【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
異変に気が付いたのは、初仕事から一週間後の事だった。
イサビリ中尉達と共に、再び前線に現れた敵のメリウスを迎撃しに向かった後。
多くの敵を撃墜して一息ついた後に、何となくイサビリ中尉からの言葉を思い出して。
撃墜記録を確認してみれば、奇妙な現象が起こっていた。
撃墜リストには、何人もの”同じ名前の人間”が記録されていた。
何かの間違いではないかと思った。
しかし、イサビリ中尉が意味も無くあんな発言をするとは思えない。
だからこそ、真相を知る為に俺はイサビリ中尉の元に向かった。
彼女の部屋をノックして入室すれば、そこに運の良い事にマクラーゲン中佐も同席していた。
俺は覚えたての敬礼をしつつ、彼女に着席の許可を貰う。
そうして、イサビリ中尉の隣に座りながら、彼女に目を向けて奇妙な現象の事を話した。
すると、イサビリ中尉はマクラーゲン中佐に目を向ける。
話しても良いかの確認を取ったのか。
中佐は静かに頷いて、中尉は俺に目を向けて言葉を発した。
「……ここ最近の出来事だ。敵が前線に兵を投入してから、不思議な事が起きている。我々もつい最近知ったが、現世人の兵士から聞いた話によると同じ名前の人間と何度も戦っていると言っていた。その話を聞いて、最初は戦った相手が現世人だったんじゃないかと考えた。だが、それは違う。理由はお前が一番よく知っているだろう」
「……現世人を撃墜した時は、記録に出る時に黒字で表示されます……今回、撃墜した人間は全員赤字で記録されています……システムに異常が無いのなら、俺はこの世界の住人を撃墜したことになります」
「そうだ。その男も赤字で表示されていたと言っていた……つまり、死人が蘇っている事になる」
死人が蘇ったという話なんて聞いたことが無い。
現世人であるのなら復活は容易いが、間違ってもこの世界の住人にそんな機能はついていない。
一度しかない命であり、死んだらそのまま天に召されるだけ。
それなのに、死んだ筈の人間が復活して再び戦場で戦っている……考えただけでもゾッとする話だ。
あり得ないと断言したいところ。
しかし、現実にはそれが起こってしまっている。
死人は蘇って、俺たちの前に姿を現したのだ。
俺は考えた。
そんな事が出来る奴らがこの世にいるのか――1つだけ心当たりがある。
それは、ゴースト・ラインだ。
奴らはマザーの管理権限の一部を利用することが出来た。
心を自分たちの思うがままに作り替えて、魂の無い人形に作り替えたのだ。
いや、魂の無い人形であるのならまだ見分けは付く。
奴らは、人間のように動くことが出来る精巧な人形を作れるのだ。
洗脳ではない。魂そのものの創造と言っても良い。
人間が決して出来ない御業を奴らは俺に見せつけてきた。
まるで、自分たちがこの世界の神にでもなったかのように。
俺は考えた。此処でゴースト・ラインの情報を二人に開示するかどうかを。
公国軍人となった今、二人は俺に最も近い仲間と言える。
しかし、この二人は軍人で、その仕事は国の防衛が基本だ。
ゴースト・ラインの事を話したところで、国に危険が及ばなければ……いや、でも今回のケースは違う。
正確に言えば、今回も前回も公国は深く関わっている。
ゴースト・ラインは帝国に深く関わっていて。
奴らは自分たちが作った無人機を帝国に流し、公国に多大なる不利益を与えた。
国土を侵略されて大勢の人間も死んだ。
そして、今回の死者を蘇らせて前線に再投入する事例。
これも放っておけば、公国に再び危機を招く事態になるのではないか?
こう考えれば、公国は嫌でもゴースト・ラインを壊滅させたがるのではないか。
目の上のたん瘤のような存在であり、潰しておけるのなら早めに潰しておきたいだろう。
情報を伝えるのなら、彼女らは信用に足りるのではないか。
「……マクラーゲン中佐。俺はこの現象を引き起こしているのがゴースト・ラインじゃないかと思っています」
「……理由を聞いても良いですか?」
俺は悩んだ。
モルノバで俺たちが突き止めた狂った実験を伝えるべきか。
如何に公国が何度もゴースト・ラインから痛手を喰らわされたとして。
公国内部にゴースト・ラインに通じている人間がいない保証は無いのだ。
もしも、この話が公国内部に広がって奴らが身を潜めるようになればどうなるか。
ただでさえ尻尾を掴むことも難しい奴らだ。
本気になって隠れられでもしたら、如何に優秀なU・Mの諜報班でも調査が困難になる。
実験記録を知っているのはU・Mの人間たちくらいだ。
ゴースト・ラインは自分たちの実験が世に広まっていないから活動を続けている。
俺自身が口を割らないのも、奴らは理解していたのだろう。
告死天使は……知っているだろうな。
何処から情報を知り得ているのかは謎だ。
しかし、奴らはU・M以上に奴らの事に詳しい。
俺たちが知り得ない情報も持っていたのだ。
だが、奴らはほぼ傍観者に徹している気がする。
俺を仲間に引き入れようとしてきたが、無理やりという訳でも無い。
告死天使は俺が自らの意思で仲間になるような事を言っていたけど……考えても仕方ない事か。
情報戦なんて得意じゃない。
腹の探り合いは俺の性に合わない。
俺は二人にこの話は秘密にしてもらうように言った。
二人は静かに頷いてから、俺に目を向けてくる。
「……モルノバという国で、神薬というものを俺たちは発見しました。それはこの世界の住人が服用すれば、魂を作り替えれる薬……コンピューターウィルスのようなものだと思ってくれればいいです」
「……魂を作り替える……つまり、自分たちの理想の人間を作れるのか」
「はい。そうです……これを見てください」
俺は端末に保存しておいた実験記録を見せた。
怪しげな薬剤が入った注射を打たれた人間の映像。
感情が消えた人間の顔を見て、二人は眉を顰めていた。
「……その話を信じます……ですが、この映像だけではその薬が完成したかどうかは判断できません……マサムネさんは何かを見たんですか?」
「……言えません」
「……分かりました……イサビリ」
「ハッ!」
イサビリさんは、近くに置いていたカバンを手に取った。
パチリと鍵を開けてから、中から何かの書類を取り出す。
彼女はその書類の束を俺に手渡してきた。
俺はそれを受け取ってから読んでみた。
機密情報と書かれた書類の束。
パラパラと読んでいく内に、自分の表情が強張っていくのが分かった。
書かれている内容はかなり危険なもので。
俺はゆっくりと視線をマクラーゲン中佐に向けた。
「……この調査報告書に書かれている部隊――
屍人の部隊と呼称された帝国の特殊部隊。
その部隊員たちは全員が名付きで構成されていて。
殺しても復活して戦場に舞い戻る事から、公国からは危険視されていると書かれている。
殺して復活して、戦場に舞い戻り自分たちの命の危機も顧みない特殊部隊。
特攻まがいの攻撃も容易く実行する敵を見て、公国兵士からは
公式の記録には無い部隊で。
公国の外交官や他国の外交官が噂について追及しても、帝国は全く意に介さなかったらしい。
そんな部隊は存在しない。PTSDを患った兵士の幻覚だと。
中佐たちは、この特殊部隊についてよく調べているようだ。
噂の真実味を表すような内容が此処に記載されている。
公式には発表されていない特殊部隊の存在は、公国にとっては危険しかない。
報告書にはその屍人の部隊が実行したとみられる作戦が記載されていた。
小国家の領空を侵犯し軍事施設を破壊、無差別テロのような街への爆撃。
帝国から他国へと亡命しようとした技術士官の暗殺に、資産家の娘の誘拐……何だよこれ。
書かれている内容は、到底、国の作戦とは思えなかった。
その全てが何の前触れもなく行われている。
公表すれば世界から避難されるような人道に反したものも書かれていて。
俺はこの内容が真実なのかと目を疑った。
マクラーゲン中佐は目を細めながら静かに頷く。
「屍人の部隊は実在します。噂の中の部隊ではありません。私が軍学校を卒業して最初に向かった戦場で、ある帝国軍人と戦いました……奴の名前はリック・ハイゼン。数多の戦場を渡り歩いて、多くのメリウスを撃墜したかつての帝国の英雄でした……奴は強かった。手負いの上に奴の残弾が尽きていなければ、倒せる筈の無い強者でした」
「……その男は。リック・ハイゼンはもしかして」
「――生きています。中隊長が命を賭して撃墜した筈の男は、今も戦場で戦っています」
マクラーゲン中佐は、ゆっくりと胸ポケットから一枚の写真を出す。
それを見れば、顔に火傷を負った金髪に青い瞳の――大きく目を見開く。
「こいつは!?」
「知ってるのですか?」
「は、はい。前線でこの男と戦いました……鉄槌で頭蓋を砕くエンブレムの」
「……やはり、生きていましたか……これも因果なのでしょう」
中佐はゆっくりと息を吐く。
そうして、写真をポケットに戻しながら中尉に視線を向けた。
「イサビリ。明日の11:00に第一中隊のメンバーを第二作戦会議室に招集してください」
「ハッ……例の作戦を?」
「……えぇ猶予はあまりないでしょうから」
俺は二人に目を向けながら、何を話しているのかと思った。
例の作戦とは一体何か。
そして、屍人の部隊のリック・ハイゼンと中佐の間に出来た因縁とは何か――