【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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059:託され次へと進む

 目を覚ました時には、俺たち二人は懲罰房に入れられていた。

 ズキズキと痛む頭を摩りながら、周りを見る。

 カチカチと時計の音だけが聞こえる部屋の中で。

 俺たちは互いに黙ったまま、横になっていた。

 

 オッコは何かを考えてる様子で、俺も少し考える事があった。

 バネッサ先生の言葉を聞いて、俺は違和感を抱いていたのだ。

 何故、バネッサ先生は自分が不利になる様な事を喋ったのか。

 本当であれば、スパイだと疑っていない俺を利用する筈だろう。

 

 スパイの嫌疑が掛けられているのなら、何とかして出ようとする筈だ。

 それなのに、彼女はスパイであると告白して狂気的な思想を口にした。

 アレは一体、どういうつもりなのか。

 

 小さな違和感は膨らんでいって、大きな疑問へと変わる。

 言動や思想に関してもそうだが、最後の言葉も気になった。

 確か彼女は”短刀は、何時でも心臓に突き立てられている”と言っていたな。

 これは一体どういう意味なのか。

 

 普通に考えれるのなら、俺たちは何時も狙われていて殺すのは容易だ……そういう意味だろうか。

 

 彼女がゴースト・ラインに繋がっているのならそう訳すのは当然だろう。

 しかし、彼女の言葉を聞いても疑いきれない俺は、彼女の言葉に別の意味があるのではないかと考えてしまう。

 何かの隠喩か例えか……ダメだ。全く分からない。

 

 そういえば、オッコが何か口を挟もうとしていたな。

 

 彼はバネッサ先生の言葉を聞きながら、何かを感じていた。

 だからこそ、彼女の言葉を遮ってまでして何かを聞こうとしていた筈だ。

 俺はチラリとオッコを見た。すると、奴は両腕を頭の下で組みながら寝ている。

 目を閉じてすぅすぅと息をしていて……いや、狸寝入りだろう。

 

 短い間とはいえ、共に戦った仲間の様子くらい見れば分かる。

 態々、俺が見ている中で狸寝入りをするのは、話しかけるなという意味で。

 奴は何かを察知して、俺から不必要な質問をしないように警告しているのだろう。

 何を警戒しているのかは分からない。しかし、そうするのなら俺は納得する。

 ゆっくりと腕を組んで目を閉じる。

 話すことが出来ないのなら、眠る事しか出来ないから。

 

 刻々と時間が過ぎていって――短い機械音が鳴る。

 

 カシュッという音共に扉は開かれて、ゴウリキマルさんが駆け寄ってきた。

 

「大丈夫か!? 怪我は!?」

「だ、大丈夫ですから」

 

 ぺたぺたと俺の体に触れてくるゴウリキマルさん。

 俺は体を起き上がらせてから、彼女の手をそっと掴んで離した。

 すると、彼女はホッと胸を撫でおろしてからキッと俺を睨みつける。

 俺はびくりと肩を揺らしながらへらへらと笑う。

 

「何の相談も無しに無断で立ち入り禁止エリアに入るなんて、何考えてるんだよ」

「い、いや。そのぉ、ですね。これには深い事情が……すみませんでした!」

 

 彼女のドスの効いた声と鋭い視線に負けて頭を下げる。

 何度も何度も頭を下げれば、彼女は大きなため息を吐いて首を左右に振る。

 

「ちょっとーもういいのー?」

「……あぁもういい。気は済んだ」

 

 ショーコさんの声が聞こえたかと思えば、ひょこりと扉から顔を出した。

 そうしてニパニパと笑いながら、手を開け閉めして。

 コツコツと入ってきた人物はヴォルフさんであった。

 俺は口を固く結んで、彼に何を言えばいいのかと思ってしまった。

 

 無断で入ったのは俺たちが悪い。

 しかし、俺たちは仲間から本当の事が知りたかっただけだ。

 良い訳じゃないが、俺たちくらいには話をさせてくれても良かったんじゃないかと思ってしまう。

 そんな俺の恨みがましい目に気が付いたヴォルフさんはばさりと一つのフォルダーを渡してきた。

 

 俺はそれを受け取って中を確認した。

 すると、バネッサ先生の行動の記録が分単位で記録されていた。

 俺は思わず顔を顰めて、これは違法だろうと彼を見た。

 

「この船では普通の法など意味は無い……三枚目の十七行目を見ろ」

「……外部への通信を試みた形跡?」

「……コードは特定できなかった。特別な通信機器によるものだ。証拠となるものは破壊されていたが、残骸の一部が彼女の部屋から見つかっている。発信場所も、おおよそが彼女がいた場所からだ」

「でも、それだけじゃ疑う事なんて」

「――彼女には犯罪歴がある」

「――!!」

 

 ヴォルフさんからの言葉に俺は驚いた。

 犯罪歴とは何かと俺はすぐに問いただした。

 すると、彼は淡々と事実だけを述べ始めた。

 

「彼女がこの世界へと移住する前。彼女は現実世界にて反政府組織に属していた。身勝手な自由を掲げ、秩序を乱す者たちだ。彼女は闇医者として、反政府組織の人間たちの治療を行っていた。調べていけば、彼女がどれだけの罪を犯したのかは明白だ……テロリストとして正式に指名手配もされている。まさか、顔を変えて偽名まで使っているとは思わなったが……これでも、疑うなと言うのか?」

「……っ」

 

 知らないことだらけであった。

 彼女がテロリストの一人で、指名手配までされていた。

 そうなってくれば、彼女が狂気的な思想を口にしたのも頷ける。

 本当なのか、事実なのか……俺は認めたくなかっただけなのか。

 

 彼女が掛けてくれた言葉は優しさに満ちていた。

 誰かを想いやれる暖かな言葉を俺に送ってくれた。

 そっと抱きしめてくれた時に、俺は確かな安らぎを感じたのだ。

 そんな人間がテロリストの一人で、この船の人間を危険に落とそうとしていた。

 裏切者だからこそ優しい人間を演じていたのか――分からないよ。

 

 俺は黙ったまま、拳を固く握りしめた。

 唇を強く噛みしめながら、何も出来ない自分に歯がゆさを感じる。

 そんな俺の手を握りながら、ゴウリキマルさんは心配そうな目を向けてきた。

 俺はハッとしたように正気に戻って、彼女に対してぎこちない笑みを向ける。

 

「……一人で抱え込むなよ」

「……分かってます。俺には頼りになる仲間がいますから」

 

 しっかりと頷いてから、俺はヴォルフさんに視線を向けた。

 彼女が自分からスパイだと自白したことは彼も知っているだろう。

 となると、彼女の身柄はどうなるというのか。

 俺はそれについて質問した。

 

「……スパイだと自供した今。彼女をこの船に乗せておく訳にはいかない。記憶処理を施して、下船してもらう」

「記憶、処理?」

「……我々の情報を秘匿する為、少しでも情報を知った人間には記憶処理を施す。外部にこの船や人員の情報を渡さない為に、その部分だけを消す」

「そんな事、出来るんですか」

「出来る……しかし、一度失った記憶は戻らない。二度と」

 

 ヴォルフさんの言葉を聞いて、俺は悲しくなった。

 彼女と過ごした時間が消えてしまう。

 俺たちが憶えていたとしても、彼女の中に俺たちはいなくなってしまうのだ。

 スパイであるのなら、船に残しておくのはリスクしかないだろう。

 だからこそ、この船から記憶を消した状態で出さなければならない。

 

 殺したりしないのは、せめてもの情けだろうか。

 

 俺は考えた。

 彼にバネッサ先生が最後に呟いた言葉を伝えるべきかどうかを。

 伝えれば何かが変わるのか。考えを改めてくれるのか……いや、ダメだ。

 

 バネッサ先生は、俺にだけ聞こえるようにその言葉を呟いた。

 それは最後まで彼女をスパイだと思っていなかった俺を信じてくれたからか。

 自分の思い込みでも構わない。俺は彼女から受け取った恩がある。

 だからこそ、彼女の恩に報いる為に、この言葉の意味は俺と信頼できる人間で考えなければならない。

 

 チラリとオッコを見る。

 相変わらずオッコは寝たふりをしていた。

 一切喋らないという事は、この船での会話が危険だと理解しているからか。

 だとしたら、奴にバネッサ先生から聞いた言葉を伝えるには、一度船から降りる必要がある。

 

 俺はどうするべきかと考えて――ヴォルフさんが口を開く。

 

「本来であれば規則を破った罰として、此処で暫く過ごしてもらうところだ……が、今は猫の手も借りたい。お前たちにはすぐにでも次の任務を熟してもらう」

「次の任務? 一体何を」

「三か月前にある国を調査していた諜報班から連絡が途絶えた。我々はこれをゴースト・ラインが関わっている可能性が高いと判断した。帝国とのいざこざで調査が後手に回ったが、ようやく着手することが出来る。マサムネ、お前をリーダーとしてトロイ、オッコ、レノア、ショーコ、ゴウリキマルの計六名で現地ヘ向かい調査しろ」

「ま、待ってください。調査って俺たちは探偵じゃ」

「……探偵ならそこで寝ているだろ。お前たちは戦闘になった時の護衛だ」

 

 探偵と言った彼の言葉を聞いてオッコを見た。

 思い出したのは、彼が現世で探偵をしていると言った言葉で。

 俺は納得がいったように頷きながら、戦闘になった時の事を考えた。

 トロイやオッコは問題ないだろう。しかし、レノアたちはどうなるのか?

 

 生身で戦っている彼女たちを想像できない。

 俺は不安そうにショーコをさんを見た。

 すると、彼女はにへらと笑ってブイサインをする。

 

「心配ご無用ー。あーしこう見えて、格闘技習ってたから!」

「え、意外だな。何を」

「えっと、空手に剣道に柔道にテコンドーにボクシングに――」

「お、多い! え、本当に女子高生なの!?」

「今どきのJKはこんなもんだよー」

 

 女子高生の殺意の高さに驚きながら、これなら問題ないとゴウリキマルさんを見た。

 彼女は目をパチクリさせながら俺を見ていて――うん、問題ないな。

 

 スッと目線を外した瞬間に、彼女にグイッと首を掴まれた。

 

「おい。今の目は何だ。こいつは大丈夫って目しやがったなぁ。えぇ?」

「ぐ、ぐるじ、ま、まっへ、ち、ぃ、ぁ」

「何が違うんだぁぁ? えぇぇ?」

「そういうとこが大丈夫だって思われてると思うんだけどなぁ」

「――!?」

 

 バッと腕を引っ込めたゴウリキマルさん。

 俺はぜぇはぁと息をしながら、恐ろしい力だと戦慄した。

 ゴウリキマルさんを見れば、顔を赤くしながらもじもじしていてぶつぶつと何かを言っていた。

 声が小さすぎて聞こえないが、気にしても仕方ないだろう。

 

 俺はスッと立ち上がってから、もう出てもいいかとヴォルフさんに聞いた。

 すると、彼は無言で道を譲ってくれた。

 

「機体の調整をしておけ。パイロットと機体は事情により別々に動かす。船員の補充の為に、公国領内にある港でこの船は一時的に停泊する。その時に下船して、お前たちは現地へと向かってもらう。必要な装備や資金は此方から渡す。尚、この調査は極秘で行う為、公国の末端には連絡がいっていない。新しい入国用のパスポートを渡すので、顔は出来る限りそれに近づけろ」

「……了解」

 

 ヴォルフさんから説明を聞き終えて、俺は自分の機体へと向かった。

 横にはゴウリキマルさんとショーコさんが並び立って。

 俺はバネッサ先生の言葉を思い出しながらも、次の任務に集中しようとした。

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