【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
オリアナと共にアジトへと戻る。
彼女はそこにいた仲間を招集して、事の重大さを説明した。
神薬と呼ばれていた物の正体。
それは服用すれば人間の自由を奪うとされる危険な薬であった。
マザーの管理権限の一部を使って、此処に住む人間のデータを改ざんする物。
服用した人間は命令権限のある人間によって操られて、自らの意思を奪われるという。
諜報班のトヨサダさんたちは、これを危険視していたようだ。
もしも、その薬の開発が成功し世界に広まれば危険だとそう判断したのだろう。
不死教やゴースト・ラインの狙いはその薬を研究開発して世界中にバラまくことだったのか?
いや、まだ判断するには早い。
マザーの管理権限の一部を使えるというのは恐ろしい。
しかし、国家権力を総動員しても、マザーの防壁を破る事は出来ない筈なのだ。
厳重なファイアウォールが敷かれて、どんなに凄腕のハッカーでも入り込む隙の無いシステム。
それの一部を不正に使用して、此処で暮らす人間のデータを改ざんするなんて……本当に出来るのか?
この目で見なければ、信用できないような話だ。
俺は熱心に皆に言い聞かせるオリアナを見ながら、ゆっくりと手を上げた。
彼女は視線を向けながら、どうしたのかと俺に聞いてくる。
「……その神薬について、何処で情報を得たんだ?」
「……エリック……レジスタンスのリーダーである彼が、宮殿に侵入し研究資料の一部を持ち帰ってきた……そう、それだ」
彼女の話を聞いて仲間の一人が机に置かれたコピーらしき資料を持ってきた。
それを受け取って確認してみれば、人体実験の記録らしきものであると分かった。
「……被検体の生体データの改ざん実験……人格の崩壊により、失敗……心肺機能の停止による死亡、失敗……自傷行為の確認、自らの首の骨を折り自殺、失敗……薬の成分を再調整し、二十代の男女五名への投与……失敗、失敗、失敗」
おぞましい実験の数々の結果は失敗。
神薬なるものの研究は進んでいないように見えた。
しかし、俺も一緒になって聞いていたが、確かに完成間近だと言っていた。
その情報が正しいのであれば、人の心を操作するという薬がこの国の人間に渡されてしまう。
何も知らない人間は、それを口にしたその瞬間に……拙いな。何とかして阻止しないと。
この薬は存在していてはいけない物だ。
俺は彼女に話を遮ったことを謝罪する。
そうして、これを阻止するにはどうしたらいいのか彼女に質問した。
「……先ずは、薬の製造場所を突き止める必要がある。完成が近いのなら、そこを破壊。もしくは稼働できないようにしなければならない」
「……突き止めるって事はまだ把握していないんだな……目星はついているのか?」
「……三つまで絞る事が出来た……しかし、関係ない市民を巻き込むわけにはいかない。爆弾による施設の破壊は望ましくない……内部に潜入して、製造機械の破壊か。オリジナルとなる調合レシピ事態を破棄するしかないだろう。レシピは、紙に記録されたものとコンピュータ内に保存された物の両方を見つけて破棄する必要がある。コンピューターは王宮内にあるが、管理者権限を持つ人間……イスラールのIDを使用する必要があるだろうな」
オリアナの説明を聞いて、俺は考えた。
製造機械の破壊をするならば、小型の爆弾は必要だ。
しかし、機械を破壊しただけでは不安が残る。
予備のパーツがあって再び稼働する事になれば間に合わない。
この場合は、工場に潜入して機械を破壊する人間とレシピを見つけ出して破棄する人員に別ける必要がある。
同時進行で進めるのが好ましいだろう。
そうなるのならば、破壊工作にはオッコとゴウリキマルさんに任せよう。
潜入に関してならばオッコに任せれば問題ない筈だ。
機械の事ならゴウリキマルさんが詳しく、最小限の被害で事を済ませられる。
問題なのは、怪しげな工場が三つもある事だけど……誰かが歩いてくる。
視線を向ければ、眼の下にクマを作ったオッコだった。
欠伸を掻きながら、キョロキョロと周りに視線を向けている。
「んー? これは何の集まり? 祭りでもするのか?」
「オッコ! 良い所に来たな!」
「んぇ? 何さ何さ。こっちは敵さんの行動分析で、一睡もしてないんだよぉ。ああぁ」
「そうそれ! 実は――」
オッコに簡単に今起きている事を説明した。
神薬と呼ばれる人の心を操る危険な薬。
そして、それが完成間近であり、どうにかして工場を突き止めなければならないと。
俺がまくしたてるように説明すれば、オッコは納得したように頷いた。
「それなら、もしかして……13番道路を進んだ先の西地区にあるオーラン精肉所かな?」
「――何故、分かった?」
「ん? いや、イスラールが王宮から街へと繰り出す時に、決まってこの精肉所に行ってるからさ。対してデカくも無い上に、税金を特別沢山支払ってる訳でもないのに、何でただの肉屋に足を運ぶのかなぁって思ったんだよねぇ……それに、モルノバでは肉よりも野菜中心の食事が基本だろ。だったら尚更、肉屋に寄る必要なんてない筈じゃん。ねぇ?」
「あ、あぁ。確かに……でも、証拠は?」
「はは。ある訳ないじゃん。勘だよ勘。外れても俺を恨まないでくれよぉ」
オッコは手をひらひらさせながらケラケラと笑う。
俺はオッコの言葉を信じるべきかどうか悩んだ。
オリアナも、顎に手を当てながら考え込んでいる。
オッコの分析は間違っていない。
国の重鎮がただの肉屋に何度も足を運ぶのは奇妙だ。
何かがあるからこそ、そこへ行っている筈だ。
しかし、それが何かなのかは俺たちには分からない。
レジスタンスの仲間たちは、構わずに三つとも爆破しようと言う。
目を血走らせながらいきり立つ男たち。
全員がイスラールたちに恨みがある様子で。
あんな奴らの仲間なら、殺しても構わないとまで言っていた。
「俺はあのペテン師に家族を奪われたッ! 真面目に働いてた妻が、不敬罪で殺されたんだぞッ! あのペテン師は、自分に賄賂を渡さなかった妻を、不当な理由で殺したんだッ! あのクズに加担する奴らは、死んで当然だッ!!」
「そうだッ! 俺の息子だって何もしていないッ! 兵士としてこの国の治安を守っていたのにッ! 奴は息子を絞首台に送ったんだぞッ!? 同じ目に遭わせなきゃ気が済まねぇッ!」
「俺もだ!!」
「私もよ!」
武器を手にしたレジスタンスの仲間たちはぞれぞれの悔しさを吐露する。
それを聞くオリアナは、悲しそうな顔をして彼らを見ていた。
オッコは頭を掻きながら「拙い空気だねぇ」と言っていた。
俺は彼らの前に出て、オリアナに質問した。
「……精肉所は三つの中の一つなんだろ? オリアナは何か不審に思わなかったか。何でもいい。教えてくれ」
「……服だ」
「服? それがどうしたんだ」
「……精肉所で働いている作業員を見かけたが、服が綺麗だった……後、作業員の一人が傍を通った時に、独特な血の匂いもしなかった」
「……大体八十パーセントってところか? オッコ」
「うーん。どうかなぁ。他の事をしている可能性もあるけど……賭けてみる?」
「よし。じゃ俺は工場の可能性に全財産を」
「おいおい。俺もそっちがいいなぁ」
へらへらと笑いながら、オッコは肩を竦める。
俺はオリアナを見ながら、この工場に違いないと言ってやった。
彼女は不安そうな目で俺を見ながら「本当なのか」と言ってくる。
証拠も無ければ、断言だって出来ないだろう。
しかし、このままにしていればこの男たちが強行手段に出る可能性もある。
それは絶対にダメであり――俺は親指を立てて笑う。
「あぁ俺が保証する!」
「……そうか。ならば、私は信じよう」
俺が無責任な発言をすれば、彼女は小さく笑う。
そうして、手を差し出しながら信じると言ってくれた。
何の根拠も無い俺の発言を、彼女は信じると言ったのだ。
もしも外れていれば後が怖いが、その時はその時だ。
納得のいかない人間もいたが、オッコは彼らを落ち着かせる。
そうして彼らに対して最もらしい事を言い聞かせていた。
まるで、一流の詐欺師のようにペラペラと回る口で。
怒り心頭だった仲間たちは静かに頷きながら、おずおずと納得していた。
オッコはウィンクをしながら、指で自分に後で奢れと言ってくる。
俺はそれに笑いながら了承し、オリアナに向き合って自分がすることを伝えた。
「工場の破壊はオッコたちを向かわせる。俺は王宮に忍び込むよ」
「王宮に? まさか、レシピを――危険だ! エリックならまだしも、お前では」
「いや、大丈夫だ。こう見えても、一度は敵に捕まった経験がある。脱出するのは得意なんだぜ。エリックには工場の方を任せたい」
「……だが、レシピが本当にあるのかは」
「あぁ分からないさ。でも、こういう時は一番偉い人間が管理していることがざらだろ? 神薬に関わっているのは確かなんだ。意地でも探し出して見せるさ」
俺は自分の胸を叩きながら、自信満々に発言した。
すると、不安げな表情を浮かべていたオリアナは小さく頷く。
そうして、俺の手を両手で掴みながら、自分の額に当てた。
俺は急に何をしているのかと取り乱す。
「……まじないだ。この国では戦地に行く前の人間の手を額に当てる。そうして、無事に帰ってくることを願う……どうか。無事に戻って来てくれ」
「……あぁ勿論だ」
彼女の願いを了承し、俺は無事に戻ってくることを約束した。
すると、オリアナは目を開いて笑みを浮かべる。
そうして手を離してから、全員に指示を出した。
「工場の破壊は二日後! 王宮への潜入も同時刻に決行する! 各自、装備の確認を行い備えろ! 工場の破壊任務は此処にいるオッコが主導する! プランに関しては今から私とオッコ。そしてエリックで考える。工場の内部情報を事前に渡す。頭に叩き込んでおけ。分かったか!」
「ハッ!」
彼女に敬礼してから、仲間たちは控えていた仲間から工場の見取り図らしきものが書かれた紙を受け取る。
そして、壁に背を預けていた伊達眼鏡を掛けた男が歩み寄って来た。
無造作に伸ばした茶髪に、着崩された軍服。
何処かチャラそうな印象を覚える男は、確かエリックという名だった。
「姫様は決断がお早いですね。流石は次期、女王であらせられる」
「……そのような言葉は無用だ。すぐに潜入プランを考えるぞ。ついてこい」
「ハッ……頑張れよ。雷さん」
俺の肩を軽く叩いてエリックは去っていった。
オッコも眠たそうに欠伸をしながらついて行く。
俺は俺で王宮の情報を確認しておかなければならない。
先ずは、王宮内の見取り図を……裾を引っ張られた。
見れば、工場の見取り図を配っていた子供が立っていた。
少年は俺へと数枚の紙を渡してきた。
俺が工場へは潜入しないからいらないと言えば、これは王宮の見取り図だと彼は言う。
「……準備が早いな」
「はい! 話を聞いて必要だろうと思ったら、用意するのが僕の仕事なので!」
「……ありがとう」
「どういたしまして! 頑張ってください!」
少年はぺこりと頭を下げて去っていく。
俺は受け取った見取り図を見た。
すると、中々に広い様であり、俺は覚えられるのかと首を捻った。
「一日で覚えるのか……頑張ろう」
自信満々に言った手前、簡単に捕まる訳にはいかない。
約束もあるのだから、絶対に戻って来るつもりだ。
俺は両頬を叩いてから、自室へと戻っていく。
その時に見た松明の火に、一匹の虫が飛び込んでいった。
火が体中に回り、虫は力なく床に落ちていった。
プスプスと燃える虫を一瞥して、俺は何事も無かったように歩いて行った。