【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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095:歪な感情に怯えて

 イサビリ中尉達の帰還。

 その嬉しい知らせを聞いて全員が喜んでいた。

 ガードナー軍曹はすぐに酒盛りを開こうとしていて。

 中尉はそれを鋭い目を向けるだけで抑え込んでいた。

 あの軍曹が借りてきた猫のようになってしまっていたのだ。

 俺は可笑しくて一人でくすくすと笑っていた。

 まぁ軍曹にはバレていたようで、俺はその後に鬼のように酒を流し込まれた。

 

 頭痛と吐き気に苛まれながら基地内を歩く。

 今頃は、中佐が中尉が持ち帰った情報を確認しているか。

 それを上へと報告している頃で。

 どうなるかは分からないものの、俺には待つしか出来なかった。

 

 鉄槌との戦闘、撃墜した奴はどうなったのか。

 いや、正確には俺は撃墜していない。

 アイツが勝てないと判断して自爆のような切り札を切っただけだ。

 後味の悪い勝利であり……何故か、これで終わりではない気がした。

 

 屍人の部隊は、死者が集まっている部隊だろう。

 ならば、もう一度蘇る事も造作もない筈だ。

 これは完全に勘だが、奴はまた俺の前に立ちふさがる。

 以前よりも更に強さを増して、俺を堕とそうとしてくるだろう。

 奴の操縦技術は恐ろしく、最後のあの奇妙な動きも得も言わぬ不気味さをはらんでいた。

 

 まるで、機体が人間の体のように動いた。

 一切のブレも無く、操縦者の意思を完璧に反映させたかのように。

 ゴースト・ラインはまだ俺たちの知らない技術を隠している。

 あの網のように広がった拘束具もそうだ。

 これからはより一層警戒した方がいいかもしれない。

 あの時のように中佐が運よく助けに来てくれるとは限らないから。

 

 考え事をしながら歩いていれば、いつの間にか外に出ていた。

 周りを見ればいい所に自販機と長い椅子が置かれている。

 兵士たちの休憩所だろうと思いながら、俺はポケットから端末を取り出した。

 何を飲もうかと考えて、端末をかざす。

 すると、短い機械音が鳴って料金の支払いが完了した。

 俺はボタンを押して、気になっていた飲み物を購入してみた。

 

「謎ミックスオレ……謎だな」

 

 黒い缶の真ん中に虹色に輝くクエスチョンマーク。

 謎のと表記されれているだけあって、全くと言っていいほど味の予想が出来ない。

 俺はそれをジッと見つめながら、飲んでみるかと考えていた。

 

「んん」

「え!? あ、どうぞ」

「あぁ」

 

 横から咳払いが聞こえて、慌てて横へとズレる。

 そこには腰に軍刀を刺したイサビリ中尉が立っていた。

 彼女は流れるような所作で飲み物を選択してしまう。

 ガコリと落ちたそれを取り出せば、血のように真っ赤なラベルのジュースであった。

 

「げ、激辛王殺し……の、飲むんですか?」

「……当たり前だ」

 

 イサビリ中尉は俺の言い方に不服そうに眉を顰める。

 そうして、俺の横を通って椅子に腰を掛けた。

 中尉は鋭い目で俺を見てきて、俺は慌てふためきながらも彼女の横に座った。

 上官と予期せぬ交流タイムとなってしまい俺の心臓はドキドキと鼓動する。

 緊張はしているが別に好きとかいう甘酸っぱい感情ではない。

 粗相をしてあの軍刀で切られないかと怯えているだけだ。

 

 カシュリとプルタブを開ける中尉。

 俺も缶の蓋を開けてから、中身をチビチビと飲み始めた。

 口内にジュースの中身が流れてきて、俺は目を閉じながら味わう。

 ごくりと喉を鳴らして飲み込んでから、俺は腕を組んで考えた。

 

「……イチゴ。いや、バナナ? いやいや、ドリアン……甘味の大渋滞だな」

 

 素敵な物を沢山詰め込んだかのような味で。

 これはこれでまぁ美味しいと思いながら俺は笑みを浮かべる。

 すると、中尉がジュースを飲む手を止めていた。

 嫌そうな顔をしながら口を噤んでいる。

 俺はどうしたのかと彼女に質問した。

 

「……味が変だ。前とは違う」

「え、前も飲んだんですか?」

「……辛い物が好きなんだ……だが、これは好きな味じゃない」

 

 彼女は苦虫を噛みつぶしたかのような顔でジュースを一気に飲む。

 嫌いであれば無理をして飲まなくても良いと思ったが。

 律儀な彼女だからこそ、一度買ったものは残さず飲まなければいけないと思っているのだろうな。

 俺は椅子から立ち上がって端末を取り出す。

 そうして、どれが良いかと見て……これでいいか。

 

 支払いを済ませて、端末を仕舞う。

 そうして、飲み物を選択してからそれを取り出した。

 俺は彼女の元へと戻って、買ってきたものを彼女に渡した。

 

「……これは?」

「口直しです。嫌いな味が残っていたら、イライラするでしょう?」

「……ありがとう」

 

 俺が買ってきたのはただの天然水だ。

 他の物でも良かったが、彼女に嫌いな物を渡せば元も子もない。

 だからこそ、万人誰でも飲めるであろう水を買って渡した。

 すると、彼女は蓋を取ってゆっくりと水を流し込んでいた。

 

 俺は椅子に座りながら、またチビチビとジュースを飲む。

 

「……何も聞かないのか」

「……えっと、またすぐに発表がありますよね? 別に急ぐこともないので」

「……ゴースト・ラインはお前を狙っている。心当たりがあるんじゃないか」

「……分かりません」

 

 イサビリ中尉はストレートな言葉で俺に質問してきた。

 その質問は俺がしてほしくなかったもので。

 言いたくても言えないことしかなかった。

 俺の曖昧な言葉を聞いて、イサビリ中尉は俺へと視線を向ける。

 

「まだ私たちが信用できないか? お前が何かを隠しているのは知っている。だが、何故隠しているのかは分からない……それは私たちが信用に足らない存在だからか」

「ち、違います! ただ、その……い、言えないんです。言ったら、中尉達が俺を信じられなくなります」

 

 ゴースト・ラインから狙われる理由。

 世界の敵に仕立て上げる為に、奴らは俺を狙っている。

 その情報源はU・Mでは無い。

 敵だと思われている告死天使たちからの情報で。

 こんな事を馬鹿正直に話せば、疑惑の目を向けられるのが普通だ。

 

 敵の敵は味方ではない。

 どう転んでも敵であり、敵からの情報を信用してくれる人間なんていない。

 俺自身も心の何処かではまだ奴らを疑っている。

 本当にゴースト・ラインの狙いが俺なのか。

 その目的が世界の敵にするなんて馬鹿げたものなのか。

 

 分からない。分からないからこそ何も言えない。

 俺はイサビリ中尉に頭を下げてその場を去ろうとした。

 しかし、イサビリ中尉は俺の手をがしっと掴んで足を止めさせた。

 

「待て。話しは終わっていない。信用していなくてもいい。知っている事を教えてくれ。我々には情報が必要だ。このままでは公国は再び危機に瀕することになる。だから」

「ちゅ、中尉。て、手を、離し――ぐぅッ!?」

 

 万力のような力で腕を掴まれている。

 俺は彼女の手を力任せに振りほどいた。

 すると、彼女の体は弾き飛ばされて地面に横たわった。

 俺はハッとして彼女の元へと駆け寄る。

 

 大丈夫かと声を掛ければ、彼女はツゥっと涙を流していた。

 俺はちくりと心臓に痛みを感じた。

 

「やはり、信用できないか」

「……俺は……ゴースト・ラインは……すみません!」

 

 彼女に情報を伝えようとした。

 しかし、寸での所で踏みとどまる。

 武士のような女性だと思っていた彼女が見せた涙。

 それにどきりとしてしまい危うく全てを話すところだった。

 

 俺は彼女に頭を下げてから、わき目も振らずに走り出す。

 何かが可笑しい。今日の彼女は変だ。

 俺は彼女への不信感を持ち、心の奥底で不気味さを感じていた。

 

 呼吸を大きく乱しながらも走って。

 廊下のつきあたりで身を隠す。

 チラリと見れば彼女は追って来ていないようで。

 俺は胸を撫でおろしながらその場に腰を下ろした。

 

「何なんだ。一体、何だってんだよ……あぁ頭が痛い」

 

 ズキズキと頭の痛みが増した。

 それを片手で押さえながら、俺は立ち上がる。

 ゴウリキマルさんに会いに行こう。

 ショーコさんたちなら、俺の話を聞いてくれるかもしれない。

 このまま一人で抱え込んでおくことは出来ない。

 これ以上は俺自身が耐えられそうにない。

 俺はよろよろと廊下を歩きながら、胸のつかえを取りに行った。

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