【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
楽しい祭りが終わって、いよいよ彼女が国民たちの前に正式に姿を現す時。
ゴウリキマルさんたちには悪いが、先に船へと帰還してもらった。
通信が回復して真っ先にヴォルフさんに連絡をすれば、すぐに帰って来いと命令されたのだ。
港に寄港して新人を迎え入れて、大体の準備が終わったらしい。
事情は知っているようだったが、何時までも港に船を停泊させておく訳にもいかないようだ。
だからこそ、無理を言っている事は承知で俺たちにすぐに帰ってくるように命令してきた。
ならば、何故俺だけが残ったのか。
それは友人であるオリアナの最初の仕事を目に焼き付けたかったから。
彼女からもどうしても見ていってくれとお願いされて。
俺は快くそれを引き受けて、彼女が来るであろうテラスの前で待っていた。
時間にして三十分ほどだろうか。
現在の時刻は午後一時三十分で、そろそろ来る頃だろう。
俺は彼女が来るのをエリックと一緒になって待っていた。
「……そういえば、レジスタンスの仲間たちは? 来ないのか?」
「ん? あぁ下で見ているんじゃないか」
エリックは顎で指しながら、群衆を見ていた。
王宮の前には大勢の人間が集まっている。
国中の人間たちが集まっていて、新たな女王となるオリアナの言葉を聞こうと詰め掛けていた。
仕事も何もかもを放っておいて、全ての国民がこの場にいる。
よく見れば涙を流している者もいて、心から祝福してくれている事が伝わってきた。
俺はそんな群衆に笑みを浮かべながら、ガチャリと開いた扉を見た。
侍女を伴って現れたのは煌びやかなドレスに身を包むオリアナで。
彼女が女王としての威厳を表すように、その純白のドレスも綺麗であった。
しかし、服に着られている訳ではない。彼女は完璧にそのドレスを着こなしていた。
心の底から美しいと思えた。
だからこそ、俺は感嘆の息を漏らしながら彼女を見つめていた。
オリアナは頬を赤らめながら、俺の前に立つ。
そうして、ゆっくりと俺の体を抱きしめてくれた。
ふんわりと彼女の匂いが鼻に届いて、彼女の手の平からぬくもりを感じた。
彼女は暫く俺を抱きしめて、やがてゆっくりと離れていった。
「……無理を言ってすまなかった。だが、お前にだけはどうしても見てもらいたかった。許してくれ」
「許すも何も、俺は自分の意思で此処にいるんだぜ? 謝る事なんてないよ。寧ろ、お礼を言わせてほしい。こんな素敵な場所に呼んでくれて本当にありがとう……その、綺麗だよ」
「……ふふ、そうか……ありがとう。最後まで見ていてくれ」
彼女はゆっくりと頷いてから、テラスまで足を進めた。
控えていた侍女たちがゆっくりとガラス戸を開ける。
そうして、彼女がテラスに出れば惜しみない拍手が巻き起こった。
国民たちは彼女に釘付けであり、俺も彼女に拍手を送った。
スッと彼女が頭を下げる。
そうして、マイクの前にオリアナが立てば国民たちは静かになった。
彼女は群衆をぐるりと見渡してから、ゆっくりと言葉を発した。
「……再び皆の前に立てた事、私は心の底から嬉しく思う。こうして、お前たちの顔を見られたのは仲間たちのお陰だ。信じてくれてありがとう。そして、この場に集まってくれてありがとう。女王として、皆に感謝を述べる……本当にありがとう」
オリアナは皆に言葉を贈る。
心が籠った優しい演説で、俺はそれを黙って聞いていた。
すると、エリックが隣に立つ。
彼はポケットに手を突っ込みながら、話しかけてきた。
「言っただろ。オリアナは勝つって……なぁ俺とバディーを組む気はねぇのか?」
「……その話か……確かにお前の勘は当たっていた。それは素直に凄いと思う……でも、俺にはもうバディーがいる。悪いが、他を当たってくれ」
「……そうか。そりゃ残念だ。俺たちなら、てっぺんだって目指せたと思ったんだけどなぁ」
エリックはため息を吐きながら、首を左右に振る。
俺は申し訳ないと思いつつも、オリアナに視線を戻した。
オリアナは俺たちの功績を讃えてくれた。
仲間たちのお陰で今の自分がいると。
自分一人ではイスラールを倒すことは出来なかった。
この国が夜明けを迎えたのは、俺たちの力があったからと。
嬉しい言葉であり、思わず笑みが零れる。
彼女に信頼されて、彼女を信じて。
一緒に戦えた時間は、俺にとってかけがえのない思い出になった。
これから彼女は、レジスタンスの仲間たちや国民たちと共に未来を歩んでいく。
決して楽な道ではないだろう。
しかし、今の彼女には信じられる仲間が傍にいる。
俺たちも彼女の事を思いながら、平和の為に戦っていく。
場所は違えど、志は同じだ。
オリアナの演説は続いて、群衆たちは目に涙を溜めながら聞いていた。
そして、彼女は国民たちに最後の言葉を送ろうとしていた。
俺は笑みを浮かべながら、その言葉に耳を傾けた。
「もう誰も悲しまなくてもいい。もう誰も傷つかなくていい。モルノバはこれからも中立な立場で、平和を目指して他国へと働きかけていく。皆が愛したモルノバを、私は守っていく。愛すべき国民たちを私は全力で守る。お前たちの心を奪わせはしない。私にとってお前たちは家族だ……長くなってすまない。だが、最後にこれだけは言わせてほしい」
オリアナはマイクを手に持ちながら、最後の言葉を言おうとした。
その時に横にいたエリックが動いた。
俺は彼へと目を向けようとして――
「私はこの国を愛している」
「――本当に残念だよ」
火薬が爆ぜる乾いた音が響いた。
ゆっくりと進んでいく時間の中で、俺の目には一発の弾丸が飛んでいくのが見えた。
ゆっくり、ゆっくりと進んで――真っ赤な花が咲いた。
花火のように赤い液体が飛び散って、オリアナの体が震える。
目を大きく開きながら、黒光りする銃を握ったエリックを見る。
彼は大きく口を歪ませながら、笑みを浮かべていた。
オリアナはぼとりとマイクを落として、俺に視線を向けてきた。
その瞳は揺れ動いていて――ごほりと血を吐き出した。
「オリアナッ!!!!」
俺は彼女の元へと駆け寄る。
崩れ落ちそうになった彼女を抱きとめて、出血する箇所を押さえた。
しかし、血がどんどん溢れ出てくる。
彼女は血を吐きながら、その瞳の光を消していく。
俺は必死に彼女の名前を呼んだ。
死ぬな、死んでは駄目だ、これからだろう、まだ何も始まっていない。
意味も無い言葉を吐き続けて、ガタガタと震える手で彼女の胸を押さえた。
ごぼりごぼりと溢れ出す血。彼女の血で手は赤く染まって、それでも尚流れ続ける。
止まらない、止まらない、止まらない止まらない止まらない止まらない――何で、何でだよッ!!
全部、上手くいっていた。
イスラールの動向を調べて、レシピの奪取と工場の破壊を達成して。
国民たちの心に働きかけて、イスラールを打倒した。
オリアナはこれから女王として、この国を背負っていく筈だったんだ。
困難を皆で乗り越えて、未来を掴んだのに――何で何だよッ!!
怒りと悲しみに染まった目で笑みを浮かべる男を見た。
奴は髪をかき上げながら、一仕事終えたかのように息を吐く。
エリックを睨みつけるながら、どうしてこんなことをしたのかと言葉を放つ。
すると、彼は俺へと銃口を向けながら動くなと言った。
「言っただろ? 俺は勝てる方につくってさ。オリアナに勝てる見込み何てねぇよ。最初からその女は、俺やイスラールの手の上で踊らされていたんだよ。気づかなかったかぁ? 何でこんなにうまくいくのかって、とんとん拍子に、チャンスが巡って来るって――ほんとぉぉぉに気づかなかったのかぁぁ?」
にたりと笑いながら、エリックは俺を嘲る。
俺はエリックの本性を見ながら、オリアナを救う方法を考えた。
押さえても血がどんどん溢れ出てくる。
すぐに医者に見せればまだ助かるかもしれない。
傷を塞いで輸血をして、それで――
「あぁダメダメ。その女はもう死ぬよ。確実に心臓を撃ち抜いたんだ。現世人でも無いその女は此処でお終いなの。分かるか? その間抜けの人生は此処でしゅう」
「――黙れよ」
「……おぉ怖い怖い」
俺が黙れと言えば、奴は怯えたフリをする。
それを見ることなく、俺は呼吸が小さくなっていくオリアナを見つめた。
彼女の鼓動が弱くなっていく。
彼女のぬくもりが消えていっていく。
ダメだ。ダメだダメだダメだダメだダメだ――君には、やり残したことが。
その時、初めて気が付いた。
ある筈のものが無い違和感。
この場面で起こるべき事象が起こっていない事。
女王が撃たれたというのに、群衆から悲鳴が聞こえない。
いや、悲鳴どころか声すら聞こえなかった。
銃声を聞いて控えている筈の兵士が入ってくる気配もしない。
静かだ。静かすぎる。何で誰も何もしないんだ。
可笑しい。こんなのは変だ。だってそれは――
「よぉやくきがついたかぁぁ? そうさ。もうとっくにこの国の人間は――死んでんだよぉ」
「――」
エリックは高笑いを上げていた。
不快な声で笑い声を上げる男。
そいつが言った言葉は、すぐに理解できた。
俺たちが防いだと思っていた神薬の供給は、とっくの昔に終わっていた。
何も知らない国民たちはそれを飲んで、魂のデータを書き換えられた。
誰も声を発さないのではない。
声を発さないように命令されているのだ。
俺たちを見上げているのは、魂を消された元人間たちで。
この国の未来は、とっくの昔に――潰えていたのだ。
侍女たちは無表情で立っている。
その誰もが呼吸をするだけの人形になっていて。
この国にある筈の希望が、無くなっていることに気がついた。
オリアナを見れば、今の言葉が聞こえていたようだ。
彼女はテラスの隙間から見える国民たちを見ていた。
その誰もが無表情で、己の事を見つめている。
あんなにも嬉しそうに手を叩いていた人間たちは――既に心を壊されていた。
オリアナは涙を流す。
この国の未来を奪われ、国民たちを操りに人形にされ。
彼女がこれから作ろうとした国が存在していなかったことに涙を流していたのか。
ゆっくりと震える手でオリアナは俺の頬に触れた。
俺は彼女の手を握りながら、彼女を見つめた。
「……お願い……皆を、楽に……して、あげて……これ以上、彼らを、苦し……ませ、ないで……」
「オリアナ……良いのか」
彼女が言った願い。
その言葉の意味を俺は理解していた。
だからこそ、俺は彼女に問いかけた。
すると、彼女は辛そうな顔で笑みを作る。
「……救って、あげて……マサムネ……ごめん、な、さ……」
彼女の言葉は最後まで聞こえなかった。
ゆっくりと手から力が抜け落ちていって――彼女の目から完全に光が消えた。
彼女との思い出がフラッシュバックする。
初めて出会い、彼女から贈り物を貰って。
言葉を交わしながら互いに信頼を寄せあった。
彼女の傷を知って、彼女の願いを聞いた。
彼女は最期までこの国を愛していた。
優しさと暖かを持った女性で、彼女ならばモルノバを良い国にしすると本気で思っていた。
俺が信じた友は――死んだ。
エリックの笑い声が聞こえる。
ようやく死んだかと奴が笑っていた。
俺はオリアナの目を閉じさせて、手を結ばせた。
優しい彼女の寝顔を見てから、俺はゆっくりと立ち上がった。
エリックは銃口を向けながら、ニヤリと笑う。
俺は全ての感情が抜け落ちた顔で、奴をただ見つめていた。
「……アンタを此処で殺してもいいんだぜ。でもな、それじゃつまらないだろ? あるんだろ、自分ののメリウスが。持って来いよ。正々堂々、アンタと戦って殺してやるよ。俺こそが最強だって証明してやる。はははは!」
「……来い」
俺は強く念じた。
すると、遠くから強い力を感じた。
真っすぐにこちらへと向かってくる愛機。
その存在を感じながら、俺はテラスに身を乗り出した。
最後にオリアナの顔を見る。
彼女はもうこの世にはいない。
声を掛ければ、彼女から言葉が返ってきそうな気もした。
しかし、彼女は既に死に絶えた。
俺はゆっくりとテラスから身を投げ出した。
ゆっくりと地面へと落ちていく中で、水滴が上へと流れていった。
俺は強く唇を噛みしめてから言葉を送った。
誰にも聞こえる事の無い言葉だ。それを言い終えて、ふわりと何かが俺を持ち上げる。
凄まじい勢いで飛んできた愛機が俺を受けとめた。
そうして、コックピッドへと誘導した。
中へと入り込みバーが下がっていく。
操縦レバーを握りながら、俺はゆっくりと目を開けた。
《システムオールグリーン。おかえりなさいませ、マサムネ様》
「……全てを、終わらせる」
モルノバの上空で飛行しながら、建物を破壊して上がってきた数機のメリウスを見る。
心が驚く事は無い。ただ静かな水面の様で。
俺は言葉を発することも無く操縦を始める。
全ては彼女の願いを叶える為で――俺が全てを終わらせる。