【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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097:蜘蛛の巣の中でもがく蝶(side:ハイド)

 リック・ハイゼン大尉が戦死した。

 雄々しく雷と戦い、最後にその身を賭してあの機体に爪痕を残した。

 やはり、EMP装置をファルコンⅢに組み込んで正解でした。

 アレに効くかどうかは賭けでしたが、実験としては上々の成果でしょう。

 

 まぁ次回も積むかと聞かれればノーと答える。

 あの女ならば、二度も同じ失敗を犯すことはしない。

 絶対に対策を講じて機体をアップグレードさせるでしょう。

 此方もそれを見越してファルコンⅢに改良を加えなければならない。

 

 大尉のスペアはすぐに用意した。

 現在はメンテナンス中であり、あと十二時間もすれば終わるでしょう。

 培養液から出した生まれたままの姿の大尉。

 彼の凄い所は激痛を伴う記憶データのインプットの処置の時、他の人間であれば泣いて助けを乞う筈なのに彼は一切泣かない。

 濁り切った目で全てを察して、戦場へと向かう。

 正に兵士として理想の姿であり、私も彼の事は気に入っていた。

 

 雷をあと一歩で倒せるところまで追いつめた。

 しかし、あの三人がへまをして逃がしてしまう事に。

 パイロットとしての腕は確かで、オリジナルも名の通った兵士だったと聞く。

 いけないところは油断をして、些細なミスをしでかすところでしょうか。

 本人たちは死んでも学習しませんが……まぁアレはアレで使い道があります。

 

 意思伝達ユニットは試作段階ではあるものの、大尉のお陰でデータは取れた。

 成功率の低い手術ではあるが、アレを人体に移植できればかなりの戦力になる。

 ただの一般人が、名付きほどのエースパイロットに簡単になれるのだ。

 どんな複雑な操作を要求される機体であろうとも、アレには関係ない。

 行く行くは全ての兵士に手術を施せるように、安定した成功率を出したいところ。

 

 魂のデータ化を研究し、魂を作り替える技術を取得し。

 我々は人類が到達しえない未踏の道を進んでいる。

 マザーを理解できない愚かな人間たちでは到底到達できない場所に我々はいる。

 

「……ボスの考えは未だに分かりませんけどね……さて、あの方の真の目的とは」

 

 勢力を拡大させて、他の国々へと干渉して。

 他国の技術者が喉から手が出るほど欲しい知識を持つあのお方。

 我々では考えもつかないことをあの人は計画している。

 近しい人間にすら心を明かさないあの方は、まるで雲のように掴めない。

 まぁついていけば退屈はしませんけど……さて。

 

 パソコンへと実験の記録を書き終える。

 ゆっくりと電源を切ってから大きく伸びをした。

 その時に部屋の扉がノックされた。

 

「どうぞー」

「失礼します!」

 

 くるりと椅子を回して入って来た男に視線を向ける。

 帝国軍人としてパリッとした軍服を着こなす青年。

 そばかすに縮れ毛の短い金髪で、よくいるような顔つきの男だ。

 緊張したような顔つきで私に敬礼する少年。

 私は彼に楽にするように言いながらひらひらと手を振った。

 

「い、いえ。ハイド様に失礼のなきようにと」

「あぁいいですいいです。私はそういう事は気にしませんから」

「え、えっと……ほ、報告をしに来たのですがよろしいですか?」

「あぁどうぞどうぞ」

「で、では……山岳地帯に調査に向かった兵士たちから報告があり、やはり敵は我々の領土に侵入した可能性が高いと……イーグルに酷似した機体。ハイド様の指示で、アレが放った弾丸の薬莢を調べに向かったところ、やはり薬莢に偽装した降下ポッドでありました」

「あぁ、やっぱりですかぁ……ふむ、それで?」

「……基地内にて敵からの襲撃を受けた研究員がダストボックスにて発見され。その研究員からの証言によれば、敵は女であるらしく……監視カメラには映っていないことから潜入に慣れた敵国の兵士だと思われます」

「ほぉほぉ……被害は?」

「は、はい……情報管理室のPCにアクセスした履歴が残っていたので……け、研究資料がコピーされた可能性が……け、計画の修正を上から提案されています」

 

 確かこの青年の名前は……あぁトーマスだったか。

 

 私はトーマス君を見つめながら椅子から立ち上がる。

 そうして、彼の肩に手を置いてから笑みを浮かべた。

 

「計画の修正は不要です。このまま予定通り進めます」

「で、ですが。敵に情報が漏れた可能性が」

「――敢えて、漏らしたと言ったら?」

「ぇ」

 

 間抜けな顔を晒しているトーマス君。

 私はそんな彼の肩についた埃を払ってあげた。

 そうして、二度ほど肩を叩いてから部屋を出る事を伝えた。

 

「あ、は、はい! で、では! 自分はこれで!」

「はい、またよろしくお願いしますよー」

 

 ぎこちない敬礼をしてから去っていくトーマス君。

 私は彼を見送ってから、パンと手を叩いて歩き出す。

 部屋の電気を消して廊下に出て、ある部屋を目指して歩き出した。

 

 コツコツという革靴の音が反響する。

 私は鼻歌を歌いながら、真っすぐ廊下を進んでいった。

 そうして、何もない廊下の真ん中で立ち止まる。

 

 壁に手をつけば、赤外線が私の指紋を読み取る。

 顔を近づけて出てきたレンズに目を寄せる。

 すると、私の網膜を機械が読み取って五秒ほどで隠された扉が出現した。

 

 地下へと続く階段であり、私は足元のライトを頼りに下りていく。

 ゆっくりとした足取りで降りていけば、後ろから扉が閉まる音が聞こえた。

 それを無視して長い階段を下りていけば、強化ガラスで仕切られた部屋が幾つも存在していた。

 チラリと目を向ければ、四肢をだらりと投げ出して魂が抜けたような顔で座っている男たちがいる。

 白い病院着のようなものを身に纏い、白い壁に囲まれた空間で放心している。

 

「……えっと確か……あぁそうか。暇だったから新薬の実験台になってもらったのか。この様子だと失敗かなぁ」

 

 公国でメリウスのパイロットをしていた男たち。

 屈強な肉体をしていた彼らは枯れ木のようにやせ細っていて。

 僅か二,三日でこうなったと言っても誰も信じないでしょうね。

 

 若々しかった肌はかさかさになり、髪は老人のように真っ白で。

 彼らの様子を目に焼き付けてから、次に試す時はもう少し効能を弱めてみようと考えた。

 

 再び足を動かして奥の方に行く。

 すると、同じような服を着た女性が椅子に拘束されている。

 強化ガラス越しに見ていれば、彼女は私の気配を感じ取ってガチャガチャと暴れだした。

 

 他の兵士とは違い。彼女にはまだ何もしていない。

 ただの気まぐれであり、私の勘が彼女は利用価値があると判断しただけだ。

 扉のロックを解除して中に入る。

 

 猿轡を嵌められて、目隠しをされた彼女。

 鼻息を荒くしながら、怒り心頭と言った様子で激しく体を揺らしていた。

 私はそんな彼女の前に立ちながらゆっくりと手を上げた。

 

「やぁこんにちは。調子はどうですか?」

「――ッ!!!」

「ははは、何を言っているかは分かりませんが。かなりお怒りのご様子ですね。いやーすみません。お詫びと行っては何ですが、情報を与えましょう……雷は生きています。貴方方が欲していた情報もお仲間の耳に入りましたよ。作戦は大成功! 良かったですね!」

「――ッ!!?」

「え? 何で情報が届けられたかって? いやだなぁ。貴方が届けたんですよぉ?」

「――……っ」

 

 私がパチパチと手を叩けば、彼女は体を小刻みに震わせる。

 私が言おうとしていることを理解したのか。

 この方は中々に察しが良い様であり、私は説明する手間が省けて喜んだ。

 

「このまま貴方を殺してもいい。が、私は貴方にはまだ使い道があるような気がしました。だから、暫くは生かしておきます……まぁ首都への攻撃を終えるまでは保留という事で。良かったですね」

「……っ!」

「食事は定期的に届けます。あ、寝返る必要はありませんよ。それでは意味がありませんから……えっと、何という名前でしたか……あぁ、思い出しました」

 

 彼女の名前を思い出そうと頭を捻る。

 そうして、彼女の名前が頭に浮かんだ。

 ポンと手を叩いてから、私は彼女の隣に立つ。

 ゆっくりと彼女の肩に手を置いて、耳元で囁くように言葉を発した。

 

 

 

「――メイ・イサビリ中尉。死ぬその日まで、よしなに」

 

 

 

 小鹿のように震える彼女に背筋をゾクゾクさせながら。

 私は満面の笑みで彼女を見つめていた。

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