聖杯さんが囁いてくる   作:エヴォルヴ

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ぐちゃぐちゃであろうが文句は言わせないであります。この作品はそういうもんであります。文句は全てメギドラオンでございます。


聖杯さんが踏み込んでいる

 吾輩は聖杯である。名前は聖明日花。よろしくお願いします。聖杯はあります。どこにいても、遥か彼方の星雲であっても輝きが見える聖杯が本体です。聖杯です聖杯はありますよろしくお願いします。朝昼晩、どんな時でも聖杯はありますよろしくお願いします。

 

 タルタロスの攻略と、タルタロスに迷い込んだ人達の救助も比較的順調に進んでいると言っていいであろう夏休み期間。部活から帰ってきた皆と夕ご飯も食べ終わって共有スペースでゆっくりしていると、桐条お姉ちゃんから作戦室に集まるようにと言われた。今日はタルタロス攻略はしないと聞いていたんだけど、何かイレギュラーでもあったんだろうか?

 

「なぁ聖、なんか聞いてるか?」

 

「ううん、聞いてない」

 

「だよなぁ。……あ、もしかして改めて天田の紹介とか?」

 

「あ、それもあるかも。……でも、それなら共有スペースのエントランスとかでやるんじゃない?」

 

「あー……そうだよなぁ」

 

 伊織お兄ちゃんと話しながら階段を上る。元々がホテルだったということもあってか、結構な高さの巌戸台寮の階段は何度も昇り降りするだけで体力が付きそうだよね。

 

「まぁ、行けば分かるでしょ」

 

「んー、ゆかりっちの言う通りか。……って、琴音っちどしたよ? 凄ぇフラフラじゃねえか」

 

「あー、ちょっと部活がね……居残りで練習するもんじゃないねぇ」

 

「おいおい頼むぜリーダー?」

 

 今日の部活が結構大変だったのか、うとうとしている汐見お姉ちゃん。アイギスお姉ちゃんが近くにいるから気絶するように寝落ちしたとしても大丈夫だとは思うが、見てる側としてはちょっと心配になる。

 

『コープ上げに熱中して足元を疎かにしているな。注意しておけ』

 

(うん、それはいいんだけど聖杯さん、コープって何……?)

 

『コープはコープだ。詳しくはベルベットルームの連中にでも聞くがいい』

 

 気になる、気になっちゃうよ聖杯さん……でも聞いてもよく分からないことが分かったってなりそうだよ聖杯さん……

 まぁまぁ長い階段を上って到着した作戦室の扉を開けると、先に来ていた桐条お姉ちゃんが椅子に座っていて、その隣には────コロマルがいた。

 

「あ、コロマル」

 

「ワンッ」

 

 パトロールで巌戸台寮に連れ帰ってから、暑かったり日差しが厳しい時は巌戸台寮のエントランスで涼むようになったコロマルが、桐条お姉ちゃんの隣に座っている。もちろん飼い主の住職さんにも許可は貰っているし、最近入院から通院となった住職さんもリハビリついでにコロマルと一緒に涼みに来てくれる。前は大玉のスイカを持ってきてくれて、皆で美味しくいただいた。ちなみにコロマルの正式な名前は虎狼丸らしい。

 

 それはそれとして。作戦室にコロマルがいるということは、という話である。僕や風花お姉ちゃんは知っているけど、コロマルはペルソナ使いの犬だ。それも、強力な力を持ったペルソナ。聖杯さん曰く、炎と呪怨────闇属性のこと────の両刀ペルソナだそう。呪怨属性は汐見お姉ちゃんのペルソナしかいなかったけど、結構珍しい属性なのかな?

 

『珍しいには珍しいが、万能属性持ちの方が珍しいだろう。悪魔の姿をしているペルソナであれば呪怨属性の技を持つことも少なくはない』

 

(悪魔……汐見お姉ちゃんが使ってたインキュバスとかサキュバスとか?)

 

『ああ。もっとも、あれらは補助目的での運用のようだから、攻撃技は持っていないようだったが』

 

 言われてみれば、補助魔法か回復魔法しか使ってなかった気がする。魔弾の射手の中にいるアガーテみたいなものか。

 

「なんでコロマルが……って、なんか変わった首輪ね」

 

 岳羽お姉ちゃんがコロマルの首に装着された首輪に気付く。羽の飾りがついた変わった首輪だけど、こういうのってたまにペット用品のところに売ってるよね。

 

「その首輪はペルソナの制御を補助するものだ。犬用の召喚器……といったところか」

 

「え、それって……コロマルも戦うってことですか?」

 

「テストの結果、十分以上に可能だそうだ」

 

「ワンッ、ワンッ!」

 

「先日明日花に受けた恩を返す時が来た、だそうです」

 

 バッ、と皆の視線が僕に集まった。いや、そんな目で見られても……僕も驚いてるし。恩って、僕何かしたかな……? 神社を守ったこと? それともパトロールの度に顔を見に行ってたこと? どっちにしても僕は身近な人が傷付くのが嫌でやったことだから、恩を感じられるほどのことではないんだけれど……コロマルは恩だと感じたらしい。

 

「というかアイギスお姉ちゃん、動物の言ってること分かるの?」

 

「いえ、わたしができるのは、動物が考えていることを波長として観測して解釈しているようなものであります」

 

「……翻訳こんにゃくってこと?」

 

「動物語ヘッドホンであります」

 

「アイギス、ドラえもん分かるんだ……」

 

 あ、僕の部屋に置いてあるドラえもんの単行本を読んだから知ってるのかな? いいなぁ、動物語ヘッドホン。僕も欲しい。……翻訳こんにゃくで動物の言葉も分かったらいいのに。

 さて、コロマルがやる気なのは分かるんだけれど、他の皆はちょっと乗り気じゃないみたい。僕と風花お姉ちゃんはコロマルが強いということを知っているけど、皆はそうじゃないから。なるほど、これが前に聖杯さんが言っていた『知っている人と知らない人の違い』というやつなのか。

 

「こんな小さな体に戦わせるなんて……」

 

「言っておくが、コロマルのポテンシャルはかなりのものだ。ペルソナの能力も非常に高い」

 

「マジすか!?」

 

「今のところは戦闘経験で私達の方が強いが、成長すれば間違いなくコロマルが私達を追い抜くぞ」

 

 事実、風花お姉ちゃんに見てもらったケルベロスの力はまだ低めだけど、間違いなく僕達以上のポテンシャルを秘めているそうだ。ちなみに僕のサマエルも中々とんでもないけど、魔弾の射手の方が変なんだって。ランダムに変化するペルソナだからなのか、ステータス項目がコロコロと変わってしまうんだとか。

 

 ……ポテンシャルと言えば、荒垣お兄ちゃんとか、天田君とか、半裸のお兄さんとか、眼鏡のお兄さんとか、ゴスロリのお姉さんとかはどんなものなのだろう? 後者の三人はそもそもどこにいるんだろうって話だけどね。ペルソナ使いみたいだから、影時間でも自衛はできるんだろうけど、心配になるのが人間っていうものだ。

 

『はっきりと確かめてはいないゆえに不確定ではあるが、間違いなく今の貴様らでは太刀打ちできんだろうな。……いや、聖、貴様は例外だが』

 

(僕だけ?)

 

『リスク度外視にはなるが、魔弾の射手の原罪の銀弾を使えば相討ちには持っていけるだろうよ』

 

(えー……というか戦うのは嫌だなぁ)

 

 影時間のちょっとした時間だけの交流だったけど、知り合ったのだからあんまり戦いたくない。もちろん、風花お姉ちゃんとか、皆を傷付けるつもりなら戦わないとだけど。でも、戦わない道があるなら可能な限りそっちを選びたい。

 

「……聖? どうした?」

 

「あ、ごめん。ぼーっとしてた。何?」

 

「いや、君はコロマルの加入に賛成か反対か、それを聞いておきたくてな」

 

「いいと思うよ。コロマルがそうしたいって言ってるなら」

 

 ちゃんと意思表示をしているなら、それに寄り添うのがいいと思う。もちろん、無茶とか無謀とか、ダメな事であれば止めた方がいいけど。

 

「そうか。なら、決まりだな。これからはコロマルにも協力してもらう。……それと、もう一つ伝えることが────」

 

「ああ、それは私から言うよ」

 

「……理事長。お戻りになっていたんですね」

 

 振り返ってみると、なんか色々と忙しくしていたらしい幾月理事長が作戦室に入っていた。……なんか、コロマルが幾月理事長のことを「胡散臭いやつだなぁ……」みたいな目で見ている気がする。動物の本能ってバカにできないから、ちょっと警戒度を上げた方がいいかな?

 

「まだはっきり分かったことじゃないんだけどね、満月のシャドウが12体ではなく、13体の可能性が出てきたらしいんだ」

 

 っ、またこれか。暴く力、どうすれば制御できるのか全然分からないから、色々と試してはいるんだけど、幾月理事長の言葉が特に凄い歪んで聞こえる。

 

「じゃ、じゃあ、残り6体じゃなくて、7体ってことですか!?」

 

「そうと決まったわけじゃないんだけどね。あくまで可能性の話さ」

 

 うぐぐぐ、気持ち悪い……でも我慢。あのビデオよりは気持ち悪くないから、まだ耐えられる。発想の逆転で、これを訓練だと思えば耐えられないものでもない……と、信じたい! 制御できるようになって、その力に依存しないようにすれば、間違いなく便利な力なんだ。

 

 グラグラと頭を揺らされているような気持ち悪さに耐えつつ、皆の様子を見てみると、皆驚いたり、困惑したりと様々な反応を見せている。特に強い感情を出しているのは岳羽お姉ちゃんだ。岳羽お姉ちゃんはお父さんのこともあるし、今更可能性の話をされても、という感じなのだと思う。その怒りの気持ちは分からないでもないのか、汐見お姉ちゃんもちょっと不満げだ。伊織お兄ちゃんはそんな二人を宥めるか否か悩んでいるみたい。

 

「可能性、か……だが、いると考えておいて損はないだろうな」

 

 真田お兄ちゃんがそう言うと、皆はあんまり納得がいってなさそうな表情を浮かべつつ頷いた。油断大敵、という言葉があるように、12体全部倒しました! もういないと思って油断していたら13体目が出てきてやられちゃいました! なんて笑えない。常に最悪の状況を考えろ、とは言わないけど、最悪の状況は想定しておくのがいいって聖杯さんが言ってた。

 

すまないね不甲斐ない大人の尻拭いをさせてしまって

 

(………………ねぇ、聖杯さん)

 

『なんだ』

 

(やっぱり幾月理事長ってさ、僕達に何か隠してるよね。それも、凄く大きくて酷い事)

 

『だろうな。警戒を怠るなよ』

 

(うん)

 

 ただ、露骨に警戒するのも違う気がするから、気付かれないレベルで警戒しておこう。

 

言い訳を重ねるようで申し訳ないんだけれど、シャドウやペルソナは未知数な部分が多いんだ。理解しろ、とは言わないけど、分かってほしい」

 

 気を抜いたら思い切り警戒してしまいそうなんだけど、頑張れ僕。負けるな僕。社会に出たら嘘と真実が今以上に入り混じるような世界なんだ。この人一人で我慢できずにどうするんだ僕。

 

「そういえば今日はタルタロス攻略どうするの?」

 

「ふむ……コロマルの実力を見たいところだが……そろそろ満月だ。突破できる階層も扉を守るシャドウしかいないし、休んでも問題はないだろう」

 

「お手数をおかけします……」

 

「いや、学生の本分を果たしている君が謝る必要はないさ」

 

 実際、凄く疲れてる顔してたもんね、汐見お姉ちゃん。今日のご飯を脂っこいものじゃなくて、冷たい蕎麦にして正解だった。真夏の日差しに晒された状態でずっと運動してたら夏バテしちゃうよ。

 ちなみにオクラとナスとネギとピーマンを刻んだところに出汁と釜揚げしらすを入れたものを冷たい蕎麦でいただく感じにしました。大葉やミョウガはお好みで入れてもらう感じで。皆おかわり要求してくれるくらい好評だった。

 

「では今日は自由、というわけか。聖、どうする? 走りに行くか?」

 

「んー……」

 

 ベルベットルームの人達から出された依頼もある程度は終わっているし……試練のご連絡も来てないし……外に出る理由はあんまりないんだけど……日々のトレーニングは大事だよね。

 

「軽く流す感じでいいなら行こうかな? いつも全力ダッシュは体壊しちゃうし」

 

「ああ、そうだな。なら、駅の辺りまでにしておくか」

 

 ここから駅までであっても、それなりの距離はあるので、軽いランニングトレーニングにはなるだろう。

 

「では行くぞ」

 

「うん。あ、影時間になる前には戻るね」

 

「ああ。車などに気を付けてな」

 

 他の皆はいかないらしく、自由時間を満喫するつもりのようだ。昼間のランニングは間違いなく自殺行為だけど、夜の比較的涼しい状態であれば大丈夫……だと思う。水分補給を忘れなければ。

 

 そんなことを考えながら真田お兄ちゃんと一緒に夜の巌戸台の道を走る。夏休みに入ったせいか、人の通りが少ない夜の道を軽く走っていると、街灯や建物の明かりが違和感になっている自分に気付く。昼間の巌戸台か、影時間の巌戸台を多く見ているせいもあるのだろうけど……違和感を感じるくらいになっているとは思いもしなかった。────違和感と言えば。

 

「真田お兄ちゃん、聞いてもいい?」

 

「どうした?」

 

「真田お兄ちゃんって、弟か妹、いるの?」

 

 ぴた、と。僕の隣を走っていた真田お兄ちゃんが止まる。

 

「真田お兄ちゃん?」

 

 止まった真田お兄ちゃんの様子を振り返って確認すると、真田お兄ちゃんの表情が凄く驚いたような、踏み込まれたくないような、苦しそうな表情になっていた。……聞いちゃ、いけなかったかな。

 

「…………ああ、すまん。だが、なぜそれを?」

 

「えっと…………」

 

 苦しそうな表情の中に、どこか優しくて、けど後悔が滲んでいる。僕が聞いたことは、真田お兄ちゃんにとって、あまり聞かれたくなかったものだったというのが見て取れる。気になっているからといって、違和感を感じていたからといって、踏み込んではいけない領域だった。

 

「遠慮しなくていい。俺の何かが、気になったんだろう?」

 

 僕が口を開けたり閉めたりしているところを見て、ふっ、と笑った真田お兄ちゃんが言う。………………ええい、ここまで踏み込んじゃったのなら、踏み込んでしまえ。

 

「えっとね……真田お兄ちゃんがね……いつも、僕越しに、僕じゃない誰かを、見てる気がしたから……弟か妹がいるのかなって……」

 

「────────」

 

 酷く驚いたように目を見開いた真田お兄ちゃんは、しばらく考えるような素振りを見せてから申し訳なさそうに小さく笑う。

 

「聖、すまん。それは俺が悪い」

 

「えっ、いや、僕は怒ってるわけじゃなくて、ただ気になったというか……言いたくないことなら全然……」

 

「いや、いいんだ。これは俺の問題でもあるからな……歩きながら話す」

 

 そう言って歩き出した真田お兄ちゃん。行先は駅────ではなく、長鳴神社。この時間帯は人が少ない方に少し早い速度で歩いていく真田お兄ちゃんを追いかけて数分、真田お兄ちゃんが口を開いた。

 

「妹がいるんだ。一人な」

 

「妹さん?」

 

「ああ。俺と妹は両親を早くに亡くしてな。しばらくの間孤児院にいたんだ。そこでシンジとも出会って……まぁ、よく馬鹿やって、孤児院の大人に叱られてたよ」

 

 それも悪くはない思い出だがな、と笑う真田お兄ちゃん。嘘は、言ってない。幾月理事長の言葉と違って、全然歪んでいなくて、とても心地良い。真田お兄ちゃんと同じ孤児院にいた、という話は昔に荒垣お兄ちゃんから聞いたことがあるから知っていたけど、妹さんがいたのは初耳だった。

 

 神社に到着した僕達は境内に設置されているベンチに腰掛けて、話を続ける。

 

「孤児院での生活にも慣れてきた頃、真田家に引き取られることが決まったんだ」

 

「妹さんと一緒に、だよね?」

 

「ああ。凄くいい人達でな。血の繋がりがない俺達を本当の家族として迎え入れてくれた」

 

 今も時々仕送りをしてくれているらしい真田お兄ちゃんのご両親は凄くいい人みたい。真田お兄ちゃんの性格を見ればそれは当然と言えば当然ではあるけれど。

 

「養子縁組の手続きなんかも終わって、明日には真田家の一員になる────そんな時だったよ。孤児院で火事が起きたのは」

 

「……………………ぇ?」

 

 歪みは、なかった。

 

「孤児院の大人達は急いで俺達を外に逃がしてくれた。だが、逃げ遅れた人もいた。……逃げ遅れた人の中に、俺の妹の……美紀もいた」

 

「あ……ぇっ」

 

 歪みはない、はずなのに、ぐちゃぐちゃになった感情が伝わってくる。

 

「逃げ遅れた人達は全員亡くなってしまった。残ったのは、孤児院の瓦礫だけだった。涙は、出なかったよ。薄情なもんだ」

 

「真田お兄ちゃん……」

 

「それから妹を守れなかった無力感からボクシングを始めて、美鶴に誘われて特別課外活動部に入って……強くなったと思った。いつまでも引き摺ってちゃ、美紀も安心して眠れないからな」

 

 だが、と一度言葉を切って、真田お兄ちゃんは僕を見た。真っ直ぐ、僕のことを。

 

「俺は、強くなったつもりだったみたいだ。お前越しに、美紀を見ていた。生きていれば、お前と同い年くらいのあいつを。それを、お前に指摘されるまで気付けなかった」

 

「……お兄ちゃん」

 

「図体ばかりデカくなって、俺は昔からずっと変わっちゃいない。口では吹っ切れたと言って、全く吹っ切れちゃいない」

 

 自嘲するような笑みを浮かべて、真田お兄ちゃんは呟く。……ぐちゃぐちゃになった感情を飲み込むことも、吐き出すこともできないまま、真田お兄ちゃんはここまで来てしまったんだ。妹さんが亡くなってしまった時に、泣くことができなかったのだって、きっと。

 

「悪かった。謝って済むことではないが────」

 

「違う」

 

「聖?」

 

「真田お兄ちゃんは、薄情な人じゃない。強くて、優しい人だよ」

 

 聖杯さんから聞いたことがある。泣くことができなくなってしまった人というのは、少なからずいるんだって。そういう人達の中には強いストレスに晒されたことで泣けなくなってしまった人もいると。自分を責めすぎて、泣けなくなってしまってるんだって。

 

「後悔したんだよね? 守ってあげられなかった、って」

 

「…………ああ」

 

「そんな中で、僕は、妹さんじゃないけど、今度こそって思ったんだよね?」

 

「…………ああ」

 

「うん、やっぱりお兄ちゃんは優しい人だよ」

 

 そんなことを思える人が、薄情な人なわけがない。

 

「辛かったと思う。苦しかったと思う。大切な人がいなくなるのは、凄く苦しいことだと思う」

 

「そう、だな……」

 

「後悔して、苦しくて辛い思いをして、それでも誰かを守ろうって思えるのは、真田お兄ちゃんが強くて、優しい人だからだよ」

 

 ああ、もう、僕の頭の中がぐちゃぐちゃになって何を言えばいいのか全然分からないまま、言葉を発している。真田お兄ちゃんに何かを伝えなくちゃ、って思っているのに。どうすれば伝わるのか、何を伝えたいのか……全然分かんない。分かるはずなのに、全然分かんない。

 

「えっと、だから……えっとね…………だから……」

 

 伝えなきゃ。何を伝えなきゃいけないんだっけ。どう伝えれば、伝わってくれるのかな。僕が、真田お兄ちゃんに伝えたいことは……一番、絶対伝えなきゃいけないことは。

 

「真田お兄ちゃんは、つよくて、やさしい、妹さんが大好きだった、カッコいいお兄ちゃんだと思う。少なくとも、僕は、お兄ちゃんの背中がカッコいいって、思ったから」

 

 ああ、伝わってるのかな? 伝わってるといいな。伝わっていない気がする。でも、どうやって伝えればいいのか、全然分からない。

 

「……そうか」

 

「わっ……」

 

 グルグルと考えが纏まらずに思考がループしているのがはっきりとわかる中で、うんうんと唸っていると、真田お兄ちゃんが僕の頭をわしゃわしゃと撫でてきた。……撫でる、というか掻きまわす、って感じではあるけれど。

 

「お前には助けられてばかりだな、聖」

 

「いや、それは僕のセリフ……」

 

「いいや。俺の方が助けられてるよ。ありがとう」

 

 一頻り頭を撫でた後、真田お兄ちゃんはどこかすっきりしているような、まだどこか引っ掛かっているような空気を纏いながら立ち上がる。

 

「俺なりに、色々と考えてみる。美紀に……お前に、仲間達に胸を張れるように」

 

「……やっぱりカッコいいよ、真田お兄ちゃんは」

 

「ははは、褒めてもプロテインしか出ないぞ?」

 

 冗談めかすように笑った真田お兄ちゃんの表情は、今までよりも晴れているように見えた。

 

 

 

 

我は汝……汝は我……

汝、ここに強き契りを得たり

 

契りは即ち、

囚われを破らんとする反逆の翼なり

 

我、「星」の力に強き祝福の風を得たり

自由へと至る、更なる力とならん……

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