聖杯さんが囁いてくる   作:エヴォルヴ

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聖杯さんが睨んでいる

 ストレガの三人との出会いの後、僕達は地下に続く通路を歩いていた。今回のメンバーは汐見お姉ちゃん、岳羽お姉ちゃん、真田お兄ちゃん、伊織お兄ちゃん、自由行動枠の僕という5人体制。いつもの四人体制で挑むことも考えたけど、どういう状況に対してもある程度の対応ができる僕が自由枠に組み込まれている。今のところタルタロス探索ではフル出勤です。ちなみに他の皆は風花お姉ちゃんの護衛兼イレギュラー対応のための後方待機。

 

 それはそうと、やっぱり昔の武器が増えてきたね。見るからに古い武器、壊れて使えない武器、軍刀らしきものなど……中々見ない武器達だ。

 

『資料館で見た通り、ここは戦時中に武器庫として使用された場所のようです。こんなに無造作に兵器が転がっているなんて……』

 

「機械的で、無機質な殺意の塊って感じだね」

 

 まさに人の命を効率的に奪い取るための姿形をしている武器達だ。僕が使っているハンドガンもそうだけど、引き金を引くだけで人を殺すことができてしまうもの。戦いの歴史によって進化してきた武器達が、僕達の視界いっぱいに転がっているのは、ちょっとだけ辛い気持ちになる。

 

 砲台に、機関銃、旧式の長い銃……影時間特有の、緑色の空気に照らされて姿を見せた兵器の数々を眺めていると、ふと、この場所には似つかわしくない、古ぼけた紙────というか、写真が落ちていることに気付いた。僕以外にその写真に気付いた人はいないみたい。

 

「……」

 

 古ぼけているけれど、写真とはっきり分かるそれに映っていたのは、軍服を着た男性と、男性の腕に抱きかかえられた小さな女の子、そしてその女の子の母親であろう女性の姿。近くには、文字が霞んで宛先が読めなくなっている封筒があった。

 

『届けられることがなかった手紙か。思念がこびりついている。やつらの依頼の品に相応しいだろう────聖、どうした』

 

「く、ず、のは……」

 

 文字が霞んでいたのは名前の部分だけであって、苗字は読めた。葛葉。僕のおじいちゃんとおばあちゃん、そのどっちかの旧姓が葛葉という苗字だった気がする。ここにある手紙の宛先が葛葉、というのは、ただの偶然なのかな? それとも、僕のご先祖様の誰かに宛てての手紙だったのかな?

 

「……まぁ、今考えることでもないよね」

 

 切り替えていこう。よくないことだけど、この手紙と写真はベルベットルームの人達への依頼の品として一度拝借していく。

 

『この先、行き止まりになっている場所にシャドウの反応があります。警戒してください』

 

 写真と手紙を懐に仕舞ったところで、風花お姉ちゃんの通信が聞えた。どうやらこの先に目当てのシャドウがいるらしい。……言われてみれば、この先から漂ってくる空気がこことは違う澱んだものな気がしないでもない。

 

「皆、準備はいい?」

 

「うん。大丈夫」

 

「なんでも来いって感じだぜ!」

 

「ああ、既に体は温まっている」

 

 汐見お姉ちゃんの確認に対して口々に準備完了の合図を伝える皆。緊張はしているけど、ガチガチになるような感じでもない、けど油断するような緩み方はしていない、いい感じの緊張の仕方をしている。酷く緊張することは悪いことだけど、軽い緊張を持つのは悪くないこと……とは聖杯さんの言葉だ。かく言う僕も準備は整っているので、頷くことで準備完了の合図を出す。

 

 合図を受けた汐見お姉ちゃんが先陣を切って先に進む。風花お姉ちゃんのナビの通り、行き止まりになっている場所に────それはいた。

 

「……戦車?」

 

「戦車だな」

 

「戦車、よね?」

 

「戦車だな?」

 

『それです! その戦車が大型シャドウです! 敵タイプは正義……あれ? 戦車なのに? あ、変わった!? 戦車……あれ、また正義……!?』

 

 皆が言う通り、僕達の目の前にいるのは戦車だ。大日本帝国陸軍が使っていたと思われる戦車が、乗り手がいないはずなのに動いている。しかもチラチラとシャドウらしき目が覗いているのが分かる。

 

 そして何より不思議なのは、風花お姉ちゃんの困惑している声の通り、戦車だったり正義だったりとタロットが切り替わっていること。風花お姉ちゃんの観測データは戦闘服と共に配布されているコンタクトレンズみたいなもので共有されているんだけど、戦車、正義、戦車、正義と何度も切り替わっているのだ。ホテルで戦った大型シャドウみたいな感じに二体いるっていうことなのであれば────

 

「もしかして……ガオガイガーとかZZ的な感じで合体してる?」

 

「「おお、なるほど」」

 

「「ガオ……?」」

 

 伊織お兄ちゃんと真田お兄ちゃんには伝わったけど、汐見お姉ちゃんと岳羽お姉ちゃんには伝わらなかった。まぁ、見ない人は見ないもんね、アニメ。

 

「というかあれ! もろ戦車じゃん!? 倒せるの!?」

 

「メギドラ」

 

 放たれた青白い光がシャドウを飲み込む。カロリーヌとジュスティーヌによって鍛え上げられたお蔭で精度も火力も上がったメギドラは、戦車の姿をしたシャドウに対しても有効打となったようで、大型シャドウの体の所々にプスプスと焦げている箇所がある。

 

「うん、攻撃が通るし、倒せると思うよ」

 

 ベルベットルームの人達から教えてもらったことだけど、シャドウがどんな姿をしていたとしても、ペルソナ使いの攻撃は必ず通るようになっている。鎧を纏っている姿であっても、ドロドロのスライムのような姿であっても、耐性持ちだったりということがなければ必ずダメージを与えることができるようになっているそうだ。つまり、僕が今攻撃した戦車の姿をしている大型シャドウも例外ではない。

 

「……私、聖君のこと怒らせないようにする」

 

 前にも聞いたけど、どういう意味なのかな汐見お姉ちゃん。

 

「とりあえず行動開始だ! まずは動きを鈍らせるぞ! ポリデュークス!!」

 

 いち早く動いた真田お兄ちゃんがペルソナを呼び出して、大型シャドウの力を鈍らせる魔法の一つ、タルンダを放つ。いかにも力自慢な姿をしているシャドウだからこそ、攻撃力を下げるのは間違いなく有効だ。

 

「ゆかり、順平! テウルギアが使えるようになったら遠慮なく切っちゃって! 真田先輩は適宜デバフを! 聖君はいつも通り!」

 

「分かった! 回復は任せて!」

 

「しゃあっ! 行くぜヘルメス!!」

 

 突撃するヘルメスが鋼の翼で大型シャドウを切り裂くが、物理攻撃があまり通らないのか、小さな傷を付けただけに留まってしまう。それどころか、近くにいたヘルメスに攻撃しようと大型シャドウが砲塔を向けて、砲弾を発射してしまうが────伊織お兄ちゃんの狙いはそこにあった。

 

「────!?!?」

 

「今の俺はその程度じゃ止まらねぇよ!! ぶち抜け、ヘルメス!!」

 

 伊織お兄ちゃんのペルソナに砲弾が直撃したというのに、全く堪えた様子がない。それどころか攻撃した側の大型シャドウが逆に傷付いている。最近、ヘルメスが習得したというスキル、ヘビーカウンタが発動したのだ。

 

 カウンターによって怯ませたことで、少しだけ仰け反った大型シャドウの車体に、ヘルメスが下がったのを見て切り込むペルソナがいた。胴体にジャガー? ヒョウ? の顔がある黒いペルソナ────汐見お姉ちゃんのフラロウスと、真田お兄ちゃんのポリデュークスである。

 

「負けてられんな! 撃ち抜け、ポリデュークス!!」

 

「フラロウス、金剛発破!!」

 

 ポリデュークスのアッパーカットが戦車の体を完全に持ち上げ、ひっくり返す。そこに汐見お姉ちゃんのフラロウスが大きな一撃を叩き込んだ。

 

「ッッッッ!!!!!!」

 

「ぐぅ!?」

 

「うおおおっ!?」

 

「きゃあ!?」

 

「えーと……フェルグス!」

 

 さすがの大型シャドウも無抵抗なわけがなく、起き上がるのと同時に砲塔をグルグルと振り回しながら無差別射撃で弾幕を張ってきた。誰を狙っているのか分からない、しかも爆発を伴う砲撃の雨に晒されてしまうと、場数を踏んできた僕達であっても被弾は免れない。咄嗟に物理攻撃特化で、物理攻撃に高い耐性を持っているフェルグスを呼び出してダメージを最小限に抑えたけど、痛いものは痛い。

 

「お願い、イオ!」

 

 けれど、その被弾を帳消しにしてしまえる回復を行える人がここにはいる。岳羽お姉ちゃんが呼び出したイオが爆発を受けた僕達の傷を瞬時に癒す。

 

「ナイスゆかり! というか聖君、そのペルソナ誰!?」

 

「よく分からないけど新しいの出てきた! フェルグス!」

 

 砲塔がひしゃげる勢いどころか、叩き折る勢いで大剣を叩きつけたフェルグスを一度戻して、ペルソナを切り替える。ひび割れたような、黒に近い紫色の仮面が青い炎に包まれ、ペルソナが現れる。

 現れたのは花嫁の姿をしたペルソナでも、狩人の姿をしたペルソナでもなく、顔がなくて、銀色の弾丸を弄んでいる、ギョロギョロと蠢く瞳が翼となっている異形。

 

「ザミエル、コウガ」

 

 弄んでいた弾丸の一つを指で弾いた魔弾の射手ザミエルが、その姿には似つかわしくない光の柱────柱というよりも槍────を大型シャドウに突き立てた。……コウガって、物理攻撃なの?

 

『いいや、属性攻撃だ』

 

(でも突き立ててるよ?)

 

『あれはそういうやり方をする、ということだろう』

 

(ええ……)

 

 搭乗口から地面にまで貫通するんじゃないかと思う勢いで光の槍を突き立て続けるザミエルにちょっとだけ困惑しつつも、戦車と正義が切り替わる現象について風花お姉ちゃんの解析が終わる頃だと気付く。何度も解析をかけていたことで、僕達に共有される情報が最新のものに切り替わる。

 

『解析完了しました! 砲塔が正義タイプ、車体が戦車タイプです! 恐らく戦い方も連携しています! 注意してください!』

 

 風花お姉ちゃんの通信とほぼ同時に、ブッピガン! とどこかで聞いたことがあるような音と共に分離した大型シャドウ。砲塔には翼が生えて空から砲撃を、車体は立ち上がってこちらを轢き潰さんとしてくる。

 

「飛んでるからって調子に乗らせないわよ!!」

 

 イオの起こした風が岳羽お姉ちゃんの弓に纏わりつき、弦を引き絞ることでその風は矢に付与される。普段の疾風属性の魔法とは比べ物にならない暴風を纏った矢は、岳羽お姉ちゃんの手を離れて真っ直ぐに飛んでいく。矢継ぎ早に叩き込まれた矢が全て、砲塔の姿をした正義タイプの大型シャドウに突き刺さったのが引き金となって、圧縮されていた暴風が解き放たれる。立っているのがやっとなくらいの暴風が収まると、目を回して落下してくる大型シャドウの姿があった。

 

「ここが勝負どころ! 一気に畳むよ!」

 

「応ッ!! 行くぞ順平!!」

 

「はいっす!!」

 

 伊織お兄ちゃんと真田お兄ちゃんが同時にテウルギアを発動させた。

 

「これが俺の逆転ホームランってなぁ!!」

 

 切り込み隊長の伊織お兄ちゃんがヘルメスと共に大型シャドウに高速で重い連撃を叩き込み、フィニッシュにフルスイングを叩き込む。本来ならこれで伊織お兄ちゃんのテウルギアは終わりだけど────

 

「カッコよく決めちゃってください真田先輩!!」

 

「ああ、任せておけ!!」

 

 伊織お兄ちゃんがまるでバレーボールのレシーブをするような姿勢で後ろを向き、真田お兄ちゃんのジャンプ台となった。伊織お兄ちゃんを踏み台にして、上空で待機していたヘルメスの力を借りてさらに天高く、天井近くまで飛び上がった真田お兄ちゃんの拳に、ポリデュークスの雷が収束していく。

 

「これで────フィニッシュだ!!」

 

 近くにいない僕の体のところどころがパチパチと静電気を発するくらい強い雷を纏った真田お兄ちゃんが、攻撃を受け止めてカウンターを狙う戦車タイプのシャドウと、気絶して動けない正義タイプのシャドウに対して強烈な一撃を叩き込んだ。

 

 閃光と轟音が周囲を真っ白に染め上げて、一時的に僕達の視覚と聴覚の機能を停止させてしまう。数十秒くらい経った頃に光が収まり、耳が聞こえるようになった僕達の目の前にはシャドウの姿はなかった。

 

『大型シャドウ二体、どちらも反応消滅。討伐成功です!』

 

 風花お姉ちゃんの通信で、シャドウの消滅を確信した僕達はほとんど同じタイミングで大きな息を吐いて座り込んだ。今回は直前までタルタロス探索とかをして鍛えていたお蔭もあってか、皆そこまでダメージを喰らうこともなく撃破できたけど……これ、ちゃんと鍛えていなかったら凄く苦戦するような戦いだったんじゃないかな……

 

「はぁ……練習はしていたが、即興の連携は上手くいったな」

 

「我ながらいい感じに決まりましたね!」

 

 あ、さっきのテウルギア同時発動のコンビネーション、前から練習していたやつなんだね。確かに何度か伊織お兄ちゃんと真田お兄ちゃんが一緒にトレーニングしているところを見たことがあったけど、まさかこんな連携を見せてくれるとは思わなかったよ。

 

「ふぅ……なんとかなったけど、何かいつもより疲れたわね……訳わかんない三人組は出てくるし、ここは不気味だし……」

 

「だね……あー、なんかホッとしたらお腹空いてきた! 聖君、帰ったらなんか軽く作って!」

 

「いいけど、肉巻きおにぎり以外も食べるの?」

 

「それは朝ごはん! 夜食は別!」

 

 ガッツリ系で行くねぇ。まぁ、朝ごはんに出そうかなって思ってたところだし、別にいいけどさ。

 

「ううん……どうしようかな……」

 

 冷蔵庫に入っているやつで、夜食に食べても罪悪感を感じにくい……しかしガッツリ食べることができて、背徳感を感じることができるような夜食……冷蔵庫に入ってるのは確か、キャベツ、卵、豚バラ、紅ショウガ……

 

「豚丼……いや……豚玉……! ソースとマヨネーズ、青のりもある……!」

 

「採用!」

 

「あ~、オレも食いたいわ」

 

「肉か……いいな。俺も参加させてもらおう」

 

「こんな時間にご飯の話しないでよ……お腹空くじゃない……」

 

 そんな日常が戻ってきた、という感じの会話をしながら、僕達は地下施設の出口に向かう。壁が閉まってはいたけれど、アイギスお姉ちゃんがこじ開けてくれるそうだ。

 

 というわけで寮に戻ったのと同時に深夜の不定期開催夜食パーティーの開幕である。今回の料理である豚玉のポイントは粉物を使わないことで糖質を抑えて罪悪感を減らすこと。ホットプレートに卵とニラと紅ショウガと千切りキャベツを混ぜ合わせた卵液を流し込み、その上に豚バラを敷いて蒸し焼くようにして火を通すのだ。焼き上がったらコテを使って切り分けて、お好みでソースやマヨネーズをかけてもらう。コロマル用の夜食は別途用意するつもり。……うん、構想は出来上がった。卵液に出汁を入れるのを忘れないようにしなきゃね。

 

『冷や飯も用意しておけ』

 

(それは重罪の背徳では?)

 

『夜食はそれくらいが丁度いい』

 

 それもそっか。

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