聖杯です。最近やっぱり本体が聖杯だと思っています。どう考えても本体は聖杯です。聖杯です聖杯はあります。聖杯が聖杯であるように、全身全霊聖杯でありたい聖です。そろそろラーメンが食べたくなってきている聖杯ですよろしくお願いします。
初のタルタロス探索。疲れは二日掛けてどうにか抜いた。聖杯さんから説明されたけど、影時間の戦いは普通に運動するよりも疲れる。肉体だけではなく、精神も酷使するから疲れるんだって。不思議。影時間の探索に慣れてくれば、回復力も高まっていくから、それまでは疲れに負けつつ学生生活を謳歌することになるみたい。
春になったというのにちょっと肌寒い今日はラーメンを食べてから寮に帰ろうかな? でも寮の冷蔵庫にはまだ賞味期限ぎりぎりな食材が眠っている。はがくれか、自炊か……
「むむむ……」
『食材を消費しろ』
「もったいないお化け」
『そうだ。フードロスを削減せよ』
選ばれたのは自炊でした。ラーメンはまたの機会にしよう。はがくれ丼はまたの機会に持ち越しだ。ラーメン+はがくれ丼のコンボは明日の昼ご飯まで空腹を消し去る満足感を味わえるコンボ。あんまり多用はできないけど背徳の味。
(モツばっかりあったよね、冷凍庫。なんで牛たん二本もあったんだろう)
『包め』
(モツタコスパーティー開幕……!!)
『消臭を忘れるなよ』
消臭を忘れた時の絶望感ったらあれだよね。あとモツの臭み抜きを忘れた時のあの悲しさとか。新鮮なモツは臭みが少ないと聞くけど、本当かな。
『それと聖』
(何?)
『ペルソナの技だが……メギドラ以外にも使えるようにしたぞ』
(おお!)
メギドラだけだと過剰戦力過ぎて決戦兵器みたいな運用しかできないって言われてたけど、他の技も使えるなら話は変わってくる。さすが聖杯さん。僕にはできないことを平然とやってのける。そこに痺れる憧れる。
『マハエイガ、マハスクンダ、ポイズンミストだ』
(マハ……って、範囲攻撃のあれ?)
『そうだ』
(もう僕砲台じゃん)
『そうなるな』
マハエイガは闇属性の範囲攻撃、マハスクンダは敵全体の動きを鈍らせるもので、ポイズンミストは敵全体を確率で毒にするんだって。動きを鈍らせて毒にしてメギドラやマハエイガで吹き飛ばせってこと? 砲台じゃんか。
『それだけ私の力は大きいということだ』
(凄いね。……そういえば、メギドラってあんなに威力高いものなの?)
『本来ではもう少し威力が低い。だが、あのサマエルにはオートコンセントレイトというスキルが付与されているからな』
オート、コンセントレイト。自動化したコンセントレイト? どういうことだろう。
『コンセントレイトは精神を集中させるものだ。つまり、サマエルが召喚された時、自動的に精神を集中させ、精神力を使う技を強化する』
(……強くない?)
『だから言ってるだろう。私の力の一端であると』
本当の聖杯さんはそれ以上に強いってことだね。……扱いきれるかな、僕に。
『使いこなしてみせろ』
(有無を言わせないね)
『当然だ。貴様の旅路も更生も始まったばかりだ』
更生かあ……僕が変わらないといけないこと、直していかないといけないこと……一つ一つクリアしていくことが、僕が理想にしている未来に繋がるんだ。聖杯さんに色んなことを教えてもらって、お兄ちゃんやお姉ちゃん達からもたくさんのことを教えてもらっている僕はきっと恵まれている。恵まれた環境で何をやるのか。僕の旅路や更生ってそういうことなんだと思う。
まぁ、難しいことは後にして、足りない食材を買いにいかなくては。今日はタコスフェスティバルだ。ライムと玉ねぎが足りない。あとパクチー。パクチー苦手だけど、タコスの時はパクチーを入れないと物足りなくなっている自分がいる。
「あれ、明日花君?」
「!」
ふと、スーパーで買い物を終わらせて外に出ると、僕の耳に柔らかい声が響いて、勢いよくそちらに顔を向けた。
「やっぱり明日花君だ。元気そうだね」
「風花お姉ちゃん。春休みぶり?」
「そうだね。久しぶり」
そこに立っていたのは水色……というか、エメラルドグリーンの髪を短く整え、髪色と同じタートルネックを着ている女性。山岸風花お姉ちゃん。僕が小さい頃からよく遊んでもらっていたお姉ちゃんで、幼馴染……でいいのかな? ちょっと前に僕が巌戸台に引っ越しちゃったけど、今でもたまに遊んでもらっているお姉ちゃんだ。よく分からないけど、僕の両親と風花お姉ちゃんの両親仲がいいみたい。あ、僕は聖明日花です。女の子みたいな名前でしょ? 嫌いじゃない。でも皆聖って呼ぶの。まぁ、苗字しか名乗ってないからだけど。聖杯さんはそのうち呼ぶとか言ってたけど、そのうちっていつ?
ああそれと、風花お姉ちゃんは機械に凄く強くて、僕が持ってるゲーム機とかが壊れた時に直してもらったりしてた。そっち方面に進学するのかなって思ってるけど、お姉ちゃんの両親はお医者さんになってほしいみたい。
「今日は外食じゃないんだね」
「毎日外食はしてないよ?」
「ふふ、知ってるよ。……買う量が多い気がするんだけど……作り置き?」
「んーん。僕、寮に入ったから、そこに住んでる人達の分だよ」
立派なキッチンがあるのに全く使われている形跡が無かったから桐条お姉ちゃんに聞いてみたら、案の定自炊している人が皆無だった。寮母さんがいない時点でお察しだったけど、あそこ、荒垣お兄ちゃんがいなくなってからまともに機能してないんじゃないかな。荒垣お兄ちゃんにこの現状を話したら来てくれる気がする……
「そうなんだ。寮かぁ……いいなぁ」
風花お姉ちゃんは両親とあんまりいい関係ではないみたい。踏み込むのはちょっと気が引けるけど、そこからちょっとだけ遠ざけることもできる。昔から息抜きを称して遊んでもらっていたし、いつものことだ。というわけで、連れていってしまえ。
「風花お姉ちゃんも来なよ」
「え?」
「食材、結構多くてさ。賞味期限ぎりぎりだから今日中に消費したいんだよね」
リュックに食材を詰め込んでいるお蔭で両手が空いている。ので、右手で風花お姉ちゃんの手を握って巌戸台寮まで連れていく。いたくないところにずっといるよりも、そこから離れてみることも大事だと僕は思います。
「え、でも……」
「いいんだよ。僕のわがままだって両親に伝えればいいよ、きっと」
お叱りを受けるかもしれないけど、そんなことは知らない。聖杯さんから教えてもらった右耳から聞いて左耳で聞き流す作戦で切り抜ければいい。ごく稀にわがままを言うだけであれこれ言ってくるほど心が狭い人達じゃないだろう。だよね? さすがにお説教はあんまり好きじゃないんだけど。
「ところで風花お姉ちゃん、モツは大丈夫?」
「大丈夫だけど……いいのかな?」
「絶対いいよ! 僕が許します! 深夜のラーメン食べちゃうのだって許すよ!」
『その時は白米もつけるがいい』
背徳コンボに溺れるがいい。ごく稀に食べるからこそ、背徳の味は更に輝くんだ。それと同じように、たまには親に反抗してみるのもいいんだ。遅めの反抗期ってやつ。
(ところで聖杯さん)
『どうした』
(さっきから飛んでるこの蝶何? 青いの)
『ふん、節操無しめ……まぁ、そのうち顔を出してやるといい。お前の旅路と更生に役立つはずだ』
ううん? 聖杯さんの知り合いなのかな。蝶が知り合いって、妖精みたいだね。
「明日花君? どうしたの?」
「んーん、何でもない」
諦めたのか、覚悟を決めたのかはさておき、巌戸台寮についてくることにしたらしい風花お姉ちゃんと話しながら電車に乗り、巌戸台寮に一番近い駅で降りる。……そういえば。
「風花お姉ちゃん、料理はできるようになった?」
「ううん……実はあんまり……」
「そっかぁ」
風花お姉ちゃんは色々できる人だと思われがちだけど、料理が下手だ。言っちゃあれかもだけど、食材を冒涜しているような料理を生み出してしまう。あんなに酸っぱくて苦い肉じゃがは初めて食べたと思う。どうしてレモンを入れてしまったのか。あと灰汁抜きしてよ。コーヒーを入れるのはカレーだけでいいんだよ。あとコーヒーはカレーのお供にしたいよ。最近ちょっと遠出して見つけたお店のカレーとコーヒーが美味しかった。ルブランって言うんですけど。今度風花お姉ちゃんと一緒に行きたいな。マスターさんも凄くカッコいい大人なんだよね。出来る大人って感じで。こう……色男ってこういう人のことを言うんだなぁって思う人というか。
「じゃあ放課後とかに一緒に料理しようよ。本当は荒垣お兄ちゃんもいるといいんだけど……」
「荒垣……?」
「あ、風花お姉ちゃんは会ったこと無いんだっけ。凄く大きい人なんだ。あ、いっつもコートとニット帽被ってる」
前に会った時に聞いたら冷え性って言ってたけど、あれ冷え性ってレベルじゃないと思うんだけどな。夏場にあんなに着込んでたら熱中症待ったなしだと思う。
「荒垣お兄ちゃんはね、優しいんだ。料理も上手くて、料理の先生をしてくれたりもしたんだよ」
「へぇ……いい人なんだね」
「うん。でも最近見かけないんだ。学校サボってるって聞くし……大丈夫かなぁ」
荒垣お兄ちゃんの料理教室、久しぶりに受けたいんだけどな。あれを受けてから料理を作ると、どういうわけかいつもよりも上手く作れるんだ。意識してやっていることを無意識でできるようになるというか、こう……ゾーン? に入る感じというか。とにかく荒垣お兄ちゃんは凄いってことだ。荒垣お兄ちゃんと一緒に風花お姉ちゃんの料理下手を改善していこう大作戦はそのうち決行したい。だから荒垣お兄ちゃんはどこにいるかを調べなくてはいけない。
『聖よ』
(何?)
『分かっていると思うが、荒垣真次郎はペルソナ使いだ』
(あ、やっぱり? 巌戸台寮にいたみたいだし、もしかしてって思ってたけど)
『今は抑えつけているようだがな。貴様がやつに会った時には既にな』
ペルソナを抑えつけるってできるものなの? 仮にできるとして、もう一人の自分を抑えつけたら、ろくなことが起きない気がするんだけど。こう……ストレスとか。
『無論、良いものではないな。精神を抑圧し続ければ体に影響が及ぶ。強い力を抑えつけるのなら、相応の代償が要求されるものだ』
(ダメじゃん)
『そうだ。しかし、扱いきれぬペルソナを使えば暴走する。暴走すれば使い手の手を離れて暴れる可能性すらある』
(ううん……つまり、ペルソナが使い手も襲う可能性があるってこと?)
『可能性はゼロではないな』
むむむ……それは怖いな。そんなことが起きたら、トラウマになってペルソナを使いたくなくなってしまうかもしれない。でもそれ以上に、誰かを巻き込んだら……
「……? どうしたの?」
「……んーん、何でもないよ」
うん、怖い。大切な人を傷付けてしまったら、代償を支払ってでももう一人の自分を抑えつけてしまうかもしれない。というかする。絶対にしてしまうという確信がある。自分を抑えつけるだけで大切な人を守れると言われたら、どんな代償があったとしてもそれに手を伸ばしてしまうだろう。────僕は聖杯さんがいるから、そんなことにはならないと思うけど、一人だったらきっと手を伸ばしていたと思う。聖杯さんがいなかったらペルソナ使いにはならなかったけどね。
「あ、風花お姉ちゃんってパクチー食べられる?」
「ううん……どうかな? あんまり食べたことないから……」
「タコスにパクチーは呪いの装備並みに繋がってるんだよ」
というわけで勇気を出して飛び込んでもらおう。きっと飛べる。
そうして辿り着いた巌戸台寮。重厚な扉を開けてエントランスホールだったであろう一階にあるキッチンのカウンターに食材を置いて、冷蔵庫で解凍していたモツやお肉各種を取り出していく。
「風花お姉ちゃん、手伝ってくれる?」
「え、いいの?」
「うん。あ、手は洗ってね。その後玉ねぎとか切ってくれる?」
料理教室はもう始まってるんだよ風花お姉ちゃん。料理下手は料理をし続けないと治らないんだよ。頑張ろうね。
(何か聞こえた!?)
『気のせいだろう』
(いや聞こえたよ!? 誰今の声!?)
『気にするな。手を切るぞ』
「あっぶ!?」
あ、ちょっと切った! 痛い! くそう、知らない声め……! 会ったら文句の一つや二つ言わないと気が済まないぞ……!!
聖明日花
一応聖は苗字。アスカが名前。明日花君、明日花ちゃんどっちでもイケる名前であります。