聖杯さんが囁いてくる   作:エヴォルヴ

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聖杯さんが呆れている

 いつも通りの朝だと思ったらコーヒー豆が無くなりかけていてちょっと悲しい気持ちと共に、今度はどんな豆を買おうかと心を躍らせる日であっても聖杯はあります。聖杯です。聖杯が本体です。本体の聖杯はありますよろしくお願いします。100%コナコーヒーは恐れ多くて中々手を出せずにいますが、荒垣お兄ちゃんとか、末光お兄ちゃんの協力の下、そろそろ手を出してみようと思っています聖です。本体が聖杯です。聖杯はありますよろしくお願いします。

 

 病院に行ってチドリお姉さんとお話したり、伊織お兄ちゃんと一緒に絵の練習をしてみたりと、色々と忙しくしている間に時は流れて、待ちに待った文化祭の日が明後日に迫っていた。僕は部活に入っていないから、ちゃんとした出し物があるわけではないけど、ちょっとした出し物をやるつもりなので、凄く楽しみだ。練習も毎日しているし、ベルベットルームの人達からも一定の評価を貰ったから、きっと大丈夫。

 

「ただいまー」

 

「ただいま戻りました」

 

「なんで私がメイド服着ないといけないの!? てかメイド服自体あり得ないんですけど!?」

 

 文化祭の準備期間っていうこともあって、授業のコマ数自体が減っている今週、アイギスお姉ちゃんと一緒に買い物をしてから寮に帰ってくると、岳羽お姉ちゃんが荒ぶっていた。金曜ロードショーでやってた映画みたいに鎮まり給えって言った方がいいかなって思うくらいの荒ぶりようだ。

 

「どうかしたの?」

 

「おかえり、聖君。えーと、ゆかりが弓道部のくじ引きで負けたんだって」

 

「くじ?」

 

 僕が首をかしげると、岳羽お姉ちゃんの荒れ狂う原因を知っているらしい汐見お姉ちゃんが状況を説明してくれた。なんでも、明後日の文化祭で弓道部はメイド喫茶なるものを出し物として行うらしく、メイド役をくじ引きで決めた結果、見事に岳羽お姉ちゃんがメイド役となってしまったのだという。

 

「メイド喫茶……絶対服従を誓う者の服を着て、喫茶店を?」

 

「アイギスお姉ちゃん、多分そんなに格式あるやつじゃないよ。桐条お姉ちゃんのところのメイドさん達とは違うと思う」

 

「アーカイブを検索…………メイド服姿のメイドに扮した従業員が、お客さんを主人としてもてなすことをコンセプトにした喫茶店ですね」

 

 秋葉原などで多く展開されているようです、とアイギスお姉ちゃんが口にする。秋葉原かぁ……電化製品とかのイメージが強いんだけど、そういうお店もあるんだね。もしかして、そういうお店を目的として来る人の方が多かったりするのかな?

 

『現在はメイド喫茶の派生として、コンセプトカフェというものも展開されつつあるな』

 

(よく知ってるね、聖杯さん)

 

『あれらもまた人間の欲望が生み出したものだ。私が知っていてもおかしくはあるまい』

 

 とにかく、そんなメイド喫茶のメイドさんに選ばれた岳羽お姉ちゃんは、恥ずかしいのかメイド服を着たくないと荒れ狂っているらしい。そんなに恥ずかしがることなのかなぁ、メイド服。

 

「聖君は文化祭どうするの?」

 

「ん? 歩き回るよ? コンテスト、ランウェイ? を歩くんじゃないんだって」

 

 女装、男装コンテストに参加する人達向けの説明会に参加した時に聞いた事だけど、今年は文化祭中、コンテスト参加者は女装や男装をして校内を歩き回って色んな人達の目に自分の姿を見せて、最後に投票してもらうって感じにするみたいなのだ。

 

「校内を、歩く……?」

 

「うん」

 

「あの恰好で?」

 

「うん。ちょっとだけ改造してもらったけど」

 

 改造に改造を重ねた結果、黒を基調としたクラシックタイプのメイド服となったけど、夏紀お姉ちゃんが「このワンポイントで激震させる」と言って追加したのがロングスカートの片方に施されたスリット。どうして片方だけに施したのかは分からないけど、夏紀お姉ちゃんはこれでいいって言っていたし、多分正解なんだと思う。

 完成してクローゼットに入っているメイド服のことを考えていると、汐見お姉ちゃんがちょっとだけ怖い目で僕の肩を掴んだ。

 

「聖君」

 

「何?」

 

「悪いことは言わないから、風花とかと一緒にいてね」

 

「? 荒垣お兄ちゃんの手伝いもあるし、基本的には家庭科室と廊下を行き来する感じだよ」

 

 部活には入っていないけど、荒垣お兄ちゃんや末光お兄ちゃんが共同でちょっとした小料理屋をやるみたいだから、それの手伝いをするつもりだ。コンテストの服を作るのに協力してくれたべべお兄ちゃんと風花お姉ちゃんも参加するし、多分そっちがメインになる……はず。

 

「よし、荒垣先輩がいるなら安心だね」

 

「何が……?」

 

「聖君、世の中にはね、男の娘はお得だって思ってる人もいるんだよ」

 

「? 男の子はお得?」

 

 何か特売があったりとかするのだろうか? ホテル街のお店でもケーキを買った時に店主の二人が何か言っていたような気がするけど、「坊やにはまだちょっと早いかしらね」って言ってたから何を言っていたのか全然思い出せないや。

 

「おい、汐見。聖に変なことを教え込もうとするんじゃねえ」

 

「荒垣先輩、聖君のことお願いしますね!」

 

「圧が凄ぇなお前……」

 

「天田君、男の子はお得ってどういうことだと思う?」

 

「ううん……? どこかのお店で男性限定の割引とかやってるんでしょうか……?」

 

 あとで調べてみようかな? ……あ、その前に買ってきたもの冷蔵庫に入れなくちゃ。ちなみに今日の夕飯はシマアジです。薬味と味噌と一緒に叩きまくってなめろうにして食べます。もちろんコロマル用にも刺身を用意するつもりである。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 文化祭当日。台風が来ていたからもしかしたら文化祭が後日に流れる可能性もあったけど、台風は一日で過ぎ去って、無事に文化祭を開催できることになって一安心。まぁ、それはそれとして……文化祭が始まったわけだけど、一般公開中の現在凄く忙しいです。

 

「おーい、こっちの注文お願いしてもいい?」

 

「はーい! お伺いしますね!」

 

「聖殿! チョットヘルプ願イマス!」

 

「今行くねー! ごめんなさい、お待たせしてます!」

 

 家庭科室が一階にあるということもあって、意外と入ってくるお客さんがいる。そんなお客さんの注文を聞き、日本語の応用がようやくできるようになってきたべべお兄ちゃんのヘルプに入ってみたりと、結構忙しいけど楽しいね、これ。

 

「オムライスセットでドリンクは……コーヒーお願い」

 

「私はこっちのサンドイッチセットで、飲み物は紅茶ね」

 

「オムライスのコーヒー、サンドイッチの紅茶……はい、かしこまりました!」

 

「「あと、チェキ撮影ね!」」

 

「ちぇき……?」

 

「「ん゛ん゛っ……!!」」

 

 多分大学生かなあってお姉さん二人のちぇき? という言葉がよく分からなくて首を傾げたら、お姉さんたちが何か喉に詰まらせたような声を発した。撮影ってことは、写真のことなのかな? だったら写真撮影って言った方が早くて伝わるような気がするんだけど……

 

『響きの問題だ。チェキ撮影と写真撮影、どちらが洒落ているように聞こえる』

 

(ちぇき? の方かな?)

 

『そうだ。同じ意味の言葉であっても、表現の仕方が変わるだけで響きが全く違うものとなる』

 

 言われてみれば、写真撮影って言われるとちょっと角ばっているように聞こえるけど、チェキ撮影って言われると丸いというか、ちょっとお洒落な言葉に聞こえてくる。

 

『そもそもはその場で写真を現像、プリントできるインスタントカメラというものだな』

 

(なるほど……あ、ディケイドのカメラ?)

 

『まあ、あれも似たようなものか……?』

 

 まぁ、とにかく写真撮影をしたいってことなのだろうということが分かればいいのだ。写真撮影は禁止されているわけでもないし、むしろコンテスト参加者はアピールとして写真撮影にバンバン応じちゃっていいって実行委員会に説明されているし。

 

「荒垣お兄ちゃん、末光お兄ちゃん! オムライスでコーヒー、サンドイッチで紅茶ね!」

 

「ああ……了解した」

 

「予想以上の集客にエマージェンシー……ってわけでもないね。存外やれてる……」

 

 ちなみに現在裏方作業で色々買い出しに言ってくれている風花お姉ちゃんはというと────荒垣お兄ちゃん、末光お兄ちゃん、べべお兄ちゃんと同じ感じの、僕の服装ともある程度噛み合うような黒のポロシャツとパンツという清潔感と品、そして動きやすさを重視した服装だ。凄く似合う。夏紀お姉ちゃんは文化祭の実行委員の一人として校内を駆け回っているみたい。

 

「メイドさん、この後暇なら俺達と回らない?」

 

「ごめんなさい! この後も結構忙しくなりそうなので無理かな!」

 

「マジかー。君みたいな可愛い子が一緒にいたら華が────」

 

「あと僕男ですよ?」

 

「「「────え゛っ?」」」

 

 大学生のお姉さん達に提供する料理が完成するまでの間は、お客さんとお話したりするわけだけど、結構僕のこと女の子だと思ってナンパ? してくるお兄さん達がいる。メイド服で女装しているせいなのかな? あと、何か凄く息を荒くして僕に近付いてきたおじさん*1もいたけど、荒垣お兄ちゃんの一睨みで撃退された後、警備員さんに連行されていった。

 

「ナンパも程々にね、お兄さん達! はい、お釣り! 文化祭楽しんでね!」

 

 真っ白になって何だかブツブツと呟いているお兄さん達を見送って、ご飯を待っていたり、メニューを見てどれを頼むか吟味しているお客さんの方を見る。ううん、男の人よりも女の人が多いような気がするなあ……男の人はもっとガッツリ系の焼きそばとかフランクフルトを食べながら歩いてるのかな?

 

「ところでお姉さん達、チェキってポーズ取った方がいい?」

 

「ハートマークとか、いいかな?」

 

「いいよ? はい!」

 

 夏紀お姉ちゃんに教えられた通り、笑顔を浮かべつつ両手でハートマークを作る。夏紀お姉ちゃん曰く、これだけで僕は女装で天下が取れるらしい。それだけで天下を取れるくらい女装っていうのは浅いものじゃないと思うんだけど。

 

「いい……! ツーショットいいですか……!?」

 

「どうぞ!」

 

 お姉さんと並んで写真を撮ると、もう一人のお姉さんが持っているカメラの下から写真が出てきた。聖杯さんが言っていた通り、その場で現像できるんだ……便利だ。

 

「次はそっちのお姉さんだね。どんなポーズ取ればいい?」

 

「じゃ、じゃあダブルピースを顔に近付けてもらって……」

 

「ダブル……これでいいの?」

 

 お姉さんが言う通り、顔に────正確には頬に両手を近づけて、ピースサインを作る。笑顔は……あ、小さく笑うだけ? ……こんな感じなのかな?

 

「最&高。これだけで寿命が延びるわ……めっちゃ似合ってるね」

 

「ん、ありがとう」

 

((そのはにかみも乙……!!))

 

 ううん? 写真撮影を終えたお姉さん達が雷に打たれたようにフリーズした。体調不良かな? 熱があるようには見えないけどなぁ……

 

『さて、今日だけで何人の人間が狂わされるか見物だな』

 

(聖杯さん、僕のことシャドウか何かだと思ってる?)

 

『貴様は人間だろう。少々特殊だが』

 

 何か含みがある気がするけど……まぁ、とりあえず文化祭を楽しもう。

*1
進撃の巨人で出てきたアルミンに欲情してたおじさんみたいな感じ

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