あと桐条パッパは生存が確定しました。賽の目の女神万歳。
冗談を言ってる場合じゃないくらい気持ち悪いです聖杯です。いや、本当に。冗談を言ってる場合じゃないくらいに吐き気と頭痛と腹痛の喉の痛みと眩暈がします聖杯ですよろしくお願いします。気持ち悪いったらありゃしないですよろしくお願いします。そんな中でも聖杯はあります僕が聖杯です本体は聖杯です本体の聖杯はありますよろしくお願いします。
目が覚めた時、白い天井と点滴が僕の視界を捉えた。……あの映像を見た後のことはしっかり覚えている。音が歪んで、それが気持ち悪くて思いっきり吐いてブラックアウトしてしまった。そのおかげなのかちょっとすっきりして────はいないね。全然気持ち悪い。
(聖杯さん、あれ、何?)
『貴様の『暴く力』……制御できていない力が貴様の首を絞めたのだ』
(暴く、力?)
『そうだ。貴様が更生の道で手にした力の一つであり、私の力の一つでもある』
聖杯さんの力であり、僕が更生の道で手に入れた力……それが、僕のことを傷付けたらしい。自分の力で自分を傷付けるって、本当にあることなんだね。
『今後、貴様に虚妄、虚飾の一切は通じん。歪みを認知し、真実を暴く力が、貴様を真実へと導くだろう』
(それは何か、嫌だな)
『なぜだ?』
(聞かれたくないから、聞いてその人が傷付くかもしれないから隠すものだってあるでしょ?)
その人のための、優しい嘘も暴いてしまうのなら、僕はそんな力はいらない。……でも、嘘を暴くことが本当の優しさに至るかもしれないから、欲しいかもしれない。どっちも気持ちもあって、迷ってしまう。
『ならば制御するしかあるまい。貴様の力だ。貴様の意志で御してこそ、更生は果たされる』
(うん。頑張るよ)
きっと、この力は使いどころを間違わなければ僕の力になってくれる。力自体には悪意はない。力は力……それを使う人次第で、その力はどんなものにも変わる────というのは、聖杯さんやカロリーヌとジュスティーヌの受け売りだ。イゴールさんも力自体に善悪があるわけではないと言っていた気がする。
それはそれとして、この気分の悪さはどうしたものか……あ、確か常備薬とかを入れているポケットに────あった。ずもももも……って凄まじいオーラを放つ江戸川先生の薬。よく効く江戸川印のよく分からない薬。もはや物体Ⅹと仮称してもいいくらい何だかよく分からない薬だ。でもよく効く薬。そんな薬を作れる江戸川先生は何者なんだろうね。
「では一服」
『昔はあった躊躇が今や消え去ったな』
カプセル系の薬品である江戸川先生の薬を一粒口にすると、口の中にえぐみが満ちていく。その後すぐにえぐみは消えて、僕の体に活力が湧いてくる。気分の悪さも良くなってきた。即効性が恐ろしいところだけど、この即効性を求めて江戸川先生から薬を貰っているところがある。
(そういえば聖杯さん、新しいペルソナってどんなペルソナ?)
『斬撃特化のペルソナだ。名はフェルグス』
(フェル……あ、ケルト)
『貴様の実力ではまだ御しきれんかもしれんがな』
逆に言えば、使いこなせるようになれば強力なペルソナであるということ……頑張らなきゃ。実際、僕は遠距離からの攻撃手段しか持っていなかったし、伊織お兄ちゃんや真田お兄ちゃんとかを見ていて、近距離戦闘用のペルソナがいたらいいなと思っていた。
試練を超えるための力としても頼りにさせてもらおう────そう思っていた時、医務室のドアが開いて、人が入ってきた。
「む、起きていたか」
入ってきたのは眼帯を付けていない目が桐条お姉ちゃんそっくりな、桐条お姉ちゃんのお父さん。名前は────
「桐条武治さん」
「武治でいい。それと、楽にしてくれ」
厳格そうで、鋼鉄みたいなイメージがあるけれど、目の奥には桐条お姉ちゃんみたいに優しい光が宿っている。幾月理事長みたいな、気持ち悪さがない。
そんな武治さんは、僕が寝ているベッドの横に置いてあった椅子に座ってから深く頭を下げた。
「えっと……?」
「すまなかった。君のような子供には、刺激が強すぎただろう」
……ああ、あの映像と音声がショッキング過ぎて吐いて気絶したと思われてるんだ。多分、武治さんだけじゃなくて、他の皆もそう思ってるかも。でも、僕が吐いて気絶した理由はそれじゃないんだよね……これって、話してもいいのかな?
(聖杯さん、話してもいいかな?)
『貴様が選べ』
まぁ、そうなるよなって思ってた。
……僕としては、こんな子供相手に真剣に謝罪してくれている武治さんを信用してもいいと思っている。信じる信じないは別として、一考の余地ありと考えてくれるかも……なんて勘が囁いてる。というわけで、話してみよう。
「あの、頭を上げてください。別に、あの映像がショックで気絶したわけじゃないので」
「……ならば、なぜ君は昏睡状態に?」
「その……信じてくれるかは分からないんですけど……」
そう前置きをしてから、僕は聖杯さんから教えてもらった僕自身の力を口にした。
「僕、嘘が歪んで聞こえるんです」
「嘘が、歪む?」
「本当に最近のことなんですけど、嘘を言っているとか、何かを隠してる言葉が歪んで聞こえるんです」
聖杯さん曰く、この力は嘘、偽り、虚構、虚偽、虚飾────様々な歪みを認知して真実を暴いてしまう力。それが原因で、僕は気絶した。
「気絶した理由は、それです。あの映像の途中から、音が歪んで、黒板を爪で思いっきりひっかいた時に出る音みたいな音になって」
「……その話が本当であれば、あのビデオには何か隠されているか、偽りがある、ということになるが」
武治さんの表情に翳りが生じた。当たり前だけど、凄く責任感のある人みたいだから、あの映像を残した人に対して思うところがあるのだろう。昔の桐条お姉ちゃんみたいに、責任感が強すぎて潰れないかちょっと心配なところだ。昔の桐条お姉ちゃんは今以上に張り詰めていた。学校で見る度に「破裂寸前の風船みたい」と思ったくらいだ。
そんな責任感とかに付け込むようで心苦しいけど、畳みかけてみる。
「あの映像を遺した人……多分ですけど、凄く偉い人だったんですよね?」
「……ああ。岳羽詠一朗────岳羽ゆかりの父であり、研究主任を務めていた男だ」
「そんな人が、実験をしたらどうなるのかを知らないわけがない……それに」
「それに?」
「岳羽お姉ちゃん────僕が尊敬する、岳羽ゆかりという人のお父さんが、成功に目が眩む人とは思えない。思いたくない」
感情論になってしまうけど、僕が知っている岳羽お姉ちゃんはちょっと怖いものが苦手で、ちょっとだけ感情に身を任せてしまうことが多いけど、凄く優しくてカッコいいお姉ちゃんだ。そんな人を育てたお父さんが、成功に目が眩んで実験を続けるとはどうしても思えないし思いたくない。
「そもそも桐条グループの中でも極秘だと思われる研究の主任を任されるくらいの人が、失敗するとは思えないんです」
「一理ある、が……」
「だから、岳羽詠一朗さんは多分、意図的に失敗したんだと思うんです。家族を守るためとか、そういうことのために」
だって、映像の最初の方で聞いた声には誰かを心配するような感情と、寂しさや後悔が宿っていたような気がした。きっと、岳羽お姉ちゃんや奥さんのことを考えていたんだと思う。大きくなっていく岳羽お姉ちゃんのことを奥さんと一緒に見守ることができないことへの後悔や、寂しさ……それを死の間際にも滲ませるような人が、功績目当てで実験をするとはどうしても考えられない。いつの間にか岳羽お姉ちゃんのお父さんを弁護するような話をしているけど……うん、多分僕は僕の力を信じてもらわなくてもいいと、少しだけ思ってる。信じる信じないは人の勝手だから。オカルトとかと同じだ。
「武治さん、僕の話を少しでも信じてくれるなら、あの映像を調べてくれませんか?」
「……」
「何も無かったら僕がただの嘘つきだったってことでいいです。でも、もしあの映像に何か隠されていたら……僕の力のこと、信じてください」
さっきとは逆に、起き上がった僕が武治さんに頭を下げる。武治さんの顔は見えないけど、気配から難しい顔をして考えているような空気が伝わってくる。頭を下げること数十秒、武治さんは考えがまとまったのか、口を開いた。
「分かった。あのビデオについて調べさせておこう」
「ありがとうございます」
って、そういえば。
「武治さんはどうしてここに?」
「君の様子を見に来たのと……そちらの彼女へブランケットをな」
「え? …………あ」
今までなんで気付かなかったんだろうと思うくらい近くに、風花お姉ちゃんがいた。椅子に座ったまま、僕が寝ているベッドの端を枕代わりにして眠ってしまっている。当たり前だけど、凄く心配させてしまったようだ。
「様子見とか、ブランケットとかはメイドさんとかに任せればよかったんじゃ……?」
「君が倒れた原因や、彼女がここで寝ている理由の元を辿れば、私が君達にあのビデオを見せたことだ。己の行動に責任を持ち、過ちを犯したのであれば責任を負うのは、人間として当然だろう」
なんか、桐条グループが日本でも有数の大企業になっている理由が分かった気がする。
桐条武治さんは多分責任感が凄い人だから、子供にも真剣な表情で頭を下げるし、子供だろうが対等に接することも考えてくれる人だと思うんです。
…ところで明日花君の力、桐条グループ的には――――というかどの企業でも喉から手が出るレベルでほしい力ですよね。首輪付きになっちゃう