【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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064:神が与えしモノとは

 一夜が明けて、各々が行動を始めた。

 それぞれが得意な分野で、レジスタンスに協力する。

 全ては俺たちを此処へと導いた諜報班の為だ。

 彼らはきっとこの場所で重要な出来事が起きると予見していた筈だ。

 それを知る為に、俺たちはオリアナたちの活動を支援した。

 

 ゴウリキマルさんは外部との連絡係となる鷹型の機械を修理して、幾つかアップデートをしていた。

 メタリックカラーのままでは幾分か目立ちすぎる。

 その為、光学迷彩は搭載できなくとも、周りの景色に溶け込めるようにカラーリングを変えていた。

 センサー類も強化し、人の顔や動きをより精密に判別できるようにして。

 自立思考プログラムを入れることによって、臨機応変な行動も可能となったらしい。

 外部との連絡の為のテスト飛行として、近場にあるという発電所を撮影してくるように指示すれば、鷹型の機械は見事に映像を記録して帰ってきた。

 これで座標を入力すれば、外で野営している支援部隊と連絡が取れるだろう。

 

 オッコの方も分析を進めていて、イスラールの行動に不審な点が幾つかある事に気づいたようだった。

 今はまだ明言は出来ないと言われたので待つしかない。

 しかし、オッコであるのならきっと敵の行動パターンを読み取ってくれる筈だ。

 

 ショーコさんたちは埃っぽいこの地下施設を掃除していて。

 見る見る内に綺麗になっていく様子に、此処の人間たちも感心していた。

 心を開いた訳ではないが、話しかけたら素直に喋ってくれそうな感じだ。

 トロイも慣れない掃除に四苦八苦はしているものの、此処の人間と打ち解けるのも早そうだ。

 

 数日の時が流れて、俺もオリアナと打ち解けてきた。

 最初は敬語で話していたが、彼女からやめろと言われた。

 だからこそ、タメ口で話しかけて交流をした。

 堅苦しい口調から気難しい性格かと思ったが、彼女は誰よりも親しみやすい。

 一緒に色々と調査をしながら、彼女のことを知っていく。

 

 そうしてある日、俺はというと――地上へと上がっていた。

 

 地上と地下を繋ぐ道は無数に存在している。

 迷路のように入り組んだ道を彼女たちは全て把握しているようで。

 地上へと繋がるマンホールを開ければ、人の目が無い路地裏に出た。

 チラリと閉じられたマンホールを見れば、ざあざあと模様が変わって砂と一体化した。

 カモフラージュ機能を搭載しているらしく、これで地下への道を隠しているらしい。

 

 俺は感心しながらも、目深く被ったローブの中から先を行くオリアナに目を向けた。

 彼女の隣に並び立ちながら、俺は小声で喋りかけた。

 

「……不死教の調査に行くって聞いたけど。何か動きがあったのか?」

「いや、特には無い。何時もと変わらず”儀式”を行っている」

「……祈ってから薬を飲むアレか?」

「詳しいな。そう、それだ……今ではこの国の住人のほぼ全てがあの宗教に取り込まれている。仕事が無い日や、暇な時間があれば人々は得体の知れない何かに祈りを捧げている」

 

 苦々しく思っているような声で彼女は言う。

 不死教のご神体とされるのは、この世界の創造主であるとされている。

 恐らくはマザーか、マザーを作り出した科学者たちの事を言っているのか。

 何方にせよ、そんなものに祈りを捧げているのは何とも滑稽だった。

 マザーは世界の管理はするが、誰かの願いを聞くようなものではないと思っている。

 マザーを作った科学者たちも既に死んでいて、誰も彼らの不幸に心を痛めない。

 

 マザーが何の目的で作られたのか。

 彼らは一体何をしたくてそれを生み出したのか。

 色々な仮説が出てきてはいるが、どれも確信には迫っていない。

 本や映像で見た限りでは、まだ真相にたどり着いた人間はいないと分かった。

 

 話が逸れたが、宗教というのは別に間違いではない。

 宗教によって救われる人も存在する。

 神の教えなるものを心の支えにしている人間は沢山いるのだ。

 

 間違っていると思えるのは、それが大勢を救うものではないからだ。

 大勢の心を救うための教えなら問題ない。

 しかし、誰か特定の個人を救うだけの教えには、何の価値も無いのだ。

 

 不死教は不死と呼ばれる存在を目指して作れらた。

 しかし、その実態は人の心の弱みに付け込んで怪しげな実験に参加させている。

 何も知らない一般人たちが、怪しげな薬を自分から進んで飲んでいるのだ。

 それもこれも、自分たちが救われると信じているからで……憐れみすら抱いてしまう。

 

 誰だって弱みを持っている。

 弱みを使って誰かを貶める奴が悪だ。

 誰であろうとも、人を縛り付けて自由を奪ってはいけない。

 

「……でも、儀式に行ってどうする? そんなものを今更見ても」

「……いや、儀式は見ない。奴らの話を”盗み聞く”だけだ」

 

 そう言いながら、オリアナは足を止めた。

 見れば鉄製の柵が付けられた売店らしきものが建っていた。

 不愛想な店員に対して、オリアナは指を二本立てる。

 すると、目つきの悪い男は鼻を鳴らしてからカウンターの下から何かを取り出した。

 ゴンと叩きつけるように置いたそれは缶ジュースであり、ストローも二本付けられていた。

 オリアナは硬貨を置いてから、その缶ジュースを受け取って去っていく。

 

 何をしているのかと思っていれば、彼女は一本を俺へと渡してきた。

 受け取った俺は冷えていないそれに眉を顰める。

 いや、そうではなくて何で缶ジュースなんか……また、オリアナは足を止めた。

 

 何をするのかと見ていれば、彼女は壁に背を預けた。

 そうして、カシュっと缶ジュースを開けてからストローを差して飲み始めた。

 まさか休憩でもするのかと見ていれば、彼女は小声で真似しろと言ってきた。

 俺は言われるがままに、壁に背を預けてジュースを飲み始める。

 

 周りに視線を向ければ、ガラの悪そうな男たちも同じように休憩している。

 何処かの建築現場で働いてそうな男たちもいて、此処はそれなりに知れ渡った休憩所なのかと思った。

 そんな事を考えていれば、オリアナは俺に目を向けることなくぼそりと呟いた。

 

「……耳にアレは付けて来たか?」

「え、あぁ、うん。付けて来たけど……もしかして」

「視線を向けるな、下を見ていろ」

 

 視線を向けようとしたが、その言葉で中断した。

 地面を見ながら、チラリと前を見る。

 すると、他の建物とは違って三角形の屋根がある建物がそこには存在していた。

 門らしきところにはガタイの良い銃器を持った男が二名ほど立っている。

 ぞろぞろとローブを纏った人間たちが出てきては、手を擦りつけながらお辞儀をしている。

 まるで、感謝でもするように全員が同じような動きをして去っていく。

 

 恐らくは、あそこが不死教の支部だろう。

 あの中で儀式が行われている筈だ。

 彼女が盗み聞くと言ったのは、仕掛けた盗聴器か何かで話を聞くからか。

 外部との連絡は出来ないが、盗聴器の類なら誰にでも電波が拾える。

 いや、でもずっと電波を出していれば危険なんじゃ――まさか!

 

 ざぁざぁとノイズが走る。

 しかし、次第に話し声が聞こえてきた。

 その音量は近いからなのかハッキリと聞こえる。

 恐らくこれは、盗聴器を何処かに仕掛けているのではない。

 誰かが盗聴器を携帯しているのだろう。

 つまり、あの支部の中に潜入している人間がいるという事だ。

 

 誰がそんな危険な役を買って出たのか。

 俺は思わずオリアナに問い詰めようとしたが、寸での所でやめた。

 彼女を問いただしても意味が無い。

 敵の懐に入らなければ情報が手に入らないのだ。

 だからこそ、誰かがその役目を担う必要も出てくる。

 俺は無理やり自分を納得させながら、聞こえてくる声に耳を傾けた。

 

《今日の儀式も無事に終わりました。モーレスさんお手伝い感謝します》

《いえいえ、神父様の役に立てて良かったです……ところで、イスラール様は?》

《イスラール様ですか? あの方からは今日も私用により来れないと連絡を受けています……何か?》

《いえ、信心深いイスラール様が顔を見せなくなったのは変だと思い……すみません。体調を崩されたのかと心配して、遂》

《あぁそうですか。いえ、そういう訳ではないので……私もあまり詳しくは聞いていないのですが、神薬の完成が近いようで。近々、それを信徒たちに配る為の準備をしているようですよ。何時になるのか、最初に誰に飲ませるのかは分かりませんがね。ははは》

《……そうですか。神薬が。それは楽しみですね》

 

 恐らく、モーレスと呼ばれた男の人が潜入している人だろう。

 神父と呼ばれた男はこの人を信用しているらしい。

 聞かれてもいないことをペラペラと喋っている。

 

 それにしても、会話の中で出てきた神薬とは何だ?

 

 あの怪しげな薬とは違うのか。

 いや、それよりも完成が近いという事は……ぐしゃりと音がした。

 

 チラリと横を見れば、オリアナが缶を握り潰しいていた。

 彼女は舌を鳴らしてから、ゆっくりとその場を後にした。

 俺も一緒になってその場を離れる。

 

 彼女はゴミ箱の中に缶を捨て、俺もそこに缶を捨てた。

 そうして、何故そんなに取り乱しているのかと彼女に質問した。

 

「……此処では話せない」

「……分かった」

 

 此処で安易に話せるような事ではないらしい。

 その神薬というのは想像以上に危険な代物なのか。

 彼女の苛立ちと焦りからして、放っておくわけにはいかないようだ。

 

 俺は彼女と一緒に歩きながら、周りを見る。

 車が通り過ぎてクラクションの音が聞こえる。

 子供たちが棒を持って走り回って、商人たちが声を上げて客を呼び込む。

 変わらない景色であるものの、俺の心が違和感を抱いていた。

 

 何かが違う。

 行きかう人間は前を見ているのに、視線を感じる。

 刺すようなものではない、ただ眺めているだけのような視線だ。

 

 俺は視線の出所を探ろうとするが分からなかった。

 普通の人たちが、日常の中で息をしている。ただそれだけのことだ。

 

 でも、だったらこの違和感は何だ……俺の気のせいなのか?

 

 この国で感じる違和感。

 神薬の事も気になるが、この違和感についても気になる。

 まるで、放っておけば後で取り返しがつかなくなるような……。

 

 妙な不安を抱きながらも、俺は歩く。

 今は何も分からない。しかし、何れは分かるだろう。

 その時に後悔する事が起きないように――俺は、そう祈っていた。

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