聖杯さんが囁いてくる   作:エヴォルヴ

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聖杯さんが応じている

 秋も深まる10月。文化祭があった9月よりも空気が冷たくて過ごしやすい秋らしい風を感じる聖杯です。聖杯はありますよろしくお願いします。サンマも脂が乗って美味しい時期です本体の聖杯はありますよろしくお願いします。食欲の秋って言葉があるくらい、秋は美味しいものがたくさんあって目移りしてしまう聖です。聖杯が本体です聖杯です。本体の聖杯はありますよろしくお願いします。

 

 文化祭も終わって、テストに向き合うことになったのも束の間。二学期の中間テストもどうにか終えて、あとはテストの結果を待つだけという日曜日。今日は寮から出て買い物ついでにベルベットルームにお邪魔している。

 

「……確かに依頼した品ですな」

 

「まさかタルタロスにあるとは思いもしなかったけどね、それ」

 

「これもまた、シャドウの────人の影や象徴として生み出されたものということでしょうな」

 

 依頼されていた物を納品するのにも丁度いいかなと思って、ベルベットルームで特訓しつつイゴールさんに納品したのは、ちょっと古風なお面だ。マスカレード……だっけ? 金の装飾が施されている派手だけど品が良さそうな外見の仮面である。

 

「イタリアであるよね、顔全体覆い隠す仮面被ってのお祭り」

 

「ヴェネツィアのカーニバルですな。興味がおありで?」

 

「うーん……なんか不思議な感じがするんだよね。お面を被ってお祭りに参加って、日本でもやることなのにさ」

 

 無地の表情がない仮面を被っているせいなのか、仮面の下の表情が分からないからなのか、本で読んだヴェネツィアのカーニバルにはなんだか不思議な感じがするのだ。文化の違いがあるからなのかな?

 

「あ、別に不愉快ってわけじゃないんだけどね。仮面を被るだけで一時的に自由になれるって不思議だなぁって思って」

 

「似姿を変えることで異なる人物を演じるが故に、匿名の市民という行動の自由を得る。これもまたペルソナの一つでありましょう」

 

「サマエルとか、魔弾の射手とか、フェルグスみたいなもの?」

 

「左様。あなたが聖杯さんと呼ぶ者が生み出しているものではありますが、それらもまた、あなたの一面。多面的であるからこそ、人は多くの魅力や美徳を持つのです」

 

 イゴールさんの言葉を受けて、ペルソナの元ネタとなった存在のことを考えてみる。

 

 最初に聖杯さんがくれたペルソナはサマエル。調べてみたところ、神の毒とか、神の悪意って意味を持っているエデンの園にいた赤い蛇だったり、ローマの守護天使だったり、ルシファーと同じ熾天使だったりと様々な説────側面を持っている存在だ。ユダヤ教ではモーセの魂を天国に運ぶ役目を失敗して、モーセに目を潰されてしまった後、神様にあれやこれやと怒られて、その果てに神様を裏切って魔王になった……らしい。詳細は知らないけど、モーセは何で目が見えなくなるまで殴ったのかな。暴力振るうのって宗教的にいいの? 隣人を愛せよ、みたいなことなかったっけ?

 

 他にも旧約聖書とか、カバラ? とか、バルクの黙示録? にもサマエルは登場するけど、そのどれもが神様の意向に沿わない姿を見せている。悪い事の象徴みたいに見えるけど……

 

「サマエルは……僕には人間の欲望とか、色んな感情の現れにも見える気がする」

 

「と、言いますと?」

 

「ほら、世の中には色んな誘惑があるでしょ? それをサマエルっていうキャラクターの姿として表現してるんじゃないかなって」

 

 本当に、世の中にはたくさんの誘惑があちらこちらに転がっているのだ。美味しいご飯を作ってくれるレストランや、面白いことが書かれている本とか、娯楽の映画館とか……いいものから悪いものまで、僕達の周囲にはたくさんの誘惑がある。

 

「そんな誘惑を前にして、自分の意思を貫けるのかを試すのがサマエルなのかなって思うんだ」

 

「なるほど。そういった視点もあるでしょう。しかし、そうなってくるとアダムとイヴはその誘惑に耐えられなかったということになりますな」

 

「それも含めての教訓なんじゃないかな? 知恵を付けたことで見えてきた誘惑や欲望に負けずに生きていきましょうって」

 

 まあ、真相がどうなのかは知らないし、そこまで興味はないけれど……少なくとも僕はサマエルのことを悪い存在として見るよりも『周囲にある誘惑』とか、『人間の欲望』として見る方がしっくりくる。だって、誘惑に負けることが悪いってわけでもないし。凄く疲れているのに、もっと頑張ろうとすれば壊れてしまう。疲れた時はお風呂に入って、美味しいものを食べてゆっくり休むのが一番大事。時と場合によってその誘惑受け入れるか、跳ねのけるかの選択をするのが大事だと思うのだ。

 

「人間何事もメリハリが大事だよ。時には欲望に負けるのも間違いじゃないと思う」

 

「なるほど。秩序に寄ることもあれば、混沌にも寄る。しかし人間の本質は中庸であるということですかな」

 

「難しいことは分かんないけど、ルールを守ろうとする人がいて、自由を満喫する人がいて、色んな方向に傾く人がいるから、社会って回ってるんじゃない?」

 

 だから、その人によって本質は違うと思う。人間全員が全員一つの方向性の本質を持っているとは言えないだろう。……そう考えてみると、魔弾の射手がどういうわけか三人組だったりするのもちょっとだけ納得ができそうな気がしないでもないし、聖杯さんによって付与されたとあるスキルがフェルグスに上手く噛み合っているのも納得……納得……

 

「やっぱり納得できない!? 聖杯さん!」

 

『なんだ』

 

「なんでフェルグスに【歪曲の色欲】ってスキルが入ってるの!? 【歪曲の傲慢】でしょそこは!?」

 

 傲慢って聞くと悪いイメージがあるけど、王様だった逸話もあるフェルグスであればカリスマ性とか強者の余裕的なものに感じるから、フェルグスに嵌まるのはそっちだと思ったのに、【歪曲の傲慢】は魔弾の射手にセットされていた。

 

『聞くが貴様、フェルグスが傲慢によって人を害する姿を想像できるか?』

 

「…………………………むー……!」

 

『それが答えだ。【宴を断ってはならない】というゲッシュがこのスキルと噛み合った』

 

 宴には食だけではなく、色欲も含まれる……と聖杯さんが言う。実際凄く強いスキルだから文句は言えないんだけどさぁ……

 

 フェルグスにセットされたスキル、【歪曲の色欲】は簡単に言えば耐久力を向上させるスキルだ。耐久力を向上させるのと同時に、僕の体力がなくなっていく毎に攻撃力が増していく……らしい。実際、カロリーヌとジュスティーヌと戦う時、最後の最後にとんでもない威力の攻撃を叩き出せるのはフェルグスだ。魔弾の射手はランダム性によって対応力が試され、サマエルはどんな時でも安定した火力が期待できるし、【歪曲の暴食】もあって集団戦でその真価を発揮する。体力を消費して放つ技を覚えるフェルグスには確かに【歪曲の色欲】が最も適しているだろう。

 

 じゃあ魔弾の射手にセットされた【歪曲の傲慢】とは? という話になるんだけど……なんて言うんだろう……ザミエルの時はオートコンセントレイト、マックスの時はオートチャージ、アガーテの時は最初に使うスキルの効果時間と効果量の倍化……らしい。強いけど、よく分からないスキルだ。

 

「あなたもまた、よき旅路を歩んでおられるようだ」

 

「そうかなぁ……?」

 

「ええ。お気付きですかな? あなたの中に、彼の者が作るペルソナではない、あなた自身のペルソナが芽生えかけていることに」

 

「んぇ?」

 

 僕のペルソナ? 確かに聖杯さんからは僕自身のペルソナじゃないっては聞かされてはいたけど、僕のペルソナが芽生えようとしているっていうのは……全く想像できない。というか気にしたこともなかったから、イゴールさんに言われて初めて知ったよ。

 

「そのペルソナがどのような姿になるのかは、今後のあなた次第でしょう。一つ言えるとすれば……試練を乗り越えた先に、そのペルソナがある、ということだけ」

 

「そっか……うん、頑張る」

 

「まもなく満月がやってくるでしょう。お気を付けて」

 

「ありがとう、イゴールさん」

 

 確かにそろそろ満月の日だ。今度の満月は確か……10月4日だっけ? 本当にあと少しで満月が来るんだ。……準備とかした方がいいのかな? それともいつも通り過ごす方が────

 

「我が主との話は済んだようだな虜囚!」

 

「いつも通り特訓を開始します。虜囚に拒否権はありません」

 

「そう言いながら攻撃するの止めない!?」

 

 反応できるようになった僕もちょっと大概な気がしないでもないけどさ! 背後からいきなりアギダインとブレイブザッパーは殺意が高すぎるよ!?

 

「ごちゃごちゃと文句を言うんじゃない! そら、もう一発行くぞ!」

 

「魔弾の────じゃない、サマエル! メギドラ!!」

 

 カロリーヌの帳簿? から繰り出されたペルソナのハンマーから放たれる雷を、六発まとめて放ったメギドラで相殺する。あ、危なすぎる……! 絶対あれジオダインじゃないって! ジオダインを超えた何かだってあれ!

 

『真理の雷とは、中々殺意があるな』

 

「絶対ヤバい奴でしょそれ!?」

 

「中々の判断力です、虜囚。これはどうでしょう?」

 

 続いてジュスティーヌが繰り出したのは凄く神聖そうな気配を纏っている天使のペルソナ。確か……サンダルフォンとかなんとか────ってこれ物理攻撃か!!

 

「フェルグス! 刹那五月雨切り!!」

 

「ほう? 少しはやれるようになったじゃないか!」

 

「超ギリギリなんだけどなぁ! 魔弾の射手!」

 

 今回現れたのは、狼の皮のコートを着て弓を引く狩人マックス。本当はアガーテが良かったんだけど、カロリーヌとジュスティーヌ相手にデバフとかばら撒いてる余裕はないから短期決戦!

 

「マッドアサルト!!」

 

 番えられた矢が風を切り裂きながら飛翔し、カロリーヌとジュスティーヌに命中するところでペルソナに防がれる。その壺硬くない?

 

「単体スキルならばワンショットキルくらいは使え!」

 

「まだ判断力が足りませんね」

 

「ワンショットキルって何!?」

 

「「はぁ……」」

 

「酷くない!?」

 

 これでもマックスが覚えている貫通スキルで一番威力が高いスキルなんだけど!? この二人、たまにそういうこと言ってくるんだから怖いんだよ! そんなこと言ってる間にも何かとんでもない気配を発しているペルソナで同時に攻撃してくるし! 肉弾戦も強いし! なんなのこの双子!?

 

「「力を司る者ですが」」

 

「!?!?」

 

 なんか今二人が重なって見えた気がしたんだけど!? 一瞬過ぎて分からなかったけど、もしかしてあれが聖杯さんが言っていたカロリーヌとジュスティーヌの本来の姿? あとさらっと僕の考えてること読んだよね?

 

「ふん、貴様の考えそうなことなど手に取るように分かるに決まっているだろう!」

 

「戦闘中に別のことを考える余裕が出てきたのは素晴らしい成長ですが、油断にも繋がります。切り替えてください」

 

「ごえ゛っ゛!?」

 

 懐に入り込んだジュスティーヌの蹴りが僕の鳩尾に突き刺さる。物理攻撃への耐性が凄く高いフェルグスを召喚しているのに、全く軽減されている気配を感じない凄い威力だ。最初に受けた時なんて血を吐いて気絶したし、ちょっと慣れてきた後は気絶はしないけど絶対に吐いてしまうくらいの威力……今は気合で吐くのを耐えている。あ、口の中鉄の味する。フェルグスの耐性貫通してないかなこれ……!!

 

「少しはマシになったな、虜囚。多少は盛り上がったぞ?」

 

「ですがまだまだです。またの機会をお待ちしております」

 

 ブチッ、と何かが切れる音が聞えたのと同時に、見たことが無いペルソナが放った衝撃波で、僕の体が動かなくなる。そしてそのまま縦横無尽に暴れ回るカロリーヌとジュスティーヌにボコボコにされて────

 

Don’t be so prisoner

 

 そんな文字が見えて意識が消し飛んだ。何、その文章……?

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

 カロリーヌとジュスティーヌにボコボコにされた後、帰ってきた寮の屋上で僕とアイギスお姉ちゃんは銀色の煙突みたいなものを前にして鎮座していた。

 

「……そろそろでしょうか?」

 

「多分?」

 

 銀色の煙突……というか、胴長な圧力鍋みたいな姿のそれは燻製器。寮の一角にある、桐条お姉ちゃんのバイクが置いてあるガレージの奥で使われずに眠っていたものだ。元々ホテルだったらしいし、そのホテルで出された燻製はこれで作られていたのかもしれない。

 

「人は食に貪欲ですね。これだけの労力をかけてまで、美味を求める」

 

「最初は偶然の産物だったと思うけどね」

 

 大昔の人が住んでいた竪穴式住居みたいなところで、焚き火の上に吊るしていた肉や魚が、熱による乾燥と煙の殺菌、防腐成分によって、これまで以上に長い間食べられるようになったのが始まりだってどこかで聞いたことがあるし。

 

「多分余裕ができて、美味しいものを食べようって考えになったんじゃないかな? そうなるまでは長く食べられるようにってことだけ考えてたと思うよ?」

 

「長い時間を費やして生まれた生活の知恵が、いつしか美食となる……これも人間の歴史ですね」

 

 聖杯さんが言っていた、戦争こそが人類史であるっていうのも分かるけど、こうやって食文化が発展していったことも人類史だと思うな。僕としてはそっちの方が分かりやすいもん。

 

「しかし、やはり思うのです。聖さん」

 

「なあに?」

 

「人はなぜ、戦争を繰り返すのでしょう?」

 

 むむ、難しいことを言ってくるね、アイギスお姉ちゃん。

 

「私が生まれた理由も、ある意味では戦争のためです。人間と、シャドウの戦争のための兵器……それが私の生まれた理由です」

 

「だから、どうして戦争をするのか知りたいってこと?」

 

「はい。どうしてだと思いますか?」

 

 存在意義を知りたいってことじゃないと思うけど、多分これは人間を教えてほしいっていうことなのかもしれない。人間はどうして戦争を繰り返すのか……かぁ。聖杯さん曰く、人は人と戦って淘汰を繰り返す種だからって言ってたけど……

 

「多分……喧嘩と変わらないんだと思うよ」

 

「喧嘩、ですか?」

 

「うん。お互いに主張があって、お互いに自分が正しいって思っていて。お互いに相手が間違っているって思って、喧嘩になる」

 

 それが言い争いだったり、殴り合いだったりと形は様々あるけれど、喧嘩の理由なんて大体そんなものだ。自分が正しい、相手が間違っている。だから間違っている相手を正そう……そんなものだと思う。

 

「その規模が大きくなって、たくさん血が流れるのが戦争なんだと思う」

 

「お互いに正義を掲げ、互いの正義を否定し合う……」

 

「うん。結局のところはそういうことなんだと僕は思ってるよ」

 

 過去の戦争のことはピンと来ないけれど、こういう小規模な方に焦点を当ててみると、理解できる部分もあったりする。人を殺すのは……よくないことだと思うけど。

 

「そんな歴史を歩き続けた果てに、人は絶望しないのでしょうか? なんて醜い歴史なんだと」

 

「うーん……思うかもね。けど、それ以上に流された血を見てほんの少しだけ反省できる。分かり合う努力をしようとする……それも、人間だよ」

 

 それができないっていう人達もいないわけではないけれど……平和を望む人達が大多数なのだから、分かり合う努力をして、平和に近付くことだってできるはずだ。

 

「それでね、アイギスお姉ちゃん」

 

「はい」

 

「僕はアイギスお姉ちゃんに会えてよかったと思ってるよ。兵器としてのアイギスお姉ちゃんじゃなくて、人としてのアイギスお姉ちゃんに会えて」

 

「……!」

 

 多分、寮の皆もそうだと思うな。僕達はアイギスお姉ちゃんを戦いのための道具として見たことはない。体はロボットかもしれないけど、感情があって、色んなことを学ぼうとして、色んなことを考えて悩んでいる姿を僕達は知っている。

 

「だから、この先のことも考えよう?」

 

「この先、ですか?」

 

「うん。影時間が消えた後のこと! 汐見お姉ちゃんにも言ったけどさ、この戦いが終わった後どうするか考えるの」

 

 汐見お姉ちゃんの傍にいることがアイギスお姉ちゃんにとっての大切だって言っていたけど、僕はアイギスお姉ちゃんがちょっとだけ危ういように見える。自分が兵器だから、近くにいたら傷付けてしまうって思ってしまったらどこかに行ってしまうような気がするのだ。

 

「アイギスお姉ちゃんは何がしたい? 僕はね、皆で旅行に行きたいな!」

 

「旅行……」

 

「海外は難しいけどさ、皆でどこに旅行するか話し合って決めて、旅行したいなって」

 

 進路についてはもう少し考えないとだけど、皆でどこかに旅行しに行きたいというのは本当だ。忘れられない思い出になるだろう。

 

「アイギスお姉ちゃんはどうしたい?」

 

「私は……」

 

 アイギスお姉ちゃんは燻製器をジッと見つめながら、ロボットが高速で動いている時に聞こえてくるような駆動音と、なんかちょっとヤバそうなモスキート音を鳴らしながら考えている。長考すること大体五分くらい。アイギスお姉ちゃんが口を開く。

 

「分かりません。……だけど」

 

「だけど?」

 

「琴音さんと……皆さんと一緒にいたい、そう思います」

 

「そっか。なら、頑張ろうね!」

 

「はい。ありがとうございます、聖さん」

 

 そうこうしているうちに燻製器が燻製が終わったことを告げる。カンカン、カンカン、と消防車が見回りをしている時に鳴らすような音を鳴らす燻製器の蓋を開けると、見事な燻製ができあがっていた。

 

「おお……! 輝いてる!」

 

「見事な燻製色であります。桜の香りもしますね」

 

『ウズラの卵とチーズの燻製は定番だが、間違いのない味だな』

 

 これは皆で食べるのが楽しみだぞぉ……! ……それはそれとして。

 

「あちっ、あちち……はい! アイギスお姉ちゃんの分!」

 

 味見をするのは作った人の特権ということで、一緒に作るのを手伝ってくれたアイギスお姉ちゃんに燻製したばかりのチーズを切り分けて渡す。燻製したばかりということもあって、外はモチッとしているのに、中はトロトロに仕上がっている。冷えた後もきっと美味しいけど、温かいままでも絶対美味しい。

 

「ありがとうございます。………………不思議ですね」

 

「何が?」

 

「どういうわけか、いつも食べている料理とはまた違う美味しいを感じるのです」

 

「自分で作ったものを自分で食べてるからじゃないかな?」

 

 何気にアイギスお姉ちゃんが何か料理をするというのはこれが初めてだったりするし、初めて作ったものを食べるというのは間違いなく達成感とかでいつもよりも美味しく感じるだろう。

 

「……なるほどなー」

 

「久しぶりに聞いたよ、それ」

 

「そうですね。聖さん、あなたを先生に選んだのは間違いなく正解でした。この先についても、もっと考えてみます」

 

 そう言って笑ったアイギスお姉ちゃんと一緒にスモークチーズを齧りつつ、燻製し終えたチーズとウズラの卵をタッパーに仕舞っていく。こういう何かを作るっていうことに対して、アイギスお姉ちゃんは結構楽しそうにしている。……僕の目の錯覚かもしれないけど。




虜囚のくせに生意気だ
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