【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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084:灰色の獣は牙を剥く

《敵メリウスの出力向上。更に速度を上げています》

「限界が無いのか。中々に――面白いなッ!」

 

 ガタガタと揺れるコックピッド内。

 背後から猛追してくる高機動型のイーグル。

 風を切り裂き飛翔する鷹は、眼を鋭くさせながら狙いをすませていた。

 

 高機動型イーグルからの砲撃。

 それを機体を左右に揺らしながら回避する。

 激しいスパークと共に機体に電流が流れた。

 計器に異常は無くシステムにも問題は無い。

 

 互いに上空でブーストしながら、一歩も引かない。

 爆発音と共にイーグルは加速して俺を追いかけてくる。

 ロックオンされないように俺は変則的な機動によって相手のセンサーを狂わせる。

 

 直角に曲がれば、体全体に強烈な負荷が掛かる。

 減速する事無く曲がれば、相手も同じ軌道で飛んできた。

 ジャミングを起こしながら傍受した通信からは、敵のうめき声だけが聞こえる。

 碌な対Gスーツも着用していないのだろう。

 機動力だけを高めて、装甲すらも削っている。

 アレは明らかにパイロットの命を考えていない改修機体だ。

 

 身を削ってでも、俺に追いつこうとする心――気に入った。

 

 更にペダルを踏みこめば、周りの景色が一気に流れていく。

 すれ違う敵たちは風の衝撃波で姿勢を大きく乱して。

 地面へと降下して地面スレスレを飛行しながら、背面飛行状態で敵にライフルを向ける。

 

「これでも、ついてくるかッ!」

 

 手動操作によってターゲティングをして弾を放つ。

 空薬莢が排莢されて、赤熱する弾丸が敵へと飛来する。

 敵は赤い単眼センサーを光らせながら、その全てを紙一重で回避した。

 いや、紙一重なんてものじゃない。

 軽く装甲を撫でて、爪痕を残しながらも真っすぐ飛んでくる。

 スピードを一切緩めることなく、全力で前進してくるのだ。

 

 イカれている。真面な人間ではあんな操縦は出来ない。

 狂った思考に、神懸かり的な操縦テクニック。

 名付きとして技量は申し分なく、今まで出会った敵の中でも指折りの実力者だ。

 

 連続ブーストによって加速した敵。

 間合いを詰めてバズーカの弾を放ってきた。

 俺は九十度機体を旋回させて、スレスレでプラズマを回避した。

 しかし、プラズマの一部が機体に触れて左足に被害が出た。

 

《電気系統に軽微のダメージを確認。左足へのエネルギー供給率が三十パーセント低下》

「三十だって? 恐ろしいな」

 

 少し触れただけでこの威力か。

 警戒度を跳ね上げあげながら、敵を注意深く観察する。

 爆発音を立てながら、勢いよく推進ユニットのノズルから炎が上がる。

 センサーによるサーチによって、敵の腕部にダメージを確認した。

 アレだけの高出力のプラズマを放つ武装だ。マニュピレーターに掛かる負荷は相当なものだろう。

 

 機体への負荷は恐らくは俺の想像以上で。

 パイロット自身にも、命を削るほどの重力が掛かっている筈だ。

 俺は敵の執念に冷や汗を流しながら、ニヤリと笑う。

 

 障害物を避けながらの地面すれすれの飛行を止める。

 そうして、機体を垂直に上昇させた。

 体に大きな鉛でも括りつけられたかのように、下へと大きな力が掛かる。

 AIはすぐにパイロットへの負荷を軽減する為に機体内の圧力を調整した。

 俺の機体は最新の技術によって作られて、ある程度の負荷は軽減できる……お前は強いな。

 

 機体から悲鳴を上げながら、奴は無理な機動で追ってくる。

 ここまで俺に付いてこれるのはこいつが初めてかもしれない。

 根性なんて曖昧な言葉では片づけられないほどの執念を感じる。

 戦う時間が長引けば長引くほど、奴からのプレッシャーが増していく気がした。

 

 俺は心臓の鼓動を早めながら、心地いい緊張感に身を任せる。

 その間にも、計器から警報音が鳴ってロックオンされそうになっていると俺に教える。

 俺はうるさい警報をAIに切らせて、戦いにだけ集中した。

 

 敵はロックオンサイトを固定して、確実に俺を仕留めようとしてくる。

 じりじりと距離を詰めていきながら、俺の心臓を穿とうとしているのが分かった。

 

 

 だが、そう簡単には――狙わせないッ!!

 

 

 機体を更に加速させて上昇させる。

 景色が瞬きの合間に流れて、コックピッド内がガタガタと揺れる。

 仲間たちから離れて、単独にてこいつの相手をしている。

 だが、相手も俺にしか興味が無い様子であり、後ろから追いかけてくる。

 相手のロックオンが固定化されそうになっていると感じた。

 死神が足音を立てて近寄って来るのを感じながら、俺は目を細める。

 

 こいつは此処で終わらせる。

 他の人間なんてどうでもいい。

 こいつほどの腕と精神力がある人間に次の機会を与えてはいけない。

 歯を食いしばりながら、笑みを深めて俺は暗雲に目を向ける。

 

 厚い雲の中へと突入する。

 ゴォゴォと音を立てながら、雲の中を翔けていく。

 視界が不良になり、後ろの敵の姿も見えにくくなる。

 奴は雷切へと接近しながら、ゆっくりと引き金に指を掛けている事だろう。

 俺は態と速度を落としながら、奴からの攻撃を待つ。

 

 

 待って、待って、待って、待って――見えたッ!!

 

 

 未来予知により、数秒後にプラズマ砲が放たれた未来が見えた。

 俺はスラスターを一気に逆噴射させた。

 体全体に重力が掛かり、骨が軋み俺は強く歯を食いしばった。

 その直後に、イーグルからプラズマ砲が放たれる。

 しかし、俺が急停止する事を予想できなかったのか。

 プラズマ砲は俺の機体を軽く掠めて――空中で爆ぜた。

 

 凄まじい電流の波が辺りに迸る。

 バチバチと視界が激しく点滅して、敵からうめき声が聞こえた。

 

 タイミングは良かったが、腕を軽く掠められてしまった。

 右腕へのエネルギー供給率も低下してしまった。

 しかし、この結果であれば問題ない。

 

 センサーが動作不良になり、己の勘だけが頼りになる。

 見失ったかのように見えた敵の機動を予測する。

 俺は自らの勘を信じて操縦レバーとペダルを操り連続ブーストを行う。

 

 爆発的な加速により、機体は流れるように電流の中を移動した。

 視界不良の中で一瞬だけ敵のシルエットが見えた。

 俺はそのシルエットに目掛け弾を連射した。

 バラバラと弾が発射されて薬莢が飛ぶ。

 一直線に飛んでいった弾は、精確に敵を穿ち――爆発四散させた。

 

 爆風が吹き荒れて、黒煙と共に砕け散ったパーツが落ちる。

 しかし、今までの経験から違和感を抱いた。

 

 

 明らかに衝撃が”軽過ぎる”のだ。

 

 

「――!!」

 

 

 俺の脳内に電流が走る。

 ほぼ直感で下へ一気に降下していく。

 すると、横合いから何かが飛び出してきた。

 

 煤を被って少しだけ黒くなったイーグル。

 右足を半ばから失って、尚も飛行する猛者。

 それが俺の前で腕を広げながら飛んでいた。

 

 雲を切り裂き地面へと向かえば、眼前に堕とした筈のイーグルが迫って来る。

 奴はギラリと単眼センサーを光らせながら、限界を超えた機動を見せてきた。

 雷切の降下スピードを上回り、奴が俺の機体を両手でがっしりと掴む。

 その手には持っていた筈のバズーカランチャーを持っていない。

 

「まさか、さっきの手応えは」

《そうさ。囮だ。お前を油断させる為のな……地獄で会おうぜ》

 

 奴は更に速度を上げてきた。

 もう地面まではすぐそこであり、俺は何とか奴の拘束を解こうとした。

 高機動型のイーグルの大型推進ユニットからは煙が出ている。

 急造品の推進ユニットは既に限界を超えているのだろう。

 だからこそ、此処で俺を確実に仕留めようとしている。

 

 地面へと激突させて自分もろとも殺すつもりか。

 大した覚悟であり――俺は声を上げた。

 

 

「ショーコッ!!」

《あいあーい!》

 

 

 相手は気が付かなかっただろう。

 前線を離れたように見せかけて、地上のタンク部隊の射程圏内を飛んでいたことを。

 俺の仲間の中には、射撃の腕がめっぽう強い女傭兵がいる。

 彼女は俺の意思を感じ取って、遠方より砲撃を仕掛けた。

 

 風を切り裂いて飛来した対空砲は、奴の上半身を抉り取る。

 腕も一緒に飛び散って、俺の拘束は緩んだ。

 その瞬間に俺は一気にレバーを引いて体勢を持ち直そうとした。

 

 ぐんぐんと地面が近づいてくる。

 迫りつつある沼地を視界に入れながら、俺は強くレバーを引いた。

 コックピッド内が激しく揺れて、体が強く引っ張られる。

 根性でそれに耐えながら、何とか機体を――持ち直す。

 

 寸での所で機体が上昇して、ギリギリで地面との接触を回避する。

 持ち上がった機体に内心でホッと胸を撫でおろして。

 パラシュートを開いてゆっくり降下していく名付きの帝国軍人を見た。

 センサーを起動して顔を見れば、顔半分が焼けただれた短い金髪に鋭い青い目をした男だった。

 がっしりとした軍人らしい顔つきの男は俺をジッと見つめながら中指を立ててきた。

 このまま奴を殺しておいてもいいだろう。

 しかし、奴を守る為に残存する兵士たちが集まって来る。

 

 パラシュートを切り離して、生き残った兵士の機体に潜り込んだ男。

 回収された男はそのまま戦場を離脱していく。

 奴を守る為にしんがりを引き受けた三機のイーグル。

 それをジッと見つめながら、またあの男とは戦う事になるのだろうなと思っていた。

 

 ~~

 

 公国軍人としての初の戦闘が終わった。

 帰って来れば仲間たちにおかえりと言われてしまって。

 俺は照れくささを感じながらも、彼らにただいまと言って帰還した。

 

 その後は、ガードナー軍曹から呼び出されて酒盛りが開かれる。

 仲間たちは肩を組んで歌を歌いながら、酒を浴びるほど飲んでいた。

 俺もガードナー軍曹からどんどんジョッキに酒を注がれて。

 顔から火が出るほど酒を飲まされながらも、まだ辛うじて意識を保っていた。

 

 何度も何度も酒を飲まされ続けて耐性でもついたのか?

 

 あまり嬉しくない特殊能力で。

 俺は裸になって踊っているガードナー軍曹を冷めた目で見ていた。

 隣には珍しくイサビリ中尉が座っている。

 何時もの彼女ならそそくさと何処かへ行くか、ガードナー軍曹たちを叱るかだろう。

 それなのに、今日は黙って座って酒を飲んでいた。

 

 すらっとした背に、長い黒髪を一つに結んでいて。

 鋭い眼差しで回りを見る彼女は、本で見た武士の様であった。

 規律に忠実でマクラ-ゲン中佐を心から敬愛している彼女。

 上司としては品行方正で、間違ったことは決して言わない。

 理想的な上司と言えるし、今日だって俺を気遣って注意をせずに黙っていてくれているのだろう。

 頬を薄っすらと赤く染めながら、涼し気な顔でスピリタスらしきものを飲むイサビリ中尉……強すぎないか?

 

 隠れ酒豪の存在に内心で怯えていれば、彼女はチラリと俺を見てきた。

 

「……今日の戦闘。お前はどう思っている」

「……えっと。帝国って思っているよりも兵士がいるのかなぁって……違います?」

「……その疑問は正しい。奴らは頻繁に兵士を戦場に送っている。小規模な戦いが、四六時中起こっているのだ……意味の無い戦いで、帝国はいたずらに兵士を死なせている……お前は現世人だったな。撃墜記録は確認できるか」

「え、あ、はい。出来ますけど……それが何か?」

「……名前を憶えておけ。疑問が少しは解ける筈だ」

 

 イサビリ中尉はそれだけ言って黙ってしまう。

 撃墜記録には知らない名前ばかりが載っている。

 これを覚えておいて何か得があるというのか?

 

 疑問は大いにあるものの、上官がそう言うのなら従う他ない。

 俺はゆっくりと指をスクロールさせながら、今回撃墜した敵の名前を見ていく。

 全部で十五機以上の敵を撃墜しており、憶えるのは一苦労だろう。

 

「……こんなに殺したのか」

 

 ぼそりと呟いた言葉。

 しかし、俺の言葉に反応してくれる人間はいない。

 イサビリ中尉は遠くを眺めながら静かに酒を飲んでいた。

 

 ガードナー軍曹たちの笑い声や手拍子が聞こえる部屋の中で。

 そっと頭の上に何かが乗った。

 チラリと見れば、イサビリ中尉が俺の頭に手を置いていた。

 彼女はぴくりとも表情を動かすことなくぼそりと呟いた。

 

「……今日の戦いは見事だった……上出来だ」

「……ありがとうございます」

 

 不器用な上官からの労いの言葉。

 それを受けながら、俺は小さく笑う。

 船から離れて、公国軍人となった今。

 俺の仲間は此処にいる公国軍人たちで。

 この人たちの為にも、おれはもっともっと戦わなければいけない。

 

 誰一人として死なせない為に――より多くの敵を殺す。

 

 ゴースト・ラインの動向も気になるが。

 今は自分の身の安全を確立させなければならない。

 公国軍人として活動していけば、それなりに自由も与えられる筈だ。

 世界全体から見た自分の脅威度を下げながら、此処で戦っていくしかない。

 

「…………将校になりたいな」

「自惚れるな」

 

 自分の願望が口から漏れ出した。

 そんな俺の頭を軽く叩いて、イサビリ中尉は席を立つ。

 踊っているガードナー軍曹の前に立ち刀を抜きながら、その切っ先を軍曹の首に当てていた。

 だらだらと冷や汗を流しながら両手を上げている軍曹。

 

 ゴースト・ラインの企みには注意をする。

 奴らの計画を阻止するためにU・Mのメンバーたちは動いているのだ。

 きっと何かが分かれば俺にも連絡が来る筈だ。

 

 今はその時が来るまで自分の爪を研いでおこう。

 俺は戦いから離れる事は出来ない。

 ゴースト・ラインも告死天使も――俺を放っておいてはくれないだろうから。

 

「…………戦いって終わるのかな」

 

 ジョッキに注がれた酒を見つめる。

 氷が浮かび無色透明の液体がきらきらと輝いていて。

 嫌な事を忘れさせてくれる魔法の水は、戦場では大人気なんだろうと俺は思っていた。

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