試練の突破条件は僕自身の力によるものなのだろうか。それとも聖杯さんの力を使っても問題ないと判定されるのだろうか。そこんところが全く分からない聖杯ですよろしくお願いします。本体は聖杯です本体の聖杯はありますよろしくお願いします。あの後の記憶が全く無いですが寮に戻ってきていたのできっとどうにか帰ったんだと思います聖です。どう考えても聖杯はありますよろしくお願いします。
魔弾の射手を生み出したあの夜から時間が経過し、六月ももう佳境。皆のダメージが大きかったから、タルタロスの探索が禁止されているけれど、僕は禁止されていないので影時間に出歩いている。タルタロスの探索はきっと強行軍のような行動を要求されるんだろうなぁ、と思いつつ、ポートアイランド駅外れの溜まり場に訪れていた。
「人の負の感情が募る場所ってなると、ここだよね……?」
『ここよりも募る場所があるのかもしれんな』
ここに来た理由はベルベットルームから出された課題をクリアするためだ。人の負の感情が募る場に現れるシャドウを倒せってやつ。外にシャドウが出るのは良くないのでは、と思いつつ、被害が出ていないのはどういうことなのかと思って探しているのだ。
ここ以外にそんな場所があるのかなぁ、と首をかしげて帰ろうとした直後。
「こんばんは」
僕が知らない丁寧な、人に危害を与えるつもりのない声が後ろから聞こえた。
振り返ると、不審者がいた。上半身裸で両腕にタトゥーが刻まれていて、ダメージジーンズを履いているお兄さんである。露出狂、と叫びたいところだけど、前に外で大きな声で笑っていたお兄さんだ。……やっぱり不審者では?
その隣には眼鏡をかけたお兄さんと、ゴスロリ服に身を包んだお姉さんが立っている。凄い組み合わせな気がしてならない。でも服装に関して言えた義理じゃない。ちょっと悔しい。
「こんばんは、お兄さん、お姉さん。こんな夜に何してるの? 危ないよ?」
挨拶をされたから挨拶を返し、問いかけると、眼鏡をかけたお兄さんが呆れたように口を開いた。
「んなこと言うたら、あんたもそうやろ。その服装で誤魔化してるようやが、そのタッパからして、まだ中坊やろ」
「うん」
「さっさと帰りや。何かあっても知らんで」
『聖、分かっていると思うが、やつらもペルソナ使いだ』
(だよね。でもこの人達、何か違う気がする……)
風花お姉ちゃん達みたいな、ちゃんとしたペルソナ使いって感じがしない。あっちもちゃんとしているのかと言われると、前例を知らないから分からない。
「こう見えて結構強いんだよ、僕。試してみる?」
「…………いいえ、それは知っていますよ。彼らと共にシャドウを倒しているのを何度も見ています」
「お兄さん達、もしかしてストーカー? 司法のお世話になる?」
「それをすれば君も補導されますね」
ううむ、そうだった。
「君は、妙な力を持っているようですね」
「? ペルソナのこと? お兄さん達もペルソナ使いでしょ?」
『この三人はペルソナに使われている、と言ってもいいだろうがな』
ペルソナに使われている、ってどういうことなんだろ。魔弾の射手みたいな不完全なペルソナというわけでもないと思うんだけど。
『制御ができていない。無理矢理覚醒した結果なのだろうが……やはり不完全なペルソナ覚醒は人体への影響が激しいな。それと聖。分かっているとは思うが』
うん、分かってるよ聖杯さん。ネットで話題の復讐代行って多分この人達の仕業だもんね。原因不明の死傷者が出ている、というのがシャドウじゃないのであれば、このお兄さん達がやっているとしか思えない。半裸のお兄さんなんてベルトに銃入れてるし。
……復讐と言えば、もしかしてこの人達なら何か知ってるかも?
「ねぇ、ちょっと聞きたいことあるんだけど、いい?」
「何でしょう?」
「人の負の感情が募る場所ってどこにあるのか知らない?」
「……謎かけかいな?」
「んーん。探してるんだ、そこ。なんか、そこにシャドウがいるんだって」
大型シャドウではないみたいだけど、いるらしい。ベルベットルームの人がそう言っていた。
「ふむ……そのシャドウをどうするつもりなので?」
「え? 倒すよ?」
「ほう……それだけの実力があると?」
「分かんないけど、やるよ。そのシャドウが僕の大事なものを壊すかもしれないなら」
世界のためとか、街の平和のためとか、ぶっちゃけどうでもいいのだ。僕がペルソナ使いとして特別課外活動部に所属しているのは、僕の大事な人がいなくなってほしくないから。僕の手の中にあるものが零れ落ちないようにしたいからだ。何が正義だとか、何が悪だとか討論するつもりはない。どうでもいい。僕の大事なものがなくならないように、いなくならないように、僕は特別課外活動部にいる。
「だから、シャドウを倒すよ。それ以外に理由って必要?」
「それが世界の崩壊へ繋がるとしても?」
「? 世界が壊れたら大事なものがいなくなるから、壊そうとするやつは倒すよ?」
「く…………はっはっはっはっはっ!!」
僕がそう言うと、突然半裸のお兄さんが大きな声で笑い始めた。え、何、どうしたの? 怖……そういう持病を持ってる人なのかな? 病院……は行ったら警察のお世話になりそうだね、このお兄さん。
「素晴らしい……! どこまでも自分勝手なエゴ! 強欲で貪欲で、それでいて高潔な光を放つその姿……!」
「? そんなにおかしいかな? どう思う、ゴスロリのお姉さん」
「……」
ありゃ、無視されちゃった。ちょっと残念。
「ねぇ、眼鏡のお兄さん。半裸のお兄さんってあんなに笑い上戸なの?」
「なんでこっちに聞くんや」
「だって半裸のお兄さんの友達でしょ? 知ってるかなって」
「知ってても話すわけないやろが」
それもそっか。
眼鏡のお兄さんに呆れられていると、大きな声を上げて拍手をしながら笑っていた半裸のお兄さんは落ち着いたのか笑い声を収めて、微笑を浮かべつつ僕を見た。その視線はまるで新種の動物や植物を見つけた研究者のような、新しい玩具を買い与えられた子供のような────とにかく好奇心に満ちているように感じた。
「さて、話を戻しましょう。あなたが探しているものと、私達が知っているもの……勘違いでなければ、桐条グループのホテルに現れるシャドウでしょう」
「桐条グループのホテル……? あ、もしかして怪談に出てくるホテル?」
「怪談というのがどういうものかは分かりませんが、桐条グループのホテルにはシャドウが現れますね」
となると、ここじゃなかったのか……ううん、知っている場所だったのに、そこに行きつかないところがちょっと抜けているとか言われる理由なんだろうなあ。でも、うん。情報は手に入れた。あとはそこに向かってシャドウを倒すだけだ。
「ありがとう、お兄さん達。僕、行くね」
「おや、情報に対する対価は無いので?」
「あ、そうだった。ううん……あ、そうだ。これあげる」
僕が取り出したのは、今日の夜作ったばかりの料理の詰め合わせだ。中華粥とか、揚げパンとか、中華な感じで簡単なものではあるけど、結構美味しく作れたと思う。皆怪我してたのにたくさん食べてくれたし。
「じゃ、またね。なんかお兄さん達とはまた会いそうな気がするし」
これ以上話をしていると影時間が終わってしまうという判断をしたので、何か言われる前に離脱する。聖杯さんからもこれ以上は無駄だって言われたし、多分これで正解。
『聖、魔弾の射手は使うなよ』
「え? どうして?」
『あれはまだ不完全なペルソナだ。完全な調整が成されていない』
「えーと……どういうこと?」
僕が首をかしげると、聖杯さんは懇切丁寧に話をしてくれた。
何でも、魔弾の射手というのは本来三位一体────三体で一体のペルソナらしい。なぜ三体なのかと聞いたら、その方が安定するからと返された。本来はマックス、アガーテ、ザミエルのうちどれかが現れるちょっとギャンブル要素が含まれるペルソナだったみたいだけど、急ピッチで作ったせいで色々ごちゃ混ぜなペルソナになったんだそう。
「ちなみにそれぞれどんなペルソナの予定だったの?」
『マックスが物理、アガーテが援護、ザミエルが万能祝福属性の予定だったな』
「ザミエルって悪魔だよね? 魔弾の射手、風花お姉ちゃんと一緒に観たことあるから知ってるよ?」
『悪魔の契約者を撃ち抜いたことで悪魔の魔弾を跳ね除け、結ばれたのだ。皮肉的だろう?』
「ちょっと悪趣味じゃない?」
『人間の業よりは悪趣味ではないだろう』
そうかな……そうかも……そうかもしれない。
『それと聖』
「何?」
『そろそろ着くぞ』
意外と近かったんだね、桐条グループのホテルって。利用したことなかったから分からなかったけど、駅近で立地が凄くいいなぁ……だからお客さんも利用しやすいのかも?
『明日花君、また外出てるの?』
シャドウはどこだろうと探そうとした瞬間、怪盗服に取り付けている通信機から声が聞えた。その声に思わず体が跳ねて、心臓も大きく跳ねた。この声と呼び方、間違いなく風花お姉ちゃんである。
「ふ、風花お姉ちゃん……何で僕がいないこと知ってるの?」
『さっきルキアが見つけたの』
「え、寮内でペルソナ使ってるの? 大丈夫? 怪我治ってないでしょ?」
僕がそう言うと、怒ってはいるけど、怒りよりも呆れが先行しているような声が通信機から聞こえる。
『最初はすぐに戻ってくると思ったんだけど、どんどん離れていくし、タルタロスにも向かってなさそうだったから声をかけたんだよ』
「う……」
『言い訳は今度聞くとして……どうしてそんなところにいるの?』
くぅ……風花お姉ちゃんのペルソナの感知範囲とか色々見誤っていた……今度はもっと上手くやろう。ジャミングとか……したらバレるよね。となると風花お姉ちゃんに一声かけて動く? ううん……そうすると特別課外活動部の皆が一緒についてくることになりそうだからなぁ……
「ホテルにシャドウがいるんじゃないかなって思ったんだ」
『桐条グループのホテルのこと? ううん……そこまでは届かないから分からないけど……怪談話の原因だったりするのかな?』
「多分────!」
害意を感じて飛び退くと、僕がさっきまでいた場所に肉塊のような変なシャドウがいた。体当たりをしてきたのだろうそれは、よく見なくても気持ち悪いデザインをしている。
ぐちゃぐちゃのミンチになったような肉塊に無数の手足が生えていて、苦痛に悶えるような表情の仮面をいくつも着けていて……うん、ぶっちゃけ気持ち悪いから一気に吹き飛ばしてしまいたい。
「ごめん風花お姉ちゃん。お叱りは後で受けるから通信切るね」
『え、何があ────―』
「聖杯さん、魔弾の射手使っていい? メギドラ使ったら吹き飛ぶよね?」
『いや、サマエルで事足りる。貴様も戦えば問題ないだろう』
あ、そっか。最近はペルソナにばっかり任せていたけど、僕も戦えばいいんだ。モノレールの中でやったみたいにサマエルに暴れさせながら僕が動けばいいんだよね。
「奪え、サマエル!!」
仮面が燃え上がってサマエルが召喚され、グロテスクな見た目をしているシャドウに突撃する。無数の手足でサマエルを捕まえようとするが、サマエルは結構大きい姿をしていて、小さな子供の手足くらいのサイズの手では掴むことができても動きを止めることはできない。
加えて僕がナイフや銃で攻撃して────なぜか銃よりナイフの方が効いていたような気がする────次第にシャドウが疲れてきたのか、動きが鈍くなっていき、遂にはサマエルがシャドウを締め上げるように巻き付いた。
「ここでゼロ距離フレイラ!!」
サマエルが締め付けているシャドウにゼロ距離でフレイラを放てば、青白い光が瞬き、シャドウの体が木っ端みじんになって消滅した。……弱くない?
「聖杯さん、弱くない?」
『もっと早くに来て経験を積むこともできたな』
「もー……過去の僕しっかりしてよ……」
『だが……無駄ではなかったようだ』
「へ? ……あ、サマエルが……」
消し飛ばしたはずのシャドウがいた場所にある黒い靄を、サマエルが吸い込んで飲み込んでいる。何かが見えるとかは……なさそうだ。
『リソースを得たな。魔弾の射手の調整に使わせてもらおう』
「あ、うん。任せるよ。……僕は言い訳考えるから」
どう言い訳しようかなぁ……