期末試験の点数は自己ベストを更新して、98点でした。そんな感じでおはようございます聖杯です。聖杯です。聖杯はありますよろしくお願いします。夏の暑さに負けないけど負けたくなる聖杯です聖杯はきっとありますよろしくお願いします。
最初に語った通り、自己ベスト更新によってお小遣いがプラス千円になったので、少し前のマイナス分が差し引きゼロになった。まぁ、ほとんど貯金とか食費に回るんだけど。でもこれで豆の購入にある程度余裕が生まれたので、無駄遣いすることなく活用していきたい。
(それにしても、天田君もペルソナ使いかあ)
『仮、と言っていたが、確定だろうな』
特撮について話ができる天田君────初等部の天田乾君が、期末試験終わりの夜に幾月理事長に連れられてやってきた。面食らいそうになったけど、僕よりも小さいカロリーヌとジュスティーヌみたいな人や、コロマルがいるんだから、そういうこともある……とは思ったけど、なんか……なんかあれだよね。いいのかなって思っちゃうよね。人のこと言えないけど、初等部の天田君まで巻き込むのっていいことなのかな。
当然ではあるけど、伊織お兄ちゃんと岳羽お姉ちゃんは天田君との面識があった。僕と特撮の話をしてた時に知り合ったもんね。ただ────真田お兄ちゃんや桐条お姉ちゃんが少しだけ動揺した素振りをみせていた。ほんの少しだけど、真田お兄ちゃんのプロテインを飲む手が止まって、桐条お姉ちゃんは紅茶を飲むペースが早かった。天田君と真田お兄ちゃんと桐条お姉ちゃんは初対面のはずなんだけど、何かあったのかな?
『因縁のようなものかもしれんな。貴様も巻き込まれる可能性はある。意識はしておけ』
(因縁かぁ……)
特撮の知識で申し訳ないんだけど、因縁は絶対に状況を引っ掻き回すことになる。本人の意思とは関係なしに、因縁というのは何かを滅茶苦茶にしていくことが往々にしてある。気を付けて、とは言っても何に? となるところが多い。気を付けるに越したことはないけど。
(それにしても……やっぱり凄いお金持ちだよね、桐条お姉ちゃんの家)
『桐条グループは日本でも指折りの大企業だからな。海外進出の視野に入れているとも聞く』
(あ、ニュースでやってたね。日本だけじゃなくて、世界にも目を向けていきたいとかなんとか)
ただ、まだ世界に目を向けるよりも、国内でやることがたくさんあるとして、海外進出はまだそこまでやっていない……らしい。やること、というのは多分、影時間とタルタロス、そして十二体のシャドウのことなのだろう。幾月理事長の言葉が嘘じゃないなら、あと六体……それで終わり。終わらない気がするけどね、僕は。
『なぜそう思う?』
(大型シャドウをタロットカードで表せるなら、数が足りないから)
『なるほどな』
タロットカードの番号順に来ているのであれば、倒したのは魔術師、女教皇、女帝、皇帝、法王、恋人。残っているのはそれ以降の戦車、力、隠者、運命、正義、刑死者、死神、節制、悪魔、塔、星、月、太陽、審判、世界。明らかに数が合わないのだ。十二体だとすれば、刑死者で終わりなんだろうけど……あ、愚者もいない。十二体じゃ終わらないんじゃないの、本当に。
汐見お姉ちゃんの背後にたまに見える棺桶も気になるし……分からないことばっかりだ。本当に、なんなの、あの棺桶。汐見お姉ちゃんは死体の上に立ってるってこと? そういう暗示ならそんな暗示をしたやつに文句を言わないといけない。汐見お姉ちゃんはただの女の子だよ。
『ワイルドをただの女と言うのは、貴様くらいだろうな』
(ちょっと特別なことができるだけで、汐見お姉ちゃんは汐見お姉ちゃんだよ)
ワイルドとか、そういうのはよく分からないけど、きっとそう。汐見お姉ちゃんは汐見お姉ちゃんであって、化け物でも、神様でもない。
「聖、どこか具合でも悪いのか」
「へ?」
僕が聖杯さんと話していると、桐条お姉ちゃんが手配したのだろう迎えの車で隣に座っていた真田お兄ちゃんが声をかけてきた。
「ぼーっとしてただけだよ」
「そうか。何かあれば言ってくれ」
「うん、ありがとう」
……やっぱり、真田お兄ちゃんって僕に誰かを重ねて見てることが多い気がする。誰のことを重ねているんだろう? 荒垣お兄ちゃんや桐条お姉ちゃん……なわけないよね。じゃあ天田君? それも違う気がする。じゃあ誰だって聞かれても分からない。
「案外心配性っすよね、真田先輩って」
「後輩を気にかけておくのは先輩として当然だろう」
真田お兄ちゃんの隣に座っている伊織お兄ちゃんが茶化すように声をかければ、二人の軽い言い合いが始まる。飛行機、フェリーを乗り継いでやってきた屋久島の三泊四日の旅は、凄く楽しいものになりそう────そう思った矢先、車が止まる。どうやら目的地に到着したらしい。
運転手さんがドアを開けてくれたので、車から降りて大理石の床と柱が並ぶ建物の中に入っていく。ヨーロッパにある古城風の建物の中だからなのか、なんだか、日本じゃないみたいだ。別世界に迷い込んだような気分になる。広い庭園を抜けた先にある玄関に足を踏み入れると────
「お帰りなさいませ、お嬢様」
出迎えらしき使用人? の皆さんが桐条お姉ちゃんに向けて一斉にお辞儀をした。声もお辞儀も全部揃っているなんて、凄いや。どれくらい習ったらあのくらいになるのかな?
『人によるだろう。貴様は……まぁ、下地があるからな。何ヶ月か練習すれば形にはなるかもしれん』
「今日から短い間だが、よろしく頼む」
心なしか、桐条お姉ちゃんの声が堂々としている。やっぱり上に立つ人としての教育というものがあるのだろうか。
「メイドに執事って……実在したんだな」
「そういうサービス業もあるみたいだよ。学校とかあるみたいだし」
「マジ?」
「うん。日本にはあるか分からないけど、イギリスとかにあるみたい」
未だに騎士勲章とかあるらしいし、貴族社会的なものもあるのかもしれない。桐条お姉ちゃんも貴族みたいなものだし。
伊織お兄ちゃんと話をしていると、奥の方から黒いスーツを身に纏ったボディガードっぽい人達を連れている厳格そうな男性が現れた。一見すると厳しそうな人だけど、眼帯を付けていない方の目の奥に確かな優しさを感じる人だ。桐条お姉ちゃんにそっくり……ということは……あの人が、桐条お姉ちゃんのお父さんかな?
「お久しぶりです」
「……」
桐条お姉ちゃんが挨拶をすると、厳格そうな男性は一瞥しただけで通り過ぎていってしまった。思春期を迎えた子供を前にして、どう接すればいいのか分からないお父さんみたい。
「優しそうな人だね、桐条お姉ちゃんのお父さん」
「ああ。偉大で立派な方だ。……うん? 聖、君に父のことを話したか?」
「んーん。目がそっくりだったから」
「……そうか」
僕がそう言うと、桐条お姉ちゃんはちょっとだけ嬉しそうに笑みを浮かべた。多分顔立ちとかはお母さん似なんだろうけど、目とか、空気はお父さん似なんだろうな、桐条お姉ちゃんって。
ということは、桐条お姉ちゃんのお父さんの趣味もバイクとかツーリングの可能性が……? ハーレータイプのバイクとか乗り回してそう。バイクかぁ……僕は自転車で十分かな。あ、でもキャンピングカーは憧れる。免許を取って、お金も貯まったら、キャンピングカーを買うのもいいかも。そしたら、皆で色んな所に行けるし。そのためにもまずは影時間とタルタロスを何とかしないと。
「まぁとりあえず! 早速ビーチに行こうぜ、聖!」
「あ、うん!」
影時間とタルタロスのこともあるけど、とりあえずこの三泊四日の屋久島旅行で英気を養うのも立派な活動だ。更生については……どうかは分からないけれど。ベルベットルームの人達からお願いされたお土産のこともあるし、屋久島を満喫しよう。
すぐに準備はできないとぼやきつつも、海は楽しみらしいお姉ちゃん達にまた後で、と声をかけてから割り当てられた部屋で着替えた僕は、屋久島のお土産リストを書いたメモを確認する。貝殻、屋久島の自然を感じられるもの、ビーチの砂、屋久島についてのお話……色々ある。屋久島の話についてはイゴールさんからお願いされたんだけど、歌を歌ってる人────ベラドンナさん? も興味があるらしい。筆談かな。
* * *
燦々と照り付ける太陽が眩しいビーチは、ポートアイランドとはどこか違った雰囲気が漂っている。ポートランドの海は釣りはできるけど泳げないというのがあるからなのかな。
「えーと、日焼け止め……日焼け止め……あ、あった。はい」
「お、サンキュー聖。野球やってた時に日焼けを軽く見て地獄を見たんだよなぁ……」
「俺はそれほど日焼けをしないが……やはりあると無いとでは全く違うからな」
濡れても落ちにくい日焼け止め、というものがあったのでそれを買ってきたんだけど、どんなものか……日焼けは酷いとヒリヒリを超えて痛いのだ。日光で人間という肉を焼いてるんだから当たり前なんだけどさ。
「にしても、このビーサンに足の付け根が食い込む感じ……夏って感じだな!」
「ふむ……沖に目印になるようなものはないな。泳ごうかと思っていたが」
「バナナボートとかは借りれるみたいだよ」
カヤックも借りれるみたいだけど、バナナボートと違ってちょっと高めだ。
「浮かれてるわね、皆」
「まぁ、いいんじゃない? こんな機会滅多にないし!」
日焼け止めクリームを塗ったり、海に入る前の準備運動とか水分補給をしているうちに、お姉ちゃん達がやってきた。もちろん水着で。
「おお……! 目の保養ですなぁ。な、聖────って聖どこ行った?」
「ここだよー」
「おお、なんだ隣にいるんじゃ────って埋まってる!? どうした!?」
「誰の仕業か分からないけど落とし穴があったみたい」
いやぁ、音もなくズボッと行ったよね。一瞬過ぎてこっちを見てたお姉ちゃん達も僕のこと見失ってたし。伊織お兄ちゃんと真田お兄ちゃんに両手を掴んでもらって、砂浜の落とし穴から抜け出した僕は、改めて汐見お姉ちゃん、岳羽お姉ちゃん、風花お姉ちゃん、桐条お姉ちゃんを見る。水着だ。うん、皆凄く似合ってる……と思う。ファッションセンスなんて無いから分からないけど、似合ってると思う。
「ところで聖、誰が好みよ?」
「? 風花お姉ちゃん」
「何の迷いもなく行ったなおい」
え? 迷う要素あった?
落とし穴
真夜中に何者かが掘った。試運転かもしれない