【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
医務室での治療を受けて、ベッドの上で寝かされる。
一夜が明けて、俺が怪我をした事を聞きつけてトロイたちが慌ててやって来た。
何が起きたのかと聞かれて、俺は適当に転んだと言っておいた。
そんな嘘を信じられる訳がないけど。俺が本当の事を言わないのを理解して、アイツ等は渋々引き下がってくれた。
これからは出歩くときは、俺たちと行動しろと言われて。
俺はそれに理解を示してから、彼らと別れた。
ゴウリキマルさんは怪我が治るまで付き添おうとしてくれた。
しかし、彼女にも仕事があるだろうと俺は言って。
彼女を元の持ち場に返してから、こうしてゆっくりと寝ていた。
何時までも心配を掛ける訳にはいかない。
自分で出来る事は自分でしなければならない。
仮想現実世界での俺の体は、現世人と何ら変わりない。
死んだら生き返るだろうし、鎮痛剤もすぐに効く。
だからこそ、怪我をしたとしてもそれほど心配する事は無い。
治りが早く設定されているからこそ、放っておいてくれてもいい。
カチカチという時計の音が、白い部屋に響く。
カーテンをゆっくりと開ければ、誰もいない。
医務室に配属されている医療スタッフは席を外していて。
俺は一人でこの部屋を占領してた。
「……ちょっと痛むな」
一夜が明けても、怪我はまだ治っていない。
相当、深いダメージを負ったようで。
俺は痛む頬を摩りながら、ゆっくりと枕に頭を載せた。
白い天井を眺めながら、告死天使たちの言葉を思い出した。
奴らは、俺がゴースト・ラインに嵌められるというような言葉を言っていた。
世界の敵……具体的には、俺をどうやってそれに仕立て上げるのか?
国一つを滅ぼしたが、俺は未だに世界中の敵というほどではない。
疑惑の目は向けられているものの、首輪付きという条件がありながらも船を自由に移動できる。
公国の一部の人間からも不信感を抱かれているが、行動を起こされている訳じゃない。
そう、一部の人間しかまだ行動を始めていないのだ。
大きな罪を犯しても、世界の敵にはなりえない。
ならば、どうやって世界の敵へと変えるつもりなのか。
分からない。ゴースト・ラインの計画がまるで分からない。
「……そもそも、何で俺なんだ……魔神を倒したからか?」
何故、俺個人をターゲットに定めたのか。
障害となるものならば、俺個人ではなくU・Mや公国を狙うはずだ。
規模が大きすぎて不可能だと判断したのか。
いや、ゴースト・ラインが力を持っていることは知っている。
現に無人機を生み出して、一時的ではあるが戦局を大きく変えることが出来たのだ。
そんな奴らが、ターゲットを定める時に敵の大きさを考量するとは思えない。
この世界の支配権を手に入れるという目的に、俺という人間が必要なのか?
俺という人間を世界の敵にして、何かを成そうとしているのか。
しかし、いくら考えたとしても俺の立場を危うくすることと支配権を手に入れる計画が結びつかない。
まるで、雲を掴もうとしているような感覚だ。
見えている筈なのに、掴めないそれに悪戦苦闘している。
考えても考えても、ゴースト・ラインという組織の謎が深まるばかりだ。
もっと賢い人間であれば、違う考え方をするのか。
俺自身が情報を持っていたとしても、役に立ちそうにない気がした。
もっと他の誰かに……オッコやヴォルフさんに社長か?
彼等ならば、俺よりも柔軟な考えが出来る筈だ。
でも、今この段階では情報を共有できない。
問題なのはどのタイミングで、俺が持っている情報を渡すかだ。
出所を明かす事が出来て、裏取りが出来るのならして。
混乱を招かないように、適切に伝える必要がある。
だけど、俺の力では全てを完璧にこなすことは出来ない。
出来る事と言えば、情報をそのまま伝える事くらいだ。
探偵でも分析官でも無い。そればっかりは一般市民と何ら変わりが無いからな。
「……傭兵になった時から、変わったな……何もかも、変わっちまった……金儲けが最初だったな。それから色々あって……今じゃ世界を救うってか。知らない奴に話したら、信じてくれないだろうな」
昔を懐かしむように笑う。
そうして、もう少しだけ眠っていようと瞼を閉じようとした。
洗剤の匂いがする枕に頭を置きながら、意識を落としていこうとする。
その時に、扉が開かれる音が聞こえた。
俺は医療スタッフが帰ってきたのかと思った。
眠ろうとしたのを中断して、ベッドから起き上がる。
すると、カーテンを開けて現れたのはヴォルフさんであった。
「……楽にしていろ。怪我の具合はどうだ」
「あ、大丈夫ですよ。見かけはひどいですけど、そんなに痛みは――いつっ」
肩を回して元気だとアピールしようとした。
しかし、ずきりと痛みが走って思わず声を漏らしてしまう。
ヴォルフさんは眉を顰めながら、無言でじっとしていろと目で訴えかけてくる。
俺は乾いた笑みを浮かべながら、小さく謝っておいた。
「……その様子だと、本当の事を喋る気はないんだな」
「ん? 本当の事とは?」
「……そういう事にしておいてやろう……急ぎ伝えることがあって来た。WMからお前にホワイト・テンプルへの召喚命令が出た。モルノバの件で、お前にはテロリストの嫌疑が掛けられている。奴らは直接お前の口から釈明を聞きたいと言っている」
「……WMとは?」
「
ヴォルフさんから説明を受けて納得する。
そのWMから召喚命令が出たのなら向かわないといけないのか。
俺がそれを質問すれば、彼は静かに頷いた。
「……基本的には召喚命令が出されれば、如何なる理由があるとも出なければならない……だが、マサムネ。お前は出ない方がいい」
「出ない方が良い? 何でですか?」
「……恐らく、WMが動き出したのには理由がある。奴らは近年は目立った活動をしていない。だからこそ、世界的に見てもその存在を軽視されている。市民の中には、必要が無いと言っている者までいる……奴らにとって、お前は格好の獲物だ。モルノバを消滅させた大罪人を裁くことによって、奴らは自らの権威を復活させようとしている。召喚命令といえば優しく聞こえるが、一度出たが最期。お前の話を聞くことも無く、奴らは自分たちが保有する権力を使ってお前を裁くだろう……今、我々は何とか時間稼ぎをしているが。それも長くは続かないだろう」
ヴォルフさんはWMの危険性を教えてくれた。
奴らの召喚に応じれば、俺の人生は終わってしまうと。
仮想現実世界で裁判を受けて極刑を言い渡されればどうなるか。
この世界の刑務所で一生を過ごす事になるか、仮想現実世界から永久追放されるか。
何方にせよ、俺にとっては最悪の結末だろう。
ヴォルフさんたちはそうならない為に、手を回してくれていた。
しかし、それもどれだけ続くかは分からないと言う。
どうすれば、この危機的状況を回避できるのか。
俺が黙ったまま考えていれば、ヴォルフさんはゆっくりと口を開く。
「……一つだけ手がある。お前の首の皮を繋ぐ、唯一の方法だ」
「それは、何ですか」
「……三日待ってくれ。それまでは言えん……だが、きっとお前の助けになってくれる筈だ」
「俺の助けに?」
ヴォルフさんは、安静にしてろと言って去っていく。
彼がいなくなった部屋の中で、俺はゆっくりと自分の手に視線を向けた。
「……俺の助けに……ヴォルフさんは、何をしようとして……」
ヴォルフさんの事は信じている。
彼ならば、本当に俺を救う手を打ってくれる筈で。
三日待てと言ったのは、その手を打つために準備が必要だからか。
一体、俺の身はどうなるのか。
新たな脅威に不安を覚えながらも。
仲間からの救いの手に希望を抱く。
何もしなくても時間は過ぎていき、俺の運命も近づいてくる。
近づきつつあるそれを考えながら、俺はギュッと拳を握りしめた。