【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
宛がわれた部屋にて王宮の見取り図を読み込んでいく。
一つ一つの部屋の大きさや窓の位置など。
潜入するうえで重要な部分は特に気にしておいた。
何時間もそれとにらめっこをしていれば、誰かが部屋の扉をノックした。
誰なのかと思いつつ入室を許可すれば、入ってきたのはエリックであった。
彼は笑みを浮かべながら、作業の方は順調なのかと俺に聞いてくる。
「……まぁまぁだよ。そっちは?」
「大体のプランは決まったよ。今はオッコが仲間に説明している」
「……オリアナは?」
「さぁな。姫様はあぁ見えてメンタルが弱いから。隠れて震えてるんじゃないか?」
「……随分な言い方じゃないか。オリアナを信じていないのか?」
仲間であるオリアナを軽視するような発言だ。
俺はエリックという男を見極める為に、試すような言葉を吐いた。
すると、エリックは壁に背を預けながらひらひらと手を振るう。
「信じているさ。彼女が玉座に座れば、俺は一生安泰だからな」
「……金が目当てなのか?」
「ん? 誰だってそうだろ。今この国では王族はお尋ね者さ。そんな奴らを庇うのなら、利益がなきゃな。俺は姫様がイスラールに勝つ見込みがあると判断してついてきたのさ。お前だって、メリットがあるから協力してるんだろ?」
「……俺は諜報班の意思を継ぐ為だ。彼らの犠牲を無駄には出来ない」
「……ふーん。ま、いいけどさ……これ、使いなよ」
エリックは俺へと何かを渡してきた。
見れば、小さく折りたたまれた紙であり、広げてみれば王宮内の内部情報が事細かに書かれていた。
俺は目を細めながら、この情報は何処で手に入れたのかと彼を見た。
「王宮内にも俺たちの仲間がいるのさ。姫様には言ってないけど、アンタには教えとく」
「……何故、俺にだけ教えるんだ?」
「お、やっぱり興味があるか……俺はな。個人的にアンタを高く買ってるんだよ。アンタの顔を見た時にすぐに気づいたさ。あの有名な雷で、遂最近、魔神と恐れられていたメリウスを単騎で倒したって言うアンタを。公国の中じゃアンタは英雄で、帝国の人間には化け物だって恐れられている……面白れぇよな。俺はゾクゾクしたぜ。戦場で生のアンタの戦いを見て見たかった」
エリックは笑みを深めながら、俺に視線を向ける。
その目の中の光は、キラキラとしたものではない。
何かを企んでいるような怪しい光で、俺も形容しがたい不気味さを感じた。
「……お前は俺のファンなのか?」
「まぁそれに近いな……なぁ俺と組まないか? 一緒にバディーを組んでさ。最強を目指そうぜ。自慢じゃないが、俺もメリウスの操縦には自信があるんだ。勿論、メカニックの腕もある。俺ならきっとアンタを満足させて」
「――悪いけど、間に合ってるよ」
いかに自分が優れているのか話し始めたエリック。
長くなりそうな予感がした為に、俺は彼の話を遮った。
すると、エリックは目に見えて不機嫌そうな顔をした。
俺は話を遮ったことを謝罪して、貰った情報に感謝した。
「……まだ何かあるのか?」
これで話は終わりだと教えてやる。
すると、エリックは鼻を鳴らして「後悔するなよ」と捨て台詞を吐く。
乱暴に扉を閉めて去っていった優男。
俺は小さくため息を吐きながら、人間関係も難しいものだと思った。
「……ま、これは役に立ちそうだ……今一つ、信用には欠けるけど」
何処か胡散臭いエリック。
彼には申し訳ないが、この情報も完全には信用できない。
頭には入れておくけども、これを頼りにはしないでおこう。
そう思いながら、紙を見ていく――
マップとエリックの情報を見ていった。
途中でゴウリキマルさんやショーコさんがやって来て。
俺が王宮に潜入する事を聞いて、少しだけ怒っていた。
何故、自分たちに相談をせずに勝手に決めるのかと怒られてしまった。
俺は彼女たちにペコペコと頭を下げ続けた。
結局、無事に帰って船に戻ったら彼女たちのお願いを一つ聞くと約束してしまった。
ニヤリと笑いながら、あくどい顔をしていた二人。
俺は彼女たちに恐怖を抱きながら、何をさせらるのかと怯えていた。
まぁ何はともあれ、二人は納得してくれた。
俺を信じてくれたからこそ、退いてくれたのだ。
俺は二人に感謝しながら、部屋で引き続き作業をして――気がつけばかなりの時間が経っていた。
「……午前一時三十分……そろそろ寝るか……ん? 何か音がするな」
カリカリと何かを削る様な音が小さく聞こえた。
俺は何だと思いつつ、ゆっくりと扉の前に立った。
警戒心を抱きながら、扉を開ければ――あの鷹の機械が部屋の前にいた。
「……お前、何で此処にいるんだ?」
「キィーー!」
「しー! 皆が起きるだろ……俺の部屋に入れる訳にもいかないし……まだ起きてるかな?」
頭を掻きながら、どうしたものかと考えた。
このままにしておく訳にもいかず。俺はオリアナがまだ起きている可能性に賭ける事にした。
手を差し出せば、鷹は俺の腕にひょいっと乗っかった。
ずしりとした重みが来ることを覚悟していたが、実際には軽かった。
羽のように、とはいかないが別に苦には感じない。
「……ゴウリキマルさんが何かしたのかな?」
頭を指で撫でてやれば、鷹は目を細めながら気持ちよさそうにしていた。
此処までする必要はあったのかと思ったが、俺は気にしないことにした。
そうして、長い廊下を歩いて行ってオリアナの部屋の前に着く。
コンコンと軽くノックをしてみた。
しかし、待っても返事は返ってこなかった。
やっぱりもう眠ってしまったのかと思って引き返そうとした。
すると、ゆっくりと扉が開いた。
半開きになった扉を見つめてから、鷹を指さす。
まぁ逃げ出したと考えるのが普通だろう。
扉を開けて逃げ出したのかは判断できないけど……開けっ放しは不用心だよな。
俺は迷った末に、扉を開けて中へと入った。
ゆっくりと中に入れば、机に突っ伏すような形でオリアナは眠っていた。
傍に近寄ると机の上には写真が一枚置かれていた。
その写真の中には、威厳のある顔立ちをした男が一人と。
柔和な笑みを浮かべる女性が一人……そして、幼い少女が一人座っていた。
幼い少女は小麦色の肌に金色の髪をしていた。
青い目をしていて、幼いながらもオリアナであるとすぐに分かった。
「……これは両親か――うぉ!」
写真に触れようとすれば、一瞬で視界が動いた。
強制的に机に顔を押し付けられて、俺はくぐもった声を上げた。
俺は必死になって声を出して、オリアナに離すように懇願した。
オリアナはハッとした様子で俺に気が付いた。
そうして、すぐに拘束を解いてくれた。
俺は顎を摩りながら、結構、力が強いんだなと笑った。
冗談を言いながら、オリアナを見れば目元が少し赤くなっていた。
泣いていた後であり、俺は気まずさから目を逸らしてしまう。
すると、オリアナも自分の姿に気が付いた様子で後ろを向いてしまう。
「……こんな時間に何の用だ」
「……あぁご覧の通り鷹が逃げ出していたから。戻しておこうと思って……ごめん」
「……謝るな」
気まずい空気が流れる。
俺は頬を掻きながら、どうしたものかと考えていた。
オリアナから声を掛けてくることは無いだろう。
俺から何か話すまで、オリアナは無言を貫き通すつもりだ。
鷹を置いてさっさと帰る事も出来た。
しかし、泣いていただろう彼女が気になって仕方がない。
エリックが言っていたメンタルが弱いという言葉……強ち嘘じゃないのか。
俺は鷹を机に置いてから、口を開いたり閉じたりした。
泣いている女の子に掛ける言葉なんて知らない。
気の利いた言葉の一つや二つ言えたのなら、俺は真の男と呼ばれたのだろう。
暫く空気だけを吐いて――俺は深呼吸をする。
ゆっくりと空気を吸い込んでから、顔を引き締めた。
「何で泣いてたんだ」
「……ストレート過ぎないか」
「うぇ? い、いや。だって……き、気になるじゃんか!」
「……お前に期待した私が馬鹿だった……はぁ」
オリアナはため息を吐いてから首を左右に振る。
そうして、ゆっくり此方に顔を向けてきた。
無表情であるものの、やはりその目には泣きはらした後がある。
彼女はゆっくりと机に置かれていた写真を手に取った。
「……これは父上と母上だ……私は十八になった今でも、親離れが出来ないでいる……目を閉じれば、父と母が処刑された日を思い出してしまう……古い記憶の中にいる自分を羨んで、私は前に進めないでいるんだ……情けない話だ。国民を巻き込みたくないのではない。自分で判断できないから、私はエリックや他の人間を頼る……」
オリアナはぽつぽつと自分の事を話してくれた。
過去を思い出して悲しくなって、重要な決断を下すにも他者の意思が必要だと。
両親が処刑された日から、彼女は前へと進めていないと語った。
俺はそれを黙って聞いていた。
彼女の過去も、受けた痛みも、自らの弱さも。
俺はその全てに納得して、それらを受け入れた。
「……お前の事はエリックから聞いた……国を救った英雄だと。お前はすごい。私が出来ないことを、やってみせた……もしも、私がお前のようになれたのなら」
「――なれないよ」
「……っ。分かって、いる……私はお前のように、強くは」
「――違う。俺にはなれない。君は君だ。オリアナ・ハーモニスクだ」
俺はキッパリと言ってやった。
俺を目指すのは違うと。
俺は君ではない、君はオリアナでこの国の未来を背負う人間だと。
オリアナは目を瞬かせていた。
俺はそんな彼女を真っすぐに見ながら、言葉を続けた。
「……俺は強くなんかない。何時もギリギリの戦いの連続で……完膚なきまでに叩きのめされたことだってあるんだ……自慢じゃないけどさ。心が折れかけたこともある」
「……でも、お前は英雄で」
「それは周りが勝手に思っているだけだ。俺は英雄なんかじゃない。魔神を倒したのも俺一人の力じゃない。俺は何時だって、頼れる仲間たちに助けてもらってきたんだ。一人じゃ困難を乗り越えられない弱い人間だ」
俺はにへらと笑いながら自分の事を教えた。
彼女は信じられないといいたげな顔で俺を見つめてくる。
俺はそんな彼女に笑みを向けながら、ゆっくりと言い聞かせた。
「……人間ってさ。弱い生き物なんだよ。鳥みたいに飛べないし、魚みたいに自由に海を泳げない。紙切れで指は切れるし、怪我だって現実ではそんなすぐには治らない……でもさ、人間ってのは言葉が喋れる。自分の気持ちを他の人に伝えることが出来るんだ……心が折れかけた時、どうしようもない事が起きた時――俺の仲間は、俺に勇気をくれるんだ」
「勇気?」
「あぁ勇気だ。消えかけていた火を焚きつけて、諦めかけていた心に光を与えてくれる。俺は弱い。でも、仲間たちのお陰で、どんな障害も乗り越えてきた」
俺は言ってやった。
自分一人では弱いだけの存在だと。
しかし、仲間たちが助けてくれるからこそ、強い敵も倒せて困難も乗り越えることが出来たと。
彼女は俺を真っすぐに見つめながら、自嘲的な笑みを浮かべる。
「……私には、真に心を預けられる友はいない……私は一人で……」
俺は弱気な発言をする彼女の手を握った。
しっかりと手を握りながら、笑みを浮かべて言葉を発した。
「だったら、俺を友達にしてくれよ!」
「……お前が、私の?」
自分でも分からないような言葉を発していた。
気がつけば、思わず言葉が出ていたのだ。
会って間もない俺たちだ。
彼女も俺の事を信用できない筈だろう。
しかし、俺は彼女を見ていて言葉を発さなければいけないと思ってしまった。
俺は指を動かしてから、船への連絡手段を取り出す。
本当は知らない人間には絶対に渡してはいけないものだ。
船の居場所を知られてしまう恐れがあるからだ。
しかし、俺はこれを彼女に渡さなければいけない気がした。
俺は彼女の手に、通信機を握らせた。
「これは俺の母艦に繋がる通信機だ。困った時、助けが欲しい時、どうしよもない時は、俺を呼んでくれ――何処にいても駆けつけるから!」
「……何で、お前は、私にそこまでする……トヨサダの願いは……」
見当違いの事を言うオリアナ。
俺は首を傾げてから、ハッキリと言ってやった。
「関係ないだろ。俺は友達として、お前を助けたいんだ」
「――」
目を丸くしながら、彼女は驚いていた。
当然の事を言っただけで、そんな反応をするのは何故か。
キョトンとしていれば、彼女はくすりと笑う。
俺は何で笑うのかと彼女を見ていた。
しかし、別に怒るような事ではない。
彼女は目を細めながら嬉しそうにしていたから。
オリアナは大切そうに小型の通信機を両手で持つ。
それをジッと見つめてから、ゆっくりとポケットに仕舞う。
「……こんなに素晴らしいものを貰ったのは初めてだ。これと同じ対価の物を私は一つしか知らない」
オリアナは机の引き出しを開けた。
そうして、その中に入っていた小箱を開けた。
その中には銀色に輝き、中心に見た事の無い宝石が嵌められた指輪があった。
「これは私の母の形見だ。素晴らしい……友人に送れと言われていた。これをお前に渡したい」
「え、いや。でも」
「……私の友人は、嫌か?」
「え!? い、いや。ちが……ちょ、頂戴します」
「ふふ、それでいい」
オリアナは俺の手を握って嵌めようとした。
しかし、女性がつけていた指輪が入る筈も無い。
彼女は指に嵌めることを諦めて、自分の腰に巻いていたチェーンを外す。
それを指輪に通して、簡易的なネックレスを作って見せた。
彼女は無言で屈めと言ってくる。
俺はおずおずと身を屈ませて、ゆっくりとネックレスをつけてもらった。
ひんやりと冷たいネックレスが首に当たる。
キラキラと輝くを指輪を見てから、ゆっくりと彼女に顔を向けた。
すると、彼女は今まで見たことも無いような暖かな笑みを浮かべていた。
「……困った時は助ける……なら、私もお前に誓おう。お前が危機に瀕した時は、私がお前を助けると」
「……ありがとう。心強いよ」
互いに笑みを向けながら、俺たちは新たな友人を見ていた。
砂漠の中で出来た絆は――不安だった未来を明るく照らしているような気がした。