【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
目を覚ませば、広い部屋の中に設置された簡易的なベッドに横たわっていた。
掛けられた毛布をはぎ取って、隣に座っていた医療スタッフに声を掛ける。
戦場はどうなったのか。俺はどれくらい眠っていたのか。
早口で尋ねれば、白髪交じりの髪を掻きながら初老の男は簡潔に答えてくれた。
名付きが戦場に出てきて多くの仲間がやられた。
彼が指を指した方向を見れば、ベッドには多くの兵士が横たわっている。
包帯が巻かれて、酸素マスクを付けられた兵士たちは眠っていた。
俺は大きな声を出してしまった事を詫びながらも、質問の答えを待つ。
彼はボードに張り付けた紙にさらさらと何かを書いている。
暫くの間、彼は黙々と紙に何かを記入していく。
それを見つめていれば、彼はカチリとペンを慣らしてからポケットに仕舞う。
そうして、ペンライトを取り出してから何も聞かずに俺の目に当ててきた。
片手で瞼を押さえつけられながら、明るいライトを当てられる。
ふりふりと振ったかと思えばペンを仕舞って、彼は大きくため息を吐いた。
「……医者いらずとはお前さんのような男の事を指すんだろうな……怪我の治りは現世人よりも更に早く、輸血の必要も無い……ただの栄養剤だけで。たった二日ばかりで回復するとはの」
「二日……あの、運び込まれてから丸二日経っているんですか?」
「……まぁ正確には32時間か……大した治癒能力だよ。全く……動けるのならベッドを空けてくれ」
「あ、はい」
駆け足でやってきた看護師に、医者は指示を出す。
女性の看護師さんは手慣れた動きで俺の点滴を外した。
そうして、体に異常はないかと聞かれて俺は問題ない事を伝えた。
ベッドから退いて、置かれていた靴を履く。
頬に触れればガーゼが当てられていて、体にも包帯が巻かれている。
この包帯は取ってもいいのかと医者に聞けば、一日様子を見て異常が無いのなら取れと言われた。
忙しい様子であり、彼は俺に目を向けることなく指示して。
椅子から立ち上がってから、別の患者の元へと歩いて行った。
看護師は笑みを浮かべながら、服は隣の更衣室に置いてあると教えてくれて。
俺はお礼を言いながら、足早にその場を去っていった。
広い部屋の中を歩きながら、壁に掛けられた小さな時計をチラリと見る。
すると、時刻は既に午後九時を指していた。
天井の明かりが部屋を照らしていて。
分厚い布のカーテンが、窓を遮っていた。
外はもうすっかり夜だろう。
意識を失ってから32時間も眠りこけていて、その間に仲間が大勢やられた。
同じ兵士として不甲斐ない。
ベッドで眠る兵士たちを見ながら、俺はそそくさと部屋を出る。
そうして、隣の更衣室へと入っていき、自分の名前が書かれたロッカーを見つける。
ガチャリと戸を開ければ、クリーニングしたばかりの軍服が入れられていた。
俺は今着ている患者衣を脱いで、急いで軍服に着替えた。
その時に、ハラリと何かが落ちる。
見れば便せんに入れられた手紙のようで。
それを拾い上げてから、名も書かれていないそれを開いた。
「……中佐からか……なるほど」
俺へと手紙を出したのは中佐であった。
書かれている内容は他言無用の事であり、作戦に関わる事だった。
鉄槌や屍人の部隊に関する情報で、敵は次の作戦にて新型のメリウスを使う可能性が高いようだ。
今まで俺が戦った帝国軍のメリウスには無い機体で。
十中八九、それに搭乗するのは鉄槌である可能性が高いようだった。
不確かな情報であり、俺以外には伝えていないようだ。
もしも、敵の侵攻前にこの手紙を読んだのなら迎撃作戦に加わり鉄槌を必ず堕として欲しいと書かれていた。
奴をこれ以上、戦場にて戦わせるのは危険で。
屍人の部隊という非公式の部隊が、公国に対して何かを成そうとしている。
イサビリ中尉たちが敵基地から帰って来れば、奴らの狙いの糸口が掴めるかもしれない。
それまでは、新型の情報を他の者に伝えずに、胸に秘めておいて欲しいと書かれていた。
俺は手紙を戻してから、ゆっくりと息を吐く。
「……イサビリ中尉たちが無事に戻れるように、敵の目を此方に向けないとな……予定通りに行けば……」
48時間後きっかりに、敵へと攻撃を仕掛ける。
なるべく派手に暴れて敵の目を集めなければいけない。
「……穏健派は大変だな。小競り合いが続いて……マクラーゲン中佐も、本当は攻めたくない筈なのに……そうしなきゃ、いけないからな」
帝国軍は未だに前線で戦いを続けている。
此方も守っているばかりではいられない。
前線を維持しながら、一歩も退いてはいけないのだ。
穏健派は相手に歩み寄ろうとはするが、へりくだるつもりは無い筈だ。
相手が攻めてくるのであれば対処して、適度に相手に警告をする。
武力による解決も手札にはあるが、それは最終手段だろう。
公国も帝国も、以前よりは力が衰えている。
こんな小競り合いをするだけの力しかない。
だからこそ、話し合いによる解決が必要なのだ。
このまま戦い続ければ、何方が勝とうとも傷は残る。
強硬派の人間たちもそれは理解している筈だ。
終わる事が出来るのならそれに越した事は無い。
誰しも意地やプライドでは飯は食っていけないのだ。
「……その為に、出る杭は打つ」
ロッカーの戸を閉めてから、誰に言うでも無く言葉を発した。
敵基地への潜入も敵への攻撃も意味はある。
屍人の部隊が公国に対して何かをしようとしているのならば、その計画を止めなければいけない。
これ以上、戦火を広げる訳にはいかないのだ。
死人を増やして悲しみに暮れる人を生み出してはいけない。
戦場で散っていった先人たちの意思に報いる為にも、戦争を終わらせる。
小競り合いは続くが、中佐たち穏健派は動いてくれている。
俺たちは命令されたまま、危険な意思を持つ人間を排除するだけだ。
服の袖をいじりながら部屋を出る。
傷ついて眠っている仲間の分まで俺が戦わなければいけない。
屍人の部隊は強敵だろう。
あの鉄槌がアレほどの腕を持っているのだ。
新型のメリウスがどれほどのものかは分からないが、相手にとって不足は無い。
今までもこれからも、俺がやる事は変わらない。
「……立ち塞がる敵は倒す。誰が相手でも、俺は勝つ」
闘志をふつふつと燃やしながら、俺は来るであろう戦いに備える。
イサビリ中尉達の帰還を願いながら、俺は長い廊下を歩いて行った。