【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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098:過去と今

 公国の上層部への連絡が済んだ。

 マクラーゲン中佐は会談当日の警護責任者とコンタクトを取って。

 何とか俺たちを警備の中に加える許可を貰っていた。

 メリウスを持ち込む事も許可を得たらしいが、俺に関しては少々強引に話を進めてしまったという。

 ただでさえ、公国の中には俺の事をよく思わない人間がいるのだ。

 英雄と呼んでくれる人間は多くいるが、中立国家を滅ぼした罪は消えない。

 

 だからこそ、メリウスの持ち込みは許可されたが。

 俺に関しては碌な武装も持ち込む事を許可されなかった。

 公国軍が使っていた旧式のブレード一本だけだ。

 中佐は力及ばず申し訳ないと言っていたが、俺にとっては十分すぎる。

 ブレードだけだろうとも武器には変わりない。

 いざという時はそれを使ってでも敵を倒して見せる。

 

 当日の警護に関する資料に俺たちは目を通した。

 誰がどの配置につくなどを計画していて。

 俺の持ち場は東源国の当主が宿泊するホテルからやや離れた西地区の43番通りだ。

 会談場所は一部の人間以外には秘密で。

 首脳陣は首都である”コーデアリア”に建てられたホテル・ラプトンにて宿泊する予定だ。

 三十階建てのホテルであり、客室数は約6000程で。

 最上階のスイートルームに東源国の当主は宿泊する予定だ。

 時間になればホテルから移動して首脳陣は、会談場所へと移動する。

 

 極秘裏に行う筈であった会談。

 しかし、マスコミに情報が漏れたようで。

 中には犯行声明を出す過激派の人間もいた。

 それを恐れて警備を厳重にして、当日は首都で暮らす市民たちの行動に制限を掛けると公国の大公は言っていた。

 もしも、一般人が会談当日に出歩いているのであれば問答無用で拘束しても良いと説明された。

 ただし、病気などによって外出を余儀なくされる人間に関しては事前に関係部署に連絡をすれば拘束はしないと言っていた。

 

 会談場所を明かしてくれないのは少々まずい。

 彼らを守る立場の人間として、その時に誰が何処にいるのか知らなければ対応が遅れてしまう。

 まぁ警備上の問題で、明かすことが出来ないのは重々承知している。

 ただでさえ極秘の会談がマスコミにリークされているのだ。

 内部の人間を怪しく思ってしまうのは無理のない事だ。

 

 警備責任者は六十代の定年間近の元公国軍人で。

 仕事に真面目で頭の回転が早いという彼は公国内の官僚からも信頼されているようだ。

 その信頼に応えたいと彼は考えて、敢えて、情報に規制を掛けた。

 敵だけではなく仲間の事も怪しんで、万全の状態で警備に臨もうとしている。

 

「……だったら。後手でもいいからすぐに駆け付けられるようにしないと」

 

 俺の事を信用していない公国の官僚から下手な行動はするなと釘を刺された。

 態々、こんな前線までやって来て何をしに来たのかと思えば。

 俺たちが警護任務に参加すると聞いて、三日前に突然ここを訪れたのだ。

 中佐が言うには戦争強硬派の人間のようで、あまり話を聞かない方が良いと言われた。

 

 戦争強硬派の人間は、今回の会談に関して何かを企んでいる節があると言っていた。

 恐らくは、マスコミにリークしたのも強硬派の人間で。

 彼らは戦争がしたいが為に、重要な会談をも利用しようとしている。

 東源国の当主を殺し、今の大公に決断させようとしている。

 

 中佐の話では、大公は戦争を終わらせる事を前向きに検討しているようで。

 今回の会談でも、東源国の当主である上浦白狼=天子に両国の仲を取り持ってもらおうと考えているようだ。

 大公としては国の当主としてのメンツもあり、自らが進んで戦争終結の話を持ち出すのは極力避けたいらしい。

 第三者からの提案であれば、そういう面倒臭い話を抜きにして話が出来る。

 互いに遺恨はあるとは思うが、これ以上、自国の民に苦しい思いをさせたくないのは両国ともに同じだ。

 戦争強硬派のように自分の感情で動く人間は厄介だろう。

 

 俺は唾を飛ばしながら、俺に指を向けてがなり立ててきた髭面の官僚を思い出す。

 どんなに行動を控えろと言われようとも、俺は俺の思うがままに動く。

 これ以上、戦争の被害によって苦しむ人間を生み出さない為にも、俺は死んでも上浦白狼=天子を守る。

 戦争強硬派の企みも、ゴースト・ラインの計画も阻止してみせる。

 

 自分の愛機のメンテナンスをしながら、俺はふぅっと息を吐く。

 システムがアップグレードされて、かなり動かしやすくなった。

 基地内にあるシミュレーターにデータを移して模擬戦闘をしてみたが。

 かなりの速度を出しても体に無理が出ない。

 こいつとならば、俺はもっともっと加速してその先へと行けるだろう。

 

 コンソールを叩きながら、ディスプレイに映った細部の情報に目を通していく。

 ゴウリキマルさんから教えてもらって、細かい設定が出来るようになった。

 今はマニュピレーターの感度を調整し、レーダー装置の誤差を修正していた。

 今のままでも別に問題は無いが、もっと感度を高めてもいい気がする。

 レーダーに関してはAIから誤差があると言われたので確認しているところだ。

 

「……いうほどあるか?」

《はい。0.02秒ほどの誤差があります。戦場では命取りです》

「……どうやって修正するんだよ」

《此方で自動的に修正しますのでご安心を》

「……じゃ何で俺に言った?」

《ゴウリキマル様より、マサムネ様には可能な限り学習させるようにと言われていたので》

「……お母さんかな?」

 

 まるで母親の様であり、俺は乾いた笑みを零しながら頬を掻く。

 そうして、修正箇所の確認を終わらせる。

 AIにお別れを行ってからコックピッドの外へと出る。

 バンカーの開いたハッチからは空の光が差し込んでいた。

 暖かみのあるオレンジ色の光であり、時刻は既に午後五時三十分を指していた。

 

 ケージの上から下を見れば、整備スタッフが休憩していた。

 少しだけオイルで汚れたタオルを首に巻きながら、缶コーヒーらしきものを飲んでいる。

 仲良く仲間と談笑しているスタッフたちを見て、俺はかつての仲間の顔を思い出す。

 

「……トロイ、オッコ、レノア、ヴォルフさん、マルサス君、メリド、ジェスラ、ゴンザス……皆、元気にしてるかな」

 

 ケージの柵に腕を載せながら、過去を思い出す。

 U・Mに加入しゴースト・ラインと戦って。

 魔神と呼ばれる旧時代の兵器を打ち倒した。

 空を覆うほどの無人機と戦って、色んな強敵と死闘を繰り広げた。

 名付きもいたし、名付きと同じくらい強い敵もいた。

 

 何度も死にかけて、何度も絶望して――それでも俺は戦った。

 

 俺が知りたいことを知る為に。

 俺がしたいことをする為に。

 俺は仲間と一緒になって大空を駆けた。

 

 その結果、手に入れる事が出来たものもある。

 かけがえのない仲間や金には換算できない貴重な思い出。

 俺が俺として活動していた頃の記憶も少しだが思い出して……失ったものも多い。

 

 大切な仲間が死んで、この世界から去って。

 国の安寧を願っていた少女を死なせて、その国を滅ぼした。

 大罪人、英雄……どれが本当の俺なのか。

 

 乾いた笑みを零して、俺は両頬を叩いた。

 強く頬を叩けば、じんじんと両頬が痛みを発した。

 丁度いい痛みであり、悲しい気持ちにならなくてすんだ。

 

「……生きていれば、また会える……生きるんだ。この世界で」

 

 柵から手を離す。

 そうして、コツコツと音を鳴らして歩き出した。

 コックピッドのハッチは硬く閉ざされて。

 チラリと下へと視線を向ければ、イサビリ中尉が歩いていた。

 

 近くを通る兵士から敬礼を受けて。

 彼女は涼しい顔でその間を通っていった。

 俺はジッと彼女を見つめながら、形容しがたい不安を抱いた。

 

 自分でも何故、こんな感情を抱くのか分からない。

 しかし、今の彼女は見ているだけで俺を不安にさせる。

 あの時、俺の頭を撫でてくれた中尉ではない。

 まるで、同じ顔をした別の……俺は急いでケージを降りていく。

 

「……きっと間違いだ」

 

 自分に言い聞かせながら、俺は中尉を追いかける。

 不安を無くすために、彼女に疑念を抱きたくない為に――俺は彼女の後をつけていった。

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