無人機が関係しています》
「……圧倒的な物量で、公国が押されているんですよね。兵士たちも戦いに次ぐ戦いで疲弊しているとか」
《えぇ、敵は燃料さえ補給すれば何度でも攻めてきます。我々には少なくとも休息が必要です。戦いにおいて、彼らは我々には無い強みを得ました。敗色も濃厚になり、我が軍では相手に寝返る者も出てきています。このままでは、公国は降伏を余儀なくされるでしょう》
淡々と事実だけを語るマクラ-ゲンさん。
俺はそれを聞いて、俺に出来る事は無いかと彼女に尋ねた。
会った事があるのは一回だけで。そんなに会話をした事も無い。
しかし、少なからず彼女には恩を感じていた。
俺が知らないこの世界の常識を教えてくれたんだ。
彼女がいなければ、俺はまだゲーム感覚で多くの命を奪っていたかもしれない。
彼女はくすりと笑う。
俺は何かおかしい事でも言ったかと焦った。
すると、彼女は笑った事を謝ってきた。
《……貴方は変わりましたね》
「俺が?」
《えぇ、依然会った貴方からは、失礼ながら冷たさを感じました……でも、今の貴方の声からは少しだけ温かさを感じます。良い出会いがあったんですね》
「……えぇ、目指すべき者が見えました」
《……なら、私が貴方にお願いすることはありません。貴方は貴方らしく、自由に生きなさい。他の誰でもない。貴方がめざすべき者の為に》
マクラ-ゲンさんは、俺の道を肯定してくれた。
その上で、自分たちの都合に巻き込まないように言葉を選んでくれていた。
俺はそれを理解していたからこそ、彼女の本心を聞きたかった。
「……お願いします。貴方の心を教えてください。貴方は俺に、何かを託そうとしたんじゃないんですか?」
《…………本当に、貴方は変わりました……今から私は前線で部下と共に戦いに行きます。もしも我々の身に何かが起きて、戦争が終わることなく続くのなら――貴方が、戦争を終わらせてください》
「俺が戦争を、終わらせる?」
《……無理な事は承知しています。でも、貴方は多くの人間から期待されている。私もその内の一人です。貴方ならば、この不毛な争いを終わらせられる気がする……今の話は忘れてください。こんな願いは》
「――いえ、俺は忘れません。貴方の想いは俺が受け継ぎます」
戦争を終わらせるなんて出来ないかもしれない。
しかし、他でも無いマクラ-ゲンさんは今までそれを成そうとしていたに違いない。
彼女は平和の為に戦って、これから前線へと向かう。
道半ばで倒れるつもりは無いだろう。
でも、もしもがあれば、彼女の願いを聞いた自分が叶えて見せる。
それが本物の人間として当然の事のように思えるから。
彼女はまたくすりと笑う。
そうして、俺の声に安心したのか彼女は言葉を俺に送ってきた。
《――貴方の未来が幸多からんことを……次会えたら、その時は握手をしてください》
「えぇ、勿論です。絶対に会いましょう」
《……ありがとう。友よ》
彼女はそれだけ言い残して通信を切った。
俺はゆっくりと通信装置を戻して。
目を閉じながら片手で胸を押さえつけた。
どうか彼女が無事、帰ってこられますように――俺は心からそう願った。