六月に入って梅雨が近付いているのを感じている聖杯です。じめじめし始めるのでカビが生えないように細心の注意を払っていきましょう聖杯です。本体が頑強な侍のように、僕の本体は聖杯です。本体の聖杯はありますよろしくお願いします。じめじめしてくると食欲も失せてきますので食事管理をしっかりしていきたい聖です。
噂話が止まらない学校で授業を終えて寮に戻ると、寮生全員が作戦室に集まっていた。集まって早々の話題は、寮に入ったばかりの風花お姉ちゃんについて。風花お姉ちゃんのペルソナについては桐条お姉ちゃんの調査である程度分かってるらしい。分かるものなんだね。
「山岸のペルソナは攻撃手段を持たないが、その代わりに探知、解析などのサポートに長けているようだ」
「あれ? 桐条お姉ちゃんもそういう能力のペルソナだよね? ずっと後方支援だったし」
「いや、美鶴のペルソナは本来戦闘型のペルソナだ。後方支援能力はその副産物と言ってもいい」
そうなんだ? ……桐条お姉ちゃんのペルソナの名前は確かペンテシレア……ギリシャの女王様だっけ。アキレウスと戦ったことがある女王様の名前だし、戦闘の方が得意なのは頷ける。通信中もどこかそわそわしていたし、結構前衛にいる方が性に合っていたりするのかな、桐条お姉ちゃんって。
「桐条先輩に代わって、これからは私が皆さんのサポートをします」
風花お姉ちゃんの声には緊張が混ざっているものの、おどおどしているような声ではなかった。落ち着いていて、息苦しさは感じていなさそうだ。
風花お姉ちゃんが特別課外活動部に参加することになったお蔭でできるようになったのは、今まで簡易的だったタルタロスの地図情報の詳細化、シャドウの細やかな解析、出現位置の確認など。タルタロスの探索効率がこれによって上がるだろう。
「山岸が参加してくれたお蔭で私も探索に参加できる。今まで君達ばかりに負担を強いてきたからな。ぜひ頼ってくれ」
「俺も忘れてもらっては困るな。先達として、しっかり役目を果たさせてもらおう」
風花お姉ちゃんが加入したことで、桐条お姉ちゃんと真田お兄ちゃんの二人もタルタロスの探索に参加するみたいだ。ただし、風花お姉ちゃんのペルソナは攻撃手段を持っていないから、誰か一人をエントランスに残しておく必要がある。ただ、探索できる人の人数が増えたことは間違いないので、戦力は上がっている……はず。
「…………」
皆が桐条お姉ちゃんの復帰に喜びを示している中、岳羽お姉ちゃんの表情が曇っているのが見えた。曇っているというか、難しい顔をしているというべきか。その視線の先には桐条お姉ちゃんがいて、不信感を覚えているような……んんんん……岳羽お姉ちゃんが何を考えているのかが分からない。
『背景を知らず、山岸風花の内面を知らないのであれば、桐条美鶴が強引に勧誘したと邪推する可能性もあるな』
(んん……そうなの? 桐条お姉ちゃんがそんなことするかなぁ?)
『貴様は長い間付き合いがあるからこそ、桐条美鶴と山岸風花の内面をある程度理解している。しかし岳羽ゆかりにはその機会がなかった。その違いだ』
(人間って難しいね)
『そうだ。だからこそ、翳りが生じる。翳りを消し去った時、人間は更なる飛躍を遂げるのだ』
聖杯さんの話も難しい。でも、このわだかまりが強くなっていったら、皆の関係が壊れてしまうんじゃないかな。そう考えると怖い。でもどうフォローすればいいのか分からないから、動くこともできない。僕が動いた結果、岳羽お姉ちゃんが更に拗れたらと思うと、一歩踏み出す勇気が湧いてこないのだ。
「それと汐見。君には引き続きリーダーを務めてもらう」
「え、いいんですか?」
「ああ。……それと、武器についてだが……汐見、君は剣があまり手に馴染んでいるようではないな」
「あはは……分かっちゃいます?」
僕がうんうんと頭を悩ませている間に、風花お姉ちゃんの話題から桐条お姉ちゃんと真田お兄ちゃんの復帰に話題が移り、そして次に汐見お姉ちゃんが話題の中心になる。桐条お姉ちゃんが言うには、汐見お姉ちゃんは剣を握って戦うのが苦手のようだ。……言われてみれば、確かに汐見お姉ちゃんは攻撃をいつもペルソナに任せている気がする。シャドウの攻撃を受け止める際も、剣を使わずにペルソナを使っていたような……
「今後の戦闘において武器が使えないのは致命的な隙を晒す可能性がある。すぐに新しい武器を探すべきだな」
「ご迷惑をおかけします……」
「いや、いいんだ。君が使いやすい武器を用意できなかったこちらに落ち度がある」
汐見お姉ちゃんの武器かぁ……剣じゃない、使いやすくて、ある程度のリーチもあって、ペルソナを召喚する際に片手で持てるような、そんな武器……うーん……うーん……武器……リーチ……使いやすい……振り回せる……片手でも使える……剣……銃……斧……釣り竿……デンラ○ナー……あ。
「薙刀とか?」
「薙刀……なるほど!」
「ふむ、いいかもしれんな。リーチもある程度確保できるし、遠心力を利用した攻撃もしやすい」
早速用意しよう、と桐条お姉ちゃんが携帯電話で誰かに連絡をし始めた。仕事が早い。こういう行動の速さは人を引っ張るために必要な能力かも。あ、引っ張ると言えば。
「伊織お兄ちゃんはリーダーとか立候補しなくてよかったの?」
「ん? ああ……俺、ちょっと考えてよ。大型シャドウと戦った時、あっただろ?」
「? うん」
「あの時、お前が大型シャドウの動きを止めた後、腕とか、とにかく色んなとこがグチャグチャになったの見て、パニックになってさ……」
え、そんなに凄いことになってたの僕の腕。聞いてない。僕聞いてないよそんなの……精々肋骨が砕ける寸前だったってことしか聞いてないよ。その傷も岳羽お姉ちゃんが回復技をガンガン使ってくれたお蔭でほぼほぼ治っていたし……お説教でもあんな無茶をするなって感じのものばっかりだったし……
「その後は琴音ッチがモノレールを止めて……まあ、その時考えたんだよ。あの状況で冷静にあれこれ動けてねぇ俺がリーダーになったら、皆が大怪我しちまうかもってさ」
「……そっか」
「それに、俺は切り込み隊長って大事なポジションがあるわけですよ! そのポジションを極めていきたいってワケ」
……うん、伊織お兄ちゃんがそう言うなら、それでいいんじゃないかなって僕は思います!
「ま、これからはお前が無茶な戦いをしないようにすっからさ。期待しててくれよ!」
「うん、期待してる! 頑張れ、斬り込み隊長!」
「へへっ、大船に乗ったつもりでいてくれよ!」
『あの夜を越えて、伊織順平はまた一つ飛躍を遂げたな』
聖杯さんが認めるくらい、伊織お兄ちゃんは成長を遂げているらしい。心なしか、伊織お兄ちゃんの纏っているオーラって言うのかな……それが大きくなっているような気がした。
「っと、そういえばゆかりッチ、学生用のネット板とか見てる?」
「は? いや、見てないけど……」
伊織お兄ちゃんにちょっと尊敬の眼差しを送っていると、伊織お兄ちゃんが岳羽お姉ちゃんに学生用のネット板を見ているか、という質問をした。ネット板……そういえばそんなものがあるとは聞いているけど、僕も見たことがないや。そもそも掲示板とかを見ることがないし。
「先週、E組の子が校門で倒れてんの見つかったっしょ? あれ、怪談に出てくる怨霊の仕業じゃね? って話が出てんのよ」
「怨霊とか、マジやめてよ……嘘くさいし」
怨霊かぁ……怨霊……ゲゲ○の鬼太郎……怪談レス○ラン……学○の怪談……ううん、名作。夏になると特集が組まれることが多い怪談話。夏が近付いていることもあって、怨霊やら七不思議やら……たくさん出てくるよね。伊織お兄ちゃんが今話している怨霊の話もそうだし。……あ、怨霊と言えば。
「あのホテルにも幽霊の噂あるよね」
僕がそう呟いた途端に、皆の視線が僕に集まった。皆怪談話とか噂話好きだね。
「お、聖もイケる口だったり?」
「あんまり得意ではないよ?」
ただ、噂というのは嫌でも耳に入ってくるもので。学校にいると色々耳に入ってくるのだ。あとは外で買い物をしたりしていると、色んな話が耳に入ってくる。
「ふむ……聖、君も話をしてくれるか?」
「え? いいけど、うろ覚えだよ?」
「構わない」
ううん……そっか。なんか岳羽お姉ちゃんが嫌そうな顔をしているけど、他の人達が興味を示しているので、記憶を探りつつ、聖杯さんが用意してくれたカンペを聞き取りながら、耳にした怪談話を語り始めた。
「辰巳ポートアイランドの中でもまぁまぁ大きなホテル。桐条グループが建設した大きなホテル。あそこには幽霊の声を聞いたって話が結構出てるみたい」
「……ふむ」
「それでね、その幽霊の声はいつも泣いているんだって。痛い、苦しい、怖い、嫌だ。そんな泣き声が聞こえてくる。それを聞くのはいつも大人の人じゃない。聞けるのは僕達くらいの年代までの子供だけ」
まるで大人に何を言っても意味がないって言っているかのような、そんな泣き声。縋るような泣き声が、そのホテルでずっと聞こえているらしい。そんな噂があるのに普通に営業が続いている辺り、所詮は噂だってことなのだろうけど……それにしては噂が消えるのが遅すぎる。
「そんな声が聞えた人は、嫌な夢を見る。白い部屋で、大人達に囲まれて、体のあちこちを切られ続ける夢。ずっとずっと、切られ、潰され、焼かれ、壊され、直される。ずっと、ずっと、繰り返し。ガラスが割れるような音が聞こえて、夢から覚める瞬間に、大人はいつもこう言うんだって。『ああ、また失敗作だ』って」
失敗作とは何なのか。どうして切られて潰されて、壊されるのかは分からないけど、そんな怖い夢を見るみたい。僕が知っているお話はここまでだ。
「とにかくそういう話が、あの大きなホテルにはあるみたい。ホテルの下に何かあったりするのかな?」
「……中々興味深い話だったな」
「どちらの話も調べる価値はありそうだな」
「調べるなら桐条グループの人達が一番知ってるんじゃない? ホテルの従業員とかはお客さんから聞いてそうだし」
情報を集めるにしても、学校はともかく、ホテルに泊まっていた人達に聞いて回るのは難しいだろう。さすがの桐条グループでも、ホテルに泊まった人達の中で僕達くらいの年代の人を割り出して全員にその情報を聞いて回るなんてできない……よね?
というか、怨霊や幽霊の類は本当に存在しないと言えるのかな。聖杯さん、ベルベットルーム、ペルソナ、シャドウ、タルタロス、影時間。科学では証明が難しいものを、僕は見聞きしている。たまに見に行く骨董品にだって曰く付きの品とかもあったりするし。タルタロスで宝箱を開けると出てくる装備や道具だって得体の知れないはずなんだけどな。東京が実は神様とか天子様の啓示を受けた聖母が出産した、なんてこともあるかもしれない。だって聖杯さんという存在がいるくらいなわけだし。
聖杯さんが言っていたように、目に見えるものだけが本物とは限らないのだ。目に見えるものだけを信じていたら、見えない何かに後ろから刺されたり、ハゲワシに後ろから蹴り落とされたり……そんなことがあるかもしれない。
「怪談なんて、絶対嘘に決まってるし!」
「……?」
何か、風花お姉ちゃんが辛そうにしているように見えた。あんまり怪談話、好きじゃなかったのかな。
画面外であった聖VS力を司る者
聖 の こうげき ! しかし こうげきが 当たらなかった !
聖 の メギドラ ! しかし ひらりと 躱された !
力を司る者 の こうげき ! 急所 に 当たった !
聖 の 目の前が 真っ暗 に なった …
これが数十回は繰り返されてます。