聖杯さんが囁いてくる   作:エヴォルヴ

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アクセル全開であります。文句は全てメギドラオンであります。


聖杯さんが話している

 聖杯が聖杯であるように、聖杯でありたい。聖杯です聖杯はあります、聖杯が本体です聖杯があります。聖杯です聖杯は本体です。アイスは何だかんだ言って夏に食べるよりも冬に食べる方が美味しく感じる聖です。聖杯はありますよろしくお願いします。聖杯です、聖杯はありますよろしくお願いします。

 

 夕飯も食べ終わってくつろぎモード。まさか夜に会ったお姉ちゃんこと、汐見琴音お姉ちゃんが結構な健啖家だったとは思ってもみなかった。あの細身のどこにあんな量のチキンカツが入ったのか。外を見れば日は落ちていて、電気を消して真っ暗な部屋のベッドの上で抱き枕を抱えて寝る準備に取り掛かっていた僕は、ふとノック音が聞こえてドアの方に顔を向ける。

 

「すまない聖。起きてるか」

 

「真田お兄ちゃん? どうかしたの?」

 

 ドアを開けてみると、いつもプロテインとトレーニングを勧めてくるプロテインお兄ちゃんこと、真田明彦お兄ちゃんが立っていた。真田お兄ちゃんは……うん、凄く強いボクサーなんだけど、ちょっと朴念仁拗らせてるお兄ちゃんだ。でも面倒見が良くて、道端で会った時はよく声をかけてくれたりしていた。でもプロテインを勧めてくるのはちょっとあれなお兄ちゃんだ。どうしてかつ丼にプロテインをかけようとするの? 

 

「美鶴から聞いてるとは思うが、改めて説明をとな。来てくれるか?」

 

「いいよ。影時間についてでしょ?」

 

「ああ」

 

 正直聖杯さんに聞けば一発な気がしなくもないけど、他の人から説明を聞くことで僕が知っていることと、他の人が知っていることの違いを知ることもできる。見識を広げるって大事なんだって聖杯さんが言ってた。

 

「それにしても、料理の腕は衰え無しか。驚いたぞ」

 

「衰えると荒垣お兄ちゃんに怒られるから」

 

「ふっ、そうか……」

 

 む、何だかちょっと寂しそう。荒垣お兄ちゃんとはちょっと喧嘩中なのかな? 喧嘩は大いに結構だって聖杯さんが言ってたけど、仲直りするのは早めがいいと僕は思います。拗らせると大変なのは風邪も同じだよね。

 真田お兄ちゃんの後ろをついていくように階段を上り、四階の大きなドアを開けると、この寮に住んでいる人達が全員揃っていた。そしてあんまり好きじゃない人もいる。ダジャレおじさんこと幾月理事長だ。この人苦手だし嫌い。ダジャレはつまらないし、なんか変な感じがするし。

 

「来たか。適当にかけてくれ」

 

「じゃあここに……」

 

「待て、床に正座はするな。ソファがあるだろう。というかその座布団はどこから取り出したんだ」

 

 桐条お姉ちゃんに止められたので、汐見お姉ちゃんの隣に座る。む、ふかふか。学校の生徒指導室に備え付けられてるソファよりもフワフワしている。

 

「じゃあ揃ったことだし、まずはこの寮に住んでる人の紹介をしようか」

 

 幾月理事長はそう言って、桐条お姉ちゃんや真田お兄ちゃんを含めた寮生のメンバーを紹介していく。ここにいる全員がペルソナ使いなんだよね……ペルソナ使いって、そんなにポンポン現れていいものなの? 

 

『例外の覚醒方法を使えば量産は可能だ』

 

(へー……ちなみに例外のこと聞いてもいい?)

 

『一端だけならな』

 

 紹介が終わって、この寮についての説明を始める幾月理事長の声を聞いているふりをして聖杯さんの言葉に耳を傾ける。

 聖杯さん曰く、ペルソナ使いを生み出す方法はまだ存在していて、一つは人体実験によって無理矢理覚醒させること。もう一つはペルソナ様? なる儀式遊びでペルソナを覚醒させることだそう。うん、やっぱりろくなことじゃなかった。聞いて後悔したわけじゃないけど、気分がいいものじゃないね。

 

『ここに集まっているペルソナ使いは貴様を除き、先天的な素質を持っているペルソナ使いだ』

 

(つまり……恐怖乗り越え系ペルソナ使い?)

 

『雑に言えばそうなるな』

 

 ほへぇ。

 

『それと、あの幾月修司とやらはペルソナ使いではないな』

 

(ん、そうなの?)

 

『だが、あの時間帯に適性を持っていると見ていいだろう』

 

 ふーん……この嫌な感じがする人がねぇ……なんかこう……ダメなのだ。生理的に無理って感じで……向けられている笑顔がぺらっぺらの紙切れみたいな、薄っぺらい、作られた笑みのように見えて。何か悪いことを企んでいる大人って感じがして。聖杯さんから注意されていたことも相まって、幾月理事長のことを僕は好きになれないし、信用することもできない。

 ……あ、桐条お姉ちゃんが話を始めた。でも、聖杯さんから教えてもらったこととほぼほぼ同じだ。けど聞いていないと思われないように、一応相槌を打っておく。これだけでも結構バレないものだ。大人になっても使える技術なんだって。

 

「だから……君達の力を貸してほしい」

 

 話が終わったのか、桐条お姉ちゃんがそう言ってきた。僕の目の前には特別課外活動部の部員であることを示す赤い腕章と、拳銃の形をした……何だろうこれ。

 

『召喚器だな。死の恐怖を克服する行為……つまりは疑似的な自殺体験をこの拳銃によって行うと言ったところか』

 

(あれ? もしかしなくても僕には必要のないもの?)

 

『そうだな』

 

 ええ……受け取っておくべきなのかなこれ。でもなぁ……ううん……これ、言っていいのかな? 受け取る雰囲気出てるけど、この召喚器は僕には必要ないものだし……これは伝えておくべき? それとも黙っておくべき? ううむ……でもあの時間になったらサマエルを呼び出す時に使うお面が出てくるだろうし……

 

「聖、どこか具合でも悪いのか?」

 

「へ?」

 

 ふと、真田お兄ちゃんから声をかけられた。僕が眉間に皺を寄せていたのが具合が悪そうに見えたようだ。

 

「ううん、具合は悪くないよ。ただ、ちょっと考え事してただけ」

 

「そうか。何かあったら言うんだぞ?」

 

「うん、ありがとう」

 

 真田お兄ちゃんは僕を誰かに重ねているみたいで、よくこうして気にかけてくれる。誰と重ねているのかは聞いていないけど、うん。多分僕越しに別の誰かを見ているのは間違いないと思う。

 まぁそれはそれとして。降り注がれている五つの視線をどうにかしないといけない。汐見お姉ちゃんはもう受け取っているし……受け取る……受け取らない……ううん……うん! いいや! 言っちゃえ日○! 

 

「僕、この銃? いらないよ」

 

「それは……」

 

「あ、課外活動には参加するよ? でもいらない。それ、使わなくても呼べるもん」

 

「「「「「は?」」」」」

 

 あ、これを使って呼び出すのが基本というか当たり前だからか、驚くよね。でも本当のことだ。

 

「僕のペルソナ。その銃みたいなの使わなくても呼べるよ」

 

「んん……それは、つまり……君は知っているのかい? 死ぬことが何なのか……それとも、言いにくいことだけど自殺を試みたことが────」

 

「全然。僕のペルソナ、お面を引っぺがして呼ぶんだよ」

 

 あ、皆がスペースキャットになった。ユニバース感じてそう。ちなみにスペースキャットは聖杯さんから教えてもらった単語。ネットミーム? なるものにも詳しいんだよね、聖杯さん。さすが人間を見てきた聖杯さんだ。

 

「ううん……えーと……こう、感情を爆発させてペルソナを呼び出すというか……信じられないよね」

 

「あ、いや、聖君が嘘を吐くような子じゃないのは知ってるんだけど……」

 

「んーん。いいんだよ。言葉だけだと信じられないだろうし。だから、明日! 明日見せるよ!」

 

 聖杯さんにカンペを作ってもらってそのカンペ通りに話を続ける。スペースキャット状態から回復し始めているところに解決案を放り込むことで、提案を飲んでもらいやすい。これも聖杯さんから教えてもらった交渉術の一つ。大人になったらこういう交渉の場も増えてくるって考えると、ちょっと嫌になってくるよね。

 

「あ、ああ……それは、構わない。私達としても、君の力を確認するいい機会だからな」

 

 スペースキャット状態だった皆の許可は凄く簡単に取れて、僕は満足気に頷いてから立ち上がる。正直な話、もう眠いのだ。昼寝をしなかった弊害がこんなところに。

 

「じゃ、僕寝るね。おやすみ!」

 

 逃げるように作戦室から飛び出し、部屋まで走っていく。スペースキャット状態から抜け出せない人には追い付けない速度だ。ふふ、聖杯さんから教えてもらった交渉テクニックが、こんなところで使えるとは思わなかったよ。桐条お姉ちゃんがスペースキャット状態だったのが凄く面白かった。

 

「明日が楽しみだね、聖杯さん」

 

『油断はするなよ』

 

「うん、それは分かってるよ」

 

 油断したらいけないのはいつも変わらない。油断しているとテストの裏面があったことに気付かなかったり、ライダーの視聴を忘れたりする。面白いから見逃すと泣き寝入りしたくなるのだ。

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 時刻は23時59分。僕達は月光館学園高等部の正門前に集まっていた。

 

「あのー……どうしてここに?」

 

 皆の疑問を代弁したのは、皆と同じペルソナ使いに覚醒しているという伊織順平お兄ちゃんだ。こう……軽い感じなんだけど、でも気さくな感じのお兄ちゃんだ。中等部の二年生の頃に転入してきたって本人から聞いている。元々野球をやっていた影響もあるのか、背が高い。あと、顎髭が生えてる。剃らないのかな。

 そんな伊織お兄ちゃんを含めた皆が首をかしげる中、桐条お姉ちゃんが見ていろとだけ言って黙り込む。多分、あれだよねぇ、と思いつつ、聞こえてくると軽の秒針の音を聞いていると────時刻が0時となった。

 

 瞬間的に世界が緑色に染まり、空に浮かんでいる月が凄く大きくなった。何倍にまで大きくなっているのかは分からないけど、とにかく大きい。そしてそれに共鳴するかのように校舎が震えて、地面から数えきれないくらいたくさんの塔が生えてくる。

 

「な、なんじゃこりゃあ!!?」

 

「学校が……!?」

 

「どうなってるの!?」

 

 たくさん生えてきた塔はどんどんと天高く伸びていき、やがて一本の歪な建造物としてまとまった。近くで見るのは初めてだけど、遠くで見えていた大きな塔。何だか不気味だけど……なんかあれだよね、ミ○ケとか、絵本に出てきそうなデザインしてる。どこまで伸びているのかな、あれ。どんどん大きくなって、いつか月まで伸びていくとか? 

 

「聖、行こうぜ」

 

 いつの間にか立ち直っていたらしい伊織お兄ちゃんに促される形で、皆についてくようにこの大きな塔の入口に向かう。入口を通って、僕の目に映ったのは、ギリシャ風の神殿みたいなエントランスだった。不気味な外側と打って変わって、どこか神秘的な感じすらする。あ、時計。あっちには歯車……何だろう、モチーフは時計なのかな? なんて考えていた直後。僕の服があの夜、サマエルを呼び出した時と同じものに変化した。デザインの改案を求めます。

 

『着こなせる男になれ』

 

(は~い)

 

「どうしたのその服!?」

 

「ヒーローショーかよ!? そのお面もどうした!? 真っ黒だけど見えてるか!?」

 

「何か怪盗っぽいね?」

 

 皆が驚いている中、マイペースだね汐見お姉ちゃん。

 

「僕もあんまり知らないんだけど、この時間になるとこういう姿になるみたい?」

 

「ふむ……聖の服装については後で少し調べることにして、だ。改めて説明するぞ」

 

 桐条お姉ちゃん曰く、ここの名前はタルタロス。冥界の最奥に位置する奈落の名前を名付けられた巨大な塔の中には、たくさんのシャドウが潜んでいるらしい。でもどうしてタルタロス? 聖杯さんの授業で聞いたけど、タルタロスって大穴だよね? バベルとかそういうので良かったんじゃないの? 分かりやすいように仮称? ってやつを付けてたら、それが定着したのかも。

 

「────そして、この塔で活動するにあたり、武器を持ってもらうが……聖、その手に持っているのは何だ?」

 

「玩具のナイフとモデルガンだよ」

 

 聖杯さんが武器だって認識してるからこれも武器になるのだ。聖杯さんのことを話していないから、このことは言わないけど。

 

「ふむ……それにしては妙にリアルだが、まぁいい。それらがシャドウに通用する可能性は低い。私達の方で用意した武器を持っていけ」

 

 渡されたのはサバイバルナイフ。玩具じゃなくて本物のやつだ。おお……玩具と違って金属的な重みがある……これを振り回すのかぁ……ナイフって扱いが難しいって聞くけど、大丈夫かな。

 

『使い方は包丁と同じだ。多機能的な包丁とでも考えておけ』

 

(おお、分かりやすい!)

 

『そのうちナイフの教本なども購入を検討するべきだな』

 

「では、早速タルタロスの探索に向かってもらうが……汐見、君がリーダーを務めてくれ」

 

「あ、はい、分かりました!」

 

 む、聖杯さんと話し込んでいる間に話が結構進んでいたようだ。タルタロス探索のリーダーは汐見お姉ちゃんが務める……らしい。伊織お兄ちゃんは落ち着きが足りず、岳羽お姉ちゃんは緊張で上手く動けるか分からないから辞退……ちなみに僕は最年少だから却下だって。不思議な理由だ。

 

 桐条お姉ちゃんの話も終わり、本格的に探索を開始することになり、汐見お姉ちゃんを先頭に僕達はタルタロスの第一層へと足を踏み入れた。

 

「学校……?」

 

「確かにちょーっと、面影があるような……?」

 

 踏み入れた第一層は、学校の廊下や教室を思わせる見た目をしている。でも違う。なんか色んな所に血溜まりみたいなのができてる。見た目の身近さのせいで不気味さを強く感じるそれは、日常なのに非日常……凄く不思議で不気味な感じだ。通信機からは桐条お姉ちゃんのレクチャーが聞えているが、習うより慣れよって感じだ。とりあえず敵を見つけたら殴れだって。分かりやすいね。

 

「あ、シャドウ」

 

「早速お出ましか! んじゃまぁ俺が────」

 

「いや、まずは聖の力を見たい」

 

「ああ、そういえばそうでしたね……」

 

 ごめんね伊織お兄ちゃん。やる気を出してたのに出鼻を挫いちゃって……

 

『聖、無理はするなよ』

 

「うん、大丈夫!」

 

 桐条お姉ちゃんの声に返答を返し、現れたゲル状のシャドウを見据える。うーむ、あの夜に見たシャドウもそうだったけど、凄く気持ち悪い。どうしてこんなデザインにしてしまったのか。

 

『行けるな、聖。これもまた貴様の更生への一歩だ』

 

 皆が見ている中でシャドウと対面しつつ、聖杯さんの声に心の中で頷き、黒いガラスのような仮面の顎下を右手で掴んだ僕は、あの夜感じた理不尽に抗うという思いを心に持ちながら一気に引っぺがした。

 

「奪え、サマエルッ!!」

 

 まるで怪盗が変装を派手に解除する時のように引っぺがした仮面が宙に舞って僕の顔からは血が流れる。皮膚が裂けるような痛みと共に噴き出した血が、宙を舞った仮面と共に炎となり、その炎の中から聖杯さんことサマエルが生れ落ちる。

 

『一応言っておくが、契約は果たされている。仮面を引き剥がす必要はないぞ』

 

(先に言って欲しかったなぁ!)

 

 見て! 汐見お姉ちゃん達が顔をしかめてるよ! ごめんね。でもこれが僕のペルソナ召喚の方法だったと思ってたから……でも仮面を引き剥がす行為は必要ないんだって。先に言って欲しかったよ。

 

『言っていなかったか。すまんな』

 

「────メギドラ!!」

 

 聖杯さんへの文句を込めた万能属性のメギドラがシャドウを飲み込み、跡形もなく消し去る。うん……過剰威力だったかな、これ。

 

 

 

 

「一撃かよ……って、そうじゃねぇ! 聖、顔大丈夫か!?」

 

 サマエルを仮面に戻してからシャドウを消し飛ばした余韻を感じていると、伊織お兄ちゃんが慌てたように僕の肩を掴んで揺さぶってきた。ああ、うん、そうなるよね。人の皮膚が剥がれて血飛沫が上がったら、心配するよね。うん、それはそうだよね……

 

「大丈夫だよ」

 

「大丈夫には見えなかったけどね!?」

 

「痛いよ」

 

「だろうな!?」

 

「でも大丈夫。本当に皮膚が剥がれてるわけじゃない……はず」

 

「はずって何!?」

 

「そこは断言して!?」

 

 伊織お兄ちゃんよりも後に復帰した汐見お姉ちゃんと岳羽お姉ちゃんが抗議の声を上げるけど、僕だってこれが二回目の召喚なんだし分かるわけがないじゃないか。

 

 あ、ちなみにこの後のタルタロス探索で僕は一度もペルソナを召喚することはなかった。使おうとした瞬間に汐見お姉ちゃん、岳羽お姉ちゃん、伊織お兄ちゃんの誰かに睨まれ、止められてしまったのである。世知辛い世の中だよ。




聖の外見はショタ化したジョーカーです。ジョーカーより若干目付きが柔らかい感じ。
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