こんにちは、聖杯です。最近部屋に置いているパソコンの調子が悪いような気がしてならない聖杯ですよろしくお願いします。聖杯です本体の聖杯はありますよろしくお願いします。久しぶりにはんだごてを引っ張り出してくる必要がある気がしてならない聖杯ですよろしくお願いします。本体の聖杯はありますよろしくお願いします。
『先の戦闘において、貴様は手札をどう使うかを学んだ』
(うん)
『与えられた手札を使い、いかにして突破口を切り開くか。それはこの先の旅路でも使える技だ』
一階ラウンジで洗い物をしながら聖杯さんの言葉に耳を傾ける。今日の夕飯は蕎麦だった。じめじめしていてもするすると入っていく麺類にはこれからの季節、お世話になるだろうけど依存しないように注意しながら食生活を豊かにしていきたい。
『しかし、あの戦闘を経て、課題も見出しただろう』
(うん。範囲攻撃とかはいいけど、物理面があんまり)
正直な話、あのシャドウ達に魔法の利き具合が良くなかった。あとは僕が機動力を上手く活用できていないのも良くないと感じた。そもそもサマエル自体が物理攻撃を持っているペルソナじゃないから仕方ないことなんだけど……ううん……こうなるのなら、あの時新しいペルソナを作ってもらうべきだったかな、と今更考えてしまう。
『ふむ……ならば、次の大型シャドウがお前の中に入り込んできた際に作るか?』
(じゃあそうしようかな? あんなこと、何度も起こるとは思えないけど)
新しいペルソナは物理攻撃に特化したペルソナになるだろう。でも、大型シャドウが毎度毎度、僕の中に入り込んでくるとは思えないし、機会があれば、といった感じだ。ちょっと楽しみ。
「調べてみましたが、怨霊の噂はでたらめで、昔からあるものと比べてみても状況などが全然違いました」
「怪談だと生徒が死んだりしてるけど、実際には誰も死んでないしね」
「あと、意識不明になった生徒達の特徴なんだけど……」
洗い物をしている間に、岳羽お姉ちゃんが主導で調べていた噂話の調査……その結果を報告していた。最近死んだ、もしくは死んだと思われる状態の生徒はいないんだって。当たり前だよね。死人が出てたら、普通に学校側がPTAの人達を呼んだり、警察の調査をお願いしているところだ。それがないということは、ただの噂話というだけ。途中で尾鰭が付いたって感じかな。
ちなみに意識不明になっている生徒の特徴として、よく家出をしてポートアイランド駅の外れにある溜まり場でよくたむろしていたらしい。……あそこ、前に荒垣お兄ちゃんが制圧したって聞いたけど、まだ治安が悪いんだね。荒垣お兄ちゃん、そろそろもう一回くらい格付けチェックの時間が来そうだよ。
「よって、更なる真相に近付くべく、明日現場取材を決行することにしたから!」
…………あれ? 真田お兄ちゃんも桐条お姉ちゃんも止めないの? ねぇ、止めなくていいの? ほったらかしは良くないと思うな。
「ねえ、岳羽お姉ちゃん」
「何?」
「その取材、一人で行くの?」
「え? いや、琴音と風花も連れていくけど」
あ、やっぱり。岳羽お姉ちゃん、あそこの危険性を全く理解していない。あそこの危険性を理解しているなら、少なくとも女の子だけで行くなんて発想が出てくるはずがない。聞いて! 聖杯さんも呆れて溜め息を吐いてるよ! まぁ、僕にしか聞こえていないんだけどね。
「岳羽お姉ちゃん、先に謝るね。ごめんなさい」
「へ────きゃっ!?」
スパンッ、と新聞紙を丸めたもので岳羽お姉ちゃんの頭を打ち抜く。その行動に誰もが目を見開いている中、僕は岳羽お姉ちゃんに向かってもう一撃、軽く叩き込む。
「ちょ、ちょっと何すんの!?」
あまりにもいきなりの攻撃に怒りだけではなく困惑も強く滲んでいる岳羽お姉ちゃん。でも僕の方が怒ってるのです。
「岳羽お姉ちゃん、僕は怒ってます」
「は、え、なんで?」
「岳羽お姉ちゃんの危機感の欠如具合に怒ってます。というか真田お兄ちゃんと桐条お姉ちゃんが止めなかったことにも怒ってます」
チラリと年長者の方を見ると、バツが悪そうにして目を逸らされた。この報告会が無い状態でいきなりあの溜まり場に行っていたら、僕はこの一週間、皆には食パンの耳で生活してもらうくらいには怒り狂ったと思う。ちなみに風花お姉ちゃんと汐見お姉ちゃんにも怒ってるからね。伊織お兄ちゃんは慌ててたから、多分あそこの危険性をこの中で一番理解してると思う。
「シャドウと戦う時、岳羽お姉ちゃんは何考えてるの?」
「え、いきなりどうしたの?」
「いいから答えて?」
「う…………その、死なないように、とか?」
「うん、それが正解だと思う」
シャドウと戦う時というのは、一瞬の判断で生死が分かれる可能性がある状況だ。そりゃ、有象無象はそこまで考えることは無いと思う。けど、階層を守ってる強いシャドウと戦う時とか、長居してしまったせいで現れた刈り取る者に追い掛け回されている時とか、その時は死なないように立ち回る。タルタロスでは『いのちだいじに』の考えが大事だ。けど、岳羽お姉ちゃんが行こうとしている場所は、それとは全然違う。
「じゃあ、今回の現地取材は何考えてた?」
「何ってそりゃ、真相を、探るために行くって考えてたけど……」
「じゃあ、乱暴されたりするなんて考えてもなかったんだね」
一瞬、岳羽お姉ちゃんの動きが停止する。僕の言った言葉の意味が理解できていなかったみたいだけど、すぐに赤くなって口を開こうとしたが、それを制するように僕は話を続ける。
「女の子だけであそこに入るなんて、乱暴してくださいって言ってるようなものだよ?」
「なっ────」
「路地裏に入って襲われないなんて漫画の世界だけだよ? あそこで喧嘩に負けたら全部奪われるんだよ?」
僕や伊織お兄ちゃん、真田お兄ちゃんみたいな男はお金とかを全部盗られるだけで済むと思う。うん、本当にその程度で済むと思う。荒垣お兄ちゃんがそんなことを言ってた気がする。でも、岳羽お姉ちゃんや汐見お姉ちゃん、桐条お姉ちゃん、風花お姉ちゃんみたいな綺麗で可愛い女の子なら、もう目も当てられないことが起こる可能性が高い。
「その時奪われるのはお金だけじゃないと思う。文字通り全部。お金も、体も、尊厳も。何もかも奪われる」
今の僕はきっと、笑っていない。いつもぼんやりしていると言われるような表情も浮かべていない。無表情。きっと、能面みたいな無表情になっていると思う。岳羽お姉ちゃんの表情からして、きっと怖がられてる。でもいい。怖がられても、嫌われてもいい。僕が嫌われるだけで、お姉ちゃん達が一生消えない傷を負うよりも、お兄ちゃん達が止められなかったことによる負い目を抱えるよりも、ずっといい。
「乱暴されて、写真を撮られて、弱みを握られて。そんなことが起こる。その時、岳羽お姉ちゃんは色んな責任が取れるかな?」
「あ……いや……私、そんなつもりじゃ……」
「そうなるかもしれない。そんなことを、一度でも考えた? 自分だけなら、なんて思った? そんなことありえるはずがないんだよ。一生消えない傷ができるかもしれなかったんだよ」
それは、岳羽お姉ちゃんだけでは済むはずがない。岳羽お姉ちゃんが心配だからと汐見お姉ちゃんや風花お姉ちゃんが一緒について行ったとしたら、漏れなく不良の餌食だ。伊織お兄ちゃんがついて行ったとしても、一人で守れる数なんてたかが知れてる。数の暴力に勝てるのはペルソナが使える時だけだろう。
「それに、さっきの新聞紙攻撃。あれがもし鉄パイプで、ここがあの溜まり場だったら、岳羽お姉ちゃんはもう終わってたよ」
もし、たらればの話ではあるけど、と口を閉じると、岳羽お姉ちゃんも、汐見お姉ちゃんも風花お姉ちゃんも今更ながら青ざめていた。脅し過ぎた……かな? 聖杯さんが用意してくれたカンペ、僕の中で浮かんでいる単語とかを縫い合わせてくれているけど、やっぱり凄い。説得力を持たせてくれる。
「岳羽お姉ちゃんがどうしてそこまで、怪談話の究明にこだわるかは分からないけど……あそこに行くの、僕は反対だな」
ぐにぐにと無表情になっていた顔を両手でほぐしながら、あそこに行くのは止めた方がいいと訴える。あそこまで詰められた後、ちゃんと心配していることを伝えると、岳羽お姉ちゃんは凄く申し訳なさそうな、でも諦めきれないという思いを感じる表情を浮かべた。岳羽お姉ちゃん、これだけ言ったらきっと行くことはないだろうけど……代替案くらいは用意した方がいいだろう。ううん……ううん……
「納得できないなら、僕があそこの情報に詳しい人に話を聞きに行ってくるよ」
「へ?」
「聖、それは一体……?」
「荒垣お兄ちゃん」
「何……!?」
普段どこにいるのかは分からないけど、荒垣お兄ちゃんのことだから、あそこの近くにある飲食店のどこかにいると思う。荒垣お兄ちゃん、飲食店のバイト掛け持ちしてるって前に言ってたから。いざとなったら聖杯さんセンサーを使って見つけよう。聖杯さんはペルソナの気配とかを感知できていたから、きっと見つかるはず。使えるものは何でも使えと聖杯さんからは学びました。
「どうする? 僕が調べに行くか、怪談話は単なる噂話だってことで話を終わらせるのか」
選択を迫った僕に対して、悩む素振りを見せた岳羽お姉ちゃんは────
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「ということで、何か知らない?」
「どういうわけだ……」
土曜日の午後、やっぱり飲食店でバイトをしていた荒垣お兄ちゃんを発見。バイトも終わったタイミングだったみたいで、そそくさと逃げようとした荒垣お兄ちゃんを追いかけて、捕まえた僕は、シャガールの個室で荒垣お兄ちゃんに話を聞いていた。凄く嫌そうな顔をしていたけど、僕から逃げるならコロマル並みの足の速さを身に付けなきゃダメだよ、荒垣お兄ちゃん。
ちなみに同行すると言っていた真田お兄ちゃんはテストがあまり芳しくなかったので、桐条お姉ちゃんによる勉強会に放り込まれた。悲しいね。
「ほら、月光館学園の高等部で倒れた人、いたでしょ? その人達、皆あの溜まり場にいる人なんだって」
「そうかよ」
「で、荒垣お兄ちゃんって、あそこによくいるでしょ? 何か知らないかなって」
「知らねぇよ。怨霊だ何だと言ってるが……どれも眉唾だ」
だよねえ、と呟いてから卵がたっぷり入った卵サラダを口にする。ん、初めて頼んだけど中々……卵サンドも美味しいからもしかしてと思っていたけど、美味しかった。これはリピート待ったなし。
『まあ、十中八九シャドウの影響だな』
(だろうね。何となく分かってた)
シャドウの声を聞いた結果、精神を食べられてしまったから意識不明になっているのだろう。……もしかして、桐条お姉ちゃんと真田お兄ちゃんは、このことを知っていたのかな? 知ってて、何も言わなかったのは……シャドウが人間社会にどんな影響を及ぼすのかを理解してもらうため? でも……それでもあの溜まり場に何も言わずに行かせようとしたのはちょっと────いや、かなりダメだと思うので桐条お姉ちゃんと真田お兄ちゃんのご飯の質を下げようか……いやでもなぁ……あ、そうだ。紅茶とプロテインを断とう。
「おい、何を考えてやがる」
「え?」
「悪いこと企んでる笑み浮かべてたぞ、お前」
「ちょっと桐条お姉ちゃんと真田お兄ちゃんの紅茶とプロテインを封印しようと思って。大体二ヵ月くらい」
「程々にしてやれ」
やるなとは言わないんだね、荒垣お兄ちゃん。じゃあ多めに見て三ヶ月くらい封印するね。どうやって封印しよう? 鎖でグルグル巻きにしてしまおうか。
「チッ……もういいか?」
あ、このままだと荒垣お兄ちゃんに逃げられる。久しぶりに会えたのだ。すぐに逃げられるわけにはいかない。風花お姉ちゃんの料理教室開催も検討している中、話を繋げるには……いや、それよりも。聖杯さんから聞いていたことを聞いておきたい。
「あ、最後に一個聞かせて」
「……何が聞きたい」
「えっと……どうして荒垣お兄ちゃんは自分のことを抑えつけてるの?」
それを聞いた途端、荒垣お兄ちゃんの表情が少しだけ強張った。……最近、こういう顔を見ることが多いなぁ。
「何が言いてえ」
「苦しくないの? 自分のこと、ずっと抑えつけ続けてたら、おかしくなっちゃうよ?」
顔に大きな文字で踏み込んでくるなと書かれているような気がしなくもないけど、荒垣お兄ちゃんと付き合いを続けるなら、ある程度無遠慮に踏み込んでいくのが大事なポイント。荒垣お兄ちゃんは自分から接触してくるような人じゃないから。多分、自分が近付いて迷惑になるんじゃないのかって気持ちがどこかにあるんだと思う。だから、踏み込む。ガードが固い荒垣お兄ちゃんだけど、こうして踏み込むと結構諦めて話をしてくれることが多い。
「……お前、巌戸台寮にいるんだったな?」
「うん。そうだよ」
「アキから何か聞いてるか?」
「アキ……ああ、真田お兄ちゃん? 全然。喧嘩中なら、早く仲直りした方がいいよ」
実際、真田お兄ちゃんから荒垣お兄ちゃんについて何も聞いてない。聖杯さんから荒垣お兄ちゃんがペルソナを無理矢理抑えつけてるってことは聞いてるけど、真田お兄ちゃんからも、桐条お姉ちゃんからも何も聞いていない。
「…………」
睨んでも僕はまだ逃がすつもりはないよ、荒垣お兄ちゃん。『荒垣 お兄ちゃん は 逃げ出した ! しかし 回り込まれて しまった !』ってやつだよ荒垣お兄ちゃん。まだ逃がさないよ。
「聞いてないなら、いい。……聖」
「ん?」
「お前は何のために戦う」
もはや自分は元々ペルソナを使っていたし、影時間のことについても知っていると言っているようなものだよね、その質問。というか僕の質問に答えてよ荒垣お兄ちゃん。………………言わないよね、多分。もう一回聞いても、答えてはくれないだろう。何のために戦うのか、かぁ。
「手を繋いでくれた人を守りたい。それだけ」
うん、多分これが理由だと思う。風花お姉ちゃんみたいに、僕の手を握ってくれた大切な人を守りたい。そういう思いが僕の戦う理由なんだと思う。
「……そうか。なら、貫き通せ」
「うん、そのつもりだよ」
荒垣お兄ちゃんはそれだけ言ってシャガールの個室から出て行ってしまった。……あ、レシートがない。いつの間に持っていかれたんだろう。
『岳羽ゆかり達にはどう伝える?』
(まぁ、やっぱり噂話だったよって言ってから、シャドウが人を襲ってるみたいって伝えようかなって)
『ふむ……妥当な判断か』
これで疑問がある程度解消されて、タルタロス探索に力を入れてくれるだろう。……入れてくれるよね?
ずぞぞぞぞぞぞ。