聖杯さんが囁いてくる   作:エヴォルヴ

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聖杯さんが語っている

 いつも穏やかな人が怒ると怖い。そんな当たり前なことを知っている僕は元気です。聖杯です。聖杯が本体です聖杯はありますよろしくお願いします。どんな時であっても聖杯はあるし、静かに怒っている人はとても怖いです聖です。聖杯はありますよろしくお願いします。わぁ、きつね色。綺麗なきつね色のトンカツはきっと絶妙な火入れです。よだれが出てきます聖杯はありますよろしくお願いします。

 

 揚げたてにかぶりつきたいところだけど、未だ終わっていないお説教タイムが終わるまでは食事にありつけないというのが現実。皆が正座させられている中、キッチンは揚げ物による油跳ねから自分とコンロを守る戦場と化していた。

 

「あっつ! 夏の揚げ物とかマジキツイんだけど!?」

 

「分かる。でも美味しいよね、夏の唐揚げ」

 

「それな。てか、相変わらず荒垣先輩の料理テクヤバくね? うちらがトンカツの下準備してる間に副菜何個作ってた?」

 

「三個」

 

「頭おかしいわ」

 

 今日は夜に親がいないということで、夕飯をどうしようか迷っていた夏紀お姉ちゃんも巌戸台寮にお邪魔している。僕の両親と同じくらいバリバリ働いているせいなのか、夜遅くまで家を空けちゃうことが多い夏紀お姉ちゃんのご両親からも許可はもらっているので、怒られることはない。

 

 ちなみに夏紀お姉ちゃんは僕と同じように荒垣お兄ちゃんの料理教室に何度か参加している。理由? 料理教室が始まった時に僕の家に遊びに来てたので、巻き込みました。ほとんど一人暮らしみたいな状態で家事ができないなんてこと許せないので逃がしません。

 

「てかさ、皆何したん? 荒垣先輩バチギレじゃん?」

 

「うーん……買い物が下手くそ過ぎて怒られてる」

 

「オケ、把握。まぁ、買い物の仕方下手なのは明日花も原因っぽいかもだけどね」

 

「それはそう、かも?」

 

 いつも一人で済ませてたからなぁ……もっと連れていくべきだったかな?

 見事な早業で全員正座説教タイムに移行したよね、荒垣お兄ちゃん。真田お兄ちゃんとか、桐条お姉ちゃんが何か言いたげにしてたけど、それすら黙らせて正座させるという見事な手際。しかも声を荒上げることなく、淡々と事実と正論を投げかけるお説教、とても効く。

 

「大体な、アキと桐条は年長組なんだ。もっと気を回せとは言わねぇが、買い物に付き合うくらいはやれ」

 

「返す言葉もない……」

 

「右に同じくだ」

 

「共同生活なんだ。助け合いくらいは頭に入れとけ。あと二年、お前らは予算決めて買い物するってことを覚えろ」

 

 そう言って取り出したのは、僕が保管していたレシート。一枚が僕の買い物レシートで、もう一枚が二年のお兄ちゃんとお姉ちゃんの買い物レシートだ。僕のレシートは食品と日用品が主で、汐見お姉ちゃん達のレシートはお菓子や何に使うか分からないものが多く入っているせいでちょっとだけ予算オーバーしている。本当にちょっとだけだよ? 1000円くらい。……大きいかも?

 

「菓子の類を買うのはいいがよ、これがメインになってどうすんだ。スナック菓子一個買うの抑えるだけで洗剤買えるぞ」

 

「「「すみません……」」」

 

「んでもって山岸だったか? 見たところブレーキ役なのに、ブレーキが壊れてどうすんだ」

 

「ごもっともです……」

 

 ちなみに最近は私服姿でいることが多いアイギスお姉ちゃんはお説教ゾーンに入っていない。ロボットだから計算は完璧だし。あと、入ってまだ間もないということでお説教対象にはならなかったみたい。ちゃんとしてなければお説教対象に含まれる可能性は無きにしも非ず。

 

「ったく……聖、お前もお前だからな」

 

「僕も射程範囲に入ってる……」

 

「お前はあれこれと世話し過ぎなんだ。全員ずっと一緒に共同生活ってわけじゃねぇ。将来見据えたやり方ってのがあるだろ」

 

 それはそう。夏紀お姉ちゃんに言われて気付いたけど、僕は色々とやりすぎたのかもしれない。でもなぁ……僕的にはこうして色々やってる時、凄く楽しいからなぁ……僕はそういう人間なのかもしれない。

 

「はぁ……まあ、いい。飯が冷める」

 

「ぐおおおお……あ、足が痺れて立てねぇ……」

 

 お説教タイムがようやく終わって、正座から解放された皆が足を押さえて悶絶している。痺れるよね、足。長い間正座してると特に。

 

「話は終わった。俺は帰る」

 

「それを僕が許すとでも?」

 

 ご飯は作ったし、説教は終わったから帰ると言うだろうな、ということは荒垣お兄ちゃんと関わってきた経験で織り込み済みだ。残念だったね、荒垣お兄ちゃん。僕と関わったのが運の尽き。この寮から抜け出したいのならご飯を食べていきなさい。

 

知り合いと飯食う約束があるんでな

 

「嘘下手だね。荒垣お兄ちゃんそういうことしないでしょ。友達少ないし」

 

「ぶふっ……!」

 

 真田お兄ちゃんが思わずと言った感じに噴き出した。足の痺れから回復するの早いね? 雷を使うペルソナ使いだから? ……あ、桐条お姉ちゃんもなんか笑いを耐えるようにプルプル震えてる。

 

「言われているぞ、シンジ」

 

「友達いねぇのはお前もだろうが、馬鹿が」

 

「誰が馬鹿だ。せめてプロテインを付けろ」

 

「くくっ、自覚があったのか、明彦」

 

「ああ。お蔭で俺の上腕二頭筋はさらに磨きがかかっている」

 

「プロテインと結びついてねぇよ」

 

 むん、と力こぶを作ってみせる真田お兄ちゃん。意外とこういう茶目っ気あることする時あるよね。こう、メインのムードメーカーは伊織お兄ちゃんなんだけど、サブで真田お兄ちゃんがいるというか……

 

「ワンッ!」

 

 真田お兄ちゃんの足止めによって隙が出来た荒垣お兄ちゃんの足元に、コロマルがまとわりつく。僕と遊ぶことが多いコロマルも、荒垣お兄ちゃんとの関わりが長い方だ。そして荒垣お兄ちゃんは意外と動物の足止めに弱い。

 

「コロ、悪いんだが俺も暇じゃ────」

 

「ワフッ」

 

「おい、なんで足の上で寝そべるんだ」

 

 案の定足止めを喰らっている間に盛り付けを終わらせる。ぬかったね、荒垣お兄ちゃん。この勝負、僕の────いや、僕達の勝ちだよ。

 

「早く食べよ」

 

「…………前より強情になりやがったな、お前」

 

「忘れたの? 僕ってそういう人間だよ。ほら、冷めちゃうよ」

 

 ご飯食べたら帰ってもいいよ、と言外に伝えると、荒垣お兄ちゃんは大きな溜め息を吐いて口を開いた。

 

「…………………………今日だけだからな」

 

「はは、さすがのシンジも聖には形無しか」

 

「そっくりそのまま返してやろうか、アキ」

 

「いいだろう、何度でもラリーに持ち込んでやる。今の俺は昔よりもしつこい男だぞ?」

 

「しつこさを強化してどうするんだ。大体お前は昔から────」

 

「む、それを言うならお前も────」

 

 テーブルに着いた後、しばらく睨み合ってから、ぎゃいぎゃいと言い合い始める真田お兄ちゃんと荒垣お兄ちゃん。なんだ、仲いいじゃん。

 

「ねぇ聖君、あの荒垣先輩? って人、真田先輩とどういう関係なの?」

 

「幼馴染で、元々ここに住んでたんだって」

 

「え? じゃあ……えーと……」

 

 岳羽お姉ちゃんが荒垣お兄ちゃんがペルソナ使いだったことに気付いて口に出そうとしたけど、夏紀お姉ちゃんがいることを思い出して口ごもる。そうだね、夏紀お姉ちゃんはペルソナとか影時間とか知らない側だから、話せないよ。

 

「ただ、喧嘩しちゃって、荒垣お兄ちゃんが出て行っちゃったみたい」

 

「昼ドラの夫婦喧嘩みてぇ」

 

「「「んっふっ!!」」」

 

「?」

 

「ワン!」

 

 伊織お兄ちゃんの発言に、皆が噴き出しそうになる。というか噴いた。特にツボに入っちゃったらしい汐見お姉ちゃんが麦茶で噎せてる。アイギスお姉ちゃんは不思議そうに首をかしげているだけで、コロマルも「なんか皆面白そうにしてるから笑っとけ」みたいな表情を浮かべている。

 

「「誰が夫婦だ!?」」

 

「そういえばうちの友達でなんか言ってたなー……荒垣先輩と真田先輩の……なんだっけ? 受け? 攻め? そんな話。意味わかんないけど、こういうこと?」

 

「真田お兄ちゃんも荒垣お兄ちゃんもどっちかって言ったら攻撃側じゃない?」

 

「だよね」

 

 受けて攻撃する、じゃなくて受ける前に攻撃して撃破するって感じの攻撃特化。ボクシングだと受けて攻撃するってこともあるだろうけど、喧嘩なら多分避けて攻撃するんじゃないかな?

 

『衆道か。いつの時代もあるものだ』

 

(? 武術か何か?)

 

『文化だ』

 

 文化なんだ。……文化と言えば。

 

「文化祭が来るね」

 

「おー、そういや9月か。何やることになるやら……」

 

 嫌な思い出が蘇ったのか、伊織お兄ちゃんがちょっと苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。

 

「僕は似合ってたと思うよ? 高等部の女装コンテスト」

 

「ぎゃあああああ!? 思い出させんなって!?」

 

 毎年恒例の、高等部の男子生徒をクラスで一人抜擢して行う女装コンテスト。去年は伊織お兄ちゃんが女装して参加したんだけど、今年は誰が参加することになるのかな? ちなみに去年の伊織お兄ちゃんはゴスロリを着て登場したよ。そこまでやったならはっちゃけちゃえばいいのにね。化粧もして青髭見えなくしてたし。

 

「女装コンテスト? そんなのあるの?」

 

「あ、汐見お姉ちゃんは今年転入してきた人だから知らないもんね。写真あるよ。見る?」

 

「見る見る! 女装見たーい!」

 

「やめろ! オレの黒歴史を紐解くな!!」

 

 大丈夫だよ、伊織お兄ちゃん。本当に似合ってたし、あの恥じらいが無ければもっと高得点狙えたよあれ。スポーツカットのお蔭でウィッグも無理なく使えてたし。ゴスロリって、白いやつの他にも色々あるんだねぇ。ちなみに三年生では真田お兄ちゃんが参加したよ。プリキュアで。

 

「いいじゃん順平。結構似合ってたし……ぷふっ」

 

「ああ、そのコンテストだが、今年は中等部も参加することになっているぞ」

 

 真田お兄ちゃんと荒垣お兄ちゃんの口喧嘩はまだまだ続いている中、桐条お姉ちゃんが文化祭の変更点を少しだけ開示した。

 

「そうなの? じゃあ僕出てみようかな」

 

「「「え゛っ」」」

 

 口喧嘩していた真田お兄ちゃんと荒垣お兄ちゃんも含めて、皆が驚いたようにこちらを見てきた。何? 何か不都合でもあるの?

 

「夏紀お姉ちゃん、化粧教えて」

 

「オッケー、ガチ系? ネタ系?」

 

「やるなら狙うでしょ、優勝」

 

「んじゃガチでやっちゃお。沼らせるわ」

 

 沼……確かにファッションとか、化粧は色々あるから大変だよね。




やめて!本気で化粧をした明日花が、文化祭の女装コンテストに参加したら、皆の性癖と認知が歪み切っちゃう!

お願い、黙らないで聖杯さん!

あんたが今ここで黙ったら、皆の性癖と認知はどうなっちゃうの?

SPはまだ残ってる。ここを耐えれば、欲望に勝てるんだから!

次回「月光館学園 死す」ペルソナスタンバイ!

まぁ、大体こんな感じになるとは思う文化祭嘘予告。
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