聖杯さんが囁いてくる   作:エヴォルヴ

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切り詰めるであります。文句は受け付けないであります。メギドラオンであります。


聖杯さんが値切りしている

 夜食を食べる背徳感が堪らない聖杯です。これを軽食にするか、普通のご飯にするかによって背徳感の差が出てくると思ってます聖杯です。本体の聖杯はいますよろしくお願いします。でも最近ブームの夜食はフレンチトーストにバニラアイスを乗せたスイーツ系夜食です背徳感が堪りません聖です。誰もいないリビングで食べるフレンチトーストとバニラアイスに心躍る聖杯ですよろしくお願いします。

 

 影時間にタルタロスの探索を行うのは、別に毎日というわけではない。今日はタルタロスの探索を行わない日だ。毎日やっていたら学校生活に支障をきたしてしまうということで、基本的には一日おき。土日祝日が挟まる場合は連続でタルタロス探索を行う。今日は探索もお休み……なんだけど。

 

「よし、行こう」

 

 影時間になると強制的に怪盗服になるみたいで、夜食を食べている間に切り替わった。ちょっとシュールさを感じつつも、聖杯さんに教えてもらった脱走術で自分の部屋から寮を出る。

 

『……50点、といったところか』

 

「まだまだ改良の余地あり……!」

 

『ワイヤーショットを用意するべきだな。攪乱にも使える。桐条美鶴に伝えておけ』

 

 そうしよう。ワイヤーで四方八方に移動するなんて、まさに怪盗って感じでちょっとワクワクする。でもそんなワクワクを消し去るレベルの受難がタルタロスには存在する。僕は涙が出てきそうだよ。泣いていたら後ろからシャドウにやられたってなりそうだからやらないけど。

 

「そういえば聖杯さん、今日はどこに行くの?」

 

『タルタロスの中に、得体の知れない気配を放っていた扉があっただろう。あそこだ』

 

「えぇ……」

 

 少し前のタルタロス探索に向かった際、真っ赤な空間に繋がっている扉があった。見つけた時は近付かない方がいいという意見が全員から出て、そこからすぐに離れたんだけど……聖杯さんが指定する場所がそことは。

 

「あそこってどんな場所なの?」

 

『一言で言うならシャドウが際限なく現れる部屋だな』

 

「罠じゃん」

 

『それを生みだしている存在がいる。それを探し出して潰せば有象無象は消える』

 

 でも有象無象って強いんでしょ? 僕は知ってる。有象無象共からだって言って呼び出したペルソナが、僕の呼び出したサマエルよりも強かったカロリーヌとジュスティーヌの例があるから信じない。(実力がある人にとっては)有象無象ってことなんでしょ、きっと。騙されないぞ僕は。2キロくらいある本のピエロの言葉を信じるなんて馬鹿なことはしないぞ。

 

『貴様本来の実力を見るいい機会だ。励め』

 

「有無を言わさない言いよ────あれ?」

 

『どうした』

 

「…………あれ、人かな」

 

 怪盗服を着ている状態の身体能力向上を利用して屋根を飛び回ったりしてタルタロスに向かっていると、フラフラと動いている影が見えた。立ち止まってその影をしっかり見ると、それはまさしく人影。遠いから顔までは分からないけれど、あの制服には見覚えがあった。あれは間違いなく、はがくれの制服……

 

「適応者ってやつ、なのかな?」

 

『ペルソナの可能性もあるがな』

 

「ペルソナァ!?」

 

 え、あのフラフラ動いているのがペルソナの可能性が……? じゃあやっぱり影時間に適応した人がペルソナを召喚しながらフラフラと歩いている……ってこと? 

 

『いいや、使い手の制御下を外れ、暴走している存在だ』

 

「……封印する前に、暴走したってこと?」

 

『どうだろうな。案外、シャドウに襲われ、抵抗した末に暴走させ、そのまま使い手を乗っ取っている可能性もある』

 

 だから、人間の姿を持っているのだ、と話す聖杯さん。ペルソナが暴走して……使い手を乗っ取る。そんなことも、ペルソナにはあるのか。もしかしたらペルソナって、本質的にはシャドウと同じようなもの……なのかな。ペルソナとシャドウ……鏡合わせのような存在だったりするのかもしれない。

 

『貴様は例外ではあるが、ペルソナとは心の奥底にある本音を制御できている状態で呼び出すシャドウのようなものだ。心で制することが肝要……ということだな』

 

「そう、なんだ」

 

 じゃあ、もし僕の大事な人達が傷付けられたら、僕は暴走させてしまうかもしれない。大切なものが傷付けられた時、僕の心がペルソナを制御できるくらい穏やかな状態になるとは思えないから。そうなったら……誰かに止めてもらうことしかできないだろう。

 

『そうならんように励め。もしくは、心を荒ぶらせた状態であってもペルソナを使いこなせるようになれ』

 

「……うん」

 

『そもそも激情から顕現させるペルソナなのだ。その程度は簡単だろう』

 

 無理言ってるようで、そう言われてみると案外そうなのかもと思ってしまう辺り、僕も結構染まり始めているということなのだろうか。そうじゃないとしても、僕が色んなことを頑張らないといけないのは変わらない。まずはタルタロスにある扉の先での戦闘。次にカロリーヌとジュスティーヌに一撃でも加えること。頑張らないといけないことが山積みだ。

 

「でもちょっと心配だから、あのフラフラしてる人に声かけてきてもいい?」

 

『好きにしろ。時間はまだまだあるからな』

 

 聖杯さんからの許可も貰ったところで、屋根の上を飛び回り、フラフラと歩いている人影に近付いていく。一歩、また一歩と近付いていく中で、その姿ははっきりと見えるようになっていく。はがくれの制服を着たままフラフラと歩いているその影は、間違いなく人間の姿をしている。少なくとも、僕の目には暴走したペルソナが乗っ取っているようにも、シャドウにも見えない。

 ピョンピョンと跳ね回って姿がはっきりと見えたところで、僕はその人が誰か分かり、後ろからはっきりとした声で挨拶の言葉を口にした。

 

「イズミお兄ちゃん、こんばんは!」

 

「ッ!?」

 

 バッ、と振り返ったはがくれの制服を着た男の人は、驚愕と警戒の色で顔を染めながら、どこに隠していたのか歪な形状をしたナイフを取り出して────ナイフ? 

 

「わー!? 待って待って! 僕は別に戦うとかそんなこと考えてないよ!?」

 

「……ッ? そ、その声、もしかして、聖君かい?」

 

 あまり顔色がいいとは言えない、物腰柔らかそうでちょっとひ弱な印象を感じさせる青年、イズミお兄ちゃん。ネームプレートに書いてあった名前しか知らないから、イズミお兄ちゃんと呼んでいる彼は、凄く困惑した表情を浮かべながらも僕に問いかけてきた。

 

「そう! 顔が隠れてるけど僕は聖だよ!」

 

「う、ううん……じゃあ、はがくれの裏メニューは?」

 

「はがくれ丼!」

 

「君がいつも頼んでいるメニューは?」

 

「特製ラーメン、はがくれ丼! たまにニンニク抜きの餃子とスープとご飯も頼むよ!」

 

「うん……よく分からない恰好をしているけど、聖君だ」

 

 そう言って歪な形状のナイフを降ろしてくれたイズミお兄ちゃん。……シャドウと戦っている身としては武器を向けられた程度なんだ、という話だけれど、結構びっくりするものだ。ホッとしてる自分がいる。

 

「イズミお兄ちゃんはこんな時間まで何してるの?」

 

「こっちのセリフでもあるんだけど……まぁいいか。バイト終わりに散歩してたら、こんな時間なんだ。不気味で嫌になるから、さっさと家に帰るつもりだよ」

 

「そっか」

 

 確かにはがくれって、深夜まで営業してるもんね。その後散歩していたら、影時間に突入してしまうこともあるか。イズミお兄ちゃんが影時間に適応していなかったら、そのまま象徴化しているわけだけど。

 

「聖君こそ、何をしてるんだい?」

 

「僕? 僕はね、あそこに行くつもりなんだ」

 

 僕が指差すのはタルタロス。近付いているということもあって、見上げるくらいの高い塔を指差した僕にイズミお兄ちゃんは訝し気に口を開いた。

 

「あの塔に……?」

 

「うん。あそこでちょっと修行するんだ」

 

「そう、なんだ」

 

 ……警戒されてる? いや、でも警戒してるのは僕というよりも……タルタロス? いや、それも違うような気がする……んん……? イズミお兄ちゃんが何を考えているのか、分からなくてちょっと困惑。

 

「聖君、それは強要されたものじゃないか?」

 

「え? 違うよ?」

 

「本当にそうかい? 騙されたり、酷いことをされていたりしないかい?」

 

 …………騙されたり、酷いことをされたりって、どういうこと? カロリーヌとジュスティーヌ、マーガレットさん……ベルベットルームがちょっとトラウマ部屋になりつつあるけど、タルタロスに探索しに行くのは聖杯さんから提案されたけど、行くと決めたのは僕だし……あ、でも胡散臭い人はいる。けど、それかな? それなのかな? いやでもなぁ……今のところ、そういう酷いことってことはないと思う。

 

「んーん。全然」

 

「そうか……ならいいんだ」

 

 それだけ言って、イズミお兄ちゃんは僕から背を向けて影時間の道に消えていった。……何だったんだろうね、一体。

 

「……分かんないや」

 

 とりあえず、当初の目的に戻ろう。タルタロスに行かないと。

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 タルタロスに潜ってすぐ、その扉はある。真っ赤に染まった部屋の先、シャドウが際限なく現れる空間で、僕は現れ続けるシャドウを相手にメギドラを撃ちまくっていた。

 

「メギドラ!!」

 

 白と黒の閃光がシャドウを包み込み、消し去るのと同時に削れた精神力がすぐさま回復していくのを感じる。これがサマエルに付与されたスキル『歪曲の暴食』の効果なんだろうなぁ、なんて呑気なことを考えることができるくらいには、結構余裕があった。

 

「余裕がある、と言っても……ううん……」

 

『さすがに多すぎる、と言ったところか?』

 

「うん」

 

 倒しても倒しても、溢れ出てくるシャドウの姿。これらを生みだしているシャドウがいるのは聖杯さんから聞いているし、それらしき姿を僕は見ているけど……シャドウの数が多すぎて、そのシャドウを狙うことができないでいる。多すぎるシャドウが壁になっているのだ。邪魔過ぎる。

 

「どうしようかなぁ……メギドラ撃ち続けてるのに減らないなぁ」

 

 そう言いつつもメギドラを撃ちまくる。撃った分の精神力がスキルによって戻ってくるからジリ貧になるってことはないんだけど、本当にいたちごっこ。

 

『シャドウの発生よりも早くメギドラを撃てばいい、というのは極論だが……さて……気付くか?』

 

「マハスクンダ! メギドラ!!」

 

 とりあえず色々試してみよう、ということでマハスクンダからメギドラを放ってみる。動きが鈍くなったシャドウにメギドラが当たるが、代わり映えしない。これ、僕がシャドウの群れを潰して、他の人達に本体を倒してもらうのが正攻法なんじゃ……いやでも、聖杯さんがいけるって言ってるってことは、僕が持っている手札の中に突破口があるということで……

 

「……ううん?」

 

 メギドラによる撃ち漏らしはナイフと銃で処理する。ナイフも、もう少し大きいものが欲しいと思い始めてきた。こうやって接近された時に戦いやすかったり、奇襲を仕掛ける際に小回りが利いていいんだけどね? でももう少し威力が……でもこのナイフを極めることができれば、色んな所で応用が利きそうな気がする。

 

 ……あれ? 今なんだか数が減って、奥の本体が見えたような……? 

 

「マハスクンダ! メギドラ! フレイラ!」

 

 動きが鈍くなったところに炸裂するメギドラ。その後ろから迫ってくるシャドウに向けて、青白い炎────というかプラズマ? が炸裂し────やっぱり一瞬だけ道が開けた。フレイラって単体に当てる攻撃のはずなんだけど、サマエルの魔力が高まっているお蔭で威力が向上していて余波がシャドウを吹き飛ばしているようだ。メギドラで消し飛ばしたところにフレイラを叩き込むことで衝撃波が発生する。そうすると召喚されているものだからなのか凄く軽いらしいシャドウが吹っ飛んで道が開けるみたいだ。この一瞬の隙を見逃すことなく、道を駆け抜けないといけないわけか……でも、その一瞬の隙や道を補強する方法はもう、モノレールでやったことがある。

 

「蹴散らせ、サマエル!!」

 

『……正解だ』

 

 呼び出したサマエルがマハスクンダとポイズンミスト、そしてメギドラとフレイラを撒き散らしながらシャドウの群れに突っ込んでいく。シャドウがサマエルに群がるが、触れるよりも先に白黒の閃光と蒼白いプラズマが炸裂して、シャドウが消し飛んだ。あの時は凄くギリギリだったけど、今は『歪曲の暴食』によって精神力に全然余裕がある。

 

 開けた道を突っ切り、シャドウを生みだし続けていた本体に対し、僕はナイフを突き立てる。だが、それでもシャドウは倒れない。けど、僕の武器はナイフとペルソナだけではない。

 

「これで……終わりだ!!」

 

 突き立てたナイフを引き抜き、できた傷口に向けて銃弾を全弾撃ち込む。

 血液のように黒い影のような液体を飛び散らせながらも、最後の抵抗とばかりに手を伸ばしてきたシャドウは不自然に硬直し、そのまま霧に消えていく。溶け落ちていくシャドウと共に、後ろから迫っていたシャドウの群れも跡形もなく消え去り、真っ赤な部屋が穏やかな青白い部屋に変わった。……終わった、のかな? 

 

『終わりだな。その奥にある宝箱から戦利品を獲得してから帰れ』

 

「…………やったぁ……!」

 

 なんか、凄い達成感。正直なことを言うと、本当に強くなっているのか分からなかったのだ。ペルソナを覚醒させた時は気絶、モノレールの時は怪我をして突撃! 私が晩御飯で気絶、カロリーヌとジュスティーヌとの戦いでは一撃も与えることができずに気絶と覚醒を繰り返していた。だから、一人でどうにか課題をクリアできたことが凄く嬉しい。強くなっているって実感ができて、本当に嬉しいのだ。

 

『己の弱さを認めることが更生の道であるように、己の実力を正しく見つめることもまた、更生の道だ』

 

「うん」

 

『貴様は間違いなく強くなっている。これからも励め』

 

「分かったよ、聖杯さん」

 

 この結果に喜びつつも、満足することなく頑張れ、という聖杯さんの激励に頷き、この部屋を攻略した報酬であるという宝箱を開け、その中身を見て目を見開いてしまう。

 

「せ、聖杯さん、これって宝石ってやつなのでは?」

 

『そうだな』

 

 まるで吸い込まれるかのような光沢のある黒いそれは、少し前にテレビで特集されていた宝石の特徴にとてもそっくりな外見をしていた。何でも吸い込んでしまうような神秘的な黒。漆黒のその石は魔除けの宝石として名高いというモリオン────日本だと黒水晶と呼ばれている宝石だ。

 

「え、なんでこんなところに!?」

 

『さてな。だが、貰えるものは貰っておけ』

 

「え、ええ……?」

 

 いいのかな……ううん……いいのかなぁ……? でも、まぁ、報酬が無いよりはある方が嬉しいものだから、貰えるというのなら、貰っておこう。魔除けとかってことなら何か役に立つかもしれないし。

 自分への言い訳をしたためつつ、僕は懐にモリオンを仕舞って部屋の外に出て、脱出装置を起動。エントランスにある柱時計を背もたれにして座り込み、一旦休憩してから帰ろう。そう思った矢先のことであった。

 

「やっぱりいた」

 

「へ……?」

 

 いきなりやってきた疲れを感じながらも首を動かしてみると、そこには怒った表情の風花お姉ちゃんが立っていた。怒りと心配が混ざっているような表情を浮かべた風花お姉ちゃんが、一人でここにいることに目を見開き、疲れた体に鞭を打って立ち上がる。

 

「風花お姉ちゃん、なんでここに?」

 

「明日花君の部屋の窓開いてたから気になって。いるとしたらここかなって思って来たんだよ」

 

「ひ、一人で?」

 

「うん。明日花君と一緒だよ」

 

 ひえ……凄く怒ってる……

 

「話は寮で聞くから、今日はもう帰ろう?」

 

 見逃してくれるわけはないですよね、知ってました。はい、心配させてしまった僕が悪かったです……今度はバレないように抜け出せるように頑張りま────

 

「明日花君、何か変なこと考えてない?」

 

「ヴェッ……何も考えてないよ?」

 

「……」

 

 はい、ごめんなさい……僕が悪かったからその目を止めてください良心の呵責に苛まれてしまうので止めてくださいお願いします。

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