聖杯さんが囁いてくる   作:エヴォルヴ

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本作、色々すっ飛ばしていくデアリマス。いつも通りであります。文句は受け付けないであります。文句は全てメギドラオンであります。


聖杯さんが呟いてくる

 おはようございます、聖杯です。

 やっぱり聖杯が本体です。どう考えても本体の聖杯はいます。いつも皆の心の中に潜んでいる聖杯です。聖杯はありますよろしくお願いします。やっぱり僕の本体は聖杯だと思うので聖杯はあります。いつもの挨拶をしました聖です。聖杯はあります。

 

 蕎麦は美味しいよね。ずぞぞっ、と啜っているだけでなんか風情も感じるし。あ、天麩羅もいいね。でも注文しないよ。今日はざる蕎麦だけにするって決めてるから。

 

「そばば……」

 

『啜る時にそんな音を鳴らすのは貴様だけだろうな』

 

「そばばば……」

 

『食べながら話すな。心で会話をしろ』

 

 そんなことできるっけ。……できてたね。そもそも聖杯さんって僕の中にいるんだもんね。そりゃあ心で会話できるよね。

 

(部活かぁ……部活ねぇ……)

 

『琴線に触れないか』

 

(強制ってわけでもないし、帰宅部でいいかなぁって思って)

 

 中学生になったということで部活に入部することができるようになったけど、興味のあるものがない。運動なら放課後にコロマルと走り回っていればいいし、部活のために道具を買おうとは思わないんだよね。だったら趣味のためにお金を貯めておきたいというか……両親からはご飯代も含めて多いくらいにお小遣いをもらっているから、貯金を選択している。聖杯さんの助言もあるけど。

 

『高校生になれば今以上に金銭が必要になってくる。貯めておけるだけ貯めておけ』

 

(大人になった時の軍資金ってやつだね?)

 

『そうだ……一人暮らしを始めると、何かと金銭が入用になるからな……』

 

(わぁ、実感が込められてる)

 

 大盛のざる蕎麦を啜り、無くなったところで蕎麦湯を投入して汁を飲み干す。プロテインは入れないよ。入れたら美味しくないし、作った人に失礼だよね。プロテインを飲むなら鞄に忍ばせておいて、帰り道で飲むべし。プロテイン布教お兄ちゃんはもう少しプロテインから距離を取った方がいいと思う。

 さて、蕎麦湯を飲み干したら、お会計を済ませて外に出る。ううん……あんな緑色の夜があるとは思えなくらい賑やかだよね、巌戸台って。そんなことを考えていたら、ふとあの夜に出てくるというお化けって、どんな姿をしているのだろう、なんて思い始めた。お化け……お化けか……ううん、あ、ひらめいた。『あなたを さらいに 夜がくる』みたいなことかもしれない。聖杯さんもお化けみたいな姿だったりするのかな? 

 

『あんなものと同じにしてくれるな』

 

(ごめんなさい?)

 

『はぁ……だが、そうだな……貴様の肉体はまだそこまでだが……ふむ……精神面は芽生え始めているか……』

 

 聖杯さんが何だかブツブツ話してる……どうしたんだろうね? 

 

『夜に出てみるか?』

 

(ん、いいの?)

 

『まだ早いと考えていたが、それは肉体面だけだ。精神はあの時間でどうとでもなる……』

 

(え、何? 修行? 修行は漫画とゲームとアニメの世界だけで充分……)

 

『やつらにとって、人間は餌だ。あの時間に活動できる人間ともなればなおさらな』

 

(不肖聖、修行イベント大歓迎デアリマス)

 

 さすがの僕もお化けに食べられるのは御免被る。食べるのはご飯とかおやつだけで十分です。被捕食者の気分なんて味わいたくないのだ。

 

『今夜は睡眠時間の確保が難しい可能性がある。寝だめしておけ』

 

(昼寝はいいよね。どうしてかは分からないけど、凄く背徳的)

 

『それと、食事も持っていけ。走りながら食べることができるものだ』

 

(じゃあおにぎりで。水筒に味噌汁入れよう)

 

 こう……走りながらおにぎりを食べて、味噌汁をごくりと。口の中が火傷しそうな気がしなくもないけど、大丈夫でしょう、きっと。

 

『得物を持つべきだが……貴様の部屋にあった玩具のナイフと銃があっただろう。あれを持っていけ』

 

(それ大丈夫なの?)

 

『私が武器と認めれば、貴様の持つ玩具も武器となる』

 

 そんな力も持ってるんだ、聖杯さんって。何でもできるんだね、さすがは願望機。……人間の願いを叶える存在が僕みたいな普通の人間の中で過ごしてるのって、どうなの? 休暇? バケーションなの? 聖杯にも休暇ってあるの? 願い事を叶える存在が休暇を取ったら皆の願い事が叶わなくなるの? 

 

『私に頼らずとも人間は願いを掴み取る力が存在する。他人任せにする人間には無いがな』

 

(運命は捻じ曲げるもの、宿命は折り畳んで捨てるもの。祈る時間があるなら神に殴りかかれ)

 

『そうだ。絶望を跳ね除ける反逆の意志と掴み取る意志にこそ、人間の可能性が存在するのだ』

 

 産まれた時から嫌って程聞いてきた言葉だ。七つの欲望に振り回されることなく、自分自身の意志で道を選び、掴み取ること。その選択と意志にこそ、人間の可能性は翼を開き、大空へと羽ばたくのだと。実体験めいた言葉だけど、聖杯さんはやっぱりたくさんの人を見てきたから、この言葉を言えるのだろう。重みが違う。成功者がテレビのインタビューで話している言葉以上に、聖杯さんの言葉には重みがある。

 

『ゆえに聖。今宵貴様はあの夜に挑まねばならない。あの夜を越えることで、貴様の旅路と更生はようやく始まるのだ』

 

(更生? 僕、結構優等生ポジション確保してる気がするんだけど)

 

『鈍い勘をどうにかするのが当面の更生だ』

 

 酷くない? そんなに鈍いかな、僕。とりあえず食後の運動としてコロマルと遊ぼう。

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────────────────ー

 

 

 

 

 

 コロマルと遊び、昼寝から目覚めたら、もう緑色の夜。寝過ぎた。夕ご飯はもう用意しているけど、絶対寝過ぎたよこれ。

 

「聖杯さん、どう思う?」

 

『先程まで貴様の意識を深いところまで沈めていたからな。疲労感はないだろう』

 

「あ、聖杯さんのせいだったんだ」

 

 どおりでいつも以上に快眠だと思った。朝までぐっすりならぬ夜までぐっすり。一家に一台聖杯さん。これだけの快眠は前にお姉ちゃんの家に泊まりに行った時以来だ。あの時もぐっすり快眠だったよね。あれも聖杯さんのお蔭だったりするのだろうか。

 

『あれは貴様が勝手に眠っただけだ』

 

「ぐっすり眠れる時とそうじゃない時の差って不思議」

 

 まぁ、それはそれとして。今日も大きな塔が見える……というか、何か月、いつも以上に大きくない? 月デカくない? 満月とはいえデカくない? まんじゅうじゃん。まんじゅう怖い。美味しいよねまんじゅう。まんじゅうには緑茶よりも牛乳派の聖ですよろしくお願いします。

 

『今宵は満月だ。奴らも活性化する』

 

「えっ」

 

『ゆえに、貴様の魂を磨くには丁度良い』

 

 聖杯さん、想像以上にスパルタだった。ゲームで例えるなら、いきなりジムリーダーに対面させられている気分だよ。ポケ○ン渡されて、いきなりジムリーダーがいるジムに放り込まれてバッジを取ってこいって言われている気分だよ。

 

「ディスイズスパルタ」

 

『現実逃避は済んだか?』

 

「チオビタ飲んでいい?」

 

『先週飲んだばかりだからダメだ』

 

 チッ、覚えていたか。やる気を高めるために飲もうと思ったのに。

 

「ううん……よし、覚悟完了! 明日はお姉ちゃん誘ってご飯食べる!」

 

 そのためにはこの夜を越えなくてはいけない。

 

『ヘタレるなよ』

 

「やっぱり蕎麦食べるね……」

 

『始まる前からヘタレてどうす────聖、来るぞ』

 

「え?」

 

 来るって何が、と言おうとした瞬間、僕の脳裏にぺしゃんこにされた僕の姿が映った。これが未来、と思う前に素早くその場を離れた瞬間────僕がさっきまで立っていた場所にたくさんの腕が突き立てられていた。……うわ気持ち悪い。

 

『やはり出たな』

 

「ホラー味強くない?」

 

『冗談を言える元気があるようで何よりだ。走れ、聖』

 

「不肖聖、走ります!!」

 

 手加減をしているのか、遊んでいるのかは知らないけど、たくさんの腕をお持ちのお化けは僕が走ればある程度の距離を稼げるくらいには足が遅い。手がたくさんあるのに足が遅いとはこれ如何に。おにぎりを食べる余裕すらある。

 

『────────!!』

 

「ヴェッ!? 増えた!?」

 

 突然、手が足になっている気持ち悪いお化けが現れた。うわ気持ち悪い。どうしてかは分からないけど、サイコロを振りたくなってきた。

 

『気にせず走れ』

 

 聖杯さんのナビゲートに従って、棺がたくさん置いてある道を全力疾走する。息が切れないのは火事場の馬鹿力が発揮されているのか、それともコロマルと常日頃から遊んでいる成果が出ているからなのか。個人的には後者であってほしい。

 

 命がかかっている状況だからなのか、時間がとてつもなく引き伸ばされている気する中、僕は全力で走り続ける。後ろから迫るたくさんの腕や気持ち悪い手のお化け、そして奴らの叫び声を遠ざけるようにして走り続けた。一歩一歩が速い。速いはずなのに遅い。あのお化け達が本気になったら間違いなくすぐに僕はお墓の下にいるんだろうな、なんてふざけたことが頭に浮かぶ。

 

 全力疾走をし続け、横断歩道を渡り、そのまま真っ直ぐ走り抜けて公園に向かう。そういう話だったが、ふと、後ろから迫っていた怖い気配や叫び声が遠ざかった。遠ざかったというよりも……ズレた? 

 

『ふむ、やはりそちらに向かうのが優先されるか』

 

「え、何? 僕の足、生まれたての小鹿並みに震えてるから後でいい?」

 

『振り向いてみろ』

 

 聖杯さんの声に従って振り向いてみると、お化け達が左を見て不気味な叫び声を上げている。まるで何か……探し物を見つけたかのような、どこか嬉しそうな……ううん、嬉しそうではないな。いや、嬉しそうで表現合ってる? 合ってるかなこれ。

 

「あのお化け達、何か探してるの?」

 

『さてな。だが、奴らの本能────と言うのが正しいのかはさておき、それが求めるものは向こうにあるようだ』

 

 お化け達が見ている方向にあるもの……ちょっとだけ高い所を見ているお化け達の視線の先には、ホテルのような建物がある。その建物の名前は巌戸台寮。ホテルを改装したところ以外は普通の学生寮であるあそこに、あのお化け達が求めている何かがある? いやいや、そんな、ゲームじゃないんだから。……でもこの状況、普通にゲームや漫画の世界の話だよね。

 

 そんなことを考えていると、歓喜とも取れる叫び声を上げたお化け達が一斉にそちらに向かって動き出した。え、これ不味くない? この時間帯に起きている人は普通いない。いるとしても残業帰りの会社員やら、眠らない学生さん達。そんな人達も今は棺桶になっている。棺桶になっていない人は僕や、前に会った────茶色い髪のお姉さんや、窓の外でにやついて歩いていた半裸の人くらい。

 

「あの、聖杯さん、聞いていい?」

 

『何を知りたい?』

 

「もし、もしだよ? あのお化け達に人間が襲われて、食べられる? とどうなるの?」

 

 聖杯さんが食べられるとかなんとか言っていたけど、行方不明事件なんて聞いたことが無いし、比喩表現だと思うんだけど、一応聞いてみる。

 

『奴らに食われる。それは精神を捕食されることと同義だ』

 

「えーと……つまり?」

 

『無気力症だ。精神を貪られ、何も考えることができない廃人と化す』

 

 話題となっている無気力症の正体見たり。……結構理不尽じゃない? 気付いたら無気力症になってましたって。

 

「じゃ、じゃあ、あのお姉さんも、お化けに襲われたら?」

 

『廃人となるだろうな。もしくは……殺されるか』

 

 ひえっ、と冗談抜きで声が出た。声が出ているあたり、僕の心は結構余裕があるらしい。聖杯さんが心の中にいるからなのかな。あのお姉さんや巌戸台寮に住んでいる人達が襲われたら、今話題の無気力症になるか殺される……そう聞いた時、よく分からないけど心の中で誰かが「行け」と叫んだ気がした。

 

「聖杯さん」

 

『なんだ』

 

「あのお化け、僕の友達も襲う?」

 

『見つければ、襲うだろうな』

 

 また聞こえた。

 

「お兄ちゃん達も?」

 

『無論だ』

 

 心の中で誰かが叫んでいる。「理不尽に抗え」、「今がその時だ」、「行け」、誰か────というか、僕の声だ。聖杯さんの声だ。僕の心が、聖杯さんが、そう叫んでいる気がする。だが、まだ足りない。僕の心を地獄に飛び込ませる覚悟を完了させるには、まだ足りない。その覚悟を完了させる言葉は、聖杯さんがくれる。僕が分かっていることを言葉にして、わざわざ言ってくれた。

 

 

 

『そして貴様が大切にしている者達にも────山岸風花にも、奴らは嬉々として牙を剥くぞ』

 

 

 

 その言葉を聞いた途端に、小鹿のように震えていた足腰が動きを止めて、心の中でこう……轟々と炎が燃え上がるような感じがした。

 

『貴様はそれを許容できるか?』

 

「できないよ。できないに決まってる」

 

『ならばどうする?』

 

「そんなの決まってるよ、聖杯さん」

 

 恐怖も何もかも奥歯を砕く勢いで噛み潰して、深く息を吸う。深く吐き出す。蝶が舞う中、色んな人達の笑っている顔が見えた気がした。気のせいな気がしなくもないけど、そんな気がする。

 

「僕が守るよ。抗うよ。そんな理不尽に負けて堪るかって、叫びながら!」

 

 

 

『ならば契約に取り掛かろう』

 

「ギッ……!?」

 

 

 聖杯さんの声が聞えた瞬間、凄まじい頭痛に苛まれて、思わず膝を折って地面に倒れ込む。

 

 

『貴様が生まれた時に一度契約はしているが……これはもう一つの契約だ』

 

「ぃ……ぎ……ぁががががががが……!!」

 

 

 痛い痛い痛い痛い……!! 全身が消し飛びそうなくらい頭が痛い!! 吐き気すら感じる頭痛が全身に伝わっていくような感覚に苦しみながら、聖杯さんの声を聞く。

 

 

 

 

『絶望を、理不尽を跳ね除ける反逆の翼を広げ……』

 

 

 

 

 

『飽くなき七つの欲望を掲げ、禁断の果実を喰らう蛇のように進むがいい』

 

 

 

 

 

『我は汝、汝は我……』

 

 

 

 

 

『例えその旅路の先に地獄が待ち受けていようとも』

 

 

 

 

 

『己が双眸を見開き、進み続けるがいい。我が名を叫べ』

 

 

 

 

 聖杯さんの声と共に現れた黒いガラスのような仮面を両手で掴み、顔全体の皮膚が裂けて血が噴き出しながらもその仮面を引き剥がす。顔全体が血まみれになりながらも、その仮面を真上に放り投げ叫ぶ。

 

 

 

 

「行くよッ!! サマエルッッ!!」

 

 

 

 

 放り投げた仮面が甲高い音を立てて砕け散り、青白い炎を噴き出して膨張していく。膨張した青白い炎は大きな月すら飲み込む勢いで燃え盛り、その中から巨大な翼を持った赤い蛇が生れ落ちる。

 

「……聖杯さん蛇だったの!?」

 

 鎖の音と共に僕の後ろに降りてきた赤い蛇に、思わず叫んでしまった。鮮血のように赤い鱗と複数の翼を持ち、五つの瞳を持ったその蛇は間違いなく聖杯さんだ。よく分からないけど、そんな確信があった。

 

『これもまた私の姿の一つだ』

 

「え、何? 聖杯って蛇にもなれるの────って、んん!?」

 

 聖杯さんことサマエルを呼び出した影響なのか、僕の服装がジャージから大きく変化していた。聖杯さんが出てきた炎に包まれた時に変わったであろう服は、白いタキシードのようなロングコートに青い手袋となっていた。ちょっと派手過ぎない? これが黒かったら怪盗とかやってそうな服だよ。

 

『ほう、やはりそうなるか』

 

「え、これ聖杯さんのデザイン? デザインの改善を求めます」

 

『それを着こなせる男になれ』

 

「有無を言わせないその感じ、まさに聖杯さん」

 

 まぁいいや。それで、これから僕はどうすればいいのか……って、答えは決まってるんだけどね。今なんか落ちてきたし。え、何で落ちてきたの? 

 

「……とりあえずあのお化け倒すよ! 聖杯さん!」

 

『ああ、行こうか。貴様の旅路、その最初の一歩を踏み出すがいい』

 

 落ちてきたいっぱい腕が生えているお化けやその取り巻きを前にして、僕は心の中から湧き上がってくる聖杯さんの力を解き放つ。

 

「ぶっ飛べ、『メギドラ』!!」

 

 全てが白く染まり、お化けをその白が飲み込む。視界が緑色の夜を映し出した時、虫の息だったお化けはいなくなっており────僕の体がふらりと傾き、べちゃりと地面に倒れた。




サマエル
開幕自動コンセントレイト持ち。まだメギドラとスクンダしか持ってない。実は私、P3Rの二周目をサマエル縛りでプレイしてまして。思い出深い存在であります。
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