The hunters story―狩人の奏でる旋律― 作:真っ黒セキセイインコ
久しぶりの投稿なので、おかしな部分もあるかもしれません。
はてさて一体何故こうなったのだろう。エンは本日何度目になるかわからないため息をつく。
いつもなら、まだ日の高い時間なのでアインの鍛錬の様子を見に行ったりしているエンだが、今日は彼女はあのけたたましい双子に連れられ狩りに出ているのだ。
できればエンだって共に行きたかったが、生憎村の医者であるウォロ老人にドクターストップをかけられてしまった。エン自身はもう傷が癒えていると思っても、完治するまでは狩りに行くなということらしい。
だからこそ、かなり暇なのだ。しかも村人の仕事を手伝おうとすれば、怪我人なのだから、村のハンターを助けてくれた恩人なのだから、と遠慮されてしまい、余計居心地が悪くなってしまう。
そういうわけでエンの現在の暇つぶしといえば、
「――――はい、終わり」
「あーっ、待った、ちょっと待った!」
「待ったは無しだ。鬼門番君」
鬼門番(自称)とのちょっとしたゲームくらいである。状況を言えば門番の駒がものの見事に取られてしまったらしい。……おい門番が遊んでるんだ? なんて突っ込んではいけない。
「ちきしょう! これで十戦十敗かよ!」
喚く門番を流し見ながら、エンは空を見上げる。勿論のことながら空はどこまでも青い。時折、モンスターなのかはわからないが小さな影が横切っていく。村の子供たちは無邪気に村を走り回り、雑貨屋は客を捕まえようと張り上げた声も耳に届く。
はっきり言ってどこまでも平和な日常だ。
だからこそ、そんな平和を満喫しているエンは自分に少し嫌悪感がある。本当ならばエンは死んでいた方がいい人間なのだ。いや実際、Gの称号を持ったエンは死んでいるのだから、ある意味理には適っているかもしれないが、それでもエンは今の自分に疑問が大きい。
アインの成長を見てみたかったといえば嘘ではない。実際狩場に行けないことをエンは歯がゆく思っている。しかし本当にそれだけかといえば、首をひねることになる。
(……まあ、いつかは分かるか)
考えてもキリがないとエンは伸びをする。そういう話題は後々探していくしかないのだ。今いる『流れのハンターエン』はまだ生まれて間もないのだから。
「――――おっ、竜車が来てら」
門番の声に視線を傾けると、ちょうど村の入口にガーグァの引く竜車が着いたところだった。時間帯から考えると、資源の搬入ではなくどうやら旅人か何かだろう。しばらくして人影がこっちへ歩いてくるのが見える。
かなり背が高いらしく、まだ距離があるはずのこの場所でも推定200センチはありそうである。
「デケェ……」
近づいて来たその来訪者を見て、門番が後ずさりながら呟いたのが聞こえる。いや実際でかいだけではない。
真っ赤な甲冑。それが何より圧倒的な迫力を放っているなのだ。全体がマグマを思わせる騎士の甲冑は『その道の人間』でない限り、見ることは少ないだろう。
だからこそ『その道の人間』であるエンはそれが何なのかを知っている。
(アグナシリーズ……)
燃え盛る紅蓮の溶岩の海に住む竜、炎戈竜アグナコトル。それをハンターの武具に変えたものこそが、あの紅蓮の甲冑だ。アグナコトルは火山に住むモンスターの中でもとりわけ強力なモンスターで、それを狩るということ自体があの来訪者の実力を如実に表している。
「えっと……」
いつもの元気の良さはどこへやら。門番は突然の巨大な来訪者に完全に腰が引けているようで、なかなかいつもの常套句が出てこない。
そんな門番の気性に来訪者は気づいたか気づいていないのかは別として、騎士のかぶるようなヘルメットを外す。よほどの強面だろうというエンの憶測は裏切られ、およそその体格とは似つかわしくない柔和な赤髪の青年の顔がそこにあった。
「――――突然の訪問、申し訳ございません」
「へ……?」
静かに完璧なお辞儀をされて情けない声を出したのは門番だ。
確かにいきなり来た人間にお辞儀をされては驚くのは当たり前かもしれない。実際エンもイメージとはかけ離れた態度に少し面食らっている。
そんなことに気づかない来訪者は次の句を述べていく。
「自分はアルマ=ハッカートといいます。此度は諸用があり、この村にしばし滞在したいのですが、この村の村長は
「あ……ええと、村長なら……――――」
「――――それなら俺が案内しようか?」
エンが門番の言葉に割り込む。あまりにも突然の訪問者にどうやら門番は未だに平静を取り戻していないようで、このままでは日が暮れるとエンが判断したからだ。
アルマという青年はしばしエンの方を見たあと、やがて首肯する。
「それではよろしくお願いします。……あのお名前は?」
「エンだ。一応アンタと同業者だよ」
軽く自己紹介をしながらエンは門番に別れを告げる。ちょうど暇だったところでもあるし、下手に遊んでいるよりはマシというのがエンの本音だ。
そういうわけで村長のいる場所への移動中、赤甲冑の来訪者アルマがエンを呼び止めた。
「すみません、エン殿はハンターなのでございますよね」
「ああそうだが、別にわざわざ『殿』なんてつけなくていいぞ」
「いえ家訓でありますゆえ、これは通させていただきます」
どうやらよほどの高家の出であるらしく、アルマという青年はかなり生真面目な人間のようだ。そういえば、あの双子の片割れも高家の出のようだったとエンが思ったところで、アルマは次を話しだす。
「それでなのですが、この村にアインという女性のハンターは居られるのでしょうか?」
またか、とエンはまた頭を覆いたくなった。いくらナルガクルガの件でアインの名前しか出回らなかったとしても、ここまで彼女の名前が出るものだろうか? エン自身といい、あの双子といいあの少女は人をひきつけやすい人間なのかもしれない。
「ああ、確かにいるけど、今は双子と狩りに出かけてるぞ」
確か狩場は水没林だったな、あいつは大丈夫だろうか? なんて考えながらエンは答えると、アルマ青年は頭を抱えこんだ。さすがのエンも突然の反応にたじろぐ。
「おい、どうしたんだ。いきなり?」
「いえ……あの、すみません。その双子の名前を教えていただけるでしょうか?」
「確かウキとサキだったが……っておい、一体どうしたんだ!?」
名前を言った瞬間に青年はまるで人生最大の苦悩にぶち当たった時のように大きなため息をついて、『遅かったか』と呟いた。
「……その二人はオレの知り合いなんです。それで、その……二人が何かこの村にご迷惑をかけたりはしてませんか?」
「迷惑って言ったらやってはいないな。まぁ、かなり個性的な性格とは言えるかもしれないが」
一応エンは嘘を言ってはいない。あの双子はエンやアインには迷惑をかけたとも言えるが、『この村に』といえば何もやっていないのだ。ついでに下手なことを言えば、余計にこの青年は余計に頭を抱えこみそうなので、これはエンなりの配慮でもある。
「一体何を狩りに行ったのかはわかりませんか? まさか大型なんてことは……」
「水没林でフロギィ狩りだってさ。近辺の村の人間が領主に嘆願したらしいぞ、毒で畑が荒らされるって」
フロギィは渓流にいるジャギィの近縁種のモンスターだ。特徴としては毒霧を吹きかけてくる程度でしかなく、まだ駆け出しのハンターでも十分許容内のモンスターとも言えるだろう。
しかし、まだアルマ=ハッカートには心配事があるのか、まだ顔は暗い。
「そう、ですか。しかし二人がアイン殿に迷惑を掛けるかもしれませんし」
「それなら多分大丈夫だろ。まだ短い付き合いだがアインってやつは、怪しい奴でも平気でコンビを組もうという奴だからな」
それを聞いて青年アルマ=ハッカートは安堵のため息をつく。なんとか納得はしたらしい。
ふと見上げれば、話し合っているうちに階段を上りきっていたようで、視線を移すと赤い腰掛けといういつもの定位置に着物を着た竜人の女性が座っていた。この女性こそ、このユクモ村の村長だ。村長という役割にこそ年若い彼女だが、その物腰柔らかい態度と人徳のある性格は村の皆から慕われている。
ユクモ村の村長は階段を上ってきたエンを見つけるとにこやかに微笑んだ。
「こんにちは、エン様。お怪我の調子はいかがでしょうか?」
「ああ、ここの温泉は本当になんでも効くらしいな、もうほとんど完治してるってウォロの爺さんにも言われたよ」
「それは良かったです。それでそちらの方は?」
軽く肩を回して見せるエンに村長は微笑むと、視線をアルマ=ハッカートの方へと移す。
「自分はアルマ=ハッカートと申します、ユクモ村の村長殿。此度は突然の来訪すみません。諸用によりこの村にしばし滞在したいのですが、御了承願えるでしょうか?」
アルマ=ハッカートは言いながら腰を四十五度に折り曲げた。どうやらどこぞの流れのハンターよりはずっと礼儀ができているらしい。
しばし村長は無言になったが、やがて首を縦に振る。
「頭をお上げください。別にユクモ村は誰も拒みません。どうぞこの村でゆっくりしていってくださいな」
「……許可していただき感謝します」
もはや礼儀作法というものが染み付いているのか、アルマ=ハッカートはもう一度、腰を曲げてお辞儀をする。その後、アルマ=ハッカートはギルドへも用事があるらしく、エンの案内を断ってその場を後にしていく。
村長がぽつりと呟く。
「そういえば、アルマ様の用とは一体なんなのでしょうか?」
さしものエンも『さぁ』と返すしかできなかった。
そして数日後、狩りに出ていたアイン達が帰ってくるのだが、彼らにエンの予想とはかけ離れた事態が起きていることをこの時の彼は知らなかった。
エンたちがやっていたのは将棋みたいなのを連想していただけると幸いです