熾烈な団体戦は
歓喜する者、悲嘆する者、悲喜交々がその終わりにあった。
しかし選手の誰も、その余韻に浸り続ける訳にはいかなかった。
個人戦。
協力し合う団体戦とは異なり、己の力量のみで勝ち進む苛烈なバトルロイヤル。
団体戦で抱いた一時の感情を引きずり続けた者は、容赦なく落ちていく。
数多いる選手の中で、ここから全国に歩を進められるのはたった三人しかいないのだから。
すでに予選が済み、残すところ決勝のみ。
互いに鎬を削り合い、選び抜かれた十二人の豪傑たち。
しかし、そこから更に振るい落とされる九人の敗者。
三卓の闘いが同時進行で繰り広げられ、各卓でのトップがそのまま全国進出者となる。
また、個人戦ゆえ、同校出身者が同じ卓に着く場合も往々にしてある。
第一卓
第二卓
龍門渕
そして、残る第三卓。
ここで個人戦史上、類を見ない激戦が繰り広げられる事となる。
~選手控え室・清澄~
「ちぇー、負けちったじぇー」
貞淑な女子なら決して見せないような座り方で、
「でも惜しかったよ。そう、運が無かったんだね」
「つっても、私以外は全員決勝進出じゃんかー」
「そっか。じゃあ優希の運をあたしらが貰っちゃったわけかー。はは」
清澄高校麻雀部の部長、竹井久の冗談に優希は不満げな表情を見せる。
清澄高校の控え室には現在、優希と久の二人しかいない。他のメンバーは皆、すでに勝負会場へと出向いていた。
「そんな怒んないで。団体では私らが勝ったんだしさ。こうなったら個人戦でも表彰台独占してやるわよ」
「そりゃー、当然。私の分まで頑張ってもらわないと」
「了解了解」
軽口を叩き合いつつも、試合開始は刻一刻と迫っていた。そろそろ行きますか、と久は椅子から腰を上げる。
「部長」
そんな久の背中に、優希が声を掛けた。
「言うまでもないけど、風越の部長さんは――」
「分かってるよ」
優希の言わんとしている事を汲み取り、久は言葉を遮った。
「団体戦で相手の情報は分かってる。あの部長さんの力量も充分理解してるよ。もっとも、向こうもこっちのデータ持ってるだろうけどね」
そう告げる久の表情は、確かな自信に満ちていた。それは、敗績に打ちひしがれる後輩が頼りに思える程に。
「ま、成るように成るでしょうよ。じゃ、行ってきます」
特に気負いも感じられず、普段通りの部長の出立に優希は安心感を覚えた。
~選手控え室・風越女子~
「部長、ご健闘をお祈りしてます!」
「ありがとう。皆の分まで全力で頑張ります」
それは、予選で惜敗した他部員に向けられた細やかな気配り。それこそが風越女子の部長、福路美穂子の持つ人望の出所だった。名門校のトップに立ち、最強の名を欲しいままにしておきながら、決して驕らず、見下さず。実力だけではない。その人格にこそ、数多いる部員の人望が集っているのである。
「あの、清澄の部長ですが――」
「ええ、彼女の実力は先の団体戦で充分把握しています。もちろん、彼女の待ちの癖も考慮に入れて臨むつもりです」
清澄部長、竹井久の悪待ち。ドラの地獄単騎や空聴リーチなど、定石を外したその打ち筋に星夏は翻弄され、大差を付けられたのだ。当然その様子は美穂子もモニター越しに見ていた筈だが、しかし手痛い経験から、星夏はそれを喚起せずにはいられなかった。
無論、美穂子はその件を充分に考慮している。また、これは星夏の知る範疇ではないが、美穂子は星夏以上に久の事を知っていた。中学生の頃、大会にて卓を同じくした時、久の独特の打ち筋に確かに苦戦を強いられたのだ。
加えて、今回は久だけではない。鶴賀学園の加治木ゆみと東横桃子。この二人も難敵だ。団体戦の闘牌からも、その力量は推してなお余りある。
油断は出来ない。元より卓に着いた以上、福路美穂子が油断した試しはない。
「それと文堂さん。例の件ですが――」
「はい、承知してます。任せて下さい」
星夏が予選落ちした後、美穂子に仰せ付けられた任務。というより星夏が、部長のために何か自分にできる事はないかと迫り、美穂子から強引に引き出した役割。それを抜かりなく遂行する旨、文堂は声高に約束した。
「本当にありがとう。では、行って参ります」
強力な後方支援に見送られ、福路美穂子も勝負の場へ赴いた。
~選手控え室・鶴賀学園~
「絶対の絶対に、私は譲らないっす!」
試合開始直前にも関わらず、東横桃子は駄々を捏ねていた。
「しかし、そんな勝ち方はフェアでは――」
「甘いっす。先輩、麻雀とは何の競技っすか?」
「え、それは――」
「運っす。つまり、運を味方に付けた者が勝つ!」
「は、はぁ……」
言わずもがなの本質を熱弁する桃子に、加治木ゆみは押され気味だった。
「そういう事っすよ、先輩!」
「え、どういう事だ?」
「つまり、私と先輩が同じ卓に着いたのは、これは私達が運を引き入れたって事っすよ!」
「いや……そうなのか?」
「何を呑気な! この配置、天が私に『先輩を勝たせろ』って言ってるようにしか私は思えなかったっすよ」
「いや、そんな事はな――」
「だから、私は先輩を勝たせます。先輩に全国に行って欲しいんす!」
「あー、分かった分かった」
普段とは打って変わって興奮する桃子を、ゆみは乳児をあやすが如く宥めた。
「じゃあ、いいんすね? どんどん差し込むっすよ!」
「しかし、本当に良いのだろうか? 個人戦でコンビ打ちなんて」
「なに甘い事言ってんすか。コンビ打ちさせたくないなら、ルールそのものを見直すべき。改変しないって事は、コンビ打ち上等なんすよ」
桃子の熱弁は止まらない。
「しかし、私は正々堂々と闘って、お前にも全国に行って欲しいんだが――」
「私は来年行くっす! 先輩はラストチャンス! 先輩が行くべきっす!」
未だ決心の付かないゆみに対し、桃子は揺らぐ様子がない。
「それに、あの部長二人は要注意っすよ。正直な所、味方で骨身を削り合って勝てるような相手じゃないと思うっす」
桃子の声に、ことさら真剣味が篭る。風越部長と清澄部長。団体戦での彼女らの闘牌から、彼女らが一筋縄ではいかない相手である事はゆみも重々承知していた。天江衣や宮永咲とはまた違う、有り体に言えば地に足が付いた強さの持ち主達だ。だからこそ、その力量は常に高位で安定しているに違いない。確かに、まともにぶつかれば勝てる可能性は高くない。
しかし、それでもゆみにとって、味方を落とす事で勝ちを拾うコンビ打ちに賛同できない思いがあった。
「あ、もうすぐ時間っす。先輩、通しはいつものやり方でいいっすよね?」
気の置けない者同士が集まる鶴賀学園麻雀部では、余興の一環としてコンビ打ちを幾度かやった事がある。その時に用いた通し――卓にて言葉を交わさず互いにのみ通じる仕草やジェスチャー等で意思疎通をし合う方法――を今回も用いようと、桃子は提案しているのだ。
「ああ、分かった……」
未だ決意が固まらぬまま、ゆみは時間に押されて頷いてしまった。
「じゃあ、急ぎましょう!」
桃子はゆみの手を取り、いざ勝負の卓へと駆けていった。
~個人戦決勝~
予選は半荘(東南戦)一回のみだったが、決勝では二回行われる。そして、前半戦と後半戦の合間に十五分の休憩が設けられている。
全ての卓の状況は選手の手牌を含め、全て個々のモニター会場で観戦可能。予選脱落者や一足早く決勝を終えた選手らは、各々観戦したい卓のモニター会場に赴き、選手らの闘牌を自由に見られるようになっている。
持ち点は一人25000。半荘二回を終えた時点か、誰かが箱点(持ち点0未満)になった時点で最も点数の多い者が勝者となり、全国進出の権利を手にする。
同時ロンの場合は、放銃した者からのツモ巡が早い者から――下家、対面、上家の順で――たった一人だけが点を得られる『頭ハネ』を採用。
後付けあり。喰いタンあり。赤ドラなし。ダブル役満なし。
符計算はなし。飜のみ考慮に入れる。すなわち、子で1飜なら1000、2飜なら二倍の2000、3飜なら4000、4飜は満貫8000で、以降は符が関係しないので準拠。親なら子の点数の1.5倍となる。
積み棒なし。連荘すれば本場数を表記していくが、点数には影響しない。また、流れ本場は考慮せず、次局では本場数は0に戻る。
美穂子25000、久25000、桃子25000、ゆみ25000
~前半戦~
■東一局(親:福路美穂子)
第一卓、第二卓と同時に、遂に始まった個人戦決勝、第三卓。
出だしは久とゆみが好調。
7巡目、ゆみが先制リーチ。リーチタンヤオ(メンタン)ドラ1の3飜手。しかも三面待ちで、その待ちにはドラも含まれるという理想形。
このリーチを受け、三向聴の美穂子はゆみの現物を切ってベタオリ。しかし、一向聴の久は回し打ちながら聴牌を目指す。
それが実り、9巡目に久も聴牌。満貫確定の手だが、ゆみを気にし、ベタオリもできるように黙聴とする。
しかし10巡目、桃子がドラをツモ切り。これにはゆみ含め、一同瞠目せずにはいられなかった。
困惑の中、ゆみはロンを宣言。裏ドラは乗らなかったが桃子のドラ切りのおかげで満貫となり、ゆみは桃子から8000点を得る。
リーチに対し、大本命のドラ振り込み。決勝にまで残った猛者とは思えないような打牌。
――なるほどね。そう来るかい。
久は桃子の意図を看破した。先輩に花を持たせるため、自分を殺しての支援打ち。個人戦においてそれは反則とも言えるが、しかしその証拠は無い。元より、自分の勝ちを捨ててまで誰かを勝たせようという想いに、それは反則などと反駁しても詮無い事だ。
――しかし、これだけでは、まだ――
桃子の真意を計りかねているのは美穂子。確かにあの局面でのドラ打ちは、とても熟練の打ち手のそれとは思えない。しかし、もしかしたら桃子に大物手が入っていたのかもしれない。それで大きく勝負に出たのかもしれない。
可能性はあるが、しかしそれは建前の理論。自己を捨てて他者を押し上げるという、ある種異常とも言える行為をそう易々と仮定したくはなかった。
いずれにせよ、初っ端から他家に水をあけられたのは事実。油断は一切できない。その戒めの下、美穂子は閉ざしていた右目を開眼した。
美穂子25000、久25000、桃子17000、ゆみ33000
■東二局(親:竹井久)
桃子が好調。
2巡目にして役牌の白をポン。積極的に手を進めていく。
対して、桃子以外の面子は不調。桃子はゆみの手が遅いと見るや、6巡目で久から一筒をチー。次巡にて聴牌となる。
一筒によってチャンタを匂わせるも、実際は白のみ。そこを読み違え、久は桃子に放銃。1飜のみで1000点が久から桃子へ移る。
――徹底してるわね。
ノミ手で親を飛ばされた久は、内心そう毒づいた。
桃子がゆみを勝たせようと画策しているのであれば、その行動原理は至極単純だ。
まず、ゆみの有効牌を確保し、時にはそれを鳴かせてゆみの手を進める。
そしてゆみが聴牌になれば、そこに差し込んで点棒を渡す。
ゆみの手が遅ければ、自分が速攻で和了って他家の点を下げ、同時に親を飛ばす。
シンプル。それゆえに防ぐのは難しい。
前半戦、まずは鶴賀組に流れが来ているように感じられた。
美穂子25000、久24000、桃子18000、ゆみ33000
■東三局(親:東横桃子)
美穂子と桃子が好調。
まずは桃子が再び鳴き連呼で速攻。典型的な喰いタン狙いである。
対する美穂子も好調で、6巡目にして一向聴。
そして、8巡目に桃子が聴牌。四萬の嵌張待ち(カンチャン待ち)である。
その聴牌直後、ゆみが四萬をツモ切り。これは桃子のロン牌だが、桃子はこれを黙殺。徹頭徹尾、ゆみの援護に回る方針である。
続いて、美穂子も聴牌。3飜手でリーチに行きたくなる局面だが、ここは他家の様子を見るために敢えて黙聴とする。
さらに次巡、美穂子は不要な四萬をツモる。桃子の現物ではなく、タンヤオには危険な牌だが、しかしゆみが一度四萬を捨て、通っている。桃子はそれからずっとツモ切り。
迷う事なく美穂子は四萬をツモ切り。本来ならこれは問題なく通る牌。
しかし、桃子はこれをロン。タンヤオのみで1500点。
ゆみの手が遅いと見るや、速攻で和了って親の継続。徹底した隙のない戦略だ。
桃子はゆみの放銃を見逃した。それを受け、美穂子も久も桃子の思惑を確信した。
――モモ、お前は本当に――
ここまで首尾一貫した援護に最も驚いていたのはゆみ本人だった。自分の勝利を度外視した作戦。いや、ゆみが勝つ事が自分の勝利なのだと言わんばかりの打ち回し。桃子ほどの打ち手ならば勝ちの可能性もあるだろうに、それを喜んで捨て、尽くしてくれる。ゆみはその思慕に心を打たれた。
――分かった。協力してくれ、モモ。
ならば、桃子の断固たる決意を無為にはできない。ゆみはここに来て、桃子とのコンビ打ちに徹する事を心に決めた。
美穂子23500、久24000、桃子19500、ゆみ33000
■東三局一本場(親:桃子)
久が好配牌で、ツモも良い。
しかし、通しを用いて桃子がゆみに中と發を連続で鳴かせる。
これにより、久は手持ちの白を切れなくなった。しかし、それでも久は諦めずに回し打つ。
そんな中、10巡目に美穂子が捨てた九筒をゆみがポンし、聴牌。白の単騎待ち、小三元鳴きチャンタ。
こうなるとますます白は切れず、美穂子もツモった白は保持していた。
ゆみとて、この明らかな白待ちで他家の放銃を期待してはいない。狙うはツモ和了りか、最悪桃子からの差し込みである。
しかし、美穂子と久がそれぞれ白を一枚持ち、残るは山に一つ。なかなかツモれない。
終盤、白が捨てられず雀頭にもできないため、美穂子と久はすでにベタオリ気配。白待ちを装った別の牌待ちも想定し、ゆみの現物を切っていく。
そんな中、残り3巡でゆみが西をツモる。これは桃子の所有牌。
桃子はまだ二向聴。残り3巡では親継続も難しい。結局痺れを切らしたゆみは、白を捨てて西単騎で待つ。
そして次巡、桃子が西を差し込み、ゆみがそれをロン。
小三元は消え、役牌2つに鳴きチャンタで3飜4000。
――やはり、そう簡単に大物手が狙える相手ではないか。
ゆみは改めて相手の力量、その片鱗だけでも垣間見た気がした。
美穂子23500、久24000、桃子15500、ゆみ37000
■東四局(親:加治木ゆみ)
美穂子が好調。
5巡目で聴牌となる。タンヤオドラ2の3飜手だが、ピンフも狙えるのでここは黙聴。
しかし、結局手が変わらない内に9巡目でゆみがリーチ。これは役なしで、親継続のための一種のブラフ。これが功を奏した。美穂子は迷いなくベタオリし、手を崩す。続く久も未だ二向聴ゆえにベタオリ。
だが、肝心の和了り牌がゆみと桃子どちらにも来ない。その代わりに12巡目、ゆみが捨てた南を桃子がカンし、新ドラを増やす。この行為によってゆみの手にドラが一つ乗り、さらに裏ドラが乗る可能性も増えた。差し込み以外での桃子の絶妙な支援である。
しかし、それでもゆみの望む牌は来ず、終盤。美穂子はベタオリしつつも手を進め、聴牌にまで形を整えていた。しかし、それは役なしの形式聴牌(形聴)だった。
だがそれを知らず、桃子はラス巡にて美穂子の待ち牌を切ってしまう。他家の最後の捨て牌でロンすれば成立するホウテイは、形聴からのロン和了りも今大会では認められていた。
これを和了っても1飜のみ。しかし、ゆみが出したリー棒1000点を得られ、さらにゆみの親を流せる。ロンするのが妥当なこの局面だが、美穂子は動かなかった。
結局、誰も和了らないまま流局。ゆみは聴牌の手をオープン。しかし、同じく聴牌している美穂子はノーテンを宣言し、牌を裏に倒した。
久、桃子、ゆみにはこの奇妙な展開が分からない。しかしモニター会場で観戦している人間には、この美穂子の行為に名状しがたい不気味さを覚えた。
ノーテン罰符など痛くもないと言わんばかりの行動。そもそも、何故ホウテイを見逃す必要があったのか。それはまるで、ゆみの親を継続させて一回でも多く他家の手牌を見たいがための行動と思えてしまう。そしてそれを勘付かせないため、ホウテイを見逃した手を敢えて隠したのではないだろうか。
しかし、手牌を見たところで常人には何の材料にもならない。点棒を拾えるチャンスを棒に振ってまで追いかける物ではないだろう。普通なら――
だが、美穂子の開かれた右目はここまでの局と同様、他家の手牌に鋭く向けられていた。
美穂子22500、久23000、桃子14500、ゆみ39000、リー棒1000
■東四局一本場(親:ゆみ)
全員が好調だった。
美穂子も久も好牌に恵まれ、手が伸びる。
一方、ゆみは久から東を鳴き、ダブ東を得る。更に桃子からも有効牌をチーし、6巡目で一向聴にまで到達した。
すると、美穂子は満貫も狙える好形からベタオリ。ゆみの聴牌を想定し、ゆみに対する安全牌を切っていく。
対照的に久は強気で攻め、先に聴牌に持っていった。満貫確定ゆえ、ここはダマって確実に上がる腹積もりである。
続いて、桃子がピンフを聴牌。しかし、ゆみに既にダブ東があるので、これへの差し込みを考え、桃子もダマで行く。
桃子が張った気配を感じた久。そんな中引いたのは、桃子の本命牌。これが怪しい事は久も薄々感じてはいたが、ゆみが鳴いた東を一瞥した後、その本命牌をツモ切りする。
桃子にロン和了りのチャンス到来。しかし、ここでロンしても1飜1000点のみでゆみの親を蹴る事になってしまう。折角のダブ東鳴きなのだ。ここでケチな点棒を拾いにいく事はない。
桃子はそう判断し、このロンを見逃す。その判断が実ったのか、桃子にゆみの有効牌が舞い降りた。即座に切り、ゆみがそれをチー。これでゆみは聴牌となり、ダブ東ドラドラの満貫手になった。さらに運の良い事に、ゆみの待ち牌の一つを桃子が握っている。つまり、次巡で確実にゆみに差し込めるという事。
桃子が楽観的になるのも無理からぬ事だった。それだけ、状況は鶴賀組に有利に働いているように感じられた。
だが、その巡――ゆみから桃子に回るまでの間――久がツモ和了り。5飜満貫、8000点。
一手遅かったと悔しがる桃子。しかし、このやり方で間違いはないはず。今回はたまたま運が悪かった。桃子はそう考えた。
美穂子20500、久32000、桃子12500、ゆみ35000
前半戦の東場は終了。
鶴賀組が優勢かと思われた序盤。しかし、それに歯止めをかけるが如く立ち塞がる久を前に、その点差は思いのほか開かない。
そんな中、美穂子が目立った動きを見せないまま、勝負は南場へと突入する。