【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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071:結末が迫る中で、笑みを浮かべる男(side:イスラール)

 オリアナ・ハーモニスク。

 最後に残された希望の光。

 この国を救うべく立ち上がった姫君――何とも輝かしい配役か。

 

 私は王の間にて玉座に座る。

 傍に控えている従者たちは怯えていて、今にも逃げ出しそうだ。

 奴らは王を裏切ったことを今でも悔いている。

 私という次の主人が現れても、その心には過去の王が根付いていた。

 

 だが、私はそれを放置していた。

 

 私にとって奴らの心など無意味だ。

 心の底からどうでも良い事なのだ。

 誰を慕おうとも、誰を嫌おうとも、誰を信じようとも――どぉでもいいのだ。

 

 この国にやって来て、私は希望を失っていた。

 働く術も無い、何の能力も無い。

 私という人間は一般的な人間よりも遥かに劣っていた。

 

 そんな私にこの国の人間たちは手を差し伸べてくる。

 弱者を前にして、奴らは自らの偽善をひけらかせずにはいられなかったのだろう。

 そんな鬱陶しいこの国の人間どもが私は大嫌いだった。

 

 恨んで、恨んで、恨みを積み重ねて――好機が巡ってきた。

 

 ふらりと私の前に現れたのは、ゴースト・ラインという組織を名乗る人間で。

 ハイドと名乗った男は、私という人間を素晴らしいと言った。

 ゴミに埋もれて汚物の臭いがするこの私を見て、奴は素晴らしいと言ったのだ。

 怒りに駆られた私は、ハイドを殺そうとした。

 

 が、私の力ではあの男にはまるで敵わなかった。

 

 全ての攻撃を避けられて、息も絶え絶えな私に、奴はある物を渡してきた。

 それは飲めば未来が見えるという薬で。

 これさえあれば、王にもなれると奴は言った。

 

 正直なところ、奴の話など信じていなかった。

 浮浪者を揶揄う旅行客の戯言だと思っていた。

 しかし、私はその薬を飲んでしまった。

 

 どうせ、人生が詰んでいたのだ。

 何が起きようとも、これ以上の最悪は訪れない。

 そんな気持ちで薬を飲んで――私の人生は一変した。

 

 なけなしの金で賭け事をすれば勝ってしまう。

 喧嘩を挑まれても、全ての攻撃が読めてしまうのだ。

 ありとあらゆる勝負事で負けなしになった自分――最高に気持ちが良かった。

 

 今まで、自分を見下していた人間たちが跪いている。

 心が高揚して、今にも踊りだしそうであった。

 

 それから私は祈禱師を名乗り、王宮へと入った。

 この国の未来を予知して、王へと神の信託を告げる。

 無能な王は知る由も無い。神など存在せず、私が未来を見ていることを。

 

 ハイドと名乗った男は、私に金品を要求しなかった。

 その代わりに、不死教なるものを広めて組織に協力しろと言ってきた。

 断る事も出来たが、こんな力を与えられる組織の願いを断るのは怖かった。

 それに、今更、この幸福を手放すことなど出来る筈がない。

 

 私は王を処刑させるように国民を誘導した。

 未来の見える私に不可能は無く。

 全ては私の想い描く通りに進んでいった。

 

 あの小娘……オリアナ・ハーモニスクを生かしたのも理由がある。

 

 いけ好かない王の娘だ。

 簡単に殺してはつまらない。

 あの男の娘は、私が作り上げた舞台の上で踊ってもらう。

 

 踊って、踊って、踊り続けさせて――終焉を迎えるのだ。

 

 喝さいの中で死ぬのではない。

 誰一人として涙を流すことなく。

 信じていた仲間たちと共に、無残に殺されるのだ。

 

 それこそがあの女の最期に相応しい。

 

 工場を破壊され、レシピを盗まれ、放送をジャックされて。

 今しがた聞いた情報によれば、真っすぐにこの王宮を目指していると言うではないか。

 あの愚かな娘は何も知らない。

 此処に来たが最期。自分が無残に殺されると言う結末を、あの女は知らない。

 

「ふ、ふふ、くふふ。ぐふふ――あははははははは!!!」

 

 私は笑う。

 笑いを堪えようにも、我慢出来ようはずがない。

 こんなにも面白い事が今から起きることを考えれば、馬鹿笑いもしたくなる。

 

 そんな私の様子を見ながら、従者たちは怯えていた。

 怯えろ。存分に怯えるがいい。

 心置きなく怯えて王女の最期を見たお前たちは、後で全員殺すと決めている。

 

 私よりも無能な人間などいらない。

 ハイドからの話によれば、新しい人間を寄越すようだ。

 あのシックスと呼ばれた男には、私の未来視は利かなかったが……まぁいい。

 

 面白いショーが見られると私が誘ってやったのに、あの男は姿を消した。

 この国を離れたのかすら分からない。

 侍女が呼びに向かえば、既にもぬけの空だったらしい。

 何時も酒を飲んでいるだけのクズだとも思ったが、一度だけ見たあの目は紛う事なき戦士のそれだった。

 あの男だけは怒らせてはいけない。あの男には、絶対に敵わない。

 

 去ってくれたのなら、私にとっては都合がいい。

 邪魔者が消えてくれたお陰で、やり易くなった。

 思えば、あの男が来てから命令されていた実験も思うように出来なくなっていた。

 私が率先してやろうとしたことを、あの男は悉く邪魔をしようとしてきたのだ。

 

 分からない。

 あの男が何を考えていたのかまるで分からなかった。

 ゴースト・ラインの人間でありながら、組織が命令する実験を邪魔する。

 一体、奴は何が目的だったのか……本当に不気味な男だ。

 

 去っていった男の事を考えて――すぐに頭から消した。

 

 もう、どうでもいい事だ。

 今は、ショーを心から楽しまなければならない。

 この日の為に準備をしてきたのだ。

 あの憎たらしい娘が苦悶の表情を浮かべながら死ぬ姿を見る為に。

 私は少しずつ準備をしてきたのだ。

 

 レジスタンスの妨害に、雷と呼ばれた傭兵の介入。

 全てを知りながら、何もしなかったのには理由がある。

 私はくつくつと笑いながら扉を見つめた。

 すると、勢いよく扉が開かれて、従者の一人が顔を青くさせながら飛び込んできた。

 

「へ、陛下! 今すぐお逃げに! お、オリアナが宮殿内に侵入を!」

「……そうか。では、待つとしよう」

「な、何を――っ」

 

 私は体全体を玉座に預けながら、天井を見ていた。

 心待ちにしていた結末が見られる。

 

 あぁ、楽しみだ。楽しみで楽しみで――笑みが止まらないよ。

 

 私は三日月のように笑みを深めながら、遠くから迫る獲物の足音を聞いていた。

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