【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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055:神殺しの名を欲するモノ

「――もって、くれよ!」

 

 大破寸前の機体を操作しながら、マップに表示されるビーコンを追う。

 真っすぐに戦場へと向かってきているそれは輸送機である。

 中に積み込まれた物が何なのかは分からない。

 しかし、態々輸送機で運ぶ必要がある物なら大体の見当は付いていた。

 確証はない。でも、ゴウリキマルさんが俺に渡すモノとは――見えた!

 

 敵の砲撃を避けながら飛行する輸送機。

 ゴウゴウと音を立てながら両翼のプロペラを回転させて飛行していた。

 輸送機の上部と下部に取り付けられた円形の機銃からは絶え間なく弾が放たれていた。

 弾幕を展開しながら、近づいてくる無人機や帝国軍のメリウスをけん制している。

 

 護衛に付いているメリウスも確認できた。

 迷彩柄の四機のメリウスが俺の姿を確認してコールしてくる。

 俺はそれを受信してから自らの所属を明かす。

 

《――左側のハッチを開く! 自動操縦(オート)は生きているか!?》

「……何とか行けそうだ。飛び移るのか?」

《あぁ。この状況で減速する訳にはいかない。悪いが、体を張ってもらうぞ》

「……了解」

 

 渋みのある声の男の指示に頷く。

 そうして、通信を切断してから輸送機の左側にソルジャーを寄せる。

 機体の各部から火花が散っていて、今にも墜落しそうだ。

 しかし、俺と共に戦ってくれたこいつはまだ落ちはしない。

 短い間であったとしても、こいつと共に戦った記憶がそう確信させるのだ。

 

 生きている自動操縦機能をオンにする。

 そうして、ゆっくりと操縦桿から手を離す。

 俺は目を細めてから、ゆっくりと口を開いた。

 

「……ありがとう」

 

 前へと一定の速度で飛行するソルジャー。

 ハッチに取り付けられたレバーを一気に引いて強制的にハッチを開かせる。

 空気が抜ける音共にハッチが開かれて――凄まじい風を感じた。

 

 コックピッドのハッチを開けば、前から突風が襲い掛かる。

 凄まじい風量であり、俺は非常用のキットから崖を昇る為のワイヤーガンを取り出す。

 顔を片腕で隠しながらコツコツとハッチから出る。

 

 機体の外では爆発音や弾丸を発射する音が絶え間なく聞こえてくる。

 むせ返るような物が焼ける悪臭に顔を歪ませながら、俺は何とか外へと体を出した。

 そうして、輸送機のハッチが開いているのを確認してゆっくりとワイヤーガンの照準を合わせた。

 

 風によってあおられる中で、狙いをすませて――発射した。

 

 ワイヤーガンの先のフックがハッチに命中する。

 装甲を貫き深々と刺さったそれ。

 俺はワイヤーをコックピッドの一部に括りつけた。

 そうして、非常用キットから手袋を出して装着する。

 

「……よし」

 

 俺は心を落ち着かせながら、ゆっくりと足を動かす。

 ワイヤーをしっかりと持ちながら、ハッチの端へと足を動かした。

 心臓の鼓動が早まっていく中で下を見る。

 高い高度で飛行しているのだ。下を見れば、地上のメリウスは豆粒のように小さかった。

 

 俺は視線を戻してから、片足を引っかける。

 そうして、細心の注意を払いながら進んでいく。

 ゆっくりゆっくりと進んで――激しく揺れた。

 

 何かが爆ぜる音。

 それと共に体が大きく揺さぶられて片手を離してしまう。

 足を掛けていたおかげで落ちずにすんだ。

 俺は両手に汗がにじんでいくのを感じながら、離れた手をワイヤーに戻した。

 

 視線を向ければ、輸送機の一部から火の手が上がっている。

 敵の攻撃が被弾した様子であり、俺は舌を鳴らしてから進む速度を上げた。

 ガタガタと揺れる中で、短いようで長い移動を行う。

 

 あと少し、あと少し、あと少し――届いた!

 

 輸送機の中に降り立つ。

 俺は止めていた呼吸を再開させてから汗を拭った。

 そうして、中へと入ろうとして――大きく目を見開く。

 

「――ッ!!?」

 

 ネイビーを基調とし黒い塗装がされている機体。

 片腕が半ばから千切れて、黒煙を上げながらも真っすぐに此方へと向かってくるそれ。

 赤い単眼センサーを光らせながら恐ろしい速度で突っ込んでくる帝国の量産機。

 決死の覚悟であり、輸送機の機銃にも怯まず護衛のメリウスの攻撃も無視していた。

 

 

 本能で感じる――あのパイロットは死ぬ気だと。

 

 

 特攻を仕掛けてくる人間は恐ろしい。

 それをこの目で確認しながら、俺は呼吸を止めてその光景を見ていた。

 

 その瞬間に、チラリとソルジャーが俺を見た気がした。

 

 勘違いかもしれない。風にあおられて機体が傾いただけだ。

 

 しかし、俺は自分でも分からないような行動をしていた。

 

 腰のホルスターから拳銃を抜く。

 そうして、ワイヤーを撃ち抜いてそれを切り離した。

 その直後に、ソルジャーは機体を動かして特攻を仕掛けてきた量産機に突っ込んでいった。

 自動操縦であっても、まるで意思を持ったかのような動きで。

 ソルジャーが真正面からかち当たり、両手で受け止める。

 勢いの乗ったそれを完全に止めることは出来ない。

 しかし、巨大な金属同士が当たったことによって方向がズレた。

 

 輸送機に当たりかけた量産機は上へとはじけ飛ぶ。

 ソルジャーは半ばから体を失って下へと落下していった。

 パーツがバラバラに飛び散って、羽を捥がれた鳥のように落ちていく。

 目に映る光景がスローモーションのように流れていく中で、俺はしっかりと彼の最期を見届けていた。

 紫電の代わりに宛がわれた代用品――そんなもんじゃ断じてない。

 

 共に戦った戦友が最期に俺を活かしてくれた。

 彼の腕が俺へと伸びて、手の平を翳したように見えた。

 それはまるで、先へと進めと俺に言っているようで――

 

 ソルジャーの双眼センサーはパチパチと点滅している。

 俺は友の最期を目に焼き付けて、頬がゆっくりと濡れるのを感じた。

 雫が零れおちていき、ソルジャーの元へと落ちていく。

 彼は、そんな俺を真っすぐに見つめながら――ゆっくりとセンサーから光を消していった。

 

 

 失ったものが多過ぎる。

 二度と帰ってこないものもあるのだ。

 だが、俺は足を止めてはいられない。

 

 

 進め。進んで――未来を勝ち取るんだ。

 

 

「……」

 

 胸がズキズキと痛む中で、俺は強く唇を噛む。

 そうして、開きかけた口を閉じてから俺はハッチに手を掛けた。

 感謝の言葉は送った。別れの言葉はいらない。

 俺はゆっくりと硬く重いハッチを閉じていった。

 

 ゆっくりとハッチを閉じていき、音を立ててハッチのロックが完了した。

 閉じたハッチを見つめてから、ゆっくりと手を離す。

 そうして、振り返ることも無く歩き出した。

 

 鋼鉄の扉が閉じられて、俺は輸送機の中を見渡した。

 自動的に足元のライトが点灯して、中に隠された何かの全貌が露わになる。

 ライトの光に照らされたのは――見たことも無いメリウスであった。

 

 オレンジ色のカラーリングを施されて、所々に灰色の塗装も見て取れる。

 頭部には横一線のスリットが彫られていて、額の中心には銀色のブレードアンテナが付けられていた。

 背部には大型のスラスターが四つ付けられていて、背中から延びる二つのスラスターはやや上を向いている。

 腰から延びるスラスターは下を向いていて、眼を凝らせば腕や足に小型のブースターのような物が付けられていた。

 

 大きさは紫電よりも小さく感じる。

 十五メートルも無いかもしれない。

 

 手足は細くしなやかで、胴体は少しだけ厚く。

 細身ながらもがっしりとした体形をしていた。

 胸の中心から六角形の穴が開いていて、透明のガラスに守られたそこにはコアが存在していた。

 機体の横には大きく長いライフルが一丁備え付けられていて、アレで戦えと言うのだろう。

 

「……何だ」

 

 腕の端末が震える。

 起動させれば、戦闘服のアップデートが行われていた。

 すぐにアップデートは終了して、俺の服装は勝手に変更された。

 

 服の形が変わっていき、深い青色をした対Gスーツに変わる。

 両手を前に出せばヘルメットが出現した。

 俺はゴウリキマルさんの計らいに感謝しながら、ヘルメットを装着した。

 

「――時間は無いな」

 

 輸送機が激しく揺れて警報が鳴る。

 赤い警戒ランプが激しく回転する中で、俺は目を鋭くさせた。

 俺は体のバランスを整えながら、鎮座する機体へと走った。

 目の前に立てば、機体を守っていたケージが解かれる。

 そうして、膝をついてから俺の前に手を差し出してきた。

 俺はその手に乗って、新しい相棒の誘導によってコックピッドの中へと入った。

 

 ハッチが自動で閉められる。

 そうして、ディスプレイに映像が投影された。

 

 

 型式番号TMUSSG―005AX。

 機体名は”雷切”――雷を切るとは大層な名だ。

 

 

 新たな相棒を見つめていれば、男の声が聞こえてきた。

 

《――パイロット情報を更新。初めましてマサムネ様。お会いできて光栄です》

「……AI……喋れるのか」

《はい。そのようにプログラムされていますので――輸送機のエンジンが停止。危険状態です》

 

 ガタガタと揺れるコックピッド内。

 俺はお喋りができるAIに笑みを浮かべながら、それならば早く出るかと話しかけた。

 AIは了承しながら、機体の簡単な説明をしてくれた。

 

 ゆっくりと安全バーのような物が上から下がってきた。

 体を固定されて、手の届くところに操縦レバーが調整された。

 AIが機体の説明を終えて、淡々と機体の状態を確認する。

 全ての状態の確認を五秒ほどで終えてから、AIは俺に準備は良いかと聞いてきた。

 

 俺は掛けられたプロミネンスバスターと呼ばれたライフルを腕部に接続する。

 コアの出力が上がって、赤く発光しているのがチラリと見えた。

 俺はそれを確認してから、笑みを浮かべた。

 

「――あぁ、行こう。神を殺す時間だ」

《有意義な時間になることを祈っています》

 

 ライフルを両手で持ちながら、開かれたケージから出て真ん中に立つ。

 そうして、固く閉じられた後部ハッヂへと銃口を構える。

 コアから供給されるエネルギーが充填されていく。

 シリンダーらしきものが激しく回転しながら赤く発光した。

 そうして、出力を押さえたそれを前方へと向けトリガーを引き――勢いよく直線にレーザーが放たれた。

 

 凄まじい熱量によって熱したバターのように輸送機の後部ハッチが溶けた。

 周りも少しだけ赤熱していて、俺はプロミネンスバスターの威力に口笛を吹く。

 そうして、強引に破壊されたハッチを見つめながら、ペダルを踏みこんでスラスターを一気に噴かせた。

 

「――ぅ!!」

 

 凄まじいGが掛かる。

 体がシートに押さえつけらそうになった。

 しかし、それも一瞬であり機体に内蔵されたシステムとスーツによって力が軽減された。

 少しの加速によって一気に機体が前へと進んで空を飛ぶ。

 恐ろしい推進力であり、俺は笑みを深めた。

 

 爆炎を上げながら墜落していく輸送機。

 俺が出てきたことを確認して、護衛の部隊の隊長が通信を繋いできた。

 

《――無事かッ!》

「あぁ俺は問題ない。輸送機のパイロットは?」

《安心しろ。アレには誰も乗っていない――俺たちの仕事は終わりだ。武運を祈ってるぜ、雷》

 

 男は笑って通信を閉じた。

 そうして、戦線を離脱していく。

 俺は彼らから目を逸らして、進んでいく魔神を見つめた。

 

 大勢の仲間を殺し、まだ殺したりていない。

 正真正銘の殺戮マシーンであり――俺は笑みを深めた。

 

「神殺しか……やってみせるさ」

 

 俺を見つけて襲い来る無人機たち。

 俺はそれを視界に入れながら、ペダルを強く踏み込んだ。

 

 凄まじい加速力によって、襲い掛かってきた奴らが止まっている様に見えた。

 一瞬にて遠く離れた敵たちを見ることなく俺は加速する。

 独特な音色を奏でながら飛行する新たな愛機は――何処までも自由に翼を広げていた。

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