スイスの山奥
そこに時行と五エ門がいた。時行が五エ門の修行に付き合っていたのだ。裸で滝行している2人。五エ門は動かず座禅を組んでいるが時行はプルプル震えていた。
「さ、寒い…」
滝行を終わらせ時行が出る。
「辛いのなら休めばいいぞ。」
五エ門が着替える。疲れた時行を休ませるために近くの町に行く。しかし、何やら騒がしい。気になった2人が近付くと町民が2人を見て騒ぎ始めた。
「あいつが犯人だ!」
「何事か?」
町民が2人を指差している。そこに警察官達が来て2人を取り囲む。全員2人を警戒して見ている。
「貴様だな!リッパー・バランは!」
「何のことだ?」
「その手に持っている物はなんだ!?」
「ご、五エ門さん。」
時行が五エ門を見る。警察官達も斬鉄剣を見て叫んでいる。すると、そこに1人の警察官が来た。他の警察官達より階級が上のようで下がるように命令して下がらせた。
「君達はここは初めてかい?」
「うむ。そうだ。」
「じゃあ違うか。」
「警部!?」
「それに子供連れの辻斬りなんて聞いたことない。」
警部と呼ばれた男が警察官達をどこかへ行かせると2人を案内した。
「すまぬ。」
「いや、構わんよ。」
「あの、あなたは?」
「私はマーシー・マッシュ。この町で警部をしている。」
マーシーが笑いながら案内してくれる。
「それでリッパー・バランというのは?」
「1年前からこの町で起きている辻斬り事件の犯人の名前だ。」
どうやら、さっきもリッパー・バランによる犯行を捜査していたようだ。
「2人は観光かい?」
「そんなところだ。」
「普段は長閑で気持ちのいいところなんだが…」
マーシー警部がばつが悪い顔をしていた。
「1年前からこの町で夜中になると身体中を斬られ殺害される事件が起きました。我々は犯人をリッパー・バランと命名し捜査しているのですが…」
「未だ捕まらずと。」
「ええ。お恥ずかしい限りです。被害者はいずれも過去に犯罪歴があったり近所から疎まれているような人ばかりなのでヒーロー視する人も出てくる始末です。」
マーシーは自宅に2人を招待した。そこには美人の奥さんと可愛い息子がいた。
「お帰り!」
「お帰りなさいあなた。その方達は?」
「私の客だ。泊めてくれるかい?」
「あなたのお客様なら歓迎よ。」
奥さんは2人に料理を振る舞った。
「美味しいです。」
「良かった。あなた達、日本人?」
「うむ。修行中の身だ。」
「あらっ。そうなの?」
息子が斬鉄剣を興味深く見ている。奥さんは警戒している。当然だ。最近起こっている殺人は鋭い刃物による斬殺と聞いていたからだ。
「これは何?」
「修行に使う物だ。」
「あまり触れないでくれマイク。」
「うん!」
ご馳走になった上に泊めてもらうことになった2人はマーシーに感謝して就寝した。
その夜、1人の若者が歩いていた。周りはリッパー・バランの影響で誰もいない。
「リッパー・バランとかただの人殺しじゃん。あんなのでビビるわけねぇだろ。」
若者はタバコを吹かしてポイ捨てした。すると、目の前に仮面とマント姿の人物が立っていた。若者はビビり下がる。
「ま、まさかリッパー・バラン…」
人物はマントの下から短剣を取り出すと若者に襲いかかった。
「う、うわぁぁ!!」
翌日
時行と五エ門が起きるとマーシーが欠伸しながら出て行こうとした。
「どうかされたのか?」
「またリッパー・バランだ。日に日に犯行の期間が短くなっている。」
マーシーはパンを咥え家を出て行った。時行と五エ門も気になりマーシーの後を着けた。被害者は若者。首を鋭利な刃物で切り裂かれていた。
「マーシー警部。またリッパー・バランですよ。」
「昨日今日で…」
「ええ。だんだん頻度が増えています。」
野次馬の中からマーシー達の会話を聞く2人。
「また例の辻斬りが現れたようだ。」
「何故こんなに殺人を?」
「それは本人に聞くしかあるまい。」
五エ門はマーシーの表情を見ながら話していた。
その夜、時行は寝ていると起き上がる五エ門に気付いた。斬鉄剣を持ってどこかへ行く。時行も五エ門を追って外に出た。
「どこに行くのでしょうか?もしかして、辻斬りを捕まえに。」
五エ門は誰も居ない裏路地にいた。時行が陰から見ていると仮面を被りマントを羽織った人物が現れた。五エ門は斬鉄剣を構え静かに見る。
「あの人が辻斬り…」
「お主であったか。マーシー殿。」
五エ門の言葉に時行は驚く。すると、仮面を外しマーシーの顔が露になった。
「よく分かりましたね。」
「お主と初めてあった時、臭いがした。」
五エ門の発言に時行は思い出すも変わった臭いなんてなかった。それでもマーシーはフッと笑っている。
「やはりあなたも私と同じ人殺しでしたか。」
「何故こんなことを!?」
五エ門が斬鉄剣を構え居合斬りの体勢をとる。マーシーも短剣を抜き構えた。
「なんというべきでしょうか?性といいますか本能といいますか…私は人を殺すことに快感を得てしまっているのです。所謂サイコパスという者です。」
「サイコパス…」
時行は南北朝の頃を思い出す。
「お主は妻と子供がいであろう!」
「ええ。2人には内緒にしてますよ。それに、この町を汚す者にターゲットにして罪悪感を薄れさせていましたし。でも、この殺人衝動は止まらない。なので、あなたが止めてください。」
マーシーが五エ門に斬りかかる。五エ門も斬鉄剣を抜き受け止めた。マーシーはもう片方の手にも短剣を握り二刀流で五エ門を攻撃する。
「あなたが私に殺されるようであればこの先また人が私によって殺されるでしょう!」
「こやつ、中々の手練れ。」
「ジャック・ザ・リッパー。イギリスで実際に起きた連続殺人事件の犯人。迷宮入りとなった伝説の殺人鬼。私はそれになろうとしているのです。」
マーシーの攻撃が激しくなる。五エ門はなんとかして戦意喪失させたいと考えているがその余裕がない。
「どうしました!?まさか、私を生かそうと考えているわけではありませんよね!ここで殺さないとまた犠牲者が増えるだけですよ!」
マーシーの猛攻が止まらない。その時、2人の間に時行が割り込んだ。五エ門もマーシーも下がる。
「時行!」
「止めましょうマーシーさん!あなたには家族がいます!私のな…友人にもあなたのように悩んでいる方がいます。でも…」
「戦時中なら私の性も称えられるでしょう。しかし、平和な世の中ではこの性は悪でしかない。」
マーシーが時行を攻撃する。それを時行は避け続けた。そこに五エ門の余裕が生まれる。五エ門は見極める。そして、飛び出しマーシーとすれ違った。
「五エ門さん!」
「すまぬ時行。ここは某が。」
「わ、分かりました。」
時行が下がる。月明かりが五エ門とマーシーを照らす。2人はジリジリと近付きながら構える。
「行くぞ。」
「来い!」
闇夜の静けさを破り同時に飛び出す。そして、擦れ違い切り裂いた。五エ門は腕を負傷しマーシーは短剣をバラバラにされた。
「何故だ。何故、私を斬らなかった?」
「お主には待ってくれる家族がいるだろう。」
「ああ。やっと終われる。」
マーシーは短剣の破片を拾う。時行と五エ門が意図を読み駆け出すもマーシーは短剣の破片で自分の首を切り裂いた。倒れるマーシーを五エ門が抱え上げる。
「マーシーさん!」
「何故こんなことを!?」
「やっと分かったのだ。この血濡られた性を終わらせる方法が。でも、今まで思い付くことすらなかった。ありがとう五エ門、そして時行。私はこれで…」
マーシーは2人に微笑むと息絶えた。
「私がいた時代にも人殺しを性とする方はいました。その方も自分の性に苦しみながらも向き合っていたのです。」
「マーシー殿…」
五エ門はマーシーの目を閉じマントを脱がす。そして、仮面を拾うと斬鉄剣でバラバラにした。
「これで、リッパー・バランは出ることはない。永遠にな。」
五エ門は時行を連れて町を出て行った。翌日、マーシーの遺体が発見されマーシーはリッパー・バランと交戦した末に殺害されたと結論着けられた。
五エ門と時行は旅をする。闇夜から解放された町を背にして。