【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
以前に本で読んだことがある。
第一世代型のメリウスの中で、最も戦果を挙げた悪魔の兵器が存在すると。
大陸に住む人間たちを蹂躙し、敵味方関係なく恐怖を植え付けた兵器。
人々はその悪魔の兵器を恐れて封印し、設計図も全て焼き払われたと聞く。
畏敬の念を込めてそれらの機体を――魔神と呼んだそうだ。
エイトの言葉が真実であれば、これは遥か昔に存在したメリウスになる。
どうやってゴースト・ラインがこのメリウスを発見できたのか。
いや、もしかしたら設計図を見つけて製造したのか。
何方にせよ、人々が恐れていた事が再び起こってしまったのだ。
多くの人間を虐殺し、都市一つを滅ぼしたとされる兵器。
それの破壊力の一端を垣間見て、全員が怯えていた。
仲間たちは何とかしてこいつの足を止めようと攻撃を仕掛ける。
俺も彼らと同じように弱点と思わしきところに弾丸を浴びせていた。
しかし、一向に喰らっている様に見えない。
止まることなく足を動かしながら、魔神は進む。
一歩踏むごとに大地が大きく揺れて、地が割れる。
体の各所から見える機銃が邪魔をして、有効打を与えられずにいた。
ライフルの弾が駄目であれば――一点への集中砲火を浴びせてやるッ!!
俺は機体を上昇させる。
雲より高い頭部を目指してぐんぐんと上昇していく。
敵の機銃から放たれる弾丸を避けながら飛行し、避けられなかった弾が装甲を掠めていく。
奴から距離を離すのは得策ではない。
距離を離せば巨大な腕による攻撃が待っていて。
最悪の場合には、あのレーザーを俺自身に当てられる恐れもあった。
二対の腕から放たれるのは極太のレーザーだけではないかもしれない。
もしかしたら、口径を狭めて範囲への攻撃を可能とするかもしれないのだ。
最悪の予想を立てながら、なるべく接近して飛行する。
見れば、レノアたちが俺の方に向かっていた。
オッコやトロイも無事であり、メリドやジェスラもそこにいた。
《無事かッ!?》
「何とかな……頭部を目指す。そこでありったけの火力をお見舞いするぞッ!」
《そうか。センサーを潰すんだな》
トロイに無事かと聞かれて笑う。
俺が頭部を目指すと言えば、頭の良いオッコはすぐに気が付いた。
レノアたちは俺の援護を引き受けてくれた。
レノアのプラズマ砲の攻撃によって機銃の攻撃が止まる。
その内に更に上を目指して、ぐんぐんと加速していった。
止まっている暇は無い。一刻も早く、このデカブツの足を止めなければならないのだ。
《どけッ!!》
トロイが咆哮を上げながら、進行方向に割って入ってきた無人機を蹴散らす。
ガトリングガンが火を噴きながら弾を乱射して、ぶち当たった敵の残骸をトロイは機体で弾き飛ばす。
恐ろしく脳筋な戦法であり、オッコは笑っていた。
笑うだけの余裕があるのなら十分だ。
俺たちは胴体を這って飛行し、更に上を目指す。
「……あの突起物は何だ。アンテナか。いや――考えてる時間は無いな!」
等間隔に取り付けられている謎の突起物。
違和感を抱きながらも、俺は操縦桿を引く。
上昇、上昇、上昇、上昇上昇上昇上昇――見えたッ!!
雲を抜ければ、奴の顔が丸見えであった。
赤い単眼センサーが俺たちをじろりと見る。
俺は笑みを深めながら仲間たちに指示をする。
全員が銃口を敵のセンサーに向けて――放つ。
「くたばれッ!!!」
突撃砲と副砲から恐ろしいまでの銃弾が飛んでいく。
レノアもプラズマ砲の出力を最大にして、オッコもショットライフルの弾丸を全弾放った。
トロイは残った弾丸を吐き出すように回して、メリドやジェスラもグレネード弾をぶち込んでいた。
全員が協力しての集中砲火。
今までにないほどの火力であり、これならば敵のセンサーを壊せるはずだ。
俺はそう確信して、ニヤリと笑いながら煙に包まれた敵の頭部を見ていた。
《……やった、のか?》
「……いや、待て……っ」
トロイの言葉を受けて、俺は全員に待つように指示した。
銃口を構えながら、全員が警戒する。
そうして、煙がゆっくりと晴れた先には――煤汚れた”だけの”センサーがあった。
「――ッ!!?」
アレだけの火力を出して、傷一つついていない。
いや、ただ汚しただけであり全くの無傷であった。
装甲が厚いと思っていたが、まさか頭部にまでそれが及ぶのか。
瞬間、俺の脳内に警鐘が鳴り響く。
何かが来る。本能で察知して、俺は全員に退避する様に命令した。
レノアたちだけではない。今ここで戦っている味方全員に逃げるように指示したのだ。
俺の鬼気迫る声に驚きながらも、レノアたちはスラスターを噴かせて逃げようとする。
その瞬間に後方から激しいスパークが起こった。
魔神の機体から延びたアンテナのような突起物。
そこから機体全体へと流れるのは凄まじい電流で。
一瞬の判断で機体を後退させたのが運命の別れ道だったのか。
いや、致命傷を避けただけで被弾したことに変わりはない。
雷ではない。
純粋な電気による放電であり、近くにいた俺たちはそれを諸に受けた。
バチバチと機体が感電して、コックピッド内で火花が散る。
稲光のような甲高い音が聞こえたかと思えば、視界が激しく点滅した。
全ての計器がイカれて、反応が途絶した。
仲間たちに声を掛けるが反応は無い。
通信機まで機能不全になっており、俺の機体が落下していくのが分かった。
俺はすぐに手動によって動力を回復させようと試みた。
パネルを強引に引き剥がして、胸ポケットに入れたライトをつける。
そうして、死んだ配線を手で引きちぎって、生きている配線を繋ぎなおす。
かちゃかちゃと配線を弄る時間が永遠に感じる。
その間にも機体は落下していて、死神の息が聞こえた。
死んだはずのシステムを復旧させる為の荒業だ。
こんなところで披露する事になるなんて考えもしなかった。
俺は震える手を動かしながら、何とか配線を繋げていく。
「まだだ、まだだ……もう少し……よし!」
片手で汗を拭ってから、操縦桿を握りなおす。
そうして、動力を入れなおせばディスプレイに映像が蘇った。
コックピッド内が明るくなって、すぐそこに迫った地上が見えた。
俺は一気にペダルを踏みこんで、操縦桿を一気に引き上げる。
ずっしりと重く俺の力に抵抗する操縦桿。
歯を食いしばりながら、何とか上へと持ち上げていく。
ぐんぐんと地上へと機体が落下していって――寸での所で方向を変える。
「――ぐぁぁ!!?」
しかし、完全には姿勢を制御できず。
足が当たって機体がガリガリと地面を削っていった。
ゴロゴロと転がりながら地面を滑っていって、何かの残骸に機体が当たる。
派手な音を立てながら機体が飛び上がって、視界がぐるぐると回る。
ようやく機体が止まったかと思えば、投棄されたトーチカに機体が乗り上がっている。
頭を強く打って強い吐き気に襲われた。
頭を手で押さえれば、ぬめりとした感触がした。
顔の前に手を持っていけば、真っ赤な液体が手にべっとりと付いている。
「派手に、やった、な。はは」
不時着の上に、大きな怪我まで負ってしまった。
機体の損傷度は激しく。これ以上の戦いはほぼ不可能だった。
仲間たちに通信を繋げようとする。
しかし、誰一人として俺の声に反応するものはいない。
俺はオープン回線にして、生きている仲間に声を飛ばそうとした。
しかし、俺が声を出す前に無数の悲鳴が聞こえてきた。
《死にたくない死にたくない死にたく――……》
同じ言葉を繰り返していた男の声が途絶える。
声を聞けば誰なのかは分かった。
船の中で俺に絵の描き方を教えてくれたレントだ。
明るい性格の男の最期の声は震えていた。
《殺される。皆、殺されるんだ。あぁ神様。俺は間違って――……》
鼻を啜りながら震える声で神に懺悔した男。
力自慢のアリであり、誰よりも戦う事を好いていた筈の男だ。
ノイズが混じった通信の中で、奴は最期に自らの選択が間違いだったと思ったのか。
《手足の感覚が無い……何も見えない……ねぇ誰か。誰か、たす、け、て……》
掠れた声で仲間に助けを求める女。
酒の席で話したことがあるミリアという女性だ。
音楽が好きであり、中でも八十年代の曲を好んでいた。
何時も気さくに話しかけてきて、俺の知らない音楽の魅力を教えてくれた。
俺はミリアに声を掛ける。しかし……返事は帰ってこなかった。
悲鳴、叫び、怒り、恐怖、嘆き、苦しみ――ノイズ交じりに全てが聞こえた。
大きく目を開きながら、震える手で耳を塞ぐ。
ガチガチと歯を鳴らしながら、俺は前を見ていた。
家族のように思っていた仲間たち。
こんな時間がずっと続けばいいと思っていた。
困難を皆で乗り越えて、また笑い合える、時間が、来ると……ぁ、ぁぁ、ぁぁあぁ。
心が凍り付き――暗黒が俺の心を支配した。
俺が鼓舞をして戦場へと連れてきて、彼らはその命の灯を消していった。
全ては俺が彼らを焚きつけたせいで、ゆっくりと離れていく魔神を見ている事しか出来ない。
こんな筈じゃなかった。仲間たちと協力して未来を掴もうとした。
それなのに、俺のせいで彼らの未来を、奪ってしまった――
現実をようやく理解した。
その瞬間に胸が強く締め付けられるような感覚を覚えた。
ズキズキと胸が痛み呼吸が苦しい。
視界がボヤケテいって、全ての音をシャットダウンした。
呼吸を乱しながら、俺は絞り出すように――後悔を吐き出した。
「ぅ、ぅ、く、ぅ――くそぉ」
両手で顔を押さえる。
ボロボロと涙が流れて落ちていく。
初めて流す涙であり、感動的な事なんて一切ない。
皆を絶望へと叩き落した自分が憎い。
こんな所で悲劇のヒロインを気取っている自分が情けない。
未来どころか何一つ掴めなかった自分自身が許せない。
何度も何度も汚い言葉を口から垂れ流しながら、俺はボロボロと大粒の涙を流す。
彼らへの謝罪を口にしながら、俺は子供の様に泣いて――
《それでいいのか。マサムネ》
「――ゴウリキ、マル、さん?」
通信が繋がり、相手の名前が表示される。
今一番聞きたかった人の声であり、彼女は俺の心に光を与えてくれた。
何故、彼女が通信を。何故、今この瞬間に――そんなことはどうでもいい。
俺は乾いた笑みを浮かべながら、失敗したことを伝えた。
皆の未来を掴めなかったこと、公国を救えなかったこと。
己のバカな考えのせいで、多くの仲間を地獄に叩き落してしまったこと。
聞かれても無い事を俺は喋っていく。
ゴウリキマルさんはそれを黙って聞いてくれて――ゆっくりと言葉を発した。
《泣き言はそれだけか》
「……そうだね……もう、何を言っても……」
《諦めるのか。止まっちまうのか。それは残念だ。私の相棒がここまで――馬鹿な奴だったとはな》
「……何を言って」
《――私の知っている馬鹿はな。どんな逆境だろうと覆す。自分が死ぬような立場になったとしても、最期まで戦うような奴だ。どんなに私が逃げろと言っても逃げない馬鹿で。今のお前みたいな泣き言何て言わなかった》
「……俺はそんなに強くは」
《――強さなんて関係ない。お前は私を救ってくれた相棒だ。ヒーローって言ってもいい》
ゴウリキマルさんは俺の事をヒーローと言った。
暗闇から自分を救い出して、大切な約束までしてくれたと。
彼女はくすりと笑いながら、ぼそりと呟いた。
《……でも、止まってもいいさ。お前は良くやった……誰もいなくなっても私はお前の傍にいる》
「――」
《……マサムネ。私の名前、聞いてくれるか?》
ゴウリキマルさんは止まっても良いと言った。
優しい彼女はこんな俺の傍にいるという。
そうして、約束を果たせなかった俺に名前を告げようとして――鈍い音が響いた。
視界がパチパチと弾ける。
ゆっくりと右の拳をのければ、ぶしゅりと鼻血が噴出した。
俺は大きく笑いながら、鼻から流れる血を乱暴に拭った。
消えかけていた闘志が蘇る。
光を失った心に、再び火が灯った。
もう弱音は吐かない。俺は大きく笑った。
「止まっても良いか――そんな言葉を聞いたら、進まなきゃな」
《……いいのか。もっとつらい目に遭うかもしれないぞ》
ゴウリキマルさんは俺を心配する。
しかし、もう俺は一人じゃない。
「構わないさ。だって――ゴウ
死にかけていた目に光が宿る。
俺は目をギラギラと輝かせながら機体を動かす。
各部から軋むような音が鳴る。
嫌な音であり、今にも壊れてしまいそうだった。
それでも、指一本でも動かせるのなら戦い続けてやる。
そんな俺の言葉を聞いて、ゴウリキマルさんはくすりと笑う。
そうして、ディスプレイのマップに何かのビーコンが示される。
移動しているようであり、真っすぐにこの戦場へと向かってきている。
《――だったら、お前に渡すものがある。死にかけのお前に相応しいプレゼントだ。壊すなよ》
ゴウリキマルさんはそう言って通信を切る。
ディスプレイに表示された物を見て――俺は大きく目を見開く。
「……人生で一番嬉しい贈り物かもな」
ニヤリと笑いながら、俺は飛行する物体へと向かう。
現在出せる速度と飛んでいるそれの速度を計算して、合流できるポイントにてそれを受け取る。
この戦況を変えられるかもしれない。
俺は期待に胸を膨らませながら――混沌の中を飛翔した。