【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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068:予期せぬ相対。そして、決意する時

 王宮から脱出して、闇夜に紛れて走る。

 明かりもついていないような場所を選んで進む。

 時折、足を止めて周りの様子を伺う。

 チラリと見れば、兵士たちが走り去っていった。

 

「……成功したのか……合流地点に急ごう。

 

 刻限は迫っており、これ以上の遅れは許されない。

 俺は道を横切って別の路地裏へと入っていく。

 右へ左へと走っていき、器用に立ちはだかる障害物を避けていった。

 

 後れを取り戻そうと必死であり――身を屈ませる。

 

 開けた場所へと出たと思えば、横合いから何かが飛んできた。

 頭すれすれを通ったそれに冷や汗を掻く。

 俺は前転をしながら回避して、そのままの勢いを利用して立ち上がる。

 

 攻撃してきたのは黒づくめの服に異様な黒いマスクをつけた何かで。

 そいつは俺に息をつかせる暇も与えずに攻撃を仕掛けてきた。

 左右の拳による連続攻撃であり、俺はそれを両手でガードした。

 一発一発が重く、腕がひりひりと痛む。

 俺は舌を鳴らしてから、そいつの右拳を避けた。

 

 懐へと入り込みアッパーをお見舞いしようとした。

 しかし、そいつは俺の攻撃を読んでいた。

 ギリギリのところで頭を傾けて躱す。

 そうして、自分の足を動かして俺の軸足を払って見せた。

 

 体勢を崩された。

 俺は傾いていく体を片手で支える。

 上を見ればすぐそこに拳が迫っていて――重い一撃が頬を打った。

 

 ぐらぐらと視界が揺れる。

 しかし、回避ではなく攻撃を選択した。

 片手を地面に付きながら、俺は足を奴の体に絡める。

 そうして、手を器用に動かしながら奴の体を地面に倒した。

 

 馬乗りの状態になり、俺は鼻血を出しながら笑う。

 そうして、お返しとばかりに悪趣味なマスクを破壊してやろうとした。

 拳を硬く握りしめて勢いよく振り下ろして――拳を掴まれた。

 

「――くそ!」

 

 もう片方の手で殴りかかる。

 しかし、それすらも防がれてしまう。

 奴の手を振りほどこうとするが、万力で固定されていると思えるほど力が強い。

 ピクリとも動かない奴の腕を見ていれば、ゆっくりと掴んだ手に力を込めていく。

 ぎちぎちと拳が握られていき、嫌な音が聞こえてくる。俺はくぐもった声を上げて――体を宙に浮かせる。

 

 倒立でもするように足を上へと上げた。

 そうして、勢いをつけたまま全力の膝内を奴の鳩尾に見舞ってやる。

 ごすりと鈍い音がして、抉るように俺の一発が決まった。

 奴は拳の力を緩めて、俺はすぐに奴の体から飛びのいた。

 

 両手を払ってから、拳を構える。

 奴を見ればゆっくりと体を起き上がらせていた。

 ゴキゴキと首の骨を鳴らしたかと思えば、むくりと起き上がる。

 

「……弱い……お前には何も見えていない。目の前の現実すら、見えていない……消えていくものを、眺めている事しかお前には出来ないだろう」

「……何を言って……いや、待て。その声は――告死天使か」

 

 身長180センチを超える体に、怪しげなマスクをした男。

 聞き覚えのある威圧的な声は、間違いなく告死天使であると分かった。

 俺は何故、此処に奴がいるのかと警戒する。

 誰かの指示を受けて俺を殺しに来たのか。

 だからこそ、逃走ルートを知っていて待ち伏せしていた。

 

 普通に考えるのであれば、そうだろうな。

 でも、奴の攻撃からは殺意を感じない。

 まるで、玩具で遊んでいる子供のようだ。

 いや、子供のように喜びは感じない……俺を試したのか?

 

 試したのなら、一体何の目的があって――告死天使が動き出す。

 

 俺は目を鋭くさせながら拳を構えた。

 しかし、奴は何の警戒心も持つことなく俺へと近づいてくる。

 前へ前へと進んできて――横を通り過ぎていった。

 

「おい! 何のつもり……メール?」

 

 端末にメールが入ったと通知が届く。

 電波を受信しないように設定したはずだ。

 それなのにメールが届いた。

 俺はメールを開けようとして、ハッとしたように前を見た。

 

 すると、そこには告死天使の姿は影も形も無い。

 先ほどの新着メールの通知は、十中八九が告死天使からのメールで間違いない。

 奴が俺を試した理由は分からないが、このメールを渡すことが目的だったことは間違いないだろう。

 

「……でも、何でアイツは此処に俺が来るって分かったんだ」

 

 船のセキュリティーは万全だ。

 情報漏洩があるとすれば、裏切者の仕業だろう。

 しかし、船に忍び込んだ裏切者は見つかって追放された。

 いや、そもそもゴースト・ラインと告死天使に繋がりは無い。

 奴らは味方というよりは、敵同士であるように思えた。

 

 俺が捕まっていた施設を破壊して、危ない所を助けてくれた。

 奴がしてきたことは、ゴースト・ラインに敵対するような事ばかりであった。

 だからこそ、裏切者から情報を得ていた可能性も無い。

 

 ならば、奴は何処で俺の情報を得たのか――時間が無いか。

 

 此処で立ち止まって考えている暇は無い。

 俺は鼻血を拭ってから、視線を戻して走り出す。

 この会合に意味があったのか、送られてきたメールの内容は――それらを頭の隅に追いやって俺は走り続けた。

 

 

 

 合流地点につけば、苛立ちを露わにするレジスタンスの仲間が待っていた。

 何をしていたのかと言われて、俺は遅れたことを謝罪した。

 仲間たちはすぐにアジトに戻ると言って、砂に擬態したマンホールを開けてくれた。

 俺もその中へと入って、そいつらの先導で入り組んだ道を歩いていく。

 

「……工場の破壊は成功したのか?」

「……あぁ問題ねぇよ。無駄な死体もねぇ。仲間の報告じゃ。奴ら、碌な見張りも用意してなかったらしい……多分だけどよ。工場よりも、お前が取ってきたレシピの方が大事だったんだろうな」

 

 工場にあまり見張りがいなかった?

 

 仲間たちは笑いながら喜んでいた。

 しかし、俺は素直に喜べない。

 重要な筈の生産施設に、見張りをつけないものなのか?

 

 いや、見張りは確かにいたらしい。

 しかし、こんなにもあっさりと破壊工作が成功したのだ。

 死人も出ることなく、最高の結果で帰って来られた。

 普通であれば喜ぶべきことなのに……この違和感は何だ?

 

 喉に魚の小骨が刺さったような違和感。

 時間が経てば解決するだろうと思えるほどの小さな違和だ。

 思えば、この国に入国してから小さな違和は幾つも感じていた。

 

 見えない何か、俺たちの知らない何か。

 そこに確かに存在する筈なのに、触れることも出来ない何か。

 そんな霞のような何かを俺は感じていた。

 

 この違和感を放っておくわけにはいかない。

 しかし、こんなことを誰に相談すればいいのか。

 ただ単純に違和感を俺が感じているだけだ。

 直感と言ってもいいほどの曖昧なものだ。

 信じたとしてもいらぬ混乱を生むだけだろう。

 

 言う事なんて出来ない。

 今は、無事に帰って来られた事を喜ぼう。

 工場は破壊して、奴らが保管していたレシピも破棄させる事が出来た。

 紙媒体で保管していた物も持ち帰って来られた。

 燃やそうと思っていたが、これには別の使い道があるかもしれない。

 

 俺が考えを纏めていれば、あの仕掛け扉の前に着く。

 仲間の一人が鍵を差し込んで手順を踏めば、仕掛けが作動して扉が開いた。

 俺たちが中へと入れば、待っていたオリアナたちが駆け寄ってくる。

 

「マサムネ! 大丈夫か!?」

「おぉっと……あぁ任務は果たしたよ」

「違う。私はお前の体を……」

 

 俺の前に立ったオリアナは不安そうな目で俺を見つめる。

 頬に手を当てようとして、彼女はキュッと唇を結んだ。

 俺は笑みを浮かべながら、彼女の手を取った。

 

「体も大丈夫さ……ちょっと転んで鼻血が出たけどな」

「……そうか。なら良かった」

 

 胸を撫でおろしながら、彼女は安堵した。

 俺は彼女の手をそっと離してから皆に目を向ける。

 オッコにゴウリキマルさんに、ショーコにレノア。

 エリックたちも無事であり、俺は作戦の成功を喜ぶ。

 

「……オッコ。紙の方もあった。けど、どれがそれか分からなくて全部持ってきた。これ、何かに使えないか?」

「どれどれ……うへぇ、何じゃこりゃ。全部、薬の調合法が書かれてるよ……ざっと見ただけでも、非合法なものも使われてるねぇ……これは船に持ち帰ろう。医療班に渡せば、解析してくれるだろうぜ」

 

 オッコは自分の異空間にそれらを仕舞う。

 そうして、次に何をすればいいのかとオリアナに目を向けた。

 

「……これで暫くは安全だろう。あの薬が民に渡る事は無い……だが、これも時間稼ぎにしかならない……私は考えた。どうすれば、この国を救えるかを……イスラールを打倒するには、我々の力だけでは足りない……今こそ、全ての民の意思を一つに纏める時だ」

「姫様! ダメです! 不死教の信者となった奴らが、我々の言葉に耳を貸す筈がありません!」

「だが、我々には他に道は無い。神薬の製造を阻止したことで、奴らはより一層、我らを消すために行動を活発化させるだろう。このアジトが見つかるのも時間の問題だ。生きながらえて腐敗していく国を黙って見ているか。死を覚悟して、彼らの心に訴えかけるか――私はもう一度、彼らを信じたい」

 

 オリアナは笑みを浮かべる。

 そうして、真っすぐに俺を見てきた。

 俺は静かに頷きながら、彼女の考えに同意した。

 

 レジスタンスの仲間たちは考えている。

 進むか止まるか。彼らは死を覚悟できるほどの心は持っていないのか。

 俺たちが黙って彼らを見ていれば、大きなため息が聞こえた。

 チラリと見ればエリックが頭を抱えながら首を左右に振っていた。

 

「結局、最後は荒っぽい事になるのか。まぁ今までの姫様からすれば、100点だろうね」

「エリック……」

「俺は賛成だ。いい加減、このジメジメした地下とはおさらばしたいと思っていたしな。どうせ死ぬなら、俺はアンタに懸けるぜ。お前らも、そうだろ?」

「……あぁ、そうだ。俺たちの帰る場所は地上だ! 姫様なら、俺たちを救ってくれる!」

「レジスタンスに入った時から、俺は姫様について行くって決めてたんだ! 後悔なんてしない!」

 

 躊躇っていた筈の彼らは、エリックの言葉で決意を固めた。

 皆が拳を掲げながら、やってやろうと言う。

 オリアナは目に涙を溜めながら、彼らの心に感動していた。

 俺は一歩前に出て、どうすればいいのか彼女に聞いた。

 

「……三日だ。三日で準備を整える。死を得るか、未来を得るか。お前たちの働きにかかっている。先ずは――」

 

 オリアナの計画を聞きながら、俺はチラリと端末を見る。

 メールの内容が気になる。しかし、今は見ている暇は無い。

 全てが片付いて、船へと戻った時、これを確認しよう。

 俺はそう考えながら、彼女の計画を頭の中に入れていった。

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