【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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083:ドッグファイト

《敵メリウス多数確認。距離約5000――ターゲットロック》

 

 AIからの声を聞きながら、操縦レバーを操る。

 前方から二機、左右から合計七機のメリウスが迫る。

 その機体は帝国軍の量産型であるイーグルであった。

 

 ネイビーの機体は両手にライフルを携行している。

 左側には標準装備のシールドが取り付けられていて。

 大型のランドセルから延びるノズルから勢いよく推進剤を噴射していた。

 格子状のマスクは威圧的であり、その単眼センサーは赤く光っている。

 

 俺は隊列を離れて先行する。

 俺を視認した敵は慌ててライフルを構える。

 しかし、構えている間に俺は更に加速した。

 勢いよく加速して、器用に二機の合間を潜り抜けて行く。

 

 全身に感じる圧力、そして心地の良い音。

 ぐんぐんと迫って来る敵や遠ざかっていく景色。

 そして、視界一杯に広がる大空――最高だ。

 

 俺を追いかけようとしてきた敵たち。

 恐らくは、俺の機体を見て雷であると確信したのだろう。

 帝国軍人にとって雷という傭兵は、殺せば破格の待遇でも約束されているのか……知らねぇけどさ。

 

 ペダルとレバーを操作する。

 そうして、機体を急停止させた。

 逆噴射によって機体をピタリと止めて、驚いているであろう敵に向き直る。

 迫って来た三機の敵は散開して、死角を狙おうとしてくる。

 

 飽きるほど見てきた行動パターンであり、俺は一機に狙いをつけて加速した。

 量産型であれば、機動力で負ける事は無い。

 短距離ブーストを繰り返して機動力を底上げしていたが、俺はそれを読んだ上で背後にピタリと張り付く。

 

《は、速いッ! くそ、何で追いつけるんだッ!?》

「……」

 

 レイジング・ソルを構える。

 そうして、ターゲットへのロックオンを完了させて――引き金を引いた。

 

 銃口から勢いよく赤熱する弾丸が放たれた。

 弾が胴体部分に命中すれば、触れたところが真っ赤に輝きドロドロに溶けた。

 凄まじい熱量であり、貫通力は段違いであると言えた。

 敵の通信を自動で傍受してしまう。敵は短い悲鳴を上げて墜落していく。

 すると、怒り狂った別の敵が俺へと攻撃を加えようとしてきた。

 

 命知らずの連続ブーストであり、奴は俺の背後を取ってきた。

 ロックオンも完了しており、イーグルの胸部装甲が展開。

 そこから無数の小型ミサイルが放たれて――俺は小さく笑った。

 

《取った――はぁ!?》

 

 至近距離から放たれた小型ミサイル。

 俺はそれを見ることなく機体を操作して更なる加速に挑んだ。

 敵たちを置き去りして迫りくるミサイルを回避していく。

 近くでミサイルが爆ぜて、音がすぐに遠ざかっていく。

 機体を激しく回転させながら飛行して、残った弾を背面飛行状態での射撃によって打ち払う。

 

 雷切の軌跡をなぞるように黒煙が上がる。

 敵のパイロットはあの状況下で全てのミサイルを回避した俺に驚いたような声を上げていた。

 しかし、戦場で一々驚いていられるほど暇な人間はいない。

 

 俺は単調な動きになった敵に狙いを定めた。

 そうして、放物線を描くように進路を変えて。

 一気に加速して敵に迫る。

 鬼気迫るような声で銃を乱射する兵士。

 その弾丸を紙一重で回避しながら突っ込んで、交差するタイミングで背部に弾を撃ちこむ。

 

 数発の弾丸が命中し、敵のランドセルから爆炎が上がった。

 上半身と下半身が別たれたイーグルは、単眼センサーから光を消して落ちていく。

 これで二機であり、敵の大半は俺へと狙いを定めてきた。

 

 敵が散開しながら四方八方から弾丸を放ってくる。

 未来視を発動させて、その全ての機動を予測する。

 隙間を縫うように飛行して、隙が出来た敵を落としていく。

 

 敵の数は瞬きの合間に減っていく。

 

 戦っている人間は俺だけでは無いのだ。

 注意を俺にばかり向けていれば、隙が生まれた敵を仲間たちが落としていく。

 乱戦状態になった戦場で、敵味方が入り乱れて飛行する。

 弾丸が飛び交う音に、けたたましい破壊音。

 黒煙が広がる空中に、地上からショーコさんたちの支援砲撃が上がってくる。

 彼女たちの主砲から放たれる対空砲弾が、無慈悲に敵を爆散させていく。

 コックピッドからは太鼓でも叩いているかのような音が聞こえてきて、振動で空気が揺れていた。

 

 イサビリさんの指示は精確であり、確実に敵の数を減らしていく。

 数の方は向こうが多いように感じたが、全くハンデに思えない。

 規則正しい軍人の戦い方は見ているだけで勉強になる。

 お手本のような空中戦を披露する彼女たちに敬意を表しながら、俺は遊撃役として存分に力を振るった。

  

 一機、また一機と敵の数を減らしていく――俺は笑みを深めた。

 

 殺しを楽しんでいる訳じゃない。

 敵であったとしても彼らは生きている。

 彼らの帰りを心配する家族もいるし、愛する人だっているかもしれない。

 俺はそんな人間たちを蚊を叩き落とすように落としていっている。

 命だったものが地面に転がっているのだ。

 

 でも、俺は後悔しない。

 

 例え人間を殺したとしても、俺は笑みを浮かべ続ける。

 相対して銃口を向け合ったのなら、例え殺されようとも文句を言う資格は無いから。

 だから俺は、命の取り合いだろうとも笑って実行するだけだった。

 

《……すげぇな。アイツは本物ですよイサビリ中尉》

《……敵の士気が落ちている。残党を狩るぞ》

 

 敵の死体をどんどん作っていけば、傍受した回線から敵の声が聞こえた。

 

 悪魔、化け物、死神――散々な言われようだった。

 

 しかし、この状況は好都合であった。

 公国軍人となって初の仕事だ。

 敵を落としていくだけであったら、俺以外でも出来てしまう。

 このまま残党を狩っていってもいいが、それだけでは足りない気がした。

 

 恐らくは、今来ている敵を落としてもまた次がある。

 次から次へとやって来ては、攻撃をちびちびと続けるのだろう。

 そうなれば、此方としても溜まったものじゃないだろうな。

 

 俺は逃げよとしている敵を見つけた。

 センサーを光らせながら、敵との距離を詰める。

 背中を見せて泣き声を上げながら逃走を図る敵。

 一気にペダルを踏みこんで加速する。

 姿勢制御システムによって空中で体勢を整えて足を突き出し――敵の胴体を蹴りつける。

 

 凄まじい加速によって砲弾と化した一撃だ。

 めきゃりと音を立てて相手の装甲がぐにゃりと歪む。

 そうして、敵の胴体は粉々に砕け散って、ひらひらと地面へと落下していった。

 敵は益々、俺に恐れを抱いて敵の前であろうと関係なく逃げ出している。

 

 俺は方針を定めた。

 戦う意思のある人間は一旦放置する。

 逃げようとする敵を優先的に落としていこう。

 

 敵の心を折る方法を考えてみた。

 すると、逃げようとしている敵を優先的に潰した方が効率が良い気がした。

 戦う意思のある奴を先に潰したところであまり意味は無い。

 逃げようとしている奴を潰してから、その後に戦えばより多くの敵を倒せる。

 もしくは、戦う意思が残っていた人間の戦意を奪う事が出来るかもしれない。

 

 兎に角、奴らに次なんて与えてはいけない。

 逃げる奴らはこの先も戦いに参加する事はないだろう。

 問題なのは戦意がある方であり、戦っても逃げ道はないぞと教えなければならない。

 

 弾を節約するために、加速によって重みを増した蹴りで逃亡者を屠っていく。

 ドスンとコックピッド内に衝撃が走る度に、命を消していると嫌でも実感してしまう。

 どんなに戦いになれようとも、こういう直接的な感触だけはどうも慣れない。

 しかし、贅沢を言えるほどの身分の人間でもない。

 

《や、やめ――アァァ!!?》

「……」

 

 スクラップにする度に敵の声が聞こえてくる。

 通信を切るべきかとも思ったが、重要な事を話すかもしれない。

 情報とは何よりも重要な物であり――何かが来るな。

 

 凄まじい速さで迫って来る敵の気配。

 センサーによって視認したそれは特殊な改修が施されたであろうイーグルであった。

 ランドセルがある位置にはゴテゴテとした大型の推進ユニットが取り付けられている。

 中量級の装甲にしては明らかに削っており、どうみても軽量級の装甲密度であった。

 グレーのカラーリングに鬼の角の様に中心部に取り付けられたブレードアンテナ。

 凄まじい速さで飛ぶそれから、とてつもないプレッシャーを感じる。

 

 通信を傍受して、敵の怒声がコックピッド内に響いた。

 

《この悪魔めッ!! 仲間の仇を取ってやるッ!!》

「威勢がいいじゃないか――堕とし甲斐があるよ」

《ほざくなァァ!!!》

 

 敵の砲身が俺に向けられる。

 身の丈ほどありそうな長大なバズーカランチャーだ。

 スコープ越しに俺を睨みつける敵。

 放たれたのは高密度のプラズマ弾であった。

 勢いよく弾が飛んでいき、それを俺は難なく回避した。

 

 プラズマが爆ぜて周りへと電流が流れる。

 まるで、落雷でも発生したかのような威力で。

 俺は冷や汗を流しながら、こいつはもしかしてと思った。

 

 スラスターを噴かせながら飛行する。

 すると、奴は俺を追って凄まじい機動力を見せつけてきた。

 

 間違いない。こいつの狙いは――俺だ。

 

 イーグルを無理やりに改修させて高機動型にさせたのか。

 ブーストする度に奴の機体から爆音が鳴る。

 機体が悲鳴でもあげているように感じるのは俺の気のせいなのか。

 

「猿真似したって追いつけないよ」

《――お前は、此処で、堕とすッ!!》

 

 プラズマ砲の砲身を構えながら、奴は遠慮なしに砲撃してくる。

 一発一発の威力は大したものであり、アレを喰らえば一たまりも無いだろう。

 パイロットは鬼気迫る声で、俺への殺意を滾らせていた。

 

 鉄槌で頭蓋を砕くエンブレム……恐らくは名付きだろうなぁ。

 

 試すような機動で飛べば、敵はピタリと追随してくる。

 久しぶりの強敵であり、俺は笑い声を上げた。

 楽しい、楽しい、楽しい――やっぱり戦いはこうじゃなくちゃな!

 

「ついてこい。もっと飛べるんだろ」

《――舐める、なァァ!!》

 

 プラズマ砲の弾を避けながら、レイジング・ソルを放つ。

 敵は器用に俺の攻撃を避けながら、短距離ブーストによって距離を縮める。

 心の中の警鐘が鳴り響いており、俺はペダルを強く踏んだ。

 

 歯を食いしばりながら、全力の加速を耐える。

 意識が飛びそうになりながらも耐え抜いて。

 敵へと弾丸を放って牽制をした。

 

 弾幕を張る事によって相手の動きは鈍くなる。

 それを確認しながら、俺は急旋回をして相手の追跡を振り切ろうとした。

 しかし、相手は意地でも俺を離さないつもりらしい。

 

 くぐもったような声を漏らしながら、奴は俺の軌跡を辿って来る。

 言葉を交わさなくても理解できる。

 奴には間違いなく俺に対しての”執念”を持っていた。

 

 空中での激しいドッグファイト。

 名も知らない帝国軍人は、執拗に俺を追いかけてくる。

 風のバリアが前方に展開されて、音速の世界で俺たちは踊る。

 

 追ってくるのなら相手をしてやる。

 名付きを殺せば、相手の士気は一気に下がるだろう。

 俺は歯を食いしばりながら、暴れ馬を器用に操る。

 底の見えない相手の殺意を肌で感じながら、俺は限界を超えて飛翔した。

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