【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
血走った目をした男がナタを振るう。
その動きを読んで半身をズラして回避。
男が振りかぶった力を利用して顔面を机に叩きつけた。
バラバラと机が破壊されて残骸が舞う。
それを一瞥してから違う方向を見れば、後ろから寄ってきた別の男が俺の体を羽交い絞めにする。
短刀を握った男が一直線に駆けてきた。
心臓に短刀を突き刺すつもりだろう。
俺は足を動かして、奴の短刀を弾き飛ばす。
短刀が飛ばされて動きを止めた男へと金的を喰らわす。
勢いよく叩きつけたことによって、男は白目を剥いて倒れこんだ。
「何時まで、掴んでんだァ!!」
「うがぁ!?」
羽交い絞めする男の鳩尾に肘打ちを喰らわせた。
ごすりと鈍い音が響いて、男からの拘束が緩んだ。
それを察知して、俺は男の足を払って転ばせる。
床に尻もちをついた男へと、再び全力の肘を落としてやった。
べきべきと音がして、男はくぐもった声を上げながら血を吐く。
俺はそれを冷めた目で見てから、他の仲間を確認した。
トロイは二,三人を抱え込みながら乱闘していて。
オッコは冷静に一人一人に対処していた。
ショーコさんも柔術らしき技で敵を転がしていて。
レノアは椅子を盾にしながら、懸命に戦っていた。
「ゴウリキ――お、おぉ」
ゴウリキマルさんの身を心配したが無用であった。
彼女は大柄な男に馬乗りしながら、拳を凄まじい勢いで叩き込んでいた。
返り血を飛び散らせながら、彼女はテレビでは放送できないような汚い言葉を吐いている。
男の顔面はボコボコに変形しており、完全に虫の息であった。
彼女は満足したように男からのいてから、ペッと唾を吐いていた。
「カスが……次は誰だァ!!」
「ひぃ」
俺は返り血で赤く染まった彼女を見て思わず悲鳴を上げてしまう。
守らなければいけないと思ったが、誰一人として守るべき人間はいなかった。
まさか、皆さん肉弾戦にも強いとは想像もしてなかったのだ。
俺は襲い掛かって来る敵の武器を拳で弾きながら、一本背負いで敵を床に叩きつける。
店の中は乱戦状態であり、マスターはカウンターの下に隠れていた。
客たちも背を縮ませながら逃げていて。
混沌とした酒場の中で、俺たちは完全に悪役ではないかと思ってしまった。
襲い掛かって来る敵を倒しながら、逃げるタイミングを伺う。
しかし、出入り口は塞がれていて、今しがた見れば敵の数が増えていた。
倒しても倒しても、敵は時間が経てば復活する。
増援も駆けつけてきて、まるで圧倒している様に感じない。
俺たちは呼吸を乱しながら、一か所に固まる。
互いに背を預けながら、このままでは拙いと誰もが感じていた。
「おい、どうする」
「どうするってよぉ……こいつらゾンビか何かか?」
「だったら頭を割ればいいだろ。スパナ貸してやろうか?」
トロイに質問すればゾンビではないかと言い出して。
ゴウリキマルさんはスパナで頭をかち割ろうとしている。
敵であったとしても殺人沙汰は御免であった。
もしも、此処で誰かを殺めれば、最悪の場合お尋ね者になってしまう事もある。
今は調査任務の途中であり、何とかしてこの暴徒たちからは逃げたいところだ。
どうすれば、この危機的状況を打破できるのか――何かが窓から投げ込まれた。
ガシャンと音を立てて窓を破った何か。
それがごとりと地面に転がった。
何かの缶らしきそれを見て、オッコはすぐに目を閉じるように言った。
反射的に目を閉じれば、瞼の裏から激しい閃光が起きる。
キーンとするつんざくような音で耳がやられて、眼を閉じていたのに少し見えにくい。
そんな時に誰かが俺の手を握った。
見れば、小柄なローブを被った何かが俺の手を掴んでいて。
そいつは口を動かして何かを呟いた。
口の動きで付いて来いといったのは理解した。
俺は敵か味方かも分からないそいつについて行くことを決めた。
仲間たちへと合図を送って、全員が目を向けて頷く。
敵を見れば、眼と耳がやられてうめき声を上げていた。
手を引くローブの人間は反対の窓を破壊して出る。
俺たちはその後をついて行く。
酒場から離れていくが、何やら街の様子がおかしかった。
チラリと路地裏から見れば、軍服を着てライフルを携行した人間たちが酒場へと向かっている。
ようやく耳が回復してきて、俺はローブの人間に声を掛けた。
しかし、彼女は口元に人差し指を当てながら静かにするように言う。
何をしているのかと見れば、砂に埋もれていた道の中から、マンホールのような物が現れた。
独りでにそれが開いていき、穴の中から一人の男が顔を出した。
「姫様!? そいつ等は」
「――話は後だ。潜るぞ」
「……ハッ」
男は穴の中に戻っていって、姫と呼ばれた女は俺たちに穴の中に入るように言ってきた。
状況が掴めないものの、このまま此処でいても拙いだろう。
俺は仲間たちに従うように言いながら、先頭を行くとかって出た。
暗く冷たい風が吹く穴の中を見て、梯子に足を掛けて降りていく。
かつかつと降りていきながら、この国で何が起こっているのかと俺は考えていた。
梯子を下りてから、壁に掛けてあった火の灯った松明を取った女。
こっちだと言われてついて行く。
コツコツと靴の音が反響するその場所は、恐らくは下水道なのか。
いや、それにしてはあまり臭いは感じない。
「……此処は遥か昔に作られた地下水脈の通り道だ。百年ほど前は、この地にも水源が沢山存在した。それらを纏めて掘り起こし、国民たちに提供しようと作られた……が、計画は中止された」
「え、何でだよ」
「水源が消えたからだ。蒸発するように忽然とな。国民たちは神の怒りだと怯えていたが……お前たちの方が詳しそうだな」
神という単語を聞いて思い浮かべるのは、この世界のシステムを構築したマザーだろう。
マザーが何かの意図によって、地形データを書き換えたのか。
一体何の為なのかは分からない。しかし、意味はあるだろうと思えた。
姫と呼ばれた女は、足を止める。
見れば、壁が立ちはだかっており行き止まりであった。
チラリと見れば、さきほど顔だけ出していた髭面のガタイの良い男が立っていた。
男は俺たちを一瞥してから、女に何かを耳打ちしている。
彼女は首を左右に振りながら「大丈夫だ」と言っていた。
男は不審な者でも見るような目で俺たちを見てから、壁に近寄って何かをくぼみに嵌め込んだ。
鍵のようなものを嵌め込み、右へ一回、左へ三回と回していた。
すると、壁の中から無数の歯車が動く音が響いた。
砂埃を上げながら、壁が左右に割れていく。
俺たちは口元を覆いながらその光景を見ていた。
女は入れと俺たちに言う。頷いてから後を追って入っていけば、中には何人かの人間たちがいた。
ナイフの手入れをしていたり、銃を磨いていたり。
凡そ、一般人とは思えないような見た目の人間たちが同じ場所に集まっていた。
彼らは入ってきた俺たちをチラリと見てくる。
俺たちは周囲に目を向けてから、真ん中で立ち止まった女を見た。
彼女は俺たちに向き直ってから、ゆっくりと顔に掛けたローブを取る。
姿を現したのは、小麦色の肌に青い目をした短い金髪の女で。
勝気そうな目をした彼女は、ゆっくりと俺たちに頭を下げた。
「名も名乗らずに連れてきたことを謝罪する。すまなかった」
「……いや、謝らないでくれ。俺たちは君のお陰で助かったから」
「そう言ってくれるのなら助かる……私はオリアナ。オリアナ・ハーモニスク。この国の正当なる王位継承者だ」
「……王位継承者ねぇ。俺にはアンタがお尋ね者の様に見えたけど?」
「……あぁ私は今、国中で狙われている。現在、この国で王族を名乗る者は私以外に存在しないからな」
「王族がいない? いや、待てよ。だったら、誰がこの国を治めているんだよ?」
「王は不在だ――処刑されたからな」
「――ッ!?」
王位継承者を名乗ったオリアナ。
そして、王が処刑されていたという事実。
そんな情報は入って来ておらず。
世界中でも知られていない事実であることは間違いなかった。
質問をしたトロイは慌てていた。何で、そんな重要な事を外の人間は知らないのかと。
「事実を言うのなら、この国へと入国した人間は誰一人として外へと出られなくなっている……より正確に言うのであれば、記憶を”保持した”状態で外へは出られない」
「記憶を、消しているのか?」
「あぁ、王を国民たちが殺害したと知られれば外交問題になる。今、この国を牛耳っているのは祈祷師のイスラールだ。奴がこの国を腐敗させている。我々はレジスタンスを名乗り、イスラールを打倒する為に戦っている……お前たちはトヨサダの仲間だろ」
「トヨサダ……それは諜報班のリーダーの名前? もしかして、君たちは諜報班と」
「……やはりそうだったか……残念ながら、お前たちの仲間は此処にいない。我々と共に活動していたが、私たちを逃がす為に囮になって消息を絶った。恐らくは、もう……」
「……いや、いい。彼らは君たちを生かした方が未来を繋げると思ったんだ。彼らが協力していたのなら、俺たちも協力するよ」
「マサムネちゃん。そんな安請け合いするもんじゃ……」
「いいだろ? どうせ、無事には出られないみたいだしな。諜報班が調べていたことも気になるし」
「私は協力する。マサムネを一人にはさせられないから」
「私も良いよー」
「……ま、いいけどさ」
協力してくれる様子の仲間たち。
オリアナは胸を撫でおろしてから、スッと手を差し出してきた。
俺はその手を握って自分の名前を教えた。
「マサムネ。覚えた。トヨサダが調査していたことは聞いている。お前たちにそれを教えよう」
「頼むよ……因みに、外部との連絡は?」
「……無理だな。この国で情報端末を使う人間はいない。外部に連絡をすればすぐに探知されてしまう。使わない方がいいだろう」
外部との連絡が出来ない。
メリウスの搬入に関しては、予めポイントを聞いていたので問題ないが。
どうやってその場所へと行けばいいのか。
「……すぐ近くに仲間は来ているか?」
「ん? あ、あぁ。恐らくは待機していると思う」
「……それなら、私が飼っている鷹に連絡させよう」
鷹に連絡させるというオリアナ。
そんな伝書鳩のような方法がある事に驚いた。
しかし、古典的だからこそ通じるのだろう。
俺は連絡文を考えておくことを伝えて、先ずは彼女から情報を共有してもらおうとした。
「では、私の部屋に来てくれ。此処では拙いだろう」
「そうだな。助かる」
コツコツと音を鳴らして歩いていくオリアナ。
果たして、諜報班はどんな情報を掴んでいたというのか。
薄暗い地下施設の中で、俺は先の見えない闇に怯えていた。