【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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060:愛する呪い(side:???→マサムネ)

 花々が咲き誇る庭園で、俺は一点を見つめていた。

 天より白い陽光を浴びながら、シミ一つない手で花を撫でる”##”。

 顔を一切此方へと向けることなく##は花を撫でていた。

 

 言葉を介する必要は無い。

 アレは、言葉を必要としないモノだから。

 無遠慮に、不必要なまでに情報が頭に流れ込んでくる。

 フリップブックでも見るようにパラパラと映像を見ていって――俺は息を吐く。

 

 黒いマスク越しに息を吐けば、##は花を撫でる手を止めた。

 そうして、手を引っ込めながらゆっくりと立ち上がる。

 白い衣服を身に纏った白い髪のそれ。

 表情は見えないものの、頭に流れ込んでくる情報で”怒り”は伝わった。

 

 荒れ狂う波の様ではない。

 渦を巻くようにぐるぐると感情が動いている。

 底の見えない穴に吸い込まれていくように、俺の心にアレの怒りが流れ込んできた。

 

 俺は無言でそれを見つめながら、自分の為すべきことを考えた。

 すると、次の命令が頭の中に流れ込んでくる。

 

 一粒の雨も降る事の無い砂漠の中。

 厚手の白いローブを纏った人間たちが歩いている。

 砂に塗れて黄色味掛かった白い建物の中で、質素な食事を取る女や子供。

 軍服に袖を通した兵士たちが巡回して、闇に紛れて動く者を追っている。

 その国に住むモノたちの顔を見て――理解した。

 

 また、これだ。

 見飽きた人間たちの顔。

 関りを持つ必要のない無価値な命たち。

 今までは無視してきたそれらとの接触。

 

 全てはあの男が現れてからだ。

 あの男の存在が、##を狂わせた。

 一言も話さず、ただ虚空を見つめるだけだったそれが。

 今では愛おしそうに、一輪の花だけを愛でている。

 

 綺麗な花々の中で異彩を放つそれ。

 クロユリと呼ばれた花を、アレはずっと触っていた。

 庭の中で一輪だけ咲いているそれをだ。

 

 狂っている、そう思えるだろう。

 しかし、それも仕方のない事だと理解していた。

 アレの生まれを知れば、誰であろうとも同情する。

 我が”親”だからかもしれないが、それを抜きにしても憐れみを覚える。

 

 そんな雑念を抱けば、アレが放つ空気が変わる。

 ピリピリと肌を刺すような殺気。

 常人であれば、殺気だけで死んでしまうようなそれを受けて俺は笑う。

 

 苛立ちを露わにするほどに心を乱されている。

 無視してきたモノに関わる決断を下すほど、アレは焦がれていた。

 

 俺は踵を返して庭園を去る。

 後ろに控えていた同志は俺の背を追ってくる。

 もう振り返る必要は無い。

 アレが俺に対して何を思っていようとも関係ない。

 

 俺は俺が生まれてきた目的の為に戦う。

 それが”子”としての責務であり――俺の使命であるから。

 

 

 〇〇

 

 

 照り付ける太陽の下で、年代物の四駆を走らせる。

 見渡す限りの砂原の中で、車内がゴトゴトと揺れた。

 茹だる様な暑さ、いや、熱線で肌を焦がされるような刺激的な暑さに額からとめどなく汗が流れる。

 六人乗りの車内では、オッコがハンドルを握って運転をして、トロイが助手席に乗っていた。

 俺はというと後部座席の真ん中に座りながら、レノアとショーコさんに挟まれている。

 後ろをチラリと見れば、限界まで目玉をかっ開いたゴウリキマルさんが俺を見つめていた。

 視線のビームであり、後頭部から火が上がりそうだった。

 

 メリドとジェスラはスパイの一件で動かされていた。

 二人が抜けた穴の為にショーコさんとゴウリキマルさんが俺たちの班に宛がわれた。

 それ自体は別に良いし、気にはしていない……気にはしていないけど。

 

 チラリと左右を見る。

 綺麗な手で汗を拭いながらも、流れる汗は首を通って谷間へと吸い込まれていく。

 意識しないようにしていたが、彼女たちは女性である。

 綺麗な方であり、美人と言っても決して嘘じゃないのだ。

 そんな女性が息を乱しながら密着していればどうなるか……前後からの視線が痛い。

 

「……トロイ。前見ろよ」

「おぅ、見てるぜ。俺にとってはこっちが前だ」

「……じゃ後ろを見てくれ」

「俺は前だけ見て生きるって決めてるんだよ。なぁオッコ」

「知らねぇよ」

 

 シートに指が食い込むほど掴んで、眼を皿のようにしている。

 血管でも浮き出そうなほどの憎しみに満ちた表情で。

 俺はため息を吐きながら、馬鹿なのかと思ってしまった。

 

 思い出すのは、この地への”調査任務”を言い渡された時の事だった。

 

 帝国の脅威を退けて、息を潜めたゴースト・ラインを追っていた俺たち。

 残された諜報班の内の一つが今から向かう中立国家で消息を絶った。

 三か月もの間、音信不通であれば普通であれば誰かしらの人間を調査に向かわせるだろう。

 しかし、それが出来なかったのは帝国と公国の命運を掛けた戦いに俺たちが参加していたからで。

 大きな戦いに幕を下ろしたことによって、ようやく問題の一つ一つに向き合えるようになったのだ。

 

 帝国と公国の境界線上にあるという広大な砂漠地帯の中に存在するという小国家モルノバ。

 乏しい資源の中でつつましい生活を送る素朴な国民たちに、争いが嫌いな国王など。

 凡そ、ゴースト・ラインとは関わりの無い筈の国で、何があるというのか。

 

 社長やヴォルフさんが言うには、優秀である諜報班が消えたのには必ず理由があるようだ。

 何かしらの情報を掴んで消されたか。或いは、監禁されて身動きが取れなくなっているのか。

 何方にせよ、彼らが消息を絶った原因を突き止めてヴォルフさんたちに報告しなければならない。

 それが俺たちの新たな任務であり、今俺がやるべき事だった。

 

 バネッサ先生の事はまだ気がかりだ。

 しかし、彼女のスパイ疑惑を晴らすためには時間が無い。

 俺たちが下船した頃には、彼女への記憶処理の準備は始まってしまっている。

 俺は最後まで彼女の記憶を守ろうとした。

 

 だけど、少しでも疑いのある者を残しておくわけにはいかない。

 もう既に船員たちには噂は広まっていて、今頃は正式に発表がされている頃だろう。

 最後に彼女の顔が見たかったが、その願いは叶えられなかった。

 俺は悔しさを滲ませながら、船を降りてここまでやって来てしまった。

 

 国境までは列車に乗って移動をした。

 そこからは管理官に新たに作って貰ったパスポートを提示してやり過ごした。

 砂漠に入る時に、胡散臭い見た目のオヤジから六人乗りの中古車を売って貰った。

 なるべく疑われないように、全員が服装を変えて厚ぼったいローブを着ていた。

 黄色味掛かったローブを着ていれば、幾分かは刺すような痛みも緩和される。

 汗はとめどなく流れていくが、最後の水は一時間前に無くなってしまった。

 

 遠くの景色を眺めながら、俺は母艦の事を考えた。

 

 船は失った戦力の補充の為に一時的に公国領の港に寄港している。

 信頼できる場所のようであり、一月ほどなら滞在できると言っていたな。

 どんな新人が入るのかとゴンザスたちは拳を鳴らしながら、ワクワクしていた。

 アレは絶対に新人をいびる奴の表情であり、俺はやんわりとやめておくように注意した。

 

 まぁ何はともあれ四日ほど掛かって、ようやく入国できそうだ。

 男女六人の旅は、任務という事を忘れるくらいには楽しかった。

 駅で好きな弁当を買って、女性陣はお菓子を食べながら楽しく談笑していたそうだ

 俺たち男は、トロイのいびきがうるさくて眠れず。目の下に大きなクマを作って女性陣に笑われた。

 

 砂原に入って野宿した時は、狭い車内で身を寄せ合って眠った。

 星空を眺めながら、気持ちのいい眠りにつこうとしてトロイのいびきでそんなムードもぶち壊されたな。

 怒ったゴウリキマルさんとショーコさんに、何故か俺とオッコもセットになって車外に追い出されて。

 男三人で毛布にくるまってブルブル震える思いは二度と御免である。

 

 楽しい思い出……という訳でもないのか?

 

 少しだけ自分の心に疑問を浮かべながらも、俺たちは此処まで来れた。

 管理官にも怪しまれず。ゴースト・ラインからの妨害も無い。

 海外旅行にでも行くような気分で、俺たちはうかれているのかもしれない。

 でも、今はそれでもいいだろう。

 何時までもくよくよしたり悲しんでいたり、気を張り詰めさせる訳にもいかない。

 抜けるところで抜かなければ、心が死んでしまうだろう。

 

 別れも言えなかったバネッサ先生に、俺は心の中でまた会おうと言った。

 聞こえる筈の無い、勝手な約束だが彼女なら許してくれるはずだ。

 記憶を失くして、俺の事なんて忘れてしまっているだろうが。

 その時は、また最初からやり直せばいい。

 俺は信じている。彼女が元テロリストであったとしても、あの優しさは本物だったと。

 

 砂漠の向こうの青い空を見ながら、俺は笑った。

 

 

 任務に集中しなければ。

 

 

 因みに車に乗る時の座席決めはじゃんけんで決めた。

 俺が一番で勝って真ん中の席を選択して、二番目に勝ったショーコさんが俺の隣を選んだ。

 何故か、レノアは俺の隣を選んだが理由を聞けば扉に近い方が逃げやすそうだからだそうだ。

 ゴウリキマルさんは後ろに行ってトロイは前に行って、オッコは運転をかって出て……あれ、俺たち傭兵だよな?

 

 何でこんな学生の修学旅行のような甘酸っぱい経験をしているのか。

 意味不明であるものの、カラカラに乾いた喉の渇きと痛いくらいの暑さで脳は正常な働きをしてくれない。

 俺はただただ歯ぎしりをするトロイを見つめながら、左右から香る甘い匂いに頭をくらくらさせていた。

 その瞬間にも後ろからのビームは熱量を高めて殺気すら感じるほどだった。

 

「……お、見えて来たぜぇ」

「あぁ俺にも見えるぜ。敵ってやつがな」

「……こいつは駄目だな」

 

 俺以外を視界に入れない馬鹿は放置する。

 そうして、前方に目を向ければ、薄っすらと建物が見えてきた。

 白い四角い建物たちに、真ん中等辺から黄金に輝く宮殿のようなものが見える。

 遠く離れていても見えるという事はかなりの大きさなのだろう。

 

 貧しい国だと思っていたが、実際には懐は温かいのか。

 まだ分からないものの、先ずはこの喉の渇きを潤したい。

 最後の飲み水をショーコさんが飲み切ってから、一時間ちょっと。

 少しだけ険悪であったショーコさんとレノアは嬉しさを露わにして俺に抱き着いてきた。

 その瞬間にムワッと香りが届いて、俺は無表情で前だけを見ていた。

 

「ふぐぐぐぐ!!!」

「何でシート噛んでんの? 正気か?」

「……殺すぞ」

「ひぃ」

 

 トロイはビーフジャーキーのようにシートに齧りついている。

 オッコは呆れ果てており、俺は後ろからの低い声に短い悲鳴を上げた。

 この中で一番元気なのはトロイである事は間違いない。

 

 俺は入国を済ませたら、取りあえずは飯でも食おうと提案した。

 調査についてはそれからでも問題ないだろう。

 

「さんせーい!」

「やったー!」

 

 女性陣の喜びの声を聞きながら、俺は腹を摩る。

 果たして、モルノバとはどういう国なのか――美味い飯があれば最高だ。

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