【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
王宮へと入り、オリアナは進んでいく。
侍女たちは彼女へと頭を下げて。
此処を守っていた兵士たちは彼女の為に道を開けた。
誰もが彼女が戻ってくることを待ち望んでいた。
彼らの目には希望の光が灯っていて、それを見つめるオリアナは目を鋭くさせていた。
ゆっくり、ゆっくりと進んで――王の間へとたどり着く。
彼女は自分の手で扉を開いて、中へと入っていった。
そこには窓から差し込む光を背に玉座に座るイスラールがいた。
ふてぶてしい顔でオリアナを見つめるイスラール。
そんな男を見ながら、オリアナは一歩前へと出た。
「イスラール。私は帰ってきた。父と母の意思を受け継いで、貴様を倒しに来たぞ」
「おぉそうかそうか。それはご苦労だったな……ふふ、まさか意思の弱かったあのガキが。私の前に姿を現せようとは……時の流れは人を成長させるようだな」
「違う時が私を成長させたのではない。此処にいる仲間たちが、私を成長させたのだ」
オリアナは手を広げながら、自らの言葉を話す。
それを聞くイスラールは笑みを深めながら、ゆっくりと立ち上がった。
何をするのかと見ていれば、奴はゆっくりと降りてきた。
「貴様の父親である先王は愚か者であった。貧しい民に手を差し伸べて、利益など考えていない。だからこそ、この国は貧しいまま成長できなかった。真に手差し伸べなければいけないのは何の価値も無い弱者ではない。力を持った強者にこそ、手を差し出さなければならないのだ。この世界で生き残るには力が必要だ。金、権力、名声――それら全てを手に入れてこそ、王となりえるのだ」
「黙れ。父は偉大であった。この国に住む人間に平等な暮らしをさせようと努力していた。裕福でなくてもいい、人並みの幸せを全ての国民に提供できるように、父は今まで多くの偉業を成してきた。その父の功績を認めず。愚かにもお前は、悪事に手を染めて父の顔に泥を塗った。表向きは公正に見えても、この国に裏で危険な薬物が流通していたのは知っている。禁止されたドラッグの販売で潤った資金で、お前は何をしてきた? 違法な人体実験によって、お前は多くの人間を不幸にした。神が許そうとも、この私だけはお前を決して許さない」
オリアナの言葉を受けて、イスラールは歩みを止めた。
同じ地に立ちながら、イスラールはくつくつと笑う。
「ふ、ふふ。お前は正しいよオリアナ・ハーモニスク。正しすぎて――反吐が出るよ」
「何?」
「……正しいと言う事は大変結構な事だ。人間誰であれ、最初は正しい人間を目指す者だ……だがなオリアナ。お前が知らないだけでこの世界には報われない人間も存在する。どんなに努力を重ねようとも、どんなに人に尽くそうとも、不幸しか返って来ない救いようのない人間が……正しさだけでは、国は救われない。正しいだけでは、人間は進歩しないのだ」
「……自分の犯した罪を正当化するつもりか」
「ん? 違う。私は私のやって来た事を正しい事と思っている。お前たちから何と言われようとも、この道は正道だ。違法な実験もドラッグの流通を許可したのも、全ては私の願いなのだ」
「願い、だと? お前は、何がしたかったんだ」
オリアナは思わず奴に問いを投げた。
すると、イスラールは心の底から凍り付くような不気味な笑みを浮かべた。
「この国を、ぶち壊したかったのさぁ」
「……っ」
イスラールはけたけたと笑いながら、自分の醜い感情を曝け出した。
「優しさ? 正義? 平等? 何だそれは。そんなものに価値は無い。強者だけが正義だ。弱いものなど野垂れ死ね。永遠に強者に搾取され、血の一滴も残さずに奪われ続けろ。呪いと後悔で最期を迎えて、復讐の連鎖を作り上げればいい。誰かを呪い、殺して。誰かを嘲り上等な酒を飲む。人間というのは、そういう生き物だ。お前たちは正しくない。人間のふりをする出来損ないだ。正しい人間と言うのは私のような人間の事だ。金を得て、裕福な暮らしをして、弱者を見下して、それでも尽きぬ欲望を抱える。それこそが――人間だぁ」
狂気的な考えであった。
そんな人間が正しい筈がない。
そんな人間は、幸福な結末を迎える事なんで出来ないだろう。
しかし、イスラールの圧に押されてオリアナ一歩後退しそうになった。
俺はそんな彼女を見て、そっと隣に立つ。
隣に立った俺を見て、オリアナは視線を向けてくる。
俺はしっかりと彼女の目を見ながら頷いた。
大丈夫だ。お前はお前の信じた道を行け。
俺が彼女へと自らの意思を眼で伝えれば、オリアナはしっかりと頷いた。
そうして、イスラールを見ながら、一歩前へと出た。
「私はお前を否定する。お前のような奴を人間とは認めない。この国の本来のあり方を体現した国民たちこそが、真の人間だ。弱き者を助け、平等に人を愛せることが出来る彼らこそ――人間だ」
オリアナはハッキリと奴の言葉を否定した。
それを受けるイスラールは急に感情を落とす。
全ての感情が抜け落ちたような表情で、彼女を見つめていた。
やがて、大きなため息を吐きながら、奴は首を左右に振った。
「そうか、そうか……やはりお前は最期まで愚かであったか。考えを改めるのならばと思ったが……まぁ当然の結果だろう。私たちは永遠に分かり合えないのだ……だったら、お前への手向けとして――絶望を送ろう」
イスラールはニヤリと笑う。
そうして、ゆっくりと指をオリアナへと向けた。
俺は彼女の前に立ち彼女を守る。
しかし、イスラールは構う事なく言葉を発した。
「――その女を殺せ。惨たらしく、殺せッ!!」
イスラールの命令が響く。
まさか、伏兵でも忍ばせているのかと俺は周囲を見た。
しかし、一向に誰かが現れる気配はしない。
どういうことなのかとイスラールを見る。
すると、奴も状況を飲み込めていないのか動揺を露わにしていた。
乾いた銃声が響いた。
一発の弾丸が放たれて、イスラールの服を赤く染め上げる。
遅れて気が付いたイスラールが胸を押さえながら地面に倒れた。
呼吸を乱しながら、奴はゆっくりと顔を上げた。
コツコツと靴の音を響かせながら、後ろから姿を現す。
その人物はエリックであり、拳銃が握られていた。
彼は倒れ伏すイスラールを冷めた目で見ながら、言葉を発した。
「お前の仲間は来ねぇよ。お前は此処で終わりだ」
「な、ぜ」
「今まで不幸にしてきた人たちからの報いを受けろ」
そう言って、エリックはもう一発弾を放った。
その狙いは精確で。イスラールの眉間を穿つ。
顔をのけぞらせてから、イスラールはぴくぴくと失神する。
そうして、だらりと手を伸ばして絶命した。
この国を牛耳っていた男の死。
エリックの手によって、その結果はもたらされた。
控えていた役人たちはゆっくりと腰を床につける。
そうして、後ろで控えていた仲間たちは――喝さいを上げた。
「うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
イスラールを倒したことによって、オリアナが玉座につく。
この国の未来は救われて、明日から再び平和への道を歩める。
涙を流しながら、レジスタンスのメンバーや兵士たちは喜んでいた。
俺もオリアナの望みが叶った事を喜んだ。
しかし、彼女を見れば、イスラールの傍に近寄っていた。
イスラールは目を開きながら、絶望の表情を浮かべていた。
そんな彼を見ながら、オリアナは手を彼の顔に翳す。
そうして、眼を閉じさせてから、彼女は誰に言うでもなく言葉を発した。
「……認めることは出来ない……しかし、お前もこの国の民だった……安らかに、眠れ」
オリアナはそう言いながら、立ち上がる。
先ほどまでの複雑そうな表情は消えていて。
彼女は笑みを浮かべながら、俺に手を差し出してきた。
俺はそれに応えるようにしっかりと握る。
「終わったな」
「……いや、これからだ。これから未来を作っていく。見ていてくれ友よ」
喝さいが上がる王の間で、俺たちは固い握手を結ぶ。
彼女が未来を、作っていくのだ――