【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
雷切に乗り込み作戦開始の合図を待つ。
腕時計で時刻を確認すれば、刻限が差し迫っていた。
予定通りに事が運んでいるのであれば、イサビリ中尉達が前線付近で待機している筈だ。
「……時間だな」
《行くぞ、マサムネ上等兵。敵さんにご挨拶だ》
「ガードナー軍曹。暴れるのは良いですけど、ほどほどにしてくださいよ」
《ははは! 言うようになったじゃないか。帰ったらたらふく飲ませてやろうか?》
「……お手柔らかにお願いします」
ガードナー軍曹との雑談を終える。
そうして、誘導員の指示に従ってケージから出た。
他の機体も出ており、順番に上空へと飛び立っていった。
俺たちの部隊も外へと出てから、規律正しく離陸した。
上空に上がり隊列を組んで進む。
ガードナー軍曹は、すぐに敵基地から迎撃部隊が飛んでくると言う。
俺たちがする事は相手の領域に侵入し、監視塔の幾つかに攻撃を仕掛ける事だ。
奥深くへと侵入する必要は無い。前線付近にて暴れて、敵の目を惹きつける。
イサビリ中尉達が混乱に乗じて、安全に基地へと帰還できるようにしなければならない。
俺たちは舞台のセッティング係であり、主役は中尉達だった。
彼女たちが持ち帰って来る情報が頼りで。
何としてでも、中尉達に敵の目を向けさせないようにしなければならない。
ヘルメットのシールド越しに戦場を見る。
ぐんぐんと戦場が迫れば、敵が慌てて機関砲を此方へと向けてくるのが見えた。
バラバラと弾が発射されて、戦場に規則正しい弾の道が出来上がる。
それを散会して避けながら、仲間たちが監視塔へとミサイルを放つ。
何発かは意図的に狙いを外した。
そうして、数発のミサイルが着弾して塔の半ばが抉れる。
鉄骨が剥き出しになり黒煙を上げるそれ。
監視塔に上がっていた敵たちは慌てて柵に捕まっていた。
《よーし。各自、地上からの対空砲火を警戒。敵さんの群れがご到着するまで、派手に暴れろ!》
《了解!》
仲間たちが地上にいる敵に攻撃を始めた。
派手に暴れているように見せて、犠牲は最小限に留めている。
バラバラと弾を放っているものの、それは敢えて狙いを外していた。
メリウスにも乗っていない敵兵士を一方的に攻撃するのは色々と拙い。
外交上の問題があるだろうと判断して、マクラーゲン中佐は威嚇程度の攻撃に留めておくように俺たちに命じた。
俺は仲間たちよりも更に高い高度で飛行しながら、敵のメリウスを警戒する。
「……イサビリ中尉は……まだか?」
地上を索敵しながら飛行する。
AIからはイサビリ中尉の反応は無いと報告される。
調査が難航したのか、それとも……いや、大丈夫だ。
俺は仲間を信じて任務を全うするだけだ。
イサビリ中尉の無事を祈っていれば、レーダーに反応があった。
遠方より凄まじい速さで移動している敵。
それは間違いなく鉄槌だろう。
「――いや、更に速い。これは?」
以前よりも更に速い速度で移動している。
目視にて確認すれば、灰色のカラーリングのメリウスが迫る。
赤い単眼センサーを光らせるそれは、以前の高機動モデルとは別物であった。
背中から取り付けたブースターはより洗練されていた。
上下に小型の物が二つにメインとなる筒のような白いブースターが後ろに伸びている。
サブアームが取り付けられているのか、筒の横に二つの武装が取り付けられていた。
膝にも小型のブースターを取り付けて、胸部装甲がやや厚く足回りもやや太い。
真っすぐ向かってくるそれを視界に入れれば、すぐに眼前に奴の弾丸が迫る。
それを紙一重で避ければ、奴が俺がいた場所を風を切って通り過ぎていく。
《敵機体に類似する機体の記録を発見しました。アレは恐らくファルコンⅡの改修機体だと思われます》
「ファルコンⅡだと?」
《帝国軍指揮官専用モデルのファルコン。それをバージョンアップさせたⅡよりも性能は遥かに上です。ご注意を》
AIからの忠告を受けながら、俺は機体を動かして奴との一騎打ちに臨んだ。
ペダルを軽く踏めば、機体は大きく前進した。
しかし、体に掛かる負荷はそれほどでもない。
機体内の空気濃度を調整し、体に掛かるGを極限まで落としている。
以前よりも苦しく思う事が無くなった。
まるで、今の俺に機体を最適化したようで――俺は大きく笑う。
相棒に心の中で感謝しながら、俺は大空を舞った。
風を切り裂き飛行して、背後から追ってくる敵と戦う。
後ろを向きながら飛行して弾丸を放つ。
レイジング・ソルの弾丸が奴の機体を穿とうとする。
しかし、奴は機体を回転させてひらりと全弾を躱して見せる。
そうしてお返しとばかりに俺に向けて、両手のライフルの弾丸を放ってきた。
通常のライフルが出す音ではない。
まるで、大きな岩盤を削るような音を発しながら弾が放たれた。
そのスピードは異常であり、当たる未来が見えた瞬間に俺も弾を放っていた。
全ての弾丸を自分の弾丸で撃ち落す。
空中で弾丸が爆ぜて小さな爆発を起こした。
奴は爆風の中を突っ切って、赤い単眼センサーをきらりと光らせる。
今日の天気は快晴で、気持ちのいい青空が広がっていた。
俺は清々しい天気を見ながら、更に高度を上げて上昇した。
風のバリアが発生して、奴が背後から俺を狙う。
両手のライフルの照準を定めていて、俺は笑い声を上げながらレバーを引いた。
スラスターの向きを瞬時に変えて、空中で軌道を強制的に変えた。
引き金を引いた奴は少なからず驚いている事だろう。
俺の影を塗る様に撃たれた弾丸、僅かに弾が機体を削っていく。
ガリガリという音が聞こえたかと思ったが関係ない。
スローに感じる空間の中で、俺はペダルとレバーを操作して機体を翻す。
そうして、奴の背後に俺が取りつきありったけの弾丸を放った。
ガガガと音を立てて弾が奴へと飛来する。
これで勝負は決まったか――そんな簡単な奴じゃねぇ。
奴が背後をチラリと見たかと思えば、空中で機体の向きを変えた。
よく見れば体の至る所に小型の噴射口が取り付けられている。
激しい高機動戦の中で、奴は機体の位置を調整した。
そうして、弾が当たるか当たらないかのギリギリを見極めて通り抜けていく。
体の位置を変えて弾を機体に掠らせた。
赤熱する弾丸が奴の厚い胸部装甲を軽く溶かす。
しかし、決定的なダメージは与えられていない。
弾を避けながら姿勢を変えて、そのまま加速して緊急回避をする。
上への上昇から一変して、横へと機体をスライドさせた。
俺は上手く弾を回避したアイツを賞賛しながら、放物線を描くように機体を動かした。
奴も大きく弧を描くように機体を動かした。
互いにライフルの照準を向けながら、真っすぐに進む。
互いに弾を乱射して、空中で弾が勢いよく爆ぜていく。
ちゅんちゅんと機体を弾道が逸れた弾が掠めていく。
奴も頭部に弾丸を受けながら、此方を睨みつけていた。
「度胸試しだッ!!!」
ガリガリと弾が削れる音が近づいていく。
風を切り裂き飛ぶ鋼鉄の塊が眼前に迫る。
避けるか、避けられないか――関係ないッ!!
バレルがおしゃかになろうとも死のうともどうでもいい。
今が楽しいから、それ以外はどうでもいい!
心臓の鼓動が早くなっていく。
そうしてスローモーションの世界で、すぐそばに奴の顔が映って――レバーを動かした。
眼前に迫って己の本能が勝手に働いた。
鉄槌も同じであり、寸での所で回避する。
俺が上、奴が下へと操作して互いの機体がこすれ合った。
空中でバランスを崩しながらも、何とか姿勢を制御した。
そうして、笑みを深めながら呼吸を安定させる。
「いいな。いいぜ。そうだ。戦いは――こういうもんだッ!」
更に機体を加速させて、俺たちは互いに交差しながら飛行した。
互いの意地と誇りを懸けて、俺たちは命を燃やす。
弾丸が敵の装甲を撫でて、死が眼前に迫れば本能が勝手に動き出す。
命を懸けた戦いで、一分一秒の世界で、俺たちは成長を感じていた。
いくつもの未来が見えて、俺の脳内で弾けていく。
それを見ながら、俺は目をキラキラと輝かせた。
まだだ、もっともっと、更に加速する――限界なんて有りはしない。
何もかもを頭から除外して、奴との戦いを楽しむ。
俺の想いに呼応するように、奴のブースターから甲高い音が鳴って。
死神が目をぎらつかせながら、俺の命を取ろうとしている。
背筋が凍り付くような殺気、俺の心の中には燃え滾るような闘志が駆け巡っていた。