【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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078:怒りの矛先

 自由行動を許されて、すぐに外へと出ていった。

 艦内を歩けば、嫌な視線を浴びることになる。

 以前までは話しかけてくれていた人間たちは遠巻きに俺を見ていた。

 ひそひそと言う話声が聞こえて視線を向ければ、蜘蛛の子を散らすように去っていく。

 艦内スタッフは勿論の事、傭兵たちからも同じように恐れられていた。

 

 覚悟していた事だ。

 こうなることは誰だって予想出来ていた。

 俺はそうなることを知っていて、モルノバを消滅させた。

 だからこそ、どんな目で見られようとも甘んじて受け入れる。

 

 中には話しかけてくる人間もいた。

 変わらずに俺と接してくれて、元気を出すように言ってくれる。

 しかし、どうしてモルノバを消滅させたのか気になるようで。

 我慢ならずに質問してくる人間も何名かいた。

 俺はへらへらと笑いながら話をはぐらかして去っていった。

 

 誰であろうとも気にはなるだろう。

 英雄なんて呼ばれてもてはやされていた男が。

 何故、そんな非道な行いをしてがしたのか。

 好奇心に負けて、聞きに来るのも無理は無いと思っていた。

 しかし、彼らがどんなに真実を知りたがろうとも、俺から話せることは何一つ無かった。

 

 歩いて、歩いて、歩いて、歩いて――ガチャリと扉を開けた。

 

 扉を開ければ潮風がすぅと吹いていく。

 久方ぶりに感じる海の匂いで、俺は少しだけ笑みを浮かべて歩いて行った。

 

 ゆっくりと甲板に出て、柵に手を掛けながら周りの景色を眺める。

 海鳥が鳴いていて、水平線の彼方をジッと見つめてみた。

 キラキラと宝石のように輝く海。

 波がざぁざぁと音を立てて船に当たり、水しぶきが小さく上がった。

 

 近くを白い翼の鳥が飛んでいって。

 水面を見れば、バシャバシャと魚が飛び跳ねていた。

 

 モルノバには海は無かった。

 何処までも続いていくような砂漠地帯で。

 海を知らないレジスタンスのメンバーもいた。

 本の中でしか知らない塩の味がする広大な水の世界。

 雄大な海の中を魚たちが泳いでいき、中には家よりも大きな生物もいる。

 レジスタンスの仲間たちはクジラの話をしても信じてくれなかった。

 俺は彼らに本物のクジラを見せたいと思って、何時の日か皆で見に行こうと言った。

 

 海を知らない砂漠の住人達。

 彼らは知らない世界に想いを馳せて、自由を求めて戦っていた。

 彼らは何時か海を見たいと言っていて……その願いはもう叶う事は無い。

 

 俺がこの手で、全てを消してしまった。

 二度と蘇る事は無い。二度と会う事は出来ない。

 思い出の中で生きている彼らを想像して、心臓がずきずきと痛くなった。

 胸のあたりを片手でギュッと押さえながら、俺は大きく息を吐いた。

 

「……忘れたい……でも、忘れたら駄目なんだろうな……この罪は一生消えない……」

 

 心を壊され人形にされてしまったのだ。

 オリアナはそんな住人たちの魂を救う為に、彼らの解放を願った。

 俺はその願いを果たす為に、銃口を向けてモルノバを消滅させた。

 しかし、彼らは元は生きている人間だった。

 命令されるまでは普通の人間のように振舞っていたのだ。

 

 涙を流し感動し、手を叩きオリアナを祝福していた。

 彼らは人間のように振舞っていただけの人形なのか。

 エリックはとっくの昔に彼らは死人になっていたと言った。

 つまり、酒場のマスターも串焼きを売っていた店の店主も。

 街を歩いていた住人達も、普段通りに生活する様にリプログラミングされていた人形だと言うのか。

 

 分からない。何も分からない……他に方法があったんじゃないかと思ってしまう。

 

 許される事じゃない。

 しかし、許してもらう気は無い。

 大勢の人間を殺し、大切な故郷を奪った罪を俺は背負っていく。

 例え、友人の最期の願いであったとしても、実行したのは俺だから。

 

 心臓を押さえながら呼吸を整えていく。

 暫く経てば、鼓動は収まっていって。

 俺は汗を拭いながら、ゆっくりと柵から手を離した。

 

 

「……何も言わないんだね」

「……何か言った方が良かったの?」

 

 

 背後から気配を感じて振り返る。

 すると、そこには缶ジュースを持って立っているショーコさんがいた。

 彼女はにへらと笑いながら俺の隣に立つ。

 そうして、冷えて水滴が浮かぶ缶ジュースを一本渡してきた。

 俺はそれを受け取ってからプルタブを開けた。

 

 かしゅっという音と共に、中からぶくぶくと炭酸が出る。

 中身はコーラであり、俺はそれを口に含んで飲んでいった。

 しゅわしゅわとした炭酸に、濃厚な甘みのコーラが喉を潤してくれる。

 口を離して息を吐く。そうして、ショーコさんにお礼を言った。

 

「……本物の人間にはなれそう?」

 

 ショーコさんは飲み物を飲みながら、俺に質問をしてきた。

 その質問に対して、俺は困ったような笑みを浮かべる。

 

「……どうかな。なろうと努力しているけど……まだまだ、なれない気がするよ」

「ふーん。そっか……でも、おじさんは前よりも人間っぽい気がするよ」

「……そうかな? 俺は一国を滅ぼした男だよ。とても人間だなんて」

「――悪い人ってね。罪悪感を持たないんだよ」

 

 俺の言葉を遮るように、彼女は言葉を発した。

 俺はそれを聞いて、口を噤んだ。

 そんな俺をチラリと見ながら、彼女は言葉を続けた。

 

「自分の行い全てを正しいと思っているから罪悪感を持たない……あーしが思う本当の人間はね。自分のやった事に責任を持てる人だと思うんだ。間違ったことをしたなら罪の意識を感じて後悔する……後悔して後悔して、その償いをしようとする人……正しくても、誰かからは批判されると思う。その批判を受けて、考えられる人が人間らしい気がするんだ……誰だって正しい事をしたい。でも、認められない事だってある。認められなくてもいい。でも、自分の行動や発言に彼らは責任を持っている……おじさんは自分の行動に責任を持っているから苦しんでいるんだよね」

「……全部お見通しなのかな。ショーコさんには敵わないな。はは」

 

 乾いた笑みを零しながら、俺はジュースをちびちびと飲む。

 ショーコさんから見れば、俺は本物の人間に映っているのか。

 それは嬉しい事で。目標に近づけたのなら、手を上げて喜ぶところだ。

 

 しかし、今は素直に喜ぶ事が出来ない。

 

 どんなに後悔して罪の意識を感じようとも。

 償えない事だってこの世にはあるのだ。

 本物の人間を名乗るには、俺の手は血で汚れ過ぎている。

 穢れきったこの手でまだ掴める物が残っていると言うのか。

 

 俺は自嘲的な笑みを浮かべながら、その場を去ろうとした。

 しかし、ショーコさんは俺の服を掴んで強制的に足を止めさせた。

 

「……これだけは覚えていて。私はずっっっっっと! おじさんの味方だから!」

「……ありがとう」

 

 俺はショーコさんの手を優しく握って手を放してもらった。

 そうして振り返ることも無く去っていく。

 

 甲板から出て、船の中に戻る。

 そうして、カツカツと音を立てながら歩いていく。

 途中にあったゴミ箱に缶を捨てて、俺は通路を右に曲がって――足を止めた。

 

 刺すような視線を背後から感じた。

 複数人の視線であり、約一名は殺気だっている。

 俺はゆっくりと振り返ってから出てくるように言った。

 

 すると、三人の男女が姿を現した。

 

 ショートカットの金髪をした青い目の小柄な女性。

 坊主頭の丸眼鏡を掛けた気弱そうなひょろ長い男。

 そして、中央に立つ浅黒い肌をした黒髪を角刈りにしたガタイの良い男。

 

「お前が、雷か?」

「……そうだ」

 

 俺が角刈りの男の言葉を肯定すれば、彼はぼきぼきと拳を鳴らす。

 そうして、顎をしゃくりながら付いてくるように言ってきた。

 殺気だっている男からは危険な臭いを感じる。

 このままついて行けばただでは済まないだろう。

 

 しかし、俺は男の言葉に従うようについていく。

 

 カツカツと通路を歩きながら、俺は男と共に歩いて行った。

 後ろから他の二名が付いてきてひそひそと話している。

 

「ま、まずいよ。見つかったらただじゃ」

「……言っても聞かないんだし。黙ってるしかないじゃない」

「で、でも」

 

 この三人の男女は見たことが無い。

 恐らくは、補充要員として港から入船した人間たちだろう。

 

 後ろの二人からは殺気を感じないが。

 この大柄の男からはずっと殺気を感じていた。

 彼が怒っている理由は、一つしか思い浮かばない。

 

 彼に掛けてあげる言葉なんて無い。

 慈悲を乞う事もしない。俺は彼がしたいようにさせるだけで。

 これから行われる事を考えて、俺は心を無にしていた。

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