【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
俺は結局、全てを話す事が出来なかった。
告死天使から情報を得たとだけゴウリキマルさんとショーコさんに伝えて。
詳しい事は人のいないところで話そうとだけ伝えて帰った。
一夜が明けて、俺は考えていた。
イサビリ中尉の涙の理由を。
そして、何故、俺が彼女たちに話す事が出来ないのかを。
本当に信用されないから話せないと俺自身が思っているのか。
自分自身の事なのに何も分からない。
俺が悩みながら軍曹たちと訓練を受けていれば。
整備スタッフの一人が俺を呼びに来た。
中佐が俺の事を呼んでいるらしく。
俺は足早に中佐がいる部屋へと向かって走っていった。
マクラーゲン中佐に呼び出されて部屋へと入る。
彼女は資料を机の上に広げて、今回得る事が出来た情報を共有したいことを伝えてきた。
写真なども持ち帰ったようで、中には培養液の中に浸かった人間がいた。
あの基地内では人間を創り出す研究をしているようで。
情報管理室と呼ばれる場所で保管されていたのは、その研究資料であった。
死亡が確認された名付きの兵士。
彼らの生前に採取したDNA細胞を使って培養し、彼らの記憶データなどをインプットする。
完全なるクローン人間を生み出す研究であり、その過程で生まれた装置が幾つもあるようだ。
中でも常軌を逸しているのは意思伝達ユニットと呼ばれる機械で。
人間とメリウスをそれを通して接続する事によって、人間の意思をフルトレースすることが可能になるようだ。
しかし、これには重大な欠点があり、機体が受けるダメージは人間にもリアルな痛みとして伝わるらしい。
つまり、四肢が切断されればそれ相応の痛みが伴う。
幾ら、機体が自由に動かせるようになったとしてもこれは危険すぎる。
だが、思い当たるものはあった。
鉄槌が最期に見せていた機動。
アレは恐らく、意思伝達ユニットに接続して成せた動きだろう。
短時間とはいえアレほどの滑らかな動きが出来たのだ。
それだけで意思伝達ユニットの凄さは分かる。
クローン人間として鉄槌たちが蘇らされたのは分かった。
そして、敵のバンカーに格納されている機体。
その中にはあの鉄槌が乗っていた新型も存在していた。
型式番号MTR―102HS、機体名ファルコンⅢ。
背中に作られたハイブースターと呼ばれる特務機の主力ブースターとして開発された代物で。
直線移動であれば瞬間的に13Gまで加速する事が可能の様だ。
最もパイロットの限界がそこまでであり、本来ならばもっと出せるのだろう。
新素材を導入して作られた機体と書かれているが、これはトロイのものと同じなのか?
十中八九が同じものだろう。ならば、あの頑丈さにも頷ける。
レイジング・ソルの弾が被弾しても装甲を削る程度だったからな。
新型もクローン技術も、無視できない事だ。
このまま名付きを蘇らせ続けて戦いに投じれば、戦争が終わる事は無い。
いや、新型も作っているのだからより悲惨な結果になるかもしれない。
ゴースト・ラインは本気でこの世界の支配者になろうとしているのか。
俺が資料を見つめながら黙っていると。
中佐がこほりと咳ばらいをした。
俺はハッとして中佐に視線を向ける。
「……イサビリが持ち帰った情報はこれだけではありません。最重要人物の話を盗聴し、二ヶ月後に公国の首都を攻撃すると彼らは計画を立てています。スキンヘッドに丸眼鏡を掛けた青い目の男をご存じですか?」
「――そいつはゴースト・ラインの人間です。何度も俺の前に現れました。ハイドと名乗っていました」
「……そうですか。やはり、この男が例の」
中佐は俺の言葉を受けて顎に手を当てて考える。
すると、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
中佐が誰なのかと聞けば、イサビリ中尉であった。
中佐は入室を許可して中尉が中へと入ってくる。
俺は気まずさを覚えながら、目線をさ迷わせていた。
そんな俺には目も暮れずに、中尉は中佐に何かの紙を手渡していた。
それを受け取った中佐は紙に目を通す。
内容を読んでいって、ゆっくりとそれを机に置く。
眉間の皺を揉みながら、首を左右に振っていた。
「……あの、どうしたんですか?」
「……いえ、上層部の頭が固い事に呆れて……父の旧友を頼ったのですが、今話したことは内密にしておくようにと言われました。恐らくは、陸軍内で手を回して片付けようとしているのでしょう。これ以上、東源国との会談を遅らせられないという理由もあると思いますが……事態は一刻を争います。今はまだ何も言えませんが、このままでは我々も動かざるを得ない……イサビリ。貴方はどう思いますか?」
「……後手に回るのであれば、万全の対策を講じる他ないかと。最悪の場合に備えて、手練れのパイロットを配置する必要があると私は思います……マサムネなどを筆頭にあと何名か」
「お、俺ですか?」
「……私はお前の腕をかっている。不服か?」
「い、いえ……調子狂うなぁ」
「何か言ったか?」
「いいいいえ!」
ここ最近、妙に距離が近い気がする。
美人に詰め寄られるのは嬉しいが、何だか不気味なのだ。
何と言ったらいいかは分からないものの、理由の無い好意ほど怖いものは無い。
俺はチラチラと中佐の方に助けを求める視線を向けた。
すると、中佐は机の前で腕を組みながらくすりと笑う。
「……そうですね。会談の警護の為に。我が隊からも何名か向かわせるのも手かもしれません。最悪の結果を招いたとしても、陸軍から責任転換される恐れも減りますから」
「候補者をリストアップしましょうか」
「えぇお願いします。私は警護責任者に連絡を取って見ます」
「ハッ! それでは失礼します」
イサビリ中尉は敬礼をして去っていく。
その時にチラリと俺の方に視線を向けてくる。
その瞳の中には怪しげな光が灯っていた気がする。
何時ものイサビリ中尉ではない。
彼女はくすりと笑ってから部屋を退出していった。
俺は口を噤んだまま黙って。
中佐は用は済んだから戻っていいと言う。
俺は考えた。あのイサビリ中尉の様子について尋ねるべきかと。
俺よりも親交のある中佐であれば、中尉の違和感についても気づいてるのではないかと。
「あ、あの……中佐、よ、よろしいですか?」
「ん? 何でしょうか」
「そ、その……最近、中尉の様子が変な気がするんですが」
「そうですか? 私の前では至って普通ですが……後で本人に聞いてみますね」
「あ! お、俺が言ったことは内緒で」
「ふふ。分かりました」
「で、では! 失礼します」
中佐に敬礼をしてその場を去る。
扉を閉めてから大きくため息を吐いた。
すると、隣から声を掛けられる。
びくりと肩をはねさせながら見れば、ゴウリキマルさんとショーコさんが立っていた。
「何驚いてんだよ……昨日の続き。詳しく話してくれよ」
「あ、あぁ。そうですね……ショーコさんも?」
「んー? そうだよー。その告死天使ってのには私も因縁があるしぃ」
「……じゃ、人のいなさそうな場所で……あ、でも訓練が」
「私が用があるから連れていったって言っておくよ」
「……じゃ行きましょうか」
俺は二人を連れて歩いていく。
チラリと見れば二人ともどうってことなさそうな顔をしていた。
告死天使から情報を貰ったと伝えたが、二人はそこまで気にしていないのか。
いや、まだ詳しい内容については伝えていない。
あの後に、俺は中途半端に情報を漏らしてしまって。
言ってよかったものかと後悔はしたが胸のつかえは取れていた。
だからこそ、話してよかったのだろうと思っていた。
今日だって普通に話の続きが聞きたいというていで俺に会ってくれた。
やっぱり二人は俺の事を信頼してくれているのだろう。
「……中尉には、申し訳ない事をしたな」
「ん? 何だ」
「……いや、中尉や中佐の事も俺は信じているのに。隠し事ばっかりして申し訳なくて」
「あぁ? 別にいいだろ。んなもん……人間誰だって隠し事の一つや二つはある。私だってお前に隠してただろ?」
「あぁそうでしたね」
「二人のなれそめだねー」
「……別にいいだろ」
ゴウリキマルさんは照れくさそうに笑う。
ショーコさんはそんな彼女を揶揄って。
俺は二人に笑みを向けながら、やっぱり話すべきだろうと思い始めた。
二人の反応を見て、話せるのなら話そう。
そう心に決めながら、俺たちは歩いていく。
その時に、背後から視線を感じた。
ゆっくりと足を止めて振り返る。
しかし、そこには誰もいなかった。
確かに視線を感じたが……気のせいか?
ショーコさんが心配そうな目で俺を見てくる。
俺は笑いながら、何でも無いと言ってまた歩き出した。