聖杯さんが囁いてくる   作:エヴォルヴ

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四徹したので寝ます。四徹したままの勢いで書いてるので支離滅裂はありますよろしくお願いします。


聖杯さんが豪語している

 こんにちは、聖杯です。満月の日がやってきた途端に体が気だるさを訴えてくるのはどうしてなのか知りたい聖杯ですよろしくお願いします。あといじめは絶対に許さない聖杯です、本体の聖杯はありますよろしくお願いします。行方不明事件についてはこの満月の日までにあらかた片付いたと信じたい聖杯ですよろしくお願いします。岳羽お姉ちゃんは反省したようだけど、桐条お姉ちゃんと真田お兄ちゃんへの処罰は決行しましたよろしくお願いします。

 

 巌戸台寮の台所を預かる人間の朝は早い。まだ誰も起きていない朝の四時からご飯を作るのだ。昨晩準備した出汁を使って味噌汁を作りつつ、余った出汁で卵を巻く。育ち盛り食べ盛りの高校生のお腹に卵焼きだけでは足りないので魚も焼く。今日の夕飯は鍋にします。明日も食べるために多めに作る。明日はご飯と卵を入れて雑炊にすることで、タルタロス探索で疲れた体を休ませる腹積もりだ。

 

 今日も仮面ライダーのオープニングを歌いながら朝ご飯を作っていると、僕のポケットに入れてある携帯電話が震えた。通知音が鳴らないようにしてから、解除方法が分からない。あとで風花お姉ちゃんに聞こう。それはそうと、こんな時間に誰が電話をしてきたのだろうか。

 

「もしもし」

 

『おはようございます。ジュスティーヌです』

 

『早い時間から活動しているとは殊勝な心掛けだな!』

 

「……君達に電話番号話したっけ?」

 

『そんなもの、貴様が気絶している間に記憶したぞ』

 

 ええ……どうやら、ベルベットルームでボコボコにされて、気絶している時に連絡先を交換したらしい。交換というか、一方的に交換って感じだったけど。

 

『世間話をしている時間も惜しいので要件を。試練の時が迫ってきています』

 

「へ?」

 

『正確な時間は分からないが、今日がその時だ!』

 

 突然の情報に思考が止まる。試練。ベルベットルームの管理人であるというイゴールさんが言っていた、よく分からないけど僕が超えるべき壁だというもの。それが今日やってくるという知らせに、僕の頭は考えることを止めようとしていた。

 

「あの、今日満月なんだけど……もしかして、大型シャドウが試練ってこと?」

 

『いえ、それとはまた別のものです』

 

『まぁ、大型シャドウと同等か、それ以上の強敵だろうがな』

 

 え、嘘でしょ? 下手をすると、大型シャドウと戦っていたらその試練の相手が乱入してくる可能性があるってこと? そんなことになったら、絶対洒落にならない。

 

『それでは虜囚。試練を超えることをお祈りしております』

 

『励めよ虜囚!』

 

「あの、そろそろ聖って呼んでくれない?」

 

『私達に一撃も与えることができていない方には虜囚がお似合いかと』

 

 酷くない? 同じくらいの年の人にそうまで言われてしまうと泣きそうになっちゃうよ。

 そんなことを考えている間に通話が終了し、ツー、ツー、と電子音を発する携帯電話。…………試練、今日なんだ……ああ、頭を抱えたくなるけど、卵焼きと大根おろしを作る手は止まらない。手慣れたものである。

 

(聖杯さん、どうしよう?)

 

『抗うしかあるまい』

 

(だよね、知ってた)

 

 どうしようかなぁ……カロリーヌとジュスティーヌを相手にして一撃も与えることができてないんだけど、僕。資格がない状態なんだけどな……それでもやるしかないわけだけど、やっぱり不安になる。今ある手札を使って、試練を乗り越える方法を探さないと。

 

(…………あ、そういえば聖杯さん)

 

『どうした』

 

(あのビキニアーマー、隠したのってバレてると思う?)

 

『……さてな』

 

 僕の部屋に隠してあるビキニアーマー……だったもの。現在分解して改造している最中なので、もう原型を留めていない。あれ、金属だけじゃなくて鞣革も使ってるんだね。しかも結構いいやつ。レザークラフトにしてしまえと分解しているので、バレたとしても誤魔化せるけど……

 

『例の視線とやらか?』

 

(うん。何か見られてる感じがしたんだよね)

 

 今は感じないけど、一人でいる時にたまに感じる視線。部屋にいる時に一番感じる気がするんだけど……隠しカメラとか、どこかにありそうなんだよね。だからビキニアーマーを持ってきたことがバレているかもしれない。でも今のところ、何かをされたということもないし……でも誰かに見られているって思うと嫌だ。見つけたら絶対にぶっ壊してやろうと思うくらいには嫌。

 

 さて、僕の悩み事は試練と視線とビキニアーマーだけではない。たまに夢に現れて泣いている黒い人と白い人は何者なのか知りたいところだ。僕を囲って泣きながら祈りを捧げるように跪いているとか何かの儀式? 怖いんだけど。僕は祀られるような人間でも、生贄肯定派の人間でもないんだけど。生贄文化を見かけたら「こんなものがあるのがいけない! あるのがいけない!」って叫びながら生贄を捧げる対象を破壊しようとするくらいには生贄否定派の人間なんだけど。

 

『…………ふむ。案外、探せば見つかるかもしれんぞ?』

 

(黒い人と白い人?)

 

『ああ。……まぁ、その前に試練だ。試練を突破しない限り、貴様に明日は無いぞ』

 

(現実は待ってくれないんだね)

 

 分かってはいた。分かってはいたけど、やっぱり現実とは非情なもの。それでも僕達は進んでいかないといけない。更生とか旅路とか、全然分からないけど……進まないといけないんだ。んん……難しいことを考えると頭が痛くなってくるし、お腹が空いてくる。もう考えるのは止めて、ご飯食べよう。

 

 未だに見えてこないことを考えるのはあんまり効率的とは思えないので、その問題に直面してから考えることにしよう。

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 寮に戻ってきた頃、ちょっと頭が痛くて薬を飲んで寝ていたら影時間になっていた。……あれ? 皆がいない……もしかしなくても出遅れた? そう思いつつ一階に降りると、ゆっくり休んでいろという書置きがあった。あの、起こしてくれても良かったんじゃないですかね……? 

 

『貴様に頼りきりにならんようにするため、だそうだぞ?』

 

「そんなことあったっけ?」

 

『さてな。貴様がそう思っていないだけで、奴らにとってはそう感じていたかもしれんな』

 

「ふぅん……」

 

 プライドってやつ……なのかな。それのためだけに確実性が欠けて怪我をしたらしょうもないと思うんだけど。それよりも、僕達が頼りきりになりそうになっているのは汐見お姉ちゃんの方だと思う。汐見お姉ちゃんは学校でも色んな人に頼られているって聞くし、タルタロス探索でも頼らせてもらっている。ある程度のことはやれちゃうっていうのもあるんだろうけど……汐見お姉ちゃんは神様じゃない。頼れるお姉ちゃんだけど、僕達がいつでも頼っていい、そんな都合のいい神様なんかじゃないのだ。

 

 都合のいい神様、という言葉は、ちょっと前に魔術と魔法の違いについて教えてくれた江戸川先生が口にしていた言葉だ。

 

 

 

『いいですかぁ、聖君。頼ったり、縋ったりすれば助けてくれる……そんな都合のいい神様なんて存在しません』

 

『ええ、君がそういったものを求めるとは思えませんが、人間とはそういうものです』

 

『助けてくれる者を求め、願い、縋ってしまう。これが何度も何度も行われ、助けを求めた者を助けた者が、その人にとっての都合のいい神様になる』

 

『ふむ。確かに呪いに近いかもしれませんねぇ。助けられた者にとっては、【今回もその人が何とかしてくれる】、という思考放棄にも近い呪いとなり……』

 

『助けた者にとっては、【期待に応えなくてはならない】という呪いとなる……そういった解釈もありますね』

 

『この話の教訓としては、何かに依存し続けるのは危険……ということです。薬物やたばこ、お酒みたいなものですねぇ』

 

 

 

 汐見お姉ちゃんは明るい。凄く明るい太陽みたいな人だ。自分が親戚の家をたらい回しにされてきたということを過去の話だと言って笑って話せるくらいには明るい。その明るさと器の広さに皆が助けられているし、支えられている。皆が汐見お姉ちゃんのことを頼れる人だと思っているけれど、僕はどんなことにも親身になってくれる汐見お姉ちゃんがあんまり好きじゃない。もちろん汐見お姉ちゃん自体が嫌いってわけじゃないんだけど。

 

 ただ、誰かを助けたことで自分が救われているつもりになっているように見えてしまう。穿った目で見ているせいかもしれないけど、人助けをした後の汐見お姉ちゃんの顔に、ちょっとだけ救われたことに安心したような感情が混ざっていることがよくある。それがどうしても好きになれない。人を助けて自分が救われることなんて、無いのに。ルブランのマスターも言ってたよ。自分を救ってあげられるのも、許してあげられるのも、結局自分だけなんだって。僕もそう思う。

 

 ……考え事が長引いてしまったけど、そろそろタルタロスに行かなくちゃ。今日が試練の日なら、僕はタルタロスに行かなくちゃいけない。

 

「でしょ? 聖杯さん」

 

『ああ。試練を超えた先で、貴様の更生は更に進むだろう』

 

「なら行かなきゃ」

 

 重い扉を軽々と開けて、僕はタルタロスへと全力疾走する。不気味な満月が街を照らしている中、この怪盗服を着ている僕は文字通り風を切りながら疾走していた。気分は走れメロス。でもソニックブームが出るから止まってた方がいいよメロス。ガラスが割れるよメロス。

 

 そんなことを考えながら走り続け、辿り着きましたタルタロス。ここまでの時間、約十分弱。ペルソナを呼び出したらもっとタイムを縮めることが可能かもしれない。……まぁ、伸びしろは残したということで。時間が惜しい。さっさとタルタロスに突撃する。風花お姉ちゃんには怒られるかもだけど、置いていった方にも非があると思います。

 

 

 

「桐条先輩、皆を連れて逃げてください!!」

 

 

 

 タルタロスに突撃した直後、そんな声が聞えた。思わず動きを止めてしまった僕の目に映っていた光景は、何とも現実味が無くて、地獄のような光景だった。

 伊織お兄ちゃんが使っていた大剣は砕け、使い手である伊織お兄ちゃんはエントランスホールの端に吹き飛ばされたのか、ピクリとも動かない。

 岳羽お姉ちゃんも頭から血を流して床に倒れている。意識がないのか、何度も伝わってくる衝撃に反応しない。

 真田お兄ちゃんは膝をついて荒い息使いで呼吸を整えようとしているが、片足が折れているのか、立ち上がれずにいる。

 比較的傷が少ないものの、精神力を使い切ってしまっていて戦闘ができる状態ではないらしい桐条お姉ちゃんは、苦々しい顔を浮かべて汐見お姉ちゃんの後ろで膝を折っていた。

 桐条お姉ちゃんを庇うように立っている汐見お姉ちゃんも、もはや限界が近いのか、こめかみに当てている召喚器が震えていた。そして。

 

「ぁ……ごめん、なさい……」

 

 ペルソナを召喚していた風花お姉ちゃんが倒れて、ペルソナが消える。それを好機と見たのか、『それ』は汐見お姉ちゃんと桐条お姉ちゃんを鎖で振り払い、紙切れのように蹴散らしてしまった。

 

「美鶴……! 汐見……! ポリデューク────ガァッ!?」

 

 相打ち覚悟、とでも言わんばかりにペルソナを召喚しようとした真田お兄ちゃんが殴り飛ばされて動かなくなる。

 

『刈り取る者……いや、それにしては力が弱い……そして銃ではない』

 

 聖杯さんの声が遠くに聞える。

 

『……なるほどな。あれが貴様の試練……ということか』

 

 ずた袋を纏ったような姿に、鎖と剣。思わず体がすくんでしまうような威圧感を放つシャドウ。あれが、皆をこんな目に遭わせた。大型シャドウ、じゃない。大型シャドウだったであろう黒い霧が、汐見お姉ちゃんが立っていたところの近くにあった。何となく分かる。あれが、僕が立ち向かうべき試練の相手。だとしたら……皆がこんな目に遭ったのは、僕のせい? 

 

「ダメだ……」

 

『聖?』

 

「それは、ダメだよ……」

 

 心の奥底から、溢れてくる感情。誰も死んでほしくない。自分が巻き込んでしまったかもしれないことで、皆が傷付いたことが認められない、酷くて醜い感情。大型シャドウだけだったらきっと、皆は何事もなかったかのように寮に帰ってきていた。なのに、こいつが、僕が超えるべき試練だというやつが現れたから、こうして倒れている。

 

「嫌だ……ダメだ……守れないのは嫌だ……僕のせいで、誰かが死ぬなんて……許せない……!」

 

『チッ……いいだろう。突貫工事で仕上げてやる』

 

 次の標的として僕を見つけたらしいずた袋のシャドウが向かうよりも先に、黒い霧が僕の口の中に飛び込んできた。今回は何も見えない。けど、僕の中に黒い霧が入り込んだことで、聖杯さんがリソースを手に入れる。リソースを手に入れた聖杯さんが僕の中に、新しい力を生み出す。

 

 ずた袋のシャドウの攻撃が僕に直撃するその瞬間。僕の仮面が燃え上がり────脳裏に過った名前を叫ぶ。

 

「貫け、魔弾の射手!!」

 

 青白い炎の中から生れ落ちたそのペルソナは、凄く歪な姿をしていた。黒い仮面になぜか口があって、胴体は薄れたり、姿が濃くなったりとあやふや。下半身はもはや人の姿ではなく、目にも目のような翼にも見える何かが蠢いている。

 

 そんなペルソナが手に持っているのは、禍々しい気配を放つマグナム銃二丁。まるで刈り取る者の銃みたいだ、と後から思った銃の一つで剣を受け止めた魔弾の射手は、もう片方の銃をずた袋のシャドウの口らしき場所に捻じ込み、僕の声に合わせて引き金を引いた。

 

「『原罪の銀弾』」

 

 銀の閃光がずた袋のシャドウの口に撃ち込まれ、撃ち込まれたシャドウがもがき苦しむような動きを見せ始める。やがて、もがき苦しむシャドウの腹が膨れ上がり、内側から食い破るように銀色の弾丸だったものが飛び出す。だったもの、という表現をしたのは、飛び出したものには口があったからだ。口があって、小さな手があった。その銃弾だったものはまだ食べ足りないと言わんばかりに、ずた袋のシャドウに大きな口を開けて迫る。

 

 さすがのシャドウも食べられるのは嫌なのか、抵抗するが、その抵抗虚しく、剣も鎖も噛み砕かれ、指先から少しずつ、じゃくじゃくと銃弾だったものは食い漁る。指を食べ終えたら手のひらを、手のひらから手首、手首から腕、腕から肩……少しずつ、しかし確実にシャドウの体を食い漁る。

 

 その捕食行為はどれほど続いたのかは計っていなかったから分からなかったけど、大体十分くらいでシャドウは肉片すら残さず銃弾だったものに喰らい尽くされてしまった。げふっ、と満腹になったらしい銃弾だったものは銀色の砂となって消えるが、それと同時に僕の体が勝手に地面へと倒れ込む。

 

「…………あ、これ、前と同じ……」

 

『やはり突貫工事は好かん。出力の調整すらできんからな……そも、その技も使わせるつもりは────』

 

 ごめん、聖杯さん。今は小言聞いてられる余裕ない……




こちら、魔弾の射手です。そのうち完全体にはなる…はず。

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