【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
オリアナの自室へと招かれ、そこで彼女は消息を絶った諜報班の事を教えてくれた。
彼らが調べていたのはイスラールの事とこの国に広まりだした宗教組織――不死教に関する事だった。
不死教の教えが広まりだしたのは、イスラールがやって来た三年前からで。
イスラールは王国の在り方に疑問を呈して、国民を言葉巧みに誘導していった。
水が干上がった原因を神の怒りとし、国民の税金で私腹を肥やす王族は不要だと。
不死教に属している国民たちが、周りの国民たちを焚きつけていって処刑するまでに至ったという。
イスラールは表向きには国民の幸せを願う祈祷師の様だ。
しかし、その本性は裏で外部からやって来た旅行客や身寄りのない子供を使って違法な実験を繰り返しているらしい。
彼女は諜報班と共にその実験を調べていって、幾つか写真にも収めることが出来たと言った。
机に広げられた写真の一枚を手に取れば、怪しげな集団が一人の男を椅子に縛り付けているところだった。
「……どれもこれも、決定的な証拠ではないな」
「……あぁ、潜入するだけでも一苦労だ。証拠を掴むには、人員が足りなかった」
イスラールと不死教が関わっているという証拠が必要だ。
その上、彼が主導するような形で実験をしていると分かれば、国民の目も覚めるだろう。
しかし、タイミングよくそんな映像か写真が手に入るのだろうか。
優秀な諜報班ですら、その証拠を掴めなかったのだ。
プロでも無い俺たちに何が出来るのか……オリアナは一枚の紙を渡してきた。
「これは?」
「トヨサダが記録していたファイルだ。イスラールの行動を纏めてある。これを使えば、奴の行動を読めるかもしれない」
「……それじゃこれは俺が読むよ。良いよね、マサムネちゃん?」
「あぁそれがいいな。頼むよ」
「あいあーい」
オッコはファイルを取ってから、分厚いそれを読み始めた。
彼の力があれば、敵の行動を分析する事も出来る筈だ。
「後は近くにいる仲間との連絡だったな。鷹を使う……が、今は少し無理かもしれない」
「ん? 体調でも悪いのか」
「いや、アレを見たら分かるだろう」
オリアナは近くに立てかけてあった籠に手を伸ばす。
そうして、バサリと布を払えば、そこには機械化された鷹が座っていた。
完全に機械化されたメタリックカラーの鷹で。
これで仲間たちと連絡を取ろうとしていたのかと納得した。
いや、顔も知らない人間の元に行ける筈ないとは思っていたけど。
まさか、機械だったとは予想していなかった。
俺は感嘆の声を上げながらも、どうして行けないのかと質問した。
すると、オリアナは翼を指さしながら「飛行中に砂嵐にやられた」と言う。
目を凝らしてみれば、翼に細かい傷がついていた。
これでは満足に飛行も出来ないだろうと思っていれば、ゴウリキマルさんが近づく。
色々な角度から眺めてから「機材はあるか?」と彼女は質問した。
オリアナは少しだけ目を見開きながら驚いていた。
「直せるのか?」
「あぁ、やってみるよ……籠ごと持っていくぞ。おい、運んでくれ」
「え、俺?」
「お前しかいねぇだろ。難しい話なんて分からねぇ顔してんだ。肉体労働で貢献しろ」
「へいへい……お前の女房は人使いがあら――うごぉ!」
耳元でゴウリキマルさんの悪口を言おうとしたトロイ。
しかし、勢いよく飛んできたスパナが鳩尾に決まってしまう。
彼は腹を押さえながら、何をするんだと彼女を見ていた。
ゴウリキマルさんは頬を赤くしながら「次変な事を言ったら殺す」と脅していた。
いそいそと二人は外へと出ていく。
オッコもついでにと出ていって、ショーコさんたちも掃除をしに行くと言った。
各自の部屋は決められており、此処に来るまでにオリアナから教えてもらっていた。
皆が退出してしまって、残された俺とオリアナは互いに顔を向けていた。
「……お前の仲間は自由だな。ふふ」
「す、すみません」
頭を掻きながら、ぺこりと頭を下げる。
すると、オリアナは気にしていないと笑いながら椅子に座る。
彼女は俺にも座るように促してきて、俺はそれに応じた。
年季のある木の椅子に座りながら、俺は彼女を見ていた。
オリアナは遠くを見つめながら何かを考えている様子で。
俺は何を言ったらいいのかと考えてしまった。
暫くの間、沈黙が場を支配した。
刻々と時が流れていって――彼女は口を開いた。
「……私は王になれる器だと思うか」
「……え?」
「……すまない。何時もの癖なんだ。初対面の人間なら、嘘偽りの無い評価をしてくれると思ってな……お前は私をまだそこまで知っていないのにな」
笑みを浮かべている。しかし、その目から不安の色を感じた。
無理もないだろう。信じていた国民に裏切られて父親たちを殺されて。
生き延びているものの、こんな薄暗い地下施設で生活を余儀なくされている。
彼女は不安なのだ。誰を信じていいのかも分からない。
本当に自分は王になれるのかと不安になっていて……俺はポツポツと言葉を発した。
「皆、不安なんです。誰を信じて良いか分からない。そんな状況で、甘い言葉を囁かれれば、誰だって判断を誤る」
「……私の父が死んだことは当然の結果だと?」
「……ひどい言い方ですけど。国民の不安を拭いきれなかったから殺されたんでしょう。もしも、誰もが王を信じていたのならこんな結果にはならなかった」
「……なら、私が王になっても殺されるのか」
彼女は自嘲的な笑みを浮かべながら俺を見つめてくる。
俺はそんな彼女を真っすぐ見つめながら、言葉を発した。
「それは分からない。貴方が真に国の未来を想うのなら――行動するしかない」
「行動、だと?」
「えぇ、こんな問答に意味は無い。誰かの評価を気にしても何も変わらない。人間の数だけそれぞれの考えがある。その全てを汲み取る事は不可能です。だからこそ、貴方が想い描く国を作ればいい。誰もが幸福になれる国を、貴方の行動で作ればいい」
「……行動で結果を出せば、もう誰も裏切らないのか」
「それは分かりません……でも、死んでも悔いは残らないと思いますよ?」
俺は笑みを浮かべながら自分の考えを伝えた。
すると、オリアナは目を丸くする。
今の発言に驚いている様子であり、俺は首を傾げた。
「ぷ、あはははは!」
「……えぇ」
口元に手を当てて堪えようとしたが、吹き出すように笑いだした。
俺は突然に笑われてしまった事に戸惑いを覚えた。
そんな俺へと目を向けながら、彼女は目元の涙を拭って謝罪をしてきた。
俺は気にしていないと伝えながらも、何で笑ったのかと彼女に聞いた。
「……笑うなと言う方が無理だろう。一国の主となるような人間を前にして、励ますような事を言わず。何を言うかと思えば、死んでも悔いが残らないからとは……く、ふふふ」
「……誰だって悔い何て残したくないと思いますけどね。悔い無く死ねたのなら、次に踏み出せますから」
「……ほぉ死後の世界、か……お前は死んでも、次があると言うのか?」
「そりゃあるでしょう。死んだら、また別の何かになる……まぁ証拠何て無いですけど」
適当な事を言っているようで申し訳ない。
しかし、彼女は興味深そうに俺の話を聞いていた。
「悔いが残らない生き方か……良い事が聞けた。ありがとう」
「いえいえ……それで、オリアナさんたちはどうするんですか? 不死教の調査とかって具体的には何を」
「そうだな。大体が奴らの拠点を見張って動きがあれば、調査に向かうというものだ。確たる証拠を見つけるまでは地道にやっていくつもりだが……中にはイスラールの暗殺を企てている人間もいる」
「……それは難儀な事ですね」
証拠を集めて国民からの信頼を取り戻そうとする派閥。
イスラールという黒幕を暗殺して、無理やり返り咲こうとする派閥。
何方の行動が正しいかは分からないが、少なくてもオリアナは暗殺には反対の様であった。
それならば、俺も調査の協力をしながら不死教がやっている事の謎を解き明かそう。
未だに奴らの行動には謎が多かった。
不死を目指すという奴らの理念と、配っていたという怪しげな薬。
新人類への進化を目指し、違法な人体実験を繰り返している。
しかし、本当に新人類へと至る事が奴らの狙いなのか?
より長く生きる方法を模索する事の為に無人機を使って世界に混乱をもたらしたのか。
そんな事をする必要なんてない。
態々、注目を浴びてまで外へと出る必要なんてない筈だ。
新人類へと至る事は、あくまで副産物。
奴らは別の結果を求めている。
バネッサ先生が言っていた選別と関係があるのかは分からない。
しかし、彼女が分かるように喋ったのなら意味がある筈だ。
人類の選別に、新人類になる事で得られる恩恵。
ゴースト・ラインと不死教の関係性……調べることは多そうだ。
「……今日はもう部屋で休むといい。明日からは、働いてもらうぞ」
「あ、はい……あの」
「ん? どうした?」
「……いえ、何でもありません。失礼します」
聞こうとしたことをやめておいた。
俺は扉を開けて部屋を退出する。
そうして、足を動かして自分に宛がわれた部屋を目指した。
「……王になって何がしたいのか……そんな質問は無粋だろうなぁ」
あまり人の夢について深く聞かない方が良い。
託されてしまった時に、どうすればいいのか悩んでしまうから。
俺の手はあまり多くの事を抱えられない。
友達と呼べる関係でも無いのなら尚の事だった。
また厄介事だと思いつつ、俺は自分の部屋の前で止まる。
ノブを握りながら、俺はぽつりと言葉を発した。
「……夢は見るだけでいい。叶えたら、それでお終いだろ」
意味の無い独り言を零してから、俺はゆっくりと部屋への扉を開けた。